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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第一章 狭間の鬼
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第七十八話 始まり

前半後編の終わりに向けて物語が加速します。

オレは小さくため息をつきながら書類をホッチキスで止めていく。同じ作業をしているのはオレと琴美、そして、千春の三人だ。都は別の作業をしている。


琴美が最後の書類をホッチキスで止め終わり、小さく息を吐いた。


「都、終わったわよ」


「ご苦労様です。こちらの書類ももうすぐ終わるので、みんなで一緒に帰りましょう。周様、手伝ってくださってありがとうございます」


「これくらい簡単だけどな。まあ、同じ作業が延々と続くのには疲れたけど」


オレの近くには山積みにされた書類がある。もちろん、ホッチキスで止めたものだ。ちなみに琴美や千春よりも数は多い。


オレは肩を回してレヴァンティンを通信機器につなげた。回線を繋げる相手は由姫だ。


「今から都達を送って帰るから。晩ご飯は遅くなると思う」


そう由姫のデバイスに送りつけてオレは通信機器をレヴァンティンから外す。


「周のデバイスっていつ見ても便利よね。携帯電話と同じだなんて」


「携帯が付属したものだからな。まあ、凡庸性は高いから使いやすいけど。千春のものはタイプは?」


「D-8型。旧式だからそんな機能はないよ。あっても困るだけだしね」


まあ、携帯の方がいちいち通信機器を繋げる手間が省けて便利という面白い機能がある。ただ、携帯の方が通信速度が遅いのでオレはデバイス式の方をとっている。


「二つの違いって何なの? あまりよくわからないけど」


「デバイス式の場合は通信にラグがほとんど発生しないんだ。代わりに携帯電話は通信機器につなげることなく通信が出来る。ただし、通信にはラグが発生する。緊急時に扱う必要がある場合は確実にデバイスを使った方がいいな」


「そういうことね。だから周はデバイス式をとるのか。都、終わった?」


「はい」


書類を片付けた都が立ち上がる。待たせているのが申し訳ないのか駆け足で近付いてくる。


「帰りましょう」


「そうだな」


オレはカバンを持って先頭を歩きだした。その横に都が並ぶ。


このメンバーで帰る時はいつもこうだ。オレと都が先頭で、その後ろに琴美と千春が並ぶ。だから、この形はいつもの形だ。


教室から出ると学校は静かだった。まあ、放課後だし。人の声が全くしないのは驚いたけど。


「そう言えば、都って周君となにかあった? なんか、いつもより距離が近いけど」


「そうか? いつもと変わらないと思うけど」


確かに距離が少しだけ変わった。約1cmほど。普通ならほとんど分からないけど。


「ついに都も周君に告白か。恋人が出来て羨ましいな」


「そ、そそ、そんなんじゃありません! 周様と恋人になったら手を繋いでいます!」


確かに都の言うことはもっともなんだけど、学校内で大声で言うようなことか? まあ、放課後だから人の気配はほとんどない。というより完全に無しか。校内に残っている生徒は誰一人としていない。先生も。第76移動隊も。


「なっ」


オレはようやく異変が起きていることに気付いた。


一応、亜紗と音姉にはいとくように伝言はしておいた。なのに、その二人がいない。音姉はまだわかるけど、亜紗がいない理由が全く見当たらない。


探索の範囲を広げると、最大範囲が敷地内のみに限定されていることに気付いた。


「やられた」


「周様、どうかしたのですか?」


「結界が張られている。気付かないうちに張られたのか? それにしても、手際が良すぎる」


まるで、すでに幻術にかけられていたような感覚だ。完全に探知の能力を失っている最中に結界が張られたのだろう。出来るとすれば『水帝』のクラリーネ。


「みんな、固まっておいてくれよ。敵がどこにいるかわからない」


「そうね。私はあなたの指示に従うわ。千春、どうかしたの?」


琴美の言葉にオレは千春を見た。千春は少し前に立ち止まったのか距離を開けて佇んでいる。その表情は髪に隠れて見えない。だけど、千春は何かつぶやいている。


耳に真剣を集中させても何を話しているかわからない。でも、嫌な予感がする。


「周君」


千春が顔を上げた。その頬には涙が流れている。


「ごめんね」


その瞬間、頭がかき乱されるような感覚にオレは膝をついていた。


都も琴美もその場で膝をついているが千春だけが平然としている。これは、千春が放ったのか?


おそらく、精神操作系の魔術。だけど、ここまで強力なのは初めてだ。慧海が使った時はここまでひどく感じることは無かった。意識すら落ちてしまいそうな痛み。でも、オレはとある言葉を思い出していた。


確か、千春が昼ご飯を一緒にしないかと提案してきた時、千春は都が思っていたからと言っていた。あの時は気にならなかったけど、もしかしたら、


「『水帝』のクラリーネか」


「うん。正解。ボクは魔界五将軍の一人『水帝』のクラリーネ。どこで気づいたのかな?」


「あくっ、お前が、昼ご飯を一緒に食べないか誘いに来た時、都が思っているって言ったことを思い出してな」


「うん。本当なら静かに都を連れて行くつもりだった。だけど、クラインが作戦を早めるから。ごめんね。周君」


千春が槍を取り出す。対するオレはレヴァンティンを取り出した。だけど、未だに体が慣れない。どうやらいくつかの精神操作系魔術を組み合わせているみたいだ。


「周、都を連れて、逃げて。他のメンバーと、合流して」


琴美がゆっくり立ち上がる。辛いはずなのに、親友を守るために。


「絶対に後で助ける」


「楽しみにしてるわ」


琴美が笑った瞬間、オレはレヴァンティンを強く握りしめた。それと同時にあらゆる力が消滅する。それは、千春の握る槍が頸線に戻ることも意味していた。


千春が目を見開く。その瞬間にオレと琴美は同時に走り出した。反対方向に。オレは都の手を掴んで立ち上がらせ、走り出す。琴美は千春に飛びかかって組み伏せる。


「琴美! 周様! 琴美が」


「琴美はオレ達を逃がすために命懸けでやっているんだ! 特に、お前を逃がすために! 文句は逃げ切ってから聞く!」


「でも、千春は」


「敵だ」


オレは一言で切って捨てた。


千春は敵だ。そう思い込まないと戦えない。琴美だって同じはずだ。あいつは敵だと。


「レヴァンティン、簡易術式一番から八番まで展開準備」


『結界破壊はどうしますか?』


レヴァンティンから聞こえてくる声に都は驚くが、オレの走るスピードが立ち止まる隙を与えない。


『亜紗! 亜紗! 聞こえるか!』


オレは精神感応を発動する。


精神感応は同じ能力を持つ人物なら結界関係なく半径300kmまで会話することが出来る。


『えっ? 周さん? ここは、どこ?』


『精神操作だ。『水帝』が学校にいた!』


『わかった。すぐに向かう』


亜紗との精神感応を切ると同時にオレ達は中庭に出た。結界破壊魔術の展開には時間がかかる。それまでに追いつかれないかどうか。


「ようこそ、狭間の巫女。そして、海道周」


クラインの声が響き渡る。その声に向かってオレは上を見上げた。屋上にいるのはおそらく貴族派の面々。数は五十。周囲からも貴族派の面々が出て来る。


オレはレヴァンティンを構えた。


「光栄だよ。まさか、ここまで油断するとは。やはり、子供だな」


クラインが笑みを浮かべる。


オレは校舎の壁に向かって走った。そして、都を背中に回して振り返る。


敵の数は300ほど。クライン達がいることを考えるとオレ一人では荷が重い。だけど、戦えないわけじゃない。


「カーニバルの開始だ諸君。我ら貴族派の栄光への始まりだ!」


クラインの言葉に貴族派のメンバーが声を高らかに上げた。


亜紗がどこにいるかわからない。それに、みんなが集まって来るには時間がかかる。せめて、中村が空に上がっていれば。


「都」


「はい」


「じっとしてろよ。レヴァンティン、限定解除、いや、全体解除は何段階だ?」


『二段階まで。それ以上は危険です』


「十分だ」


オレはレヴァンティンを鞘に収めた。そして、腰を落とす。


「『GF』移動課第一部隊第76移動隊隊長海道周。怪我したい奴からかかって来い。カーニバルだか何だか知らないが、都に指一本触れさせねえ!」


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