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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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第二百六十三話 力と共にあるもの

静けさだけが残る部屋。正確には中央にはボロボロになった孝治が転がされている。あの後、光によってこっぴどくDVを受けたのだ。DVという表現が適切かはわからないがともかく、こっぴどく、それこそボロ雑巾になるかのように制裁を受けた孝治は一人で部屋の中にいた。


小さき息を吐きながらも孝治はゆっくりと起き上がる。そして、まだ繋がっている通信機に繋いだモニターの電源を入れた。


「悠聖、助けてくれ」


『どうやって麒麟工房からそこまで行くんだよ』


呆れたようにいう悠聖の声に安心しながら孝治はモニターを見る。そして、モニターを見た瞬間固まった。何故なら、そこには何故か純白のウエディングドレスを着た正の姿があったから。


頬を赤く染め、恥ずかしそうにもじもじとしつつ上目づかいでモニター越しに孝治を見ている。


「な、なっ、なんて、ご馳走画像なんだ」


『やっぱり孝治は変態だよ!』


『賭けはオレの勝ちみたいだな』


『くっそー。孝治! なんでそこで平気な顔をしない!!』


孝治の言葉と共にモニターの映像に悠聖と浩平の二人が映る。ちなみに、正はすかさず服装を着替えていた。


ウエディングドレスでいるのは耐えられなかったのだろう。しかも、孝治は拝むような仕草をしている。


「眼福眼福。それより、どうかしたのか? 要請は終わったようだが」


『今回はこちらがほぼ一方的に要請しただけだからな。今は麒麟工房のほとんどの機能を首都に移すための荷づくりが始まっている』


『一応、俺とリースの二人が最後まで残るからそこのところは安心してくれ』


「心配などしていない。お前らがいるのだからな」


全幅の信頼を寄せる孝治。それは悠聖達の実力もあるが、今までの経験による裏付けと親友を信頼する心があってこそだった。


「なら、何がある? 俺だけに通信するような状況を作って」


『あんまり他の人に聞かれたくない話だからな。まあ、簡単に言うなら』


『悠人の機体である悠遠(エターナル)が間に合わないかもしれないということだよ』


簡潔に、かなり危ない事態を孝治に告げる正。それに孝治は眉をひそめた。


「それはかなりマズイな」


悠遠(エターナル)がやられたのは両足。システムの一部もやられているけどそこはすぐに修正可能だった。僕が見た限りはね。だけど、悠遠(エターナル)のメインでもある出力エンジンを失ったのは痛いかな。はっきり言って、今から新調したところで二週間はかかる可能性もある』


『他のを流用すれば、とは思うが、一番大事なシステムの調整が一週間ほどかかるらしい。間に合わないのはその部分だと』


『俺も悠聖も専門外だからよくわからないんだよな。まあ、リースがピースメーカーを使えないかアル・アジフと調べている最中だけど』


「ピースメーカー?」


『七葉が持ち返った旧型の中でもとびっきりの旧型。マテリアルライザーよりも前の機体らしい。まあ、神になったオレが言うのもなんだけど、神がかった性能だ』


実際は七葉のたゆまぬ努力によって身につけられた頸線の扱いが全て成果を出しているだけなのだ。大胆かつ豪快な扱いを得意とする七葉は大量の頸線を扱うことが可能だ。それはピースメーカー、オルタナティブ試作一号機も大量の頸線によって出来あがることからピースメーカーは七葉にとって最も適性の高いフュリアスと言ってもいい。


そもそも、七葉はイージスカスタムという専用機を持っている。そこでフュリアスに乗りながらも頸線の扱いが出来ているのだ。その実力は十分と言っていいだろう。


『そこんとこは詳しくわかんねえけど、リースが言うには実戦でマテリアルライザー、周が乗ったマテリアルライザー並みの戦果を発揮してもおかしくないってさ』


「あんな戦果を発揮されたら敵は壊滅するぞ」


孝治の脳裏に浮かぶのは過去のマテリアルライザーのこと。正確には狭間戦役で初めて真の力を発揮したマテリアルライザーのこと。


敵の真っただ中にいながら敵の攻撃を全て避けて誰も殺すことなくフュリアスを戦闘不能にしていったあの一騎当千っぷり。今の周ならおそらく一万の敵と戦っても勝てるだろう。そう思えるほど衝撃的な光景だったのを覚えている。


『俺も半信半疑なんだけどね、フュリアスに詳しくないから何とも』


『まあ、そういうわけで悠人が間に合わなくてもそれに匹敵する戦力があるってことを伝えたかった。びっくりすると思うけどな』


「しかし、悠人が間に合わないとすればかなり厳しくなるな。ストライクバーストを出せるとはいえ、たった一機でどうにかなるほどでは」


『ストライクバーストはイグジストアストラルの後継機だよ。最も最初に作られたイグジストアストラルと違ってストライクバーストは最も遅く作られた。イグジストアストラルよりも攻撃に特化した機体だから戦争となればイグジストアストラルより期待できるよ。ストライクバーストは』


「だが、正。ストライクバーストに乗るマクシミリアンは天王だ。天界の部隊を動かすのも天王でなければならない。アーク・レーベでは役不足だ」


『彼も強力な力を持っているのは確かなのだけどね。というか、天界で二番目に強いし』


『オレがお前と連絡を取りたかったのはそういうところもあるんだ』


「何?」


孝治が不思議そうに眉をひそめた。


『アークの戦いの決着をつける相応しい場所ってないか?』






光の刃を作り出したアークレイリアを握り締めつつリリィは素振りを行う。ただの素振りではない。敵の行動を予測した素振りだ。その動きはまるでハイロスやリリーナを相手にしているかのような動きである。


「私は、勝たなくちゃいけない」


小さく呟きながらリリィはアークレイリアを振る。


「強くならないと、悠聖とずっと一緒にいるために」


力無き力に何も意味は無い。だからこそ、リリィはさらに力を得るために動く。


「天界を導くために」


全ての能力を駆使し、敵を倒すために。


「私の敵は、必ず」


その瞬間、視界の隅に何かが映った。こちらに向かって走り込んでくる姿。その姿にリリィはとっさにアークレイリアを向けた。


前傾姿勢のまま最高速を維持し迷うことなく一直線に向かってくるその姿にリリィは見覚えがあった。だから、困惑と共にリリィは攻撃を受け止める。


「敵、って何?」


リリィは目を見開いた。アークレイリアとぶつかり合う光輝と、光輝を握り締めてリリィを睨みつける音姫の姿を。


「リリーナを殺して、ハイロスを殺して、そして、自分も殺すつもり?」


「それは」


「今のリリィの剣は殺人のための剣。そんな剣技はリリィの正当なやり方じゃないよ。だから、修正してあげる」


音姫が一歩下がる。だから、リリィは前に一歩を踏み出した。そのままアークレイリアを叩きつけようとする。だが、アークレイリアの刃を光輝の一閃が弾いた。


加速の力で後ろに下がりながらもリリィは音姫を睨みつける。


「私は、強くならないといけない。だから!」


「だから、自分すらも殺すの? それは強くなるんじゃないよ。本当の強さは自分自身だから」


音姫が静かに光輝の刃を鞘に収める。それだけで音姫が本気であるとわかった。全力の白百合流はここから始まる。


「そんな気持ちでアークの戦いで決着をつけようだなんて思わないで。私は本気で行くよ」






「始まったね」


戦い始めた二人の姿をリリーナはアークベルラを両手で抱えて持ちながら見ていた。


音姫をここに呼んだのも事情を説明したのも全てリリーナだった。今のリリィを止められるのは悠聖か音姫だけ。悠聖は今は忙しい。これから首都に向かうための準備があるからだ。だから、リリーナは音姫が帰ってくるように連絡を入れたのだ。


もちろん、すぐに帰ってくるとは思わなかった。だが、連絡を入れてすぐに音姫は戻ってきたのだ。しかも、悠遠(エターナル)ですら到達出来ないような距離があったのにだ。


「間に合ったか?」


そんなリリーナにハイロスが声をかける。ハイロスの後ろには心配した表情のリリィの兄であるナイトと七葉の姿がある。ナイトはリリィの兄だからであり、七葉はもしもの時のための抑止力だ。


悠聖と同じ神となった七葉は対人戦において最初から絶対的な優位にたっている。さらには、今はピースメーカーも使えるため現状では五指に入る力があると言ってもいい。


「なんとかね。私もハイロスも覚悟を決めた身だけど、リリィは背負いすぎているからね。音姫ががつんと叩いてくれればいいんだけど」


「ルーリィエは大丈夫なのか? 白百合音姫と言えば剣鬼と言われている最強の人間だろう」


「大丈夫だよ。もしもの時は希望神の私が入るから。でも、お姉ちゃん、音姫さんは大丈夫だよ。私が見た未来から宣言します」


「胡散くさいちからに頼りたくはないが、今はそれしか頼りにならないからな。だから、仕方ない」


「最悪の場合は私も介入する。と、友達が怪我をするところなんて見たくないから」


「私もだよ。私達はライバルで親友なんだから。だから、リリィが間違った道を進むのを止めないと」






光輝の軌跡が的確にリリィの急所を狙っていく。加速に加速を重ねたリリィはさらに加速をしながら光輝の刃を的確に弾いて行く。だが、弾いて行く度に音姫の剣筋は加速する。


白百合流はあらゆる動きを利用して次の攻撃に繋ぐ剣技。その剣技が冴えわたるのは剣と剣がぶつかり合い激しく打ち合っている時だ。


リリィは弾くことでなんとかさばいているがこのままでは音姫の剣技で力負けするのは目に見えている。


「リリィはなんのために力を手に入れたの?」


「何の、ために?」


アークレイリアの剣筋がぶれる。そこに的確に打ち込まれる光輝の刃。光輝の刃はリリィの頬を浅く裂いて血を飛び散らせる。その瞬間、何かが走り込んでくる音。


「来るな!!」


音姫の叫びと共に光輝が振り抜かれる。振り抜かれた光輝の刃は衝撃となり地面を砕きながら走り込んで来ようとしたリリーナとハイロスの間を駆け抜ける。それに二人は動けなかった。


正確にはナイトから剣鬼と呼ばれた姿を見てしまい恐怖を抱いてしまった。ちなみに、七葉は頬がひきつっている。さすがに神となっても音姫は驚異的らしい。


「なんのため? その力はなんのために手に入れようとしたの? 殺すため? 殺して力を手に入れるため?」


「それは」


光輝が振り抜かれる。すぐさま拒絶の力で光輝の刃を弾くがその勢いをも利用して光輝の刃が加速する。


「その刃は敵を殺すためのものじゃない!」


激しく振り抜かれる光輝の刃。それを弾きながらリリィは歯を食いしばる。


「音姫なんかにはわからないわよ!! あなたにわかるわけがない!! 私は、天界の全てを背負うんだから!!」


全力のアークレイリアが光輝の剣劇の間を抜けて音姫に迫る。だが、それを音姫は軽々と受け止めた。


「なんで一人で背負おうとするのよ!? 天界全てなんて背負えるわけがないじゃない!」


「今までの天王は背負ってきた。だから、私も背負わなければならない! 私は、そのために、力を!」


「そんなための力を手に入れたらリリィが死んじゃうよ。リリィじゃなくなるよ」


「無くなったっていい。私は、思いでさえあれば、アークレイリアの持ち主であるリリィが死んでも、天王のリリィとしてやっていける。天王になれば、悠聖と対等になれる。だから、私は!!」


リリィが力任せに音姫を押し込む。音姫は魔術が使えない。だから、力の勝負となれば音姫に勝ち目はない。勝ち目はないはずなのに、リリィは押しきれていないでいた。


まるで、音姫に別の何かが憑いているかのように。


「私は殺してみせる! 心も、存在も、友達さえも、殺して」


「じゃあ、なんで泣いているのよ!」


「泣い、て、いる?」


音姫の言葉にリリィは自分の頬に手を当てた。そこには確かに涙が流れている。だが、泣いていると言う感覚はない。それなのにリリィの頬には涙が流れている。


「なんで、私は」


「それはリリィもわかっているから。だから、泣いているのよ! 本当は戦いたくない。心を失いたくない。友達と戦いたくない。そんな気持ちを必死に押し込めて、リリィは戦おうとしている! 力はそんために手に入れるものなんかじゃない!」


「だったら、私はどうしたらいいのよ! 今のままじゃ力が無い。力無き力になんの意味もないんだから!」


戦いを終わらせようとリリィが全力で押し込もうとする。だが、逆に押し返されている。魔術が使えない音姫によって。


「一人で戦わない。一人だといつか潰れちゃう。昔の私のように。私が狭間の鬼を倒すために鬼に全てを明け渡したように。いつかリリィがリリィじゃなくなっちゃうよ。だから、頼りなさい。友達を」


「信じられない。そんなことで強くなんて」


なれない、とリリィは続けようとした。だが、リリィは弾き飛ばされた。力任せに。


ありえないと思いながらもリリィは音姫を見る。音姫を見て、音姫を見たことを後悔した。何故なら、音姫の背後には半透明の鬼がいたからだ。


「私は、乗り越えた。一人で戦っていた時を。弟くん達と戦うことで私は克服した。弟くんと出会った時に出会った悪魔をあの日、由姫ちゃんを傷つけた日に私はようやく乗り越えることが出来た。だから、私は今ここに立っている。みんなと共に支え合い進んでいくことを決めたの。私が引っ張っていくんじゃない。共に並ぼうって。これが私の覚悟」


背後にいる半透明の鬼はその覚悟が具現化したものとも言える。それはあまりにも威圧的で、そして、神を従えているようだった。音姫の力ならおかしくはないが。


「だから、今のリリィは私が殺す」


音姫が光輝を振り上げる。その刃には濃密なありえないほどの魔力が渦巻いていた。


「白百合流惑星割り『轟刃粉砕』!!」


「「リリィ!!」」


リリーナとハイロスの声が聞こえる。それと同時に圧倒的な魔力がリリィの体を呑みこんだ。


リリーナとハイロスの二人がリリィの名を呼びながらリリィに駆け寄る。莫大な魔力を叩きつけられたリリィの体はまるでボールのように地面を転がるが見た目に異常は無い。そんなリリィに駆け寄って二人はリリィを助け起こした。


「お疲れ様、お姉ちゃん」


いつの間にか音姫の隣には七葉の姿がある。


「お姉ちゃんか。七葉ちゃんから言われるのは久しぶりだね」


「人前で言うにはそんな年じゃないからかな? それにしても、お姉ちゃんの中にいるもう一人のお姉ちゃんをいつの間に手懐けていたの?」


音姫の背後に見えていたのは狭間の鬼との戦いで見せた暴走した音姫そのものだった。つまり、暴走する感情を制御していたということだ。つまり、音姫は怒りに怒っている。


「そういうことじゃないかな? 私はただ、私なだけだよ。怒りも悲しも喜びも楽しみも全てを私の力に出来るようになっただけ」


「怒りや悲しみをコントロール出来るようになるのは人間業じゃないと思うけどな。でも、よかった。噂には聞いていたらからそんなことにならなくて」


「それもこれもギルのおかげかな?」


その言葉に七葉は首をかしげる。音姫が頬を赤く染めて恥ずかしそうにギルと言ったから。


ギルと言えばギルバート・R・フェルデだろう。だけど、音姫はギルバートさんと呼んでいたはずだ。


「ちょっとだけ少し前の話なんだけどね」


そして、音姫は語り始める。ほんの少し前、七葉に呼び戻される前の話を。

次は幕間が入ります。音姫とギルバートの話です。

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