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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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第二百五十八話 希望の力

『破壊の花弁デスペルタル』が隔壁を斬り裂きながらもそこにアル・アジフさんの魔術が突き刺さり斬り裂いた隔壁を吹き飛ばしつつオレ達はさらに道なりに駆け抜ける。


「一体、いくつ隔壁があるんだよ!?」


オレは叫びながら『絆と希望の欠片ライペルタル』で周囲を確認しつつ『破壊の花弁デスペルタル』を放つ。


すでに隔壁は50以上破壊しているだろう。だが、一向に目的地は見えない。


「ここは最も警備が厳重な場所じゃからな。むしろ、隔壁だけしかないのがおかしいとは思うが」


「普通は隔壁がこんなにあることに驚くだろうが。まあ、いい。七葉、どっちに行くべきだ?」

前の道は左右に別れている。おそらく、どちらかは完全に目的地以外に続いている。


こういう時は七葉に聞いた方がいい。七葉なら最もいい希望の未来を見てくれる。


七葉は目を瞑って考える。そして、目を見開いた。


「右が最短。左は回り道。ただし、右も左もなにかいる。ちなみ、左は数が多く右は体が大きい」


「どっちも行きたくないな」


「どっちかに行かねばならぬじゃろ。こういう時は最短を突き進むべきじゃ」


「だな」


「ちょ、ちょっと待って」


走り出そうとしたオレ達を驚いた表情の緒美が止める。まあ、言いたいことはわかるけど。


「ここは慎重に、慎重に決めた方が」


「「冷静に決めた」」


「冷静と慎重は違う!」


「諦めた方がいいよ、緒美。悠兄もアル・アジフさんも言い出したら止まらないだろうし。プライドの関係で」


まあ、時間はたくさんあるからあまり問題はないんだけど、ゆっくりしていたらクロラッハ達が攻めてくるかもしれない。


こういう時は最短距離を一直線で突き進む方がいい。火力は過剰だし。


「ちゃっちゃと右に行くぞ。例えエンペラーだろうと問題はないさ。なにが来ようと『破壊の花弁デスペルタル』さえあればどうにかなる」


『あなたが活躍する暇なんてありません。アル。全力で消し去りましょう』


「そなた、我が全力を出せばこの研究所は確実に消え去るぞ」


「『破壊の花弁デスペルタル』の力でもこの研究所を破壊することは容易い。精霊帝を舐めるなよ」


『あなたこそ魔術書アル・アジフを舐めないでください』


「そなたら、犬猿の仲はいいのじゃがせめて別の場所でしてくれぬか?」


「こ、こんな感じで、だ、大丈夫?」


「あははっ。大丈夫じゃないだろうね。はあっ」






周囲を警戒しながらオレは先頭を歩く。七葉が見たものはわからないがこの先に待っているのは巨大なな何か。それに対処するには攻防一体の『破壊の花弁デスペルタル』が使えるオレが最適だと判断して先頭を歩いている。


続いて七葉。さらには緒美。そして、アル・アジフ。純粋なフロント担当がいないためオレがフロントになっているけど『破壊の花弁デスペルタル』があれば十分にフロントをこなせる。


「それにしても、古いのに新しいな」


「お兄ちゃん、どういうこと?」


「あ、そうか。七葉はこういう場所には来ないんだったな。周は研究者としての才能もあるだろ? だから、あいつは時々遺跡の調査に狩りだされる時があるんだ」


そもそも、周が高校浪人した背景にはそういう部分もある。それにありに知識もあるためか研究隊の護衛をしつつ調査をすることすらあるのだ。


「そういう時についていった場所はほとんどが魔科学時代の遺産。稀に原始の遺跡とかあったけど大抵がここと同じ魔科学時代のもの。そのほとんどが朽ちていてこういう風に綺麗が外壁を持っているものが無かったんだ」


「それは盗掘者もいるからじゃな。それらの遺跡は基本的に魔科学時代後期に使用されていたものじゃ。未だに生き残っているアルタミラの一部区画以外はセキュリティなんてない。当時は人類が滅亡する瀬戸際じゃったからな」


「瀬戸際って。あのディアブロのせいなの?」


「そうじゃ。魔科学時代の最後、人類の生活圏はユーラシアの中でも東南アジアから東。そして、南北アメリカ大陸。人類の最後の防衛戦がハイゼンベルク要塞。このハイゼンベルク研究所は全ての研究所の至高の技術を使った人類史上最高の場所なのじゃ」


「どうりで、今までに知った場所とは違うわけだ。じゃあ、この先に待っているのは」


「魔科学の技術を集めた叡智の結晶、かもしれぬな。我は聞いたことが無いのでなんともいえぬが」


そう考えるとこの先に向かいたく無くなってきたな。


そう思いながらも口に出さずにオレは足音を出来るだけ立てずに前へ進む。アル・アジフさんは飛んでいるし、緒美は消音魔術を自分の周囲に張り巡らせている。


バックにとって火力の底上げが可能な詠唱は口に出さないといけないため居場所がわかりやすい。だから、消音魔術は基礎中の基礎。まあ、周や孝治みたいに戦闘しながら詠唱という器用なまねをする奴もいるけど。


つまり、聞こえるように足音を出しているのは七葉だけ。まあ、七葉は一応は戦闘要員だったから仕方ないけど。


「お兄ちゃん。すごく申し訳ないんだけど」


「どうした?」


オレは立ち止まり振り返った。そこには顔をひきつらせた七葉の姿がある。


「今、唐突に新しい未来が見えたんだけど、かなりまずいよ」


「どんな未来を見たんだ?」


「それは」


「悠聖、前じゃ!!」


とっさに『破壊の花弁デスペルタル』を前方に盾のように展開する。だが、その『破壊の花弁デスペルタル』ごとオレの体は吹き飛ばされていた。七葉に受け止められながらオレは前を睨みつける。


視界に入ったのは腕。巨大な機械の腕。その腕は通路の先、いつの間にか見えていた大部屋から続いてていた。


「あそこが目的地か」


「あそこにいるよ。巨大な敵が」


「オレが先に突入する」


オレはそう言いながら走り出した。最速で通路を駆け抜けて通路から大部屋へ入る。


そこは巨大なドーム状だった。大きさは野球場のように感じるが狭く見える。何故なら、視界の中には七葉が言っていた巨大な敵がいるからだ。


二本の巨大な長い腕。まるで鎧のような巨大な体が床から上半身より上を出している。その体の至るところにはこちらに照準を向ける砲口。


「冗談じゃねえぞ!!」


その場から飛び退きながらオレは『破壊の花弁デスペルタル』をそいつに向かって放った。だが、放った『破壊の花弁デスペルタル』はひとつ残らずこちらに照準を合わせていた砲が全て撃ち落としてくる。


破壊の花弁デスペルタル』は無数の花弁。それを全て撃ち落とすということはかなり高密度な射撃が出来ると言うことだ。ある意味、『破壊の花弁デスペルタル』の天敵であり、今のオレにとって最悪の相性を持っている。だが、オレは一人じゃない。


敵を引きつけてその内にアル・アジフさんと緒美に魔術で攻撃をしてもらう。それが今のオレの役割。


「撃ち落とすと言うことは『破壊の花弁デスペルタル』が有効なんだろ。だったら、このまま『破壊の花弁デスペルタル』で」


「待つのじゃ悠聖」


アル・アジフさんの言葉にオレは身動きを止め振り返る。アル・アジフさんは魔術書アル・アジフを持ったまま警戒することなく呆れたようにこっちに向かって来ていた。


「そなただったか、ピース」


『その声は、リズィ、いえ、アル・アジフですか?』


機械の声。抑揚の無い声にオレは何故か嬉しそうな響きが混ざっているような感じがした。


「まさか、そなたがまだ生きておったとはな。すでに長い時間が過ぎているのに」


『長い時間の中でディアブロと戦う手段を新たに構築していました。あなたがここに来たと言うことはここが見つかったということですか?』


「いや、知り合いからの情報での。ここにオルタナティブ試作一号機が眠っていると聞いての」


『オルタナティブ試作一号機。ピースメーカーのことですね』


その声に若干戦意が含まれる。まるで、それを渡したくないかのように。


「ピースメーカー? あの心臓の動きを補助するもののこと?」


「それは、ペースメーカーのこと?」


七葉、なんてバカなこと言っているんだ。


「オルタナティブ試作一号機。通称がピースメーカーじゃ。どうやら、そなたは渡したくないようじゃな」


『あれは危険ですから。使えるものがいるとは思いません。なので、お帰りください』


その言葉にオレは『破壊の花弁デスペルタル』を構えた。対するアル・アジフさんは小さく息を吐いて巨大な機械の敵、ピースを見る。


「どうしてもかの?」


『私は平和(ピース)の名を持つ人工知能。世界を平和に導く救世主(ピースメーカー)を相応しい人に渡さなければなりません』


「だったら、その資格を試してもらおうかな」


そう言いながら七葉が前に出た。そして、その手に持つ槍を構える。


「アル・アジフさん。それが求めているもの、私の力なんだよね?」


「そうじゃな。そなたなら使えると思っておる」


「うん。お兄ちゃん、アル・アジフさん達をお願いね。私はちょっと、平和に喧嘩を売ってくる」


「怪我するなよ」


七葉はもう神だ。だから、オレが止めるようなことじゃない。自分で考え自分で答えを出していくしかないんだ。


七葉槍を構えたまま前にでる。それにピースは全ての砲口を七葉に向けた。


『あなたがですか? あなたでは』


「不相応、とでも言うのかな?」


その言葉と共に七葉に向いていた砲口の大半が半ばから切断され地面へ落下する。それを見ながら七葉は駆けだしていた。


全速力で駆けながらもオレの視界には周囲の壁に見えない程度の頸線を打ちこんでいく。それを自分の体につけながら。


『それは、まさか』


残った砲口がエネルギー弾を吐きだした瞬間、七葉の体は不自然に横に移動した。まるで、引っ張られるように。


頸線を利用した疑似空戦能力は存在する。周囲に張り巡らせた頸線の上に乗りながら戦うのだ。市街地であればあるほどその能力は凶悪になり変幻自在な行動を可能とする。だが、それの亜種とも言うべき方法が室内では圧倒的な効果を発揮する。


頸線を利用した室内における空間移動。頸線に自身の体を引っ張ってもらうのだ。もちろん、強さも太さも強度も間違えた瞬間に慣性に従って吹き飛ばされたり体の一部を切断したりする。だが、手足のように頸線を扱える達人ならそういことは関係ない。


ピースが放つエネルギー弾を回避しながら七葉はさらに距離を詰める。


『これで終わりです』


ピースが右腕を振るった。巨大な右腕が七葉のいる空間ごと薙ぎ払おうと迫る。だが、七葉は動かない。そしれ、右腕が輪切りにされた。


『ありえない。この装甲はエンペラーと同じ装甲なのに』


「ありえないことなんてないんだよ。イグジストアストラルみたいに完璧な装甲じゃないなら、私の視る希望は教えてくれる。あなたの倒し方を」


『くっ』


ピースが残る左腕を真上から叩きつけた。もし、輪切りにされても質量で押しつぶせるように。


今までの七葉ならオレはここで乱入していただろう。『破壊の花弁デスペルタル』を使ってピースを破壊する手段を取っていたはずだ。だけど、今は違う。だって、七葉は、


「私は死の運命から乗り越えてきた。だから」


七葉は、神だから。


「希望の力で私は世界を救うって決めたんだ!!」


左腕を纏めた頸線で打ち払った。そのまま張り巡らせた頸線を使ってピースの頭部付近まで移動しつつ罫線をピースに向ける。


「私は希望神。死の運命を逃れ、新たな未来の希望を手に入れた新しい神の一人なんだよ!」


『神。そう、ですか。なら、あなたに問います。神にとって人とはなんですか?』


「可能性の塊」


即答している部分にオレは驚くがオレも同じ意見だった。


神は誘導している。世界を救うために、新たな未来を求めて人を動かしている。そこになんの目的があるかはわからないが、まるでオレ達に希望の力を与えているように。つまり、神にとって人は無限の可能性を持っているのだろう。


死ぬはずだった七葉が何度も死にかけながらも生きたように、運命を変えてくれると信じているに違いない。


「だから、私は希望の力を使う。可能性を広げるために。人が持つ無限の可能性を希望の力で照らし出すために。それが私の、希望神の役割だから」


『可能性、ですか。人は、変わったのですね』


「いーや、あまり変わっておらぬぞ。そならが知るように今も同じ人間同士で争っている。意見が対立する。じゃが、その先に新たな未来が待っているのだからの」


「まあ、そんな中でオレ達はよくまともに育ったよな。なあ、ピース。オレ達の可能性を信じてくれないか? どこまでピースの希望にこたえられるかは分からない。だけど、オレ達は必ず世界を救って見せる。だから」


『わかりました。信じましょう』


ピースの頭部が開く。そこから現れたのは成人男性の男の頭の大きさをした球体だった。


『これが試作一号機のピースメーカーです。完成体と違いフュリアスの形を待機状態ではしていません。ですから、あなたが作り出してください』


「私が、作り出す?」


『あなたの希望の形を、あなたの希望の力として』


そうピースが言った瞬間、大きな揺れが周囲を襲った。オレは周囲を見渡しながら『破壊の花弁デスペルタル』で警戒する。


「悠聖、上じゃ!」


アル・アジフさんの言葉に上を見上げた瞬間、天井の一部が剥がれ落下してきていた。オレはとっさに『破壊の花弁デスペルタル』を放とうとして、


フュリアスの腕が全ての天井から剥がれ落ちた破片を吹き飛ばしていた。全部で四本のフュリアスの腕が。


「おおー、こんなことも出来るんだ」


そう言いながら七葉はいつの間にか、頸線にとって作り出された四本の腕を背中に作ったブースターで浮遊しながら楽しそうに感触を確かめるように振り回していた。


「なあ、アル・アジフさん。どうなってんの?」


「魔術、というより、無理矢理飛んでます、よね?」


「おそらく、ピースメーカーの中にある情報から即席でブースターを作り出したのじゃろう。レヴァンティンと同じ要領じゃ」


「なるほど」


「そ、それでな、納得出来るんですね」


レヴァンティンは周が作った設計図を基にレヴァンティンが構成して変形する。それと同じ機構なら理解はしやすい。


「ともかく、外にですぞ。何が起きたかわからぬからとりあえず出ねばな」


そう言いながらアル・アジフさんが指差した天井には穴が空いてた。それを見ながらオレ達は頷き合い、そして、そこに向かって飛び上がった。

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