第二百五十四話 オラトリオ
『終始の星片』
分類上神剣に属される『終始の星片』だがその能力は神剣を超越しすぎている。あいつが普段から『破壊の花弁』だけで『終始の星片』を使わなかったのはそういう意図があるからかもしれない。
『終始の星片』は攻撃と補助の能力がある『破壊の花弁』と『絆と希望の欠片』を持つ。
だが、それだけなら『破壊の花弁』と『絆と希望の欠片』の二つに分けるか『終始の星片』だけでいいだろう。
だが、『破壊の花弁』、『絆と希望の欠片』、『終始の星片』の三つは禁書目録図書館にも登録されているように別々の存在だ。
その理由がオレの、オレ達の目の前に広がっている。
「青い惑星、地球か!?」
『地形が違う? 厳密には地球ではない? 白川悠聖、これは?』
目の前に広がっている光景。それは宇宙から見下ろした青い惑星だった。
アル・アジフさんもエリシアも驚いて声を上げる。オレはそれに苦笑しながら手を広げた。
「『終始の星片』。その内部にある『終始の星片』の世界だ」
「『終始の星片』の世界? 『終始の星片』とは星剣じゃったか」
星剣。確か、神剣の上位に位置する武器だったな。詳しくは知らないが周なら禁書目録図書館よりわかりやすく話してくれるだろう。
『『終始の星片』がまさかここまでだなんて。空間転移、ではありませんね。これは』
「強制転移、いや、『終始の星片』の世界に強制召喚じゃな」
「『終始の星片』の世界は『終始の星片』に設定した力の下で発動する。それがどんなに地球の摂理に反していようと『終始の星片』の世界はそれを常識とするんだ」
「むちゃくちゃだよね。まあ、そのルール上だったら」
七葉が笑みを浮かべながら槍を構えた。その穂先の先には巨大な石の塊とそこに取り付くディアブロの姿があった。
あれがコロニー。ゆっくりと身構えながら『破壊の花弁』を構える。
「距離があろうが障害物があろうがどれだけの数があろうがこの世界にまとめて持ってこれるよね」
「破格じゃな。我が知る星剣と比べても破格じゃ。ディアブロの数は8じゃな。コロニー内にもいる可能性があると考えても多くて20」
「それくらいなら、なんとか。私の多弾魔術で倒しましょうか?」
「そうだな。どうする?」
「ここは緒美に任せようかの。我も魔術を用意しておく」
「わ、わかりました」
緒美が杖を構える。そして、小さく息を吐き、大きく息を吸い込んだ瞬間、杖が動く。
弾丸が凄まじい速度で排出されていき弾倉が無くなった瞬間に緒美は新たな弾倉を装着した。
「いきます」
魔術陣が展開される。莫大な数の魔術陣はコロニーを取り囲むように展開され、そして、一斉に魔術を放った。
それぞれが別の魔術を放ちながらコロニーを中心に魔術が炸裂する。その威力にオレは感心しながらも『終始の星片』のマスターとして空間を感じ取りながら『絆と希望の欠片』を展開する。
いくつもの魔術を雨霰のように叩きつけた緒美の杖から熱が吐き出される。それを感じながらオレは『破壊の花弁』を構えた。
「来るぞ!」
魔術の嵐から飛び出すように現れる何か。それを見ながらオレは『破壊の花弁』を放っていた。七葉も槍を構えながら前に踏み出す。
魔術の中から現れたのはエンペラー。だが、今までのエンペラーよりも大きなエンペラーだ。
「装甲の隙間が弱点じゃ。ディアブロに取り憑かれているのを忘れるではないぞ!」
「未来を見る私にそんな情報はいらないよ!」
頸線が走る。大きなエンペラーに頸線の先、剣となった頸線が突き刺さり装甲の隙間から内部を切り裂く。内部にいたディアブロは頸線によって貫かれるがディアブロはそのまま頸線を這うように黒い体を伸ばした。
だが、それより早く頸線が黒い体を細切れにする。
「悠兄!」
「わかってる!」
ディアブロの本体はエンペラーの中にいる。エンペラーの中にいるディアブロを倒すのは一苦労だろう。だから、『終始の星片』の空間内で最大の威力を持ってエンペラーごと叩き潰す。
「一撃で終わらせる!」
『破壊の花弁』を一つにまとめて巨大な剣として振り上げた。そして、全力で振り下ろす。
『破壊の花弁』の剣は『終始の星片』の空間にある魔力を纏いエンペラーに激突する。エンペラーの装甲と拮抗したのは一瞬。その一瞬の後にエンペラーの装甲がひしゃげ『破壊の花弁』の剣はエンペラーごとディアブロを叩き潰した。
イグジストアストラルの装甲も同じ手段で破壊出来るだろう。世界の魔力の大半を剣に籠めたならの話だが。
「どうやらこれで終わりみたいじゃな」
アル・アジフさんの視線の先にあるのは砕けたコロニーとひしゃげたエンペラーの姿。『終始の星片』の隅々を『絆と希望の欠片』で探してもディアブロの姿は見当たらない。
「なんつう敵だよ、ディアブロは」
「ややこしい敵みたいだね。神様がずっと戦っているって話だし」
また禁書目録図書館に行ってたな。まあ、いいや。今はこの『終始の星片』の世界から元の世界に戻らないと。
オレは小さく息を吐いて『終始の星片』を閉じた。一瞬にして光景が元に戻る。ただし、いつの間にかエンペラーに囲まれた状態で。
「ひゃう!」
「あちゃー。悠兄」
「オレは何もしてないぞ」
「まだこの研究所にこれだけのエンペラーが残っておったのか。じゃが、これを倒せば終わりじゃろう」
誰もが構える。それと同時にエンペラーが動き出した。
「さっさと倒して目的のものを見つけるぞ!」
かちゃり、と鎧が動く音が鳴り響く。アークフレイの鎧が音を鳴らしたのだ。そのままアークフレイを着るミスティーユ・ハイロスは起き上がる。
「っく。あれ? 私は」
「あっ、起きた。良かった。このまま目を覚まさないかと思ったよ。ここは遺跡内にあった医療室だね」
「縁起でもないことを言わないでもらえる? ミスティ、大丈夫?」
「私の心配はしてくれないのか?」
「もちろんハイロスも心配してるから。だけど、あなたは神経が図太いでしょ」
ハイロスは軽く肩をすくめるとアークフレイの兜を脱いだ。そして、小さく息を吐く。
「二人には迷惑をかけちゃったね。ごめんなさい」
「おあいこだよ。迷惑を掛け合うのが友達だからね」
「そうよ。ミスティ、体に痛いとこらはない?」
「少しダルいだけ。二人が助けてくれて嬉しかった。ありがとう。そ、それだけだから」
するとミスティは小さく息を吐いた。すでにミスティではなくハイロスになっているようだ。
「私も迷惑をかけた。まさか、ディアブロがいるなんて」
「そのディアブロって何? 私もリリィも聞いたことが」
「仲良く話しているところ悪いけれど、ディアブロがいた以上、ここは安全じゃないよ」
リリーナの言葉を遮るように放たれた誰かの言葉にリリィはアークレイリアを抜きはなって振り返った。
そこには呆れたように肩をすくめる正の姿がある。
「驚かせたかな?」
「あなたは海道正」
「リリィと白騎士の二人が悠聖達を追いかけるからその監視役として僕が動かされたんだよ。ただ、この遺跡内でコロニーを見つけてそれを破壊してきたから遅くなったけど。ディアブロについては僕が語ろう。今はここから離れることを第一に」
『侵入者確認、侵入者確認。第八ブロックにおいて許可を得ない者が侵入しました。今より侵入者を撃退するために防衛プログラムを作動させます。隔壁を閉鎖します。隔壁を閉鎖します』
正の言葉を遮るように流れたアナウンスと共に医務室の入口の隔壁が降りた。正はすかさずレヴァンティンレプリカを抜き放ち隔壁を切り裂く。
どうやら少しだけ怒っているようで荒々しく力強い一撃だった。
「さっさと出よう。どうやら、かなりややこしい事態になったようだからね」
『侵入者確認、侵入者確認。第八ブロックにおいて許可を得ない者が侵入しました。今より侵入者を撃退するために防衛プログラムを作動させます。隔壁を閉鎖します。隔壁を閉鎖します』
全員の視線が突き刺さる。それにオレは耐えきることが出来ずすかさず禁書目録図書館の中に飛び込んだ。
「なんで部屋に入ろうとしただけでセキュリティーが発動するんだよ。完全にオレがへまをやらかしたみたいじゃないか」
「実際にやらかしたんだよ」
呆れたように七葉が言うがいつの間にお前は禁書目録図書館の中にいるんだ?
「『絆と希望の欠片』で調べてから入ったのに?」
「魔術的な要素に頼りすぎだったからじゃないかな? ドアの近くにあったパネルにパスワードを打ち込む必要があったとか?」
「自動ドアだぞ」
「よくよく考えるとライフラインがよく生きているよね。でも、起きてしまったことは仕方ないと思うよ。『終始の星片』の世界から戻ったらエンペラーに囲まれていたことを含めて」
「あれは本気で焦った」
『破壊の花弁』と七葉の頸線を最大限まで使用して周囲を一掃した後にアル・アジフさんと緒美の魔術で残りのエンペラーを撃破。
誰も怪我をすることはなかったがかなりピンチだった。
「とりあえず、戻るか」
禁書目録図書館から出ると警告はまだ続いていた。
『繰り返します。侵入者確認、侵入者確認。第八ブロックにおいて許可を得ない者が侵入しました。今より侵入者を撃退するために防衛プログラムを作動させます。隔壁を閉鎖します。隔壁を閉鎖します』
前方の隔壁から上から降り始める。こういう時に隔壁で道を塞ぐのは重要な施設がここにあるからだ。だから、オレは隔壁に向かって『破壊の花弁』を放った。
『破壊の花弁』が一瞬にして隔壁を粉々に切り裂く。
「さっさと奥に進もう。隔壁で道を塞がれるから強硬突破で」
「そうじゃな。目的地はそろそろじゃろうしぶち抜いていくかの」
「アル・アジフさんが頑張ったらここが崩落するからあまり頑張らないで欲しいけどね」
「び、微力ながらお手伝い、します」
全員が同時に走り出す。先頭はオレ。『破壊の花弁』を展開しながら前に進む。
「ぶち抜いていくぜ!」