第二百五十話 神と神
静かに開かれる魔術書アル・アジフ。いくつもの文字が書面に踊りいくつもの意味を成す。それを見ながらアル・アジフは小さく息を吐いた。
「そなたは周に似てきたの」
「そうか?」
振り返ることなくアル・アジフは背後にいる人物に向かって言った。背後にいる人物、悠聖は軽く肩をすくめる。
「オレが目標としていた人物に近づけたのならそれは嬉しいことだけどな」
「神になったからかの? 禁書目録図書館を上手く使い戦っている。そなたなら総指揮官も務まるじゃろう」
クロラッハ達との戦いは満場一致で悠聖が総指揮官となった。総指揮官を補佐する副指揮官は孝治、リリーナ、リリィ。それぞれが音界、魔界、天界の指揮をする。その三人をサポートするために悠人、魔王ギルガメシュ、天王マクシミリアンがいるが。
「禁書目録図書館ね。魔術書アル・アジフにも禁書目録図書館のことは書いてあるのか?」
「禁書目録図書館。神の知識が詰まった宝物庫。本音を言うなら覗いてみたいものじゃがな」
「まあ、オレも詳しく隅から隅まで覗いたわけじゃないけどすごいものだとは」
「そういう意味ではないぞ」
アル・アジフさんはそう言うと魔術書アル・アジフの上に座り浮かび上がった。そして、小さく息を吐く。
「そうじゃな。そなた、禁書目録図書館に飛んでくれないかの?」
「いいのか? アル・アジフさんは一緒に行けないはずだが」
「とりあえず、飛ぶがよい」
「はいはい」
オレは小さく息を吐いて、そして、禁書目録図書館に飛んだ。
終始神となってからいけるようになった禁書目録図書館。その能力は調べることに関しては最高の性能を持つ。
禁書目録図書館で調べたことだが神はオレ達、というより世界のことを見つめているらしい。
監視神、知識神、傍観神など様々な神が世界を見て禁書目録図書館に知識を記憶しているからか様々な知識が存在している。
「さてと、アル・アジフさんはどうしてここに」
「ふむふむ。ここが禁書目録図書館か」
その声にオレは鳥肌が立っていた。
前に調べたことがある。人界にいる神の名前のリストを。そこにはアル・アジフさんの名前は無かった。何故、禁書目録図書館にアル・アジフさんが入ってこられるんだ?
「ふむふむ。知識として知ってはおったが体験してみるとなると勝手が違うの」
「なんでアル・アジフさんがここに?」
「あなたですか」
アル・アジフさんではない声。その声にオレが振り返るとそこには呆れた表情をした白いシャツに赤いチェックのスカートを着た少女。腰まである黒髪のその姿には三途の川で見た覚えがあった。
「あんたは?」
「あれ? 自己紹介しなかったっけ? 私は選択神ルエルナエリナ。ルエナって呼んでね」
「そなたか。ルエナ」
「それはこちらのセリフです、アル・アジフ。何故、あなたがここにいるのですか?」
「そなたも無駄に偉そうな口調は止めた方がよいぞ。似合っておらん」
それには賛成だ。
ルエナは小さく息を吐くと呆れたような表情でオレを見てきた。
「終始神も終始神だよ。神の位は最高位なのに一般人を簡単に連れてきて」
「神の位って初めて聞いたぞ。しかも、最高位って」
「話してないし」
さいですか。
「アル・アジフもアル・アジフです。ここにいることがバレたら爺共がうるさいことはあなたが一番わかっていますよね?」
「わかっておる。調べ物をしたらすぐに去るつもりじゃ。それに、今の我がわかるのは我をよく知るものくらいじゃからな」
「私と監視神の仲がいいから良かったものの」
どうやらアル・アジフさんとルエナは仲がいいみたいだ。アル・アジフさんは魔科学時代に生まれている。そう考えると今までの膨大な時の中で出会っていてもおかしくはないか。
ルエナも口調は邪険に扱っているがアル・アジフさんと笑みを浮かべながら話しているし。
暇だし何か調べておくか。そう言えば、フュリアスについてここにはあるのかな? 監視神やら言っていたから魔科学時代も見ていた可能性はあるし。
「我が調べたいのはフュリアスについてじゃ」
「フュリアス? 知識は禁書目録図書館よりあなたの方が多くはないですか?」
「基本的な姿はの。じゃが、我が調べたいのはフュリアスの中でもかなり特殊な機体、ラインセントラルじゃ」
「ラインセントラル、オルタナティブのことですか。確かにオルタナティブはあなたが全く関わらなかった機体ですね」
ラインセントラルは確か悠遠とかと同じ魔科学時代のフュリアスだよな。ラインセントラルはオルタナティブという言い方もするのか。調べてみるか。
すぐさま禁書目録図書館の中を検索すると複数の書物が現れた。そこから無造作に一冊を抜き取る。
「イージスカスタムは我が解析出来た技術を流用したがまだ足りぬ。イージスカスタムを完全にするためにラインセントラルのノウハウを見たいのじゃ」
「ラインセントラルって頸線から出来たかなり特殊な機体なんだな」
イージスカスタムの改造に確かに利用出来る。
「イージスカスタムのように本体があるわけじゃなくて全体を頸線で構成しているのか。なんちゅう機体だよ」
「悠聖、そなたはラインセントラルについて調べておるのか?」
「まあ。フュリアスについて調べようと」
オレの手にあった書物がアル・アジフさんによって奪われた。オレは軽く肩をすくめて別の書物に手を伸ばす。
「イージスカスタムの改造ってことは頸線の量を増やすのか?」
「そうじゃな。イージスカスタムは悠遠よりも対フュリアスに関しては強い。防御力の高いイージスに遠距離への攻撃が可能な頸線を組み合わせたからの。それに、七葉は天才じゃ。頸線を精密に扱うことに関しては神がかっておる」
「まあ、あいつはオレや周の背中を見ていたからな」
第76移動隊が結成された時も七葉は我流で頸線を扱った戦いを身につけていた。七葉は自ら頸線を使ったのだ。
「頸線を使い出したのも目前でレクサスの戦いを見ていたからなんだよな。圧倒的な技術で魅せながらも圧倒的な力で敵を拘束し、傷口を治癒しながら塞ぐのを見てから七葉は頸線を使い出したんだ」
「そもそも、レクサスは頸線が武器なのか?」
アル・アジフは驚いたようにオレを見ていた。まあ、アル・アジフが見ている前じゃレクサスは使ってないからな。
「最近は使ってないからな。レクサスが頑張らなくても周や委員長にベリエ、アリエが治癒するから。レクサスの本気は第76移動隊発足してからは一度も出してないんじゃないか?」
「うむ、考えを改める必要があるの。じゃから、七葉は頸線の扱いが神がかっているのじゃな」
「慧海さんも教えていたからど派手なものになっているし」
七葉の戦い方は圧倒的手数によるやり方だ。もちろん、慧海さんも頸線で戦う場合は同じやり方になっている。
七葉はオレと違って精霊召喚師の才能はないし魔術師としても凡人クラス。だが、七葉の最大の特技は並行していくつもの事柄をやれるこてだ。
事務としても優秀。禁書目録図書館のような莫大な情報から本命を見つけ出すのも優秀。周囲を警戒しつつ戦うことも優秀。もちろん、いくつもの頸線を扱うのも優秀。
ある意味、七葉と頸線の組み合わせは最も相性のいい組み合わせなのかもしれない。
「じゃが、それを知ればしるほどより七葉専用の機体を作らねばならん」
「イージスカスタムで十分じゃないのか?」
「不十分じゃ。エース級を敵の真っ只中に突入させる関係上、敵と真っ正面からぶつかり合うフュリアス部隊がどうしても弱くなってしまう。今のイージスカスタムは飛行能力を無くした代わりに無理やり頸線の装備を身につけたようなものじゃからな。イージスカスタムを踏襲しつつ新たな機体を開発せねばならぬのじゃ」
「時間はあるのか?」
オレの考えだとそう遠くない未来でクロラッハ達とぶつかり合う。一から作っていたなら確実に間に合わない。
「問題はそれじゃ。最悪、イージスカスタムに新たなパックを」
「はぁ。私のことを忘れてるよね?」
呆れたようにルエナが呟く。そして、ルエナはオレに近づいてきた。
「ポイントΔE-67。そこに向かって?」
「ポイントΔE-67?」
「そう。新しく生まれた希望神に私、選択神からの餞、とでも言っておこうかな。そこに、アル・アジフが求めているものがあるから」
「我が求めているもの?」
「昔々、あるところにとある神がいました。神は世界を見つめる役目でした。世界では人間が異形達と戦っていました。戦線は人間側の劣勢。それを見ていた神は言いました。「手助け出来ないものか」と」
ルエナの語りにアル・アジフが口を塞ぐ。もしかして、
「魔科学時代の話か?」
ルエナは頷いて言葉を続ける。
「他の神は言いました。「これも試練だと」。ですが、人間側はあっという間にやられていきます。ユーラシア大陸の半分が異形に呑み込まれた時に人間側に一人の英雄が生まれました。一人にして一軍。ですが、戦況は膠着状態になるだけ。だから、神は思いました。「この身を犠牲にしてでも助けられないものかと」。ねぇ、アル・アジフ。希望神に渡してもらえますか? 神が作りしフュリアスを」
「悠聖。ポイントΔE-67へ向かうぞ」
「わかった」
アル・アジフの姿が消える。オレは小さく息を吐いてルエナを見た。
「ありがとうな」
「いえいえ。私が知らせたのはあくまでオルタナティブ試作一号機。古い古い機体だよ。禁書目録図書館には乗っているだろうけど、今の私は本体の場所を知らないから」
「試作一号機か。そうだとしても、ありがたい。この戦いは負けられないからな」
「うん。頑張って」
ルエナの笑みを最後にオレは禁書目録図書館から出た。小さく息を吐いて前を見るとアル・アジフさんが地図を展開している。
「ポイントΔE-67。少し遠いの。じゃが、目指すべきじゃ。悠聖、七葉と緒美を連れて向かうぞ」
「七葉はわかるけど何故緒美も?」
「あやつはこういう時に役立つのじゃ。早くしろ」
「はいはい」
オレは小さく溜め息をついて二人を捜すために歩き出した。
イージスカスタムのままか新しい機体を出すか悩んでいたら気づいたら日にちが。
大筋は決まっていますがその間が決まっていないのが問題ですね。