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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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第二百四十七話 希望

誰もが開いた口を締められない。オレはそう思っていた。実際にオレもそうだろう。


戦いは数が大勢を占めると言ってもいい。特に、今回のような総力戦ではその数がものをいう。だが、敵の数はこちらの三倍。思っていた以上に、いや、遥かに多い。


『三倍、か。少ないな』


だが、一人だけ違った。いや、当然と言っていいかもしれない。こいつはそんな奴だ。


「余裕だな」


だから、オレも笑みを浮かべる。画面の向こうにいつ孝治に向かって。


『三倍くらい、俺、悠聖、浩平の三人がいれば容易く対処できるだろう』


「言ってくれるな」


隣にいつ浩平も苦笑を浮かべてしまう。


どこからそんな自身が出てくるのか不思議に思ってしまうが孝治の実力は人界でもトップクラス。いくらこちらが壊滅的な被害を追ったとしても孝治一人で敵を押し返すことは可能に思えてくる。


ここに周がいれば三倍どころか三十倍でも怖くないんだけどな。


「俺から言わせてもらえば、むしろ新技の試し打ちには事欠かないな。他の世界が目をつけたのはよくわかる話だぜ」


『そういうことだ。アル・アジフ。お前も大丈夫だろ?』


「そなたみたいに自身満々に言えることではないわ。じゃが、相手にとっては不足はないの」


「人界の住人はどういう神経をしているんだ?」


ルーイがこめかみを押さえながら苦悩するかのように言う。確かに普通から考えればそうなるだろう。


敵の数は約三倍。それなのに今の状況はこちらが勝っているかのように楽観的になっている。まあ、こちら側としてはそういう風になっているのが一番なんだがな。


「よくよく考えるとそなたらはいつも圧倒的大多数と戦っていたの」


「第76移動隊結成当時から酷かったしな」


浩平が少し遠い目をしながら言う。


狭間戦役の時なんて三倍という物量ですらなかった。もう、数えるのが馬鹿らしいくらいの人数差。


今回も同じようなものだ。それにこちならには切り札がある。


「皆さん楽観的ですね」


苦笑しながら言うメリルの表情には同じように楽観的な表情となっていた。


メリルもわかっているのだ。このメンバーが主力になることが。そして、このメンバーの実力と今までの結果を。


「楽観的というより確固たる自信の現れじゃないかな? 『GF』の第76移動隊と言えば世界で戦ってはいけない部隊の一つだよ」


「それは情報戦に強く強襲用の航空空母と攻撃過多のメンバーが集まっているから。僕達のような影でコソコソするような集団にとって天敵だからだよ」


ミルラとラウの二人も苦笑しあっている。二人も第76移動隊の実力はよくわかっている。


「杞憂、だったかな」


「そうね。あなたが一番付き合いが長いのに第76移動隊のことをわかりきっていないのよ」


「それを言われたら僕は少し心苦しいね。でも、そう楽観的になれる状況じゃない」


確かに正の言う通りだ。楽観的になれる状況じゃない。


『だが、そうでもしなければ負けてしまう。俺は今回ばかりは負けられない戦いだからな』


『おそらく、次は今までで一番の大戦。こちらも魔界から兵士を連れて来るがどこまで通用するか』


『天界も魔界もフュリアスが主力ではない。我らも戦っていいがどこまでいけるか』


「いい年した大人二人が何辛気臭い顔になっておる。そんなことは最初からわかりきったことじゃろ。我らの主力は我らとフュリアス部隊。最初からわかっていたはずじゃ」


今回の大戦で中心になるのはオレ達とフュリアス部隊。だから、天界の部隊はあまり戦力としては数えていない。どうしても実力的に運用するのが難しいからだ。


もちろん、首都防衛の任務を中心とする予定だが。


「そのことに関して一つだけみんなに見て欲しいものがある」


そう言うとアル・アジフさんはデバイスを取り出した。そして、端末でデバイスを操作する。


「今回の作戦で悠遠エターナル以外に新型機を投入する予定なのじゃが、そのパイロットを天界側から十人募集したい」


スクリーンに映る一体の機体。装甲ががっちりしていて従来の機体よりも大きいのが特徴か。


背中はアストラルシリーズのように三つのメインブースターといくつものスラスター。腰にはサブブースターらしきものがある。


「新型機か。このタイミングで何故投入するのだ? 僕達の機体なら間に合っているはずだが」


「こちらの主力は向こうと同じギガッシュじゃ。敵の主力でもあるクロノスと比べると対抗出来ぬ。かと言って、数少ないエリュシオンではどうしても数で負けてしまう。新型機を投入することで少しでも差を縮めるしかないのじゃ。だから」


『それでも、圧倒的戦力差は埋まらない。そのことを理解しているのか?』


アル・アジフさんの言葉を遮るように魔王は言った。一瞬にしてこの空間に静寂をもたらす。


『少人数の戦いじゃない。今回は世界大戦。その中での三倍の戦力差は絶望的と言っていいだろう。ここには善知鳥慧海はいないのだぞ?』


慧海さん。


第四次世界大戦においてたった一人で二万の軍隊を足止めしていた実績がある。その状況に持ちこめたならこちらとしても勝ち目は増えるのだが、そんなことはどうあがいても出来ない。


『確かに、お前達の実力はわかっている。だが、このままでは数の差で押し負けてしまう可能性がある。そこにどうやって楔を打ち込むつもりだ?』


「楔?」


確かにそうだ。楔を上手く打ち込み敵を上手く分断出来ればそれでいい。


『魔王。それくらいに』


『天王。ここは俺達が言わないといけないのだ。第76移動隊は大軍の指揮には慣れていない。大軍の指揮は末端組織との協力でなんとか形を成しているだけだ。このままでは主力がやられた瞬間にこちらが瓦解する可能性だって』


「楔だ」


オレの呟きに孝治と冬華の二人が笑みを浮かべた。


こいつら、絶対にオレを試していたよな。事前で作戦を考えていたに違いない。


「悠聖?」


アル・アジフさんに促されてオレは頷く。


「アル・アジフさん。新型機の速度は?」


「従来のフュリアスとは比べ物にならんの。アストラルシリーズのデータ蓄積とエリュシオンのデータを組み合わせた機体じゃからな。最新機の名にふさわしい速度は持っておる」


「悠人を隊長とした新型機を含む21機編成の遊撃隊。敵の部隊編成を上手く利用するんだ」


「ほう」


アル・アジフさんも笑みを浮かべる。


「相手は烏合の衆に近い。様々な思惑と共に敵が集まっているからだ。そこに大義名分は存在しない。だから、そこを利用する。相手が三倍の敵がいるならこちらの二倍の敵を戦えない状態にすればいいんだ」


『なるほどな。そういう戦略か。だが、それは可能なのか?』


まるで値踏みするかのような言葉にオレは満面の笑みで頷いた。


「相手が取る戦略は大体わかっている。孝治、リリィ、リリーナの三人が指揮をし、それをみんながフォローしていく形にすれば、こちらの三倍の数はどうにかなる。問題は、悠人の新型機とその新型機の性能が想像以下だった場合、遊撃隊が各個撃破されこちらの作戦は瓦解する」


「吹っかけてくるの。じゃが、そうはならん。この新型機、アストラルファーラはそなたの期待に添える能力があると宣言しよう」


「それは良かった。だったら、作戦は至ってシンプルだ。遊撃隊の21機で敵に突入。そして、撹乱。出来れば悠人はクロラッハと一騎打ち。残る20機は集団で行動しながら敵の注意を引きつける。相手は統率がとれない分同志討ちを誘発するだろう。それこそ敵を混乱させるには十分だ?」


「なるほどな。なら、その役目、僕がさせてもらおう」


オレの言葉にルーイは笑みを浮かべ、そう答えた。






「ふう」


映像を送るのを中断する。その操作をしながら孝治は恨みをこもった眼で振り返った。


「どういうつもりだ、ギルガメシュ?」


「そう怒るな。結果としては上手く事が進んだのだからいいだろう?」


「そういう問題じゃない。すでに決まっていたことを何故、聞いた?」


孝治が運命の柄に手をかける。それをニーナは慌てて止めた。


「落ちついてください、孝治さん。魔王様も悪意を持ってしたわけでは」


「話が上手く行って良かったと思っている。だが、それだけだ。何故、あの場面で無駄な行為を」


「俺はな、今の状況を認めてはいない。あの空気のままでは負けていただろう。これは俺の勘だがな」


「だからこそだ。魔王、お前は何を狙っている?」


「何?」


孝治の言葉にその場にいた全員の視線がギルガメシュに突き刺さった。


「お前が見てるものは俺達が今見ている者よりも先のことのようにしか思えない。お前は何を見ているのだ?」


「先か。いつも通りに鋭いな。なら、あえて尋ねよう。お前達はどこまで先を見て行動している?」






小さく息を吐きながらオレは椅子に深く座り込む。ちなみに、隣にいた浩平とリースの二人はどこかに消えていない。


「お疲れ様」


そんなオレの前にコーヒーが入ったカップが差しだされた。もちろん、差し出したのは冬華だ。


「最初から決まっていたよな? 主に作戦」


「まあね。海道正の報告がどうであれ、敵の数がこちらより多いのはわかっていたことだから。まさか、あのタイミングで新型機の話をされるとは思わなかったけど」


「今回のやる意味はあるのか?」


「一応ね。メリルやルーイは知らないし、あなたも知らなかった。だから、ここでやる価値は大いにあったわ。まさか、私達の上を行く作戦を言われるとは思わなかったけど」


「予想外だったか?」


オレが先程みんなに言った作戦。それは人によっては信じられないものになったかもしれない。でも、このメンバーがいるからこそこの作戦は成り立つのだ。遊撃隊ともう一つの作戦が。


「それより、あいつの傍にいなくていいのか?」


オレは向こう側で話しあっている二人を指差した。もちろん、ミルラとラウだ。


今は休憩中。この休憩が終わればある意味本題になる。


「いいのよ。ミルラは強くなったわ。私が知っていたミルラは本当に小さくて、頼りなくて。でも、今のミルラは大丈夫。きっと、大丈夫よ」


「冬華が言うならオレとしては何も言わない。でも、次が本題なんだよな」


「そうね。黒猫の目的。本当に、何なのかしら」


そう呟くのとアル・アジフさんが正と浩平、リースを連れて戻ってくるのは同時だった。それから少し遅れて向こうとの通信が開く。


「続き、始まるぞ」


「ええ。じゃあ、よろしくね、指揮官さん」


「言うな。憂鬱になる」

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