第七十五話 白鳥琴美
琴美視点として書いたら微妙になったような気が。あまりに気にしないで読んでください。
私は常に孤独だった。
小学校の頃は友達はおらず常にいじめられていた。一人だったから標的にされたのだろう。
親は私を見ることなく暮らしていた。まるで、いないように扱われた。
そして、私は都と出会った。
出会ったのは中学校の時。ちょうど席が横になったからだった。当時から都は人気者で誰にも優しかった。だから、私に話しかけてきたのだと思った。
でも、違った。
都は小学校の頃の私を知っていた。いつも悲しそうに歩いていたのを見ていたらしい。だから、私と友達になりたいと言ってきた。
最初はためらった。いじめられた経験が頭の中にぐるぐる回ったからだ。だから、私はそこから逃げた。授業中なんて関係ない。
家には親はもういない。単身赴任だからと言って北海道に二人で向かったからだ。毎月お金は振り込まれるから生活には困らない。
家に閉じこもっていた私を都は毎日尋ねて来てくれた。最初はインターホン越しで会話をして、次は微かに開いたドア越しに。そして、私は都を家に上げて一日中会話をした。
都は私を救ってくれた。だから、私も都を守りたい。そう思えるようになっていた。
「楽しそうね」
私の言葉に都は苦笑いを浮かべる。
私は休日を利用して春祭りの舞の練習を都の家ですることにしていた。春祭りが近いこともあり、集中する場所として都に頼んだからだ。だから、都の家に来た。
そして、都の家には周達の姿があった。
「そんなに楽しそうなことがあったなら私も呼んで欲しかった」
本心からそう言うと都はチラッと周を見た。確実に昨日何かあった。今の行動で確信できた。
「周様の意外な姿が見れました」
「だから、勘弁してくれ」
周が恥ずかしそうに顔を背ける。確かにこういう姿は知っている周と違って年相応に見える。ただ、後ろの二人がすごい殺気を飛ばしているような。
「由姫も都も勘弁してくれ」
周が溜息をつく。そんな周を見て私はクスッと笑った。
「いいわ。都、指導をお願いね。周達は観客としていてくれる?」
手に持つ錫杖を鳴らす。
手と腕の動きを合わせながらゆっくりと、だけどしっかり動かしていく。
周に言われたアドバイスを思い出し、都から教えてもらった全てを今いる観客全員に披露していく。
私が巫女に選ばれてから様々なことが起きた。もちろん、嬉しいことから悲しいことまで様々なことだ。それら全てを私はこの舞に思いとして込める。
間違わないように。でも、間違ったとしてもしっかりとした動きで舞を続けていく。堂々とした動きなら間違いは間違いじゃない。
そして、私は錫杖を鳴らし、動きを止めた。
自分の中では今までで一番出来たと思う。でも、都から見たらどうだろうか。
私はそう思い都を見た。すると、都は泣いていた。
「都?」
私は都に駆け寄る。すると、都は私に抱きついてきた。
「琴美の舞を見ていたら、琴美の感情がよく分かって。私、私」
「都。ありがとう。感じてくれて」
「琴美は私に感謝していますけど、感謝するのは私なんです。私は、私として見てくれる人が欲しかった。だから、琴美に近づいたんです。私は、私は」
私は首を横に振った。そして、都の背中を優しくさすってやる。
「嬉しかった。どんな理由だとしても、私を救ってくれた。私はそれに感謝しているから」
気づけばいつの間にか周達の姿が無かった。どうやら出て行ったらしい。
私はそんな心遣いに感謝しながら都を抱きしめる。
「すごく上手かったですね」
由姫がオレに向かってさっきの感想を言った。それに関してはオレも同感だ。前に見た時よりもはるかに上手い。これなら、誰もが納得するような舞を春祭りに踊ってくれるだろう。
亜紗がスケッチブックを捲る。
『ところで、都さんと昨日何があったの?』
一瞬にして部屋の空気が変わる。空気を変えて欲しくは無かった。
オレは小さく溜息をつく。
「だけど、妙だな」
「話を変えないでください」
「そういうわけじゃない。確かに、琴美の舞はかなりのレベルだ。だけど、あまりにも感情が伝わりすぎている」
亜紗が首を傾げながらスケッチブックを捲る。
『それは私も思ったけど、彼女の実力じゃないかな?』
「琴美には悪いが、そこまでのレベルには到達していない。いや、人間の誰もがあそこまで観客全てを感情移入させれる能力を持っていない。確かに感動はするだろう。でも、琴美の思いがまるでさらけ出されたようなことはありえない」
もしかしたら、近くにいた魔術師が魔術を使ったという方が話がわかる。だけど、ずっと探知していたのに気づかないということはまずありえない。
オレの探知をすり抜けれるのは竜言語魔法ぐらいなのに。
「一体、何だって言うんだ」