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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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幕間 これからのこと

振り上げられた運命の刀身が音を立てて振り下ろされる。そのまま孝治は一歩を踏み出しながら横薙ぎに振り抜き運命を鞘に収める。


「暇だ」


「いやいやいや。暇じゃないでしょ」


小さくため息をつきながら言った孝治に対してルネが言う。ちなみに、周囲はたくさんの天界の兵士が少数の音界の兵士と会話をしながらせわしなく動いている。


「ただでさえ、音界の首都は混乱しているのになんで一人でこんなところで素ぶりなんてしているのかな?」


呆れ声でいうルネの服装は薄汚れている。汚れてもいいようにごく一般的な作業着を着ているからか本人は気にした様子は一つもないが。


孝治は小さく息を吐きながら運命から手を離した。


「訓練だ」


「いやいや。大事な復興の最中でしょうが。ただでさえ、政府が完全に崩壊して完全な無政府状態なんだから。首都にいた犯罪者の一部は天界の一部と組んで犯罪行為をしでかすし」


「だが、そいつらは全員捕まっている」


「そうなんだけどね。でも、危ういと思わない? この状況が」


今、孝治達は音界の首都にいる。天界の住人の大部分を音界の首都に移した後、現在はクロラッハ達が攻めてきてもいいように簡易な基地を増設中なのだ。もちろん、首都に存在している基地も利用するが。


その中でどうしても作業に人手が出すぎて首都の治安が守り切れていない。ルネはそう思っているのだろう。それには孝治も同意見のようで頷いている。


「そうだな。こういう状況は何回も見てきた。政府が倒れ、無政府状態となった国。その国で偉そうな顔をするのは反政府組織だった者。争いは無くならない」


「今は小規模のものだけだから臨時に徴収した民間兵でどうにかなるけど、このままだと民間兵も危なくなってくる。『ES』や『GF』から増援を要請した方が」


「本来ならそうするべきだろうな」


そう、本来なら。


孝治はそう含みを持たせて笑みを浮かべた。そして、周囲を見渡す。


「ここに関わっているのは音界と天界の住人だ。確かに、天界の住人は不安があるだろう。住んでいた土地が突如として崩落し、故郷を追われた。そのことを不安に思わない人は少なくない。家財道具だってほんの少しだ。今は天王が纏めているからなんとかなっているが、今のままではいつか天界の中で不満が爆発するだろう」


「だから」


「だからこそ、俺は信じたい。人と人との繋がりを。今の音界の首都も不安に思っているはずだ。政府が無くなり、レジスタンス同士の抗争が活発化。歌姫は巻き込まれ一時安否が不明。そんな中で天界の住人が暮らしだしたのだ。不安になるのは仕方がない。だからこそ、不安になっているからこそ、俺は繋がりを信じたい」


「そう簡単に行くものじゃないよ。あまりに違いすぎるから。実際に、そういうのは何度もみてきた。国連は全部そう。その国だけで立ち直れるように援助をする。だけど、国の中は民族や宗教の違いだけで争いが起きる。それは価値観が違いすぎるから。今回だってそうじゃないかな?」


ルネは少し悲しそうに言う。


『ES』は中東を中心として活動している。だからこそ、わかるのだろう。今回の危うさを。


対する孝治はそれを知っていながらも人々を信じている。少し楽観的にも思えるような状態で。


「ところで、その理論と作業をさぼっていることにどんな関連があるのかな?」


「それは」


「まさか、それがただの言い訳とでも言わないよね?」


孝治の額に汗が流れる。それをルネはわかっているのだが、ルネは小悪魔の笑みを浮かべて追及するのを止めない。


「まさか、みんなが作業を頑張っているのに孝治だけがさぼっている理由が音界と天界が仲良くなってもらうため? だったら、橋渡しをしてもいいんじゃないかな?」


「それは、その」


「なにかいい言い訳でもあるの?」


「それくらいにしてあげてください、ルネさん」


その声に二人が顔を向けると、そこには苦笑まじりのニーナが飲み物が入っているであろう水筒を両手で持ってやってきていた。


「孝治さんも心配なんですよ。今日、帰ってくる予定の光さんと正さんのことが」


「なるほどね。恋人と親友が帰ってくるから作業なんてしてられないよね。じゃ、仕方ないか」


そう言いながらルネはニヤニヤしながらも孝治の背中を叩いた。


「それにしても、麒麟工房の今の戦力ってすごいよね。簡易基地が完成しても一瞬で落ちるんじゃないかな?」


「そうですね。今の敵、クロラッハ達を簡単に撃退した集団。こちらに来てくれれば大きな戦力となるのですが」


「それは無理だろうな」


「マクシミリアンか。会談はどうなった?」


天王の声に孝治が振り返る。


少し呆れたような表情のマクシミリアンとそのそばに付き添うアーク・レーベ。そして、それを楽しそうに見守る刹那の姿がいた。


アーク・レーベも刹那もかなり独断行動をしている。正確には二人で独断専行しているというべきか。


「麒麟工房は重要な場所だ。おそらく、次の決戦において必要になるだろう」


「何か知っているようだな」


「それはアル・アジフに直接聞いた方が早いかもしれないな。我の口から述べるものではない。そして、あれを失うわけにはいかない」


「アカシックレコードの記述か? まあ、いい。それが悠人の乗る新たな機体であるなら何も聞くつもりはない」


「ちょっと待ってください。明らかにそんな話していませんでしたよね?」


何かを悟ったかのように言う孝治に対してニーナはつっこんだ。いや、つっこまずにはいられなかった。

今の内容だけで悠人の乗る新たな機体が麒麟工房にあると判断するのはまず無理だろう。考えられるのは画期的な新型フュリアスとかに決まっている。


「考えれば簡単なことだ。次の決戦で重要な機体。そして、麒麟工房ということはフュリアスだ。フュリアスとしても新型では決戦で使用出来るとは限らない。つまり、戦力として考えられるのは悠人が乗る新型だ」


「確かにそう言われたら納得できるけど、普通はそんな考えは浮かばないんじゃない?」


「俺は天才だからな」


「言われて腹立つけど実際に天才だから否定出来ない」


どや顔の孝治に対してぐうの音も出ないルネ。そんな二人をニーナは苦笑しながら見ている。


もちろん、マクシミリアン達は完全に置いてけぼりだ。


「そろそろ本題に入るがいいか?」


話を戻すために口を開いたマクシミリアンに対して孝治は頷いた。それを見たマクシミリアンも頷きを返しアーク・レーベを見る。


アーク・レーベは小さく頷くと懐から書類を取り出した。


「口で話すよりこれを見てもらった方が早いだろう。これが音界臨時政府が出した条件だ」


アーク・レーベが差し出した書類を孝治は受け取る。そして、目を通して小さく溜め息をついた。


「無茶苦茶だな」


「うわっ。防衛はこっちが全てやること前提なのに自給自足しろやら住処は自分達で作れとか。まるで、こちらが奴隷みたいな要求になってるね」


「奴らからすればそうなのだろうな。我も呆れて言葉が出なかったところがいくつかある。それを要約すれば」


「こちらに関わるな。その代わりこちらも守れ。まともな考えとは言えないな」


そう言うと孝治は書類を破り捨てた。さすがのその行為に誰もが驚いていた。


何故なら、その書類には署名欄があり、こちらで話し合った後に再度会談を行い書類を提出することになっているからだ。


「交渉するだけ無駄だ。今の臨時政府がまともに機能するわけがない。実際に政府を今まで動かしていた主要人物は一切関わっていないからな」


「政治を知らぬ政府か。厄介だな。この場合はこちらが折れるか向こうを折るか」


「どちらにしても時間はない。臨時政府を無視して他と協力関係を取った方が有意義だろう」


「でも、臨時政府を無視するのは」


「臨時政府だからこそ無視出来るのだ」


ルネの言葉をマクシミリアンが遮る。


「この音界は単一国家主義。つまりは政府が最も偉かった。そこに余所の国が入ってきたのだからそれこそ組み込もうとするだろう」


「じゃあ、この無茶苦茶な要求は」


「無理だとわかっているからだ。その無理を突きつけ、代わりの条件として我らを隷属させる。実際、食料問題があるからな。今はなんとかなっているが、これからはどこかで崩壊を始める」


「でも、無視出来ることに何の因果関係があるの?」


「国とは他国からの承認があって初めて国として機能する。こう言えばわかるな?」


マクシミリアンの言葉にルネは納得したように頷いた。


今の臨時政府は無くなった政府の代わりに立てられたものだ。もちろん、有志によって。それはつまり、臨時政府ではあるが自称である。


有志がボランティアで政府の真似事をしているだけとこちらは断定して他の取引を行ったところで、民の信任すら得ていない臨時政府からすれば強く批判することは難しい。


相手は天界という音界と同じ国家のようなものだから。


「リストを作る必要があるな。音界の有力者のリストが欲しい。花畑孝治。頼めるか?」


「そういう仕事は得意だ。何時間で済ませればいい?」


「一日。それ以上は待てない」


「わかった」


マクシミリアンの言葉に頷いた孝治は静かに笑みを浮かべた。そして、さらに口を開く。


「これから五時間後に会議を開いてくれ。その間に全ての調査を終わらせておく。任せろ。俺は花畑孝治だ」

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