第二百四十話 同じであるということ
最近忙しいので書く時間がありません。2月の後半には落ち着くと思うのでそれまではかなり間隔が空くかもしれません。今回のように。
『海道周だと? 海道家の人間か?』
アレキサンダーが正に対して新たに取り出したエネルギーライフルを向ける。だが、そんな中でも正は薄く笑みを浮かべていた。
「どうやら僕を知らないようだね。色々と暗躍していたのだけれどわからないか」
そう言いながらも正はエリシアの横に移動した。それに対応するようにアレキサンダーのエネルギーライフルも動く。
いくら魔術が使えないような空間に作り替えられているとはいえ、あの場所からの斬撃でエネルギーライフルを斬り裂いた以上、クロラッハは正を見た目以上に警戒していた。
「海道家の人間ではあるよ。でも、今の海道家で僕を知る者は少ない。そもそも、あんな家はもう御免だからね。話が逸れた。エリシア、大丈夫かい?」
「大丈夫、です。でも、アルが」
「一時的に連絡出来なくなっているだけだよ。この煙幕の中では魔術を使うのが難しい」
『難しい? その煙幕内では魔術は使用出来な』
「破魔雷閃!!」
クロラッハの言葉を遮るように正の一振りがエネルギーライフルの先を斬り落とした。
まるで、魔術を使用出来るとでも宣言するかのように。
「何故」
「オリジナル剣技は可能だからね」
エリシアの呟きに正は唇を動かすことなく答えた。そして、静かにレヴァンティンレプリカを構える。
「この煙幕は魔力を移すことが出来ない。だけど、距離が無いなら物質に移すことは可能だ。間に空気がない条件下のみ魔術の使用が可能」
つまりはこの空間内ではアル・アジフのような体外で発動する魔術の使用は困難ではあるが正のような体内で発動し剣に乗せて放つ魔術は可能であるということだ。
身体強化も可能であるためこの空間で人界の人間を止めるのは難しい。
「さらには煙幕だから次第に晴れる。ほらね」
その言葉と共に正は魔術陣を作り上げた。そこから三つ叉の矢が放たれるがアレキサンダーはそれを簡単に避ける。
「アレキサンダー。形成逆転、というところかな?」
『貴様。だが、我はまだ奥の手を残している』
その言葉にエリシアは嫌な予感を感じていた。それは正も同様でありレヴァンティンレプリカをしっかり握り締めて身構える。
『貴様らが作ったシステムは優秀だ。例えば』
「FBD」
『そう、FBD。フルバーストドライブはまさに最強のシステムだ。アレキサンダーに組み込むのに苦労したよ』
「FBDを使用するには特殊な作り方を必要とするのに、何故!」
『進化が我らの予測を上回っていたってことじゃな』
突如としてエリシアの前に現れたスケッチブックが独りでにめくられる。それを見ながらエリシアは魔術書アル・アジフをギュッと抱え込んだ。
『正。そなたはどうするつもりじゃ?』
「アル。君はもう答えがあるんじゃないかな?」
『我はあくまで予想じゃ。そなたが海道周であるなら我の予想は完成する』
「僕も同じだよ。じゃ、技術の差を思い知らせてあげようか」
「えっと、二人は何を話しているのでしょうか?」
話の意図がわかっていないエリシアが少しだけ首を傾げると正は笑みを浮かべてエリシアの手を取った。
「見せてあげよう。マテリアルライザーを」
「でも、マテリアルライザーは」
「僕と周の違いは男か女かだけ。だから、技術の差を思い知らせてあげるんだ。いくら進化したところで最強のフュリアスには勝てないということを」
「わかり、ました」
困惑気味でありながらもエリシアが頷き正の手を握り返した。
『待たせたな。これがアレキサンダーの』
「「マテリアルライザー!!」」
アレキサンダーがFBDを行うより早く、突如として現れたマテリアルライザーがアレキサンダーに向かってレイルダムが振り抜かれる。だが、アレキサンダーは大きく飛び上がって攻撃を避けた。
アレキサンダーの体中からは溢れ出したエネルギーがまるでオーラのように纏わりついている。これがアレキサンダーのFBD。
「厄介だね」
そう言いながらも正は右手に握るレヴァンティンレプリカをマテリアルライザーのコクピットの中で握り締めた。その後方ではエリシアが驚いた表情で正を見ている。
「そんな。マテリアルライザーが反応するなんて」
『周と正は男女の差以外は同じじゃからな。それに、そなたもわかっているはずじゃ。マテリアルライザーの認証機構のことを』
「生体認証。遺伝子レベルではありませんが指紋や歯並び、網膜などコピー出来ない部分を含めた数ヶ所の認証です」
『それをくぐり抜けるということは正は海道周であるということじゃ。周とは見た目は違っていても同じ。だから、戦うのじゃな』
二人の声が聞こえているのかはわからない。だけど、正はレヴァンティンレプリカを握り締めながら空を見上げていた。
見上げた空にいるのは飛翔しているアレキサンダー。それはマテリアルライザーが飛べないからこそ飛翔している。
『マテリアルライザー。知っているぞ。至近距離での戦闘に特化した近接専用フュリアス。装甲の薄さはエネルギー弾がかするだけで撃破される飛べない機体。そんな脆弱な機体で我に勝とうというのか?』
「確かに防御面だけを見れば確かに脆弱だよ。だけど、それが強さに直結するとは思わない。思い知らせてあげるよ、視界の狭まったご老体にね」
『ならば見せてみよ。マテリアルライザーの力を!』
「そうだね。じゃ、行こうか」
その言葉と共にマテリアルライザーが駆け出した。すかさずアレキサンダーはマテリアルライザーに向かってエネルギーライフルを向けるがマテリアルライザーはとっさに後ろに跳び照準を外す。
だが、外されたところでアレキサンダーは再度照準を合わせればいいだけの話。そう思いエネルギーライフルの先を向けようとした瞬間、エネルギーライフルの中ほどまでレイルダムが突き刺さった。
アレキサンダーがエネルギーライフルを手放すと同時に魔力の糸によって繋がったレイルダムがマテリアルライザーの手の中に戻る。
『貴様』
「クロラッハ。君はアレキサンダーを使ってフュリアスの戦いをしようとしているみたいだけどそうじゃないよ」
正はそう言いながらレヴァンティンレプリカを構えた。それと連動するようにマテリアルライザーがレイルダムを構える。
「マテリアルライザーの戦い方は魔術を扱う剣士の戦い方だからね。だから、そろそろ終わりにしようか」
『だが、飛べないマテリアルライザーに我がアレキサンダーは負けるわけが』
「誰が飛べないといった?」
その言葉と共にマテリアルライザーの背中に何かが現れた。それは、アル・アジフが対クロラッハ用に用意した巨大な剣。それがマテリアルライザーの背中についている。
そして、淡い空の色をした翼が現れた。
マテリアルライザーのコクピットの中では同じように淡い空の色をした翼を正が生やしている。
「すぐに終わらせてあげるよ」
『くっ、貴様!』
アレキサンダーがエネルギーソードを取り出す。それに対してマテリアルライザーはレイルダムだけでなくライルダムも引き抜いた。
「まともに剣の訓練をしていない君に」
背中の翼から魔力を吹き出し一直線にアレキサンダーに向かって飛翔するマテリアルライザー。アレキサンダーはエネルギーソードを構え、そして、マテリアルライザーに向かって振り抜いた。
マテリアルライザーはそれをライルダムで受け止めながらレイルダムを突き刺そうとする。だが、それより早く背中の砲が跳ね上がりマテリアルライザーに向かって振り下ろされた。
とっさにレイルダムで受け止めながら距離を取る。
『我は負けぬ。負けるわけにはいかぬのだ!!』
「これ以上進化をさせるわけにはいかない。だから僕は」
マテリアルライザーがアレキサンダーとの距離を詰める。だが、その間に一気のクロノスが入ってきた。ただし、その機体の色は漆黒。
レイルダムと漆黒のクロノスが作り出してエネルギーソードがぶつかり合う。
「邪魔をしないでもらえるかな?」
『邪魔か。邪魔はどちらか考えれば歴然だとは思うがな』
「ゲイル。あなたですか」
『アル・アジフさん。いや、エリシアさん。引いてください』
マテリアルライザーは漆黒のクロノスから距離を取った。クロノスの後ろにいるアレキサンダーはマテリアルライザーに向かってエネルギーライフルを構えている。
『世界を救うためには必要ですから』
「なるほどね」
たったそれだけで正はゲイルが何を言いたいのか理解した。だが、エリシアは最初から知っていたかのように何も言わない。
『音界はクロラッハに任せるべきです。クロラッハなら必ず世界を』
「ゲイル。私はあなた達の目的を否定します」
『何故ですか?』
「何故? 簡単ですよ」
そう言いながらエリシアはゾッとするような笑みを浮かべた。
「簡単に仲間を斬り捨てるようなあなたに、世界を任せられないですから」
『仲間? そんなもの、我が目的のために道となる人物ではないか。そのような奴らに何を遠慮する?』
「あなたは!」
「エリシア、無駄だよ。彼は自分の行為が最も正しいと思っている。僕達と同じだ」
マテリアルライザーがアレキサンダーにレイルダムを向ける。
「僕達だって僕達が正しいと信じている。クロラッハだって同じように考えているんだ。つまり、僕達やクロラッハ達は本質的には同じであるということだよ」
「同じであるということ」
『譲れぬ思いがある。だからこそ我は貴様らを倒す。我こそが音界の神だからだ』
「神よりも戦いたくない嫌な存在だけどね。さて、エリシア。やろうか」
マテリアルライザーが身構える。それに応じるようにアレキサンダーと黒いクロノスも身構えた。
機体性能だけならマテリアルライザーが確実に上だろう。だからこそ、二機はマテリアルライザーを警戒する。
「僕達だって諦められないものがあるからね。始めよう。全身全霊の戦いを!」
マテリアルライザーが二機に向かって飛翔する。すかさずアレキサンダーがエネルギーライフルの引き金を引くが、放たれたエネルギー弾をマテリアルライザーは軽々と回避していく。
「まずは一機!」
すかさず黒いクロノスに近づきながらレイルダムを振る。だが、レイルダムは黒いクロノスのエネルギーソードによって受け止められた。
本来ならそこでマテリアルライザーは後ろに下がる。それが普通の、フュリアスの戦い方としての動き方だ。だが、正は笑みを浮かべた。
受け止められたレイルダムを素早く動かして鍔迫り合いに持ち込みながら全てのブースターを最大まで点火させた。黒いクロノスはすぐさまマテリアルライザーから離れようとするがそれより早くマテリアルライザーが駆け抜ける。駆け抜けながらアレキサンダーに向かってライルダムを向けた。
「まずは一発、挨拶代わりだよ!」
ライルダムを中心に魔術陣が煌めき一条の光がアレキサンダーに向かって放たれる。だが、それはアレキサンダーが放ったエネルギー弾とぶつかり合い相殺しあった。
本来なら正は次の攻撃に移るだろう。だが、正はニヤリと笑みを浮かべ、ライルダムを下ろした。それを見たアレキサンダーがエネルギーソードを引き抜きマテリアルライザーに斬りかかる。
『何が狙いかわかるぬが貴様はここで』
「かかった」
そう正が呟いた瞬間、アレキサンダーが持つエネルギーソードの刀身がブレたかと思えば消え去った。アレキサンダーは動きを止め、その瞬間にマテリアルライザーがアレキサンダーに斬りかかる。
アレキサンダーは大きく後ろに下がりながらエネルギーライフルの先をマテリアルライザーに向けるが正は方向を変えることなくアレキサンダーに向かってマテリアルライザーを飛ばしていた。
『貴様!』
アレキサンダーがエネルギーライフルの引き金を引く。だが、放たれたエネルギー弾は一瞬にして霧散し、マテリアルライザーのレイルダムがエネルギーライフルを斬り裂いた。
アレキサンダーがエネルギーライフルを手放しつつさらに後ろに下がる。
『貴様! 何をした!?』
「魔術に対抗するようなものが開発されているように、フュリアスに対抗するものだって開発されているんだよ」
『まさか、粒子結合を分解する術式を』
「さすがにそれは出来ないかな」
正は苦笑しながら答える。
「僕が作り出したのはエネルギー圧縮を分解する術式空間だよ。エネルギー弾はフュリアスの内部で精製されるエネルギーを圧縮したもの。魔術に使用する魔力粒子結合とは少しだけ理論が違う。そして、段違いに簡単だ。だから、作るのが簡単なら分解するのも簡単なんだよ」
『ありえない。簡単だと言っても術式理論状、巨大な空間を形成するのは桁違いに難しいはず。それなのに』
「そうだね。普通ならありえない。だからこそ、僕は進化した力を使う」
「正!?」
エリシアは慌てて声を上げた。
正の言葉はまさに進化すれば使える力だと言うことだ。それを考えれば簡単に一つの結論に落ち着く。
アレキサンダーも応用出来る能力だと。
魔術と科学の違いはあっても進化するアレキサンダーなら真似ることも簡単なはずだ。
『迂闊だな。我は極限まで進化を行う存在。その力、もらった』
「そうだね。君は極限まで進化をするだろう。だからこそ、僕は君に尋ねるよ」
正は笑みを浮かべながらレイルダムの先をアレキサンダーに向ける。
「進化は全て二者択一の道。さあ、君は正しい進化を選べるかな?」
『ゲイル。引くぞ』
『ああ』
『次に会うのはフルーベル平原か? 我が進化の前に恐れおののくがいい』
アレキサンダーが身を翻した。その背後を守るように黒いクロノスが追いかける。
「これでいい」
そんな二機を見送りながら正は笑みを浮かべた。
「あなたはなんてことを」
『いや、正が行ったことは正しいぞ』
突如として開いたスケッチブックの文字にエリシアがキョトンとする。
『二者択一。エネルギー圧縮の分解をアレキサンダーが可能とした時、アレキサンダーはリアクティブアーマーを排除して分解機構を搭載するじゃろう。リアクティブアーマーよりもエネルギー耐性は高いからの』
「そう。機動性は高くなりエネルギー弾に対しては強くなる。それは一見、進化の一つだよ。だけど、物理攻撃と圧縮分解出来ないより圧縮されたエネルギーに対しては無意味な装甲になる。それこそ、リアクティブアーマー以上にね」
『リアクティブアーマーの防御力は高い。ましてや、アレキサンダーのようなエネルギーの量が多い機体ならより強力な防御力とかす。それこそ、こちらの攻撃が届かないくらいにの』
「リアクティブアーマーの排除。機動性を高められても、あの機体なら必ず勝てる」
「正。あなたは知っているのですか? 未来を」
その言葉に正は笑みを返した。
「僕は周と同じだよ。よりよい未来を、新たな未来を求めて戦う。そのためになら敵も味方も利用する。だから、僕はアレキサンダーを利用するんだよ」
『なるほどの。あれを使うと考えれば、アレキサンダーはこの上なく最高の練習相手じゃからな』
「クロラッハには悪いけど、踏み台にさせてもらうよ。全てにおいて最強のフュリアスである悠遠のために」