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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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第二百三十五話 反撃の狼煙

「距離65、クロノス3。背中のバックパックから偵察用だな。あれは」


フレヴァングを構えながら浩平は木の中に隠れて遥か向こう、それこそ普通の視力では確認出来ないほど向こうにいるクロノスを確認していた。


いくら魔術を使っても限度はあり、これは浩平が持つ元来の視力の高さが影響しているだろう。


「距離65、クロノス3、偵察用」


その浩平の声をピタリと寄り添うリースがデバイスを片手に通信を開いている向こうへ通信する。


周囲に人影はなく、民家も見当たらない森の中で二人は監視をしていた。正確には普通はありえない場所で偵察をしていた。


「この距離なら何とか撃ち落とせるな」


「危険」


「わかってる」


浩平はそう笑いながらもフレヴァングを構える。いつでも攻撃出来るように、そして、気づかれたら撃墜するために。


リースが静かにデバイスを耳に当てた。そして、小さく頷く。


「アル・アジフから返信。見つからないように魔術を使用せず撤退。竜言語魔法もだめ」


「じゃあ、撤退しますか」


浩平はフレヴァングを肩に担ぐとリースと共に隠れていた木から飛び降りた。






アル・アジフが魔術書アル・アジフの上にあぐらをかいて座りながら地図上の駒を動かす。地図の近くにいるのは冬華と七葉の二人。二人もアル・アジフが動かした駒に合わせて地図上の駒を動かしていく。


「動きたいわ」


駒を動かしながら冬華はポツリと呟いた。その呟きに七葉が呆れたように溜め息をつく。


「悠兄に会いたいだけだよね? そもそも、冬華お姉ちゃんはまだ体が本調子じゃないんだから」


「わかっているわよ。でも、そろそろ」


「駄目じゃ」


冬華の言葉を遮ってアル・アジフが呆れたように言う。


「そなたは疲弊した状態で『絆と希望の欠片ライペルタル』によって力を奪われたのじゃ。そんな状態のそなたを我が見逃すと思っているのか?」


「アル・アジフなら見逃さない」


『ES』にいた頃も第76移動隊に入ってからもアル・アジフはまるで全員の母親であるかのようなポジションにいた。特に悠人に対してはそれは強かったが、他も負けていない。


だから、アル・アジフはそういう無理は力で止める。


「わかっているわよ。本当に。今の私は足手まといだって。だから、ここでアル・アジフの手伝いをしてるのよ。ところで、七葉はいいの?」


冬華が七葉を見る。七葉は軽く肩をすくめた。


「私は体というより頭だから」


「やっぱりおかしかったのね」


「それはどういうことかな? 未来を見るということはどうしても頭に負担がかかるんだよ。連続して見ていたから私の頭は処理限界に近い状態。頭を休ませないと戦闘時に能力を使用出来ないからね」


「神の力というのは便利でもあり不便でもある。応用力があると思えば連続使用が出来ず、かといって応用力がなければ使えない。そういうものじゃ」


「じゃ、悠聖も」


「終始神だけは格別じゃよ」


アル・アジフは駒を動かしながら苦笑する。


「『破壊の花弁デスペルタル』も『絆と希望の欠片ライペルタル』も『終始の星片オラトリオ』も、神剣の中で最高クラスの性能であり、かつ終始神の能力も敵味方問わず凶悪。文字通り桁が違うの。さて」


アル・アジフが地図上の駒を動かし終わり小さく息を吐いた。


地図の中央にあるのが麒麟工房。その周囲には精巧なクロノスの模型がいくつも置かれている。


「偵察を確認出来たクロノスの位置じゃ。そなたらは気づくよな?」


「当たり前よ。偵察というよりこちらの動きを見ているようね。どれもレーダーギリギリの位置で止まっている」


冬華が地図を指差した。確かに、地図上に引かれたレーダーの索敵範囲内の上にクロノスの模型がある。しかも、索敵範囲内360°くまなくだ。


「じゃ、クロノスは」


「ここを攻めるつもりじゃろうな。確かにここの戦力は少ない。麒麟工房内では今でも急ピッチで機体の修復が行われておるが、稼働出来るフュリアスは200ほどじゃろう」


「クロラッハが狙うのも無理はないね。まあ、数だけ少ないだけだもんね」


「そなたらは一応戦闘準備をするのじゃ。今から我は防衛網をしいてくる。そなたらを戦うことはさせぬとは思うが」


「もしもの時くらいは戦うわ」


「イージスカスタムも大丈夫だしね」


二人の返事を聞きながらアル・アジフは頷いた。そして、歩き出す。魔術書アル・アジフを開きながら。


「クロラッハ。そなたが何を考えているかわからぬが、これ以上来るなら覚悟するがよい。防衛網に入った敵は一人残らず消え去ってもらうからの」






「雷神装填」


麒麟工房の地下シェルター。

どんなフュリアスの攻撃でも、さすがにベイオウルフやアレキサンダーの最大出力では無理だが、耐えきるように設計された地下シェルターの中で俊也は一人その体に紫電を纏っていた。


飛び散る紫電を荒い息と共に制御しながら俊也は必死に紫電を収束させる。


『そうだ。雷属性というのは拡散と収束を上手く利用する属性だ。過去、雷属性は分類されあがら使えないとされてきた。それは、収束の出来ない術師が雷を放ち、敵味方関係なく傷つけたからだ。その常識をひっくり返したのが海道時雨』


収束する。俊也はひたすらに全ての紫電を収束する。


『収束をした雷魔術は全魔術形態屈指の威力を誇る。それが出来てこそ真の雷属性の術者だ』


額を流れる汗は次第に量を増し、周囲に現れる紫電が俊也の肌を焼く。


『紫電を収束した先にあるもの。それを見てみろ。それこそが、我が力の一端だ』


「っつ」


だが、俊也はその途中で片膝をついた。集中力が切れたわけではない。限界が来たのだ。周囲に紫電が迸り地下シェルターの壁を焼く。その中央にいる俊也はそのまま前のめりに倒れ込んだ。


『限界か。かなりいいところまでいったのだが』


「まだ、僕はやれるよ」


ゆっくりと俊也は起き上がろうとするが力が入らず全く動けていない。


『無理をするな。この力に辿りつけた人物は歴史上で一人しかいない』


「そうだとしても」


地面に頬をつけたまま俊也は口を開く。


「僕はやらないといけないんだ。みんなを救わないと」


『気負いすぎだ。そのままでは死ぬぞ』


「みんなを失ったままなら僕は死んだも同然だから。みんながいたから僕はここにある。僕はここで名山俊也として生きている。僕は僕であるために助けることを決めたから」


『マスターがマスターであるため、か。人間とは面白いものだな。我は存在するからこそ我なのだ』


「そう思っていた時期もあったよ」


だけど、俊也は助けられた。力に酔っていたあの頃、白川悠聖と契約した精霊達によって。


「僕は一人じゃない。だから、僕は僕なんだ。みんながいない僕は昔の僕だ。今の僕はみんなと共に歩む僕だから。訓練を再開しよう」


俊也がゆっくりと起き上がる。


「僕は絶対に負けない」


『いいだろう。我もそなたに手を貸すぞ。我がマスターよ』






デバイスが震える。それに気づいた楓は手入れをしていたブラックレクイエムを隣に置いてデバイスを取り出した。


「アル・アジフさんからだ」


「アル・アジフから?」


隣でレーヴァテインの手入れをしていた光がデバイスに繋がれた立体ディスプレイを覗き込んだ。


楓はゆっくりとアル・アジフから送られてきた内容を立体ディスプレイ上に展開する。


「えっと、もうすぐ敵の大部隊が来るかもって」


「いきなりやな。ここの戦力を相手に喧嘩を売るとは思わんけど」


「ここは数が少ないからね。だから、狙われてもおかしくない」


そう言いながら楓は静かにカグラを構えた。


楓が言うように麒麟工房の戦力は少ない。だが、その少ない戦力の中でも数人が桁違いの戦闘能力を有しているが。


「狙われるとしたら遠距離からの砲撃かな?」


「どうやろ。人界の考えでいったらここは狙わんねんやけどな」


楓、光、アル・アジフ、浩平、リース。世界でも有名な遠距離中距離を得意とするメンバーが集まっているのだ。魔術が天敵であるフュリアスではこの五人だけで国一個分の戦力は殲滅出来るだろう。


そもそも、戦闘になるか自体が怪しい。


まず、浩平の超長距離射撃によって攻撃範囲外からかなりの数が撃ち落とされるだろう。さらに、アル・アジフと楓の二人による砲撃でさらに数を少なくし、中距離で光とリースの二人が敵を殲滅する。


どう考えてもまともな戦闘にならない。


「それに、ここには何機ものフュリアスがおんねんやから」


「悪いけど、修理済みの稼働可能なフュリアスは三機を除いて全て首都に送らせてもらったから」


二人にかけられたアンの声に二人は振り返った。そこにはボロボロの作業着を着たアンの姿があった。


アンの言葉に楓が眉をひそめる。


「どういうこと?」


「言った通りや。麒麟工房にあるフュリアスは三機だけしかない。イージスカスタム、通常装備エリュシオン。そして、悠遠エターナルや」


「そういう意味じゃない。どうして戦力を減らす愚行をしたの?」


そう言いながら楓はカグラを構えた。光はレーヴァテインを握り締めたまま二人を見ている。


「そうやな。反撃の狼煙をするためや。アル・アジフには悪いけど、この麒麟工房は今回は落とさせてもらう」


「何故?」


「クロラッハからすればこの麒麟工房は一番破壊したい場所や。開発と修理を担う場所。戦力はあっても落とすのは容易。やったら、罠を用意して出来る限りの数を減らす。それが一番や」


「麒麟工房は集落と共にある。罠を仕掛けるということはその人達を危険にさらすことだけど?」


「納得してもらっとる。犠牲は少ない方が」


ザクッとカグラが地面に突き刺さった。


「意味がわからない。あなたは技術者としてこの麒麟工房を捨てるというの? ここの技術は」


「それが音界のためならうちは平気で捨てるで。これからアル・アジフにも言いに行く。死にたくないなら早く逃げや」


「待ちなさい!」


楓の言葉を無視してアンは歩いていく。その背中に向かって楓は怒りの視線を投げつけていた。


「唐突やな」


「光、どうして冷静なの? 私は!」


「うちは馬鹿やから話を冷静に聞くしかないねん。あまりに急やない?」


「それは」


「うちの予想は楓に本気を出してもらうためやない? 多分、アル・アジフと結託してる」


その言葉に楓は言葉を詰まらせた。


「まあ、本当かどうかわからんけどな。だけど、やってみる価値はあるんとちゃう?」


「やってみる価値?」


「うちらが本気を出してクロラッハを撃退する。向こうの真意がどうであれやるだけのことはやってみようか」


「そうだね」


光の言葉に楓はクスッと笑いながら魔術陣を展開した。


「アンの発言が気にくわないから私は本気を出しておくよ。あんなことを言ったこと後悔させるくらいには」






「ホント、酷い人やな」


呆れたように相手の顔を見ながらアンはクスッと笑った。


「まさか、本気にさせるために戦力を減らすだなんて」


「楓もアルもこうしないと本気を出さないからね」


アンに話しかけられた相手は同じように笑みを浮かべながら言葉を返す。


「見て見たいんだよ。僕は僕達が残した来世で作り出される新たな未来を見たい。それだけだよ」


次回。楓とアル・アジフが防衛戦において本気を出します。

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