第二百三十四話 目的
新年明けましておめでとうございます。
第三章終盤の始まりです。様々な戦いに終止符をうっていきます。
とりあえず、一月中は一日一更新を頑張りたいですね。
「じゃあ、話してもらおうか」
基地内部にある小さな会議室の中で椅子に座ったらすぐにルーイが口を開いた。
会議室の中には僕とルーイ、さらには悠聖さんガルムスの四人がいる。他の全員はみんな別のことをしている。主に怪我人の治療に。
「僕達に納得出来る説明、いや、どこまで麒麟工房と繋がっているか」
「気づいていたか」
「ルーイ、どういうこと?」
わかっていたかのように言うルーイに僕は尋ねた。それに答えるのはルーイではなく悠聖さん。
「エリュシオンは麒麟工房の最新型フュリアスだ。そんな機体を政府に逆らったガルムス達が普通は所有するわけがない。一機や二機なら奪われた可能性はあるが、レジスタンスに貸し出されたより遥かに多いエリュシオンがここにある以上、麒麟工房と何らかの繋がり、いや、麒麟工房と共に今の状況が来ると予測していたな」
「ルーイはともかく、白川悠聖、だったか。人界の住人でありながらよくそこまで思いついたな」
「推測は作戦の基本だ。まあ、周みたいな的中率はないけど、クロラッハ達がここを狙うということはクロラッハ達はガルムス達が大きな役割を持っていると思っているはずだ。そこから推測すると、ガルムス達は何らかの繋がりを持っている。その繋がった先が、それだ」
「だが、それが確実な証拠には」
「決め手は悠人とメリルを保護したこと。その行動がオレ達が受けていた今までの行動とは全く異なることだからな。お前が政府から離脱したのはこの勢力を隠すため。いや、悠遠を完成させないため。違うか?」
「何故そう思う?」
「クロラッハだよ。クロラッハは進化する敵。そんな奴に完全体の悠遠で最初から挑みかかって逃げられでもしたならアレキサンダーが完全体の悠遠以上でやってくる。だから、ガルムスは離脱した。アレキサンダーの進化の方向性を別にするために」
「ちょっと待って悠聖さん。悠聖さんは一体何を言っているの?」
悠聖さんの言葉を遮りながら僕は言う。完全に僕が一人だけ置いてけぼりにされている。
すると、口を開いたのは悠聖さんではなくルーイだった。
「アストラルシリーズとエリュシオンは今までとコンセプトが違うことに気づいていないか? アストラルシリーズは最大出力での短時間戦闘に向いていて、エリュシオンは低出力でも安定性の高い機動が可能で長時間、いや、長期間の戦闘も可能だ。どちらも別方向への進化であり、その中でアレキサンダーが取ったものは」
「エリュシオンの進化。安定性がある高機動機体。アストラルシリーズはブースターとスラスターによる高機動だけど、エリュシオンはメインブースターに可動式ブースターの二つ計三つによる高機動。確かに、異なるね」
エリュシオンは安定性が高い。三つのブースターを使った安定性はアストラルシリーズには勝てない。だけど、精神感応を使うならアストラルシリーズが最も効率がいい。
安定性の高さはエリュシオンでも姿勢制御の高さは悠遠の方が上だ。
「エリュシオンを試験運用することでクロラッハ達は嫌でも視線を釘付けにする。実際、総合的な能力ならエリュシオンの方が上だからな」
アストラルルーラみたいな特注品でなければアストラルシリーズはアストラルソティスが最新型だ。そう考えるとエリュシオンに目がいくのは仕方がない。
「まさか、ここまで考えられているとはな」
ガルムスが楽しそうに笑みを浮かべた。
「将来が楽しみだ」
「やはり、そうだったか」
ルーイがガルムスに笑みを返す。
ルーイの推測はどうやら当たっているらしい。悠聖さんもだけどよくそんなことを考えつくよね。
「ああ、そうだ。グレイルと相談して決めたことだ。音界政府は近い内に分裂する。だからこそ、我らは政府から離脱した。まさか、それを利用されるとはな」
「利用されていたの?」
「そうだ。歌姫を殺す。我らの目的は歌姫に頼らない政府を作り上げること。だが、歌姫を殺すことはしない。歌姫は音界にとって必要だからだ。だが、歌姫の言葉が全て通るような現状は許し難い状況だ」
「じゃあ、ガルムスはメリルを殺す、ではなく歌姫としての役職を殺すつもりだったんだ」
「それを利用されクロラッハ達に付け入る隙を見せてしまった。それこそが全ての失敗だっただろうな」
「失敗じゃない、と思う。僕達はそんなことを知らなかった。だから、聞いた今ではそう思うよ。メリルは女の子なんだから全てを背負わせてはいけないんだ」
そう、背負うのは僕だけでいい。全ての悠遠の力を継いで僕は全てを守るために戦えばいいのだから。
勝ち負けじゃない。僕は全ての戦いを止めなければならないのだから。
「利用されたからこそ我らは逆に利用することにした。進化という形をだ。クロラッハについては詳しく知っているな」
「極限への進化する人間。ちょっと待ってくれ」
そう言うと悠聖さんは目を瞑った。そして、すぐに目を開ける。
「『無限進化』。弱点に対して進化していくことで弱点を無くすかなり特殊なレアスキル。ランク的にはSランクだろうな。ただ、ここ数百年は一切出ていないみたいだから知らなかったのは無理もないか」
「ちょっと待て、悠聖。今、どこで調べた?」
確かにルーイの言うように今の悠聖さんはまるで調べたように言っていた。それはまるで何か調べることが出来る場所に移動したかのように。
「禁書目録図書館。神になった者が使える特殊な図書館。かなりの量の情報があるからな」
「禁書目録図書館?」
聞いたことがない。もしかしたらアル・アジフさんは知っているかもしれない。
「ちょっと待て悠人。つっこむべき所は禁書目録図書館になったではなく神になった者が使えるだろ。神?」
「ああ。終始神だ。一度死んじゃってな。はっはっはっ」
「笑い事じゃないだろ」
ルーイが頭を押さえて小さく呻いた。
確かに笑い事じゃないけど今深く聞くべきことでもない。
「ともかく、クロラッハの『無限進化』。弱点は一つだけだ」
「進化を別方向に持っていく、か?」
「そう。ガルムス達がエリュシオン側に進化を誘導したように、進化という形を間違えさせればいいんだ。弱点は無くなると言っても進化を間違えば弱点どころか人じゃなくなる。それを上手くついている最中だろな」
「ねえ、悠聖さん。もし、クロラッハが最後まで進化したらどうなるの?」
「そうだな。最強の存在、あらゆる進化の頂点に立つ存在になるか、化け物になるか。どっちにしても早期に決着をつけるしかないな。禁書目録図書館でも一番の対策は進化する前に殺すとなっているし」
「そうだよね」
クロラッハは殺さないといけない。僕が、僕達がどうにかしないといけない。どうにかしないといけないんだ。
悠遠ならまだ間に合う。クロラッハがどのようであれ、アレキサンダーがどのように進化したとしても悠遠なら勝てる。
でも、次に戦う時、さらに進化していたならどうなるだろうか。もしかしたら、勝てないかもしれない。
「話はわかった」
ルーイが立ち上がり、そして、僕を見る。
「悠人。すぐに麒麟工房に向かうぞ」
「えっと、どういうこと?」
僕は意味がわからず尋ね返す。だけど、悠聖さんやガルムスはわかっているようにルーイと同じように席を立っていた。
「現在、僕達の勢力は麒麟工房と首都に二分されている。この話は聞いたな」
「うん。ここに来る前にも説明を受けたから覚えているよ」
「首都にはレジスタンス連合と天界の軍隊がいる。その数はクロラッハの部隊を超えているだろう。真っ正面からぶつかり合えばあのレベルのアレキサンダーでは勝てない。だが、麒麟工房の数は少ない、が、戦力はある。進化をするとしたらどちらを先に攻撃する?」
「麒麟工房」
「出発の準備だ。今まではクロラッハ達にいいようにされていたがこれからは僕達のターンだ」
そう言いながらルーイは拳を握り締めた。
「反撃を開始するぞ」