第七十四話 初めての夜
周が都と一緒の家で過ごす、初めての夜、という意味です。サブタイトルが思いつかなかった。
作品をもう一つ新たに投稿しました。こちらは更新自体が極稀ですが、レヴァンティンなどオーバーテクノロジーが普通に開発された時代の話を書く予定です。
「新しい未来を求めて」とは違って一万文字を平均として載せていこうと思っているので気が向いたら読んでください。
「なあ」
オレは都に尋ねた。都は上目遣いでオレを見てくる。これって地味に凶悪だよな。
「何でしょうか?」
「いつまでこうしているんだ?」
オレは左腕に抱きついてきている都に向かって尋ねた。左腕の神経を最低限まで切っているからあまり気にはならないけど、ずっとこのままじゃないよな。
「今日は一緒にいてくれると言ってくれたので離しません」
「まあ、言ったからいいんだけど、左腕にずっと体をくっつけているだけでいいのか?」
オレがそう言うと、都は少しだけキョトンとした。そして、呆然としながら、
「周様は何も感じないのですか?」
「だから、何が?」
「天然にもほどがあります。私はこうしていたいのです」
少し拗ねたように都は言う。オレはわけもわからず首を傾げた。
だけど、都はオレの左腕を離さない。
「周様は、左腕に何かあるのですか?」
「どうしてそう思う?」
「私が触っても周様が反応しないこと。後は勘です」
都ならいいか。
オレは左腕に発動させていた『強制結合』を解いた。これで左腕は完全に動かせなくなる。
「オレは左腕に神経が通っていないんだ」
オレの言葉に都が息を呑んだ。
「どういうことですか?」
「『赤のクリスマス』その日にオレは利き腕の左腕に怪我をした。その怪我が神経を傷つけて、未だに再生されていない」
都がオレの左腕を触る。だけど、オレの左腕は何も感じない。
「あの時、オレは必死だった。生き残るために。大怪我をした茜と楓を救いたかったから。その最中に、瓦礫に腕を挟まれた」
よく左腕が切断されずに残ったというものだ。あの時はすでに『強制結合』を覚えており、瓦礫によって押し潰された部分を強制的に結合させたっけ。痛みで気を失いそうだったけど。
「今は何ともないけど、普通なら意識を失ってもおかしくない状況にいたんだ。助かった時にはすでに左腕は動かせなかった。左腕が動かないことは誰にも言っていない」
「でも、どうして左腕が動かせるのですか? 違和感は触るまで気づきませんでしたけど」
「レアスキルの『強制結合』。強制的に繋げることが出来るんだ。それが、腕であれ神経であれ。まあ、ちゃんとくっつくまで時間がかかるはじなんだけどな」
でも、未だに左腕は動かない。
もしもの時を考えて右腕でも出来るように練習したから、今では右腕も使える。両利きと言ってもいいくらいに。
都がオレの左腕を取る。だけど、オレの左腕は反応しない。
「周様は悲しくないのですか? 自分の左腕が動かないことが」
「悲しくはないな。だって、『強制結合』でいくらでも動かせるから。まあ、打ち消されたら無理だけど」
「私も周様も、傷を負っているのですね。本当に深い部分に」
「今更だろ。でも、大丈夫だ」
オレは『強制結合』を使って左腕に神経を戻し、都の手を握った
「都、学園都市に来ないか?」
「私は最初から行くつもりです。勉強をするために」
「そうじゃなくて、第76移動隊としてスカウトしたい。表の理由は、鬼の血を引く以上、何が起きるかわからない。それの研究。本当の理由は、お前も近くにいて欲しい」
オレの言葉に都の顔が真っ赤になる。これってある意味告白だよな。
「ま、守りたいだけだぞ。べ、別に告白ってわけじゃないから。ただ、由姫や亜紗と同じように、そばにいて欲しいだけで」
「ふふっ」
都はオレの言葉に微笑んだ。そして、微笑んだままオレに向かって体を寄せる。
「はい。お願いします」
「あう、恥ずかしい」
オレは思わず顔を逸らしてしまった。
自分で言ってなんだがとても恥ずかしい。それに、都は可愛いから恥ずかしいが数倍になってしまう。
対する都は意外そうな顔になっていた。
「周様の弱点ですね」
「なにがだよ」
「可愛いですよ」
「うう、失敗だ」
なんというか、都の前ではいつものオレが崩れてしまう気がする。いつもというより、本当のオレがさらけ出される感覚。でも、悪くはない。
ただ、凄まじく恥ずかしい。穴があったら入りたいのはこういうことか。
「でも、これが本来の周様なのですね」
「多分な」
もし、『赤のクリスマス』が起きなければこうなっていた可能性はある。ただ、普通の幸せを歩む道を進んでいたに違いない。
「でも、オレは後悔しない。この道はオレが選んだ道だ。だから、後悔はしない」
「羨ましいです。でも、私もそうなりたいですね」
「なれるさ。都ならな」
オレはそう言って海を浮かべた瞬間、突如としてチャイムが鳴り響いた。
オレと都は顔を見合わせて頷き合う。
誰が来たかはわからない。だから、都が出て、オレがレヴァンティンを構えておく。そういう風にアイコンタクトでなった。
都が玄関まで出てドアを開ける。
「えっ? 由姫さんに亜紗さん?」
都の言葉にオレはレヴァンティンを戻して顔を覗かせていた。
頭を下げていたのか、顔を上げた由姫はオレの顔を見て睨みつけてくる。オレ、何かした?
「兄さんがここに泊まると聞いたのでアル・アジフさん達の代わりに止まらせて欲しいと思いまして」
『アルさんは宿舎に泊まる。私達が代わりに来ただけ』
「あのな、ここは都の家だぞ。本人の許可なしで」
「いいですよ」
オレの言葉を遮って都が許可を出す。とりあえず、オレは大きく溜息をつくことにした。
都が許可する以上文句は言えないし、来た原因はある意味オレにもあるし何も言えない。
「その代わり、周様についていろいろ教えくださいね。私は、周様のことがもっと知りたいので」
『朝まで教える』
「勘弁してくれ」
オレは小さく溜息をついた。