第二百三十二話 頂上対決
振り抜いた『天剣』とアレキサンダーのエネルギーソードがぶつかり合い弾かれ合う。現在の悠遠の総エネルギー量から考えてアレキサンダーのものはかなり大出力ということか。
僕はすかさず『天剣』を戻してアレキサンダーに叩きつける。だが、『天剣』の刃はエネルギーソードによって受け止められていた。
『それが悠遠の力か。弱いな』
「まあ、全くの本気じゃないからね」
ブースターの出力を一段階上げながら『天剣』を振り抜く。アレキサンダーは大きく後ろに下がりエネルギーソードを叩きつけてきた。僕はすかさずEXスキルの『砕破』でエネルギーソードを砕く。
このEXスキルはどうやら悠遠の翼を複数同時展開することで発動出来るらしい。しかも、かなり強力でありアレキサンダーとの戦いでも信用して使っていられる。
『厄介だな、その力。それも悠遠の力か?』
「そうだね。原理は未だに理解していないけど立派なこの機体の力だ」
『その力、やはり手に入れたいな。この世界を回って様々なエネルギー源を探した。だが、この世にこの我を満足させるエネルギー源はどこにもなかった。アレキサンダーを満足に動かすことが出来るエネルギー源はな。だが、ようやく見つけた』
「悠遠の翼か」
確かに今の総エネルギー量が本来の240倍という狂った数値である以上、この力をエネルギー不足で悩んでいたアレキサンダーが欲しがるのは無理もないだろう。
それほどまでに悠遠の翼は桁が違う。魔科学の遺産とはすごい。
『そう。それさえあればこの世界を統一することが出来る。それと我がアレキサンダーがあればな』
「音界の統一か。その過程が何であれ、結局は僕達と同じ結末を作ろうとしているんだね」
『違うな。我は貴様らとは違う。我は我が世界を作り出す』
「何?」
レバーを握り締める。そして、ペダルに乗せる足に力を込めた。
『我が目指すのは平和だ。だが、邪魔者を全て消し去った上での平和だ』
「狂ってる」
僕はすかさず魔力を纏めてエネルギーソードとしてアレキサンダーに射出した。だが、エネルギーソードはアレキサンダーのエネルギーソードによって弾かれる。ここまでは想定通り。だから、僕はすかさず『創聖』の力を発動させた。
「フルバースト!」
現在のエネルギー総量の約半分を使用して作り上げる様々な銃器。アレキサンダーを取り囲むように展開する。
アレキサンダーはすかさず背中の砲を跳ね上げて肩に担いだ。
『させるか!?』
「この攻撃に耐えきってみろ!!」
全ての銃器からエネルギー弾が放たれる。それに迎え撃って来るのはアレキサンダーの砲。ベイオウルフすら圧倒したエネルギー砲。
だけど、負けない。この周部は確実に負けない。
「EX『砕破』発動!!」
迫りくる莫大なエネルギーの塊をEXスキルの『砕破』で分解してエネルギー弾をアレキサンダーに全て叩きこんだ。すかさず別のEXスキルを発動する。
「EX『聖剣』発動。この身に宿れ。創世の光!!」
周囲に漂う魔力粒子が『天剣』に集まる。そして、その刃は太く、そして、長く大きくなっていく。
「これで」
アレキサンダーはエネルギー弾の直撃によって起きた衝撃と爆発で未だに視界は戻っていない。だから、これで終わらせる。
「終わりだ!」
『甘いわ!』
「なっ」
EX『聖剣』を纏った『天剣』を振り抜こうとした瞬間、いつの間にか隣にアレキサンダーの姿があった。すかさず『悠遠』の力で距離を取りながら素直に『天剣』を振り下ろす。だが、その刃はエネルギーソード、ではなく、背中の砲から立ち上る巨大なエネルギーの刃によって受け止められていた。
アレキサンダーの装甲は至るところが剥げているが戦闘に支障はないように感じる。そうだとしたなら、アレキサンダーの装甲にもリアクティブアーマーがついているのか?
『そのような攻撃で我を倒せると思ったか』
「そんなに甘くはいかないと思っていたけど、想像以上だ」
『天剣』を構えながら僕は背中に嫌な汗が流れるのを感じた。
アレキサンダーの限界がわからない。最小限の消費で倒したいけど、そうは言ってられない相手だ。
『エリュシオン、と言ったか。あの機体の機動性はこのアレキサンダーにないものがあってな、我がアレキサンダーに流用させてもらった』
「なるほどね。それがあの行動なんだ。エネルギー弾の衝撃の中でその機動性をふんだんに使った加速であっという間に回り込んだ」
『そうだ。小型化するには苦労したが、どうやら一回だけのトリックとしても使用出来て我は嬉しいぞ』
元々アレキサンダーは攻撃力が高い機体だった。そこにリアクティブアーマーを装備したような防御力とエリュシオンの機動性を兼ね揃えた機体にしあがった。
開発速度が段違いだ。まるで、魔科学時代の技術を流用しているかのような進化。
「なら、速度戦と行こうよ。アレキサンダーが遅い機体だと思って遠慮していたけど、どうやらようやくつま先程度まで這い上がってきたようだね」
『面白い。我もこの機動性を試してみたかったのだ。さあ、行くぞ!』
僕とクロラッハが同時に悠遠とアレキサンダーを前に加速させる。『天剣』とエネルギーソードがぶつかり合いながら僕達は空高く舞い上がった。
確かにエリュシオンの機動性は驚異的だ。使っていてわかるけど安定性の高さには驚かされる。それはアレキサンダーにとって相性がいいブースターと言ってもいいだろう。だけど、
「空戦の性能ならアストラルシリーズの方が上だ!!」
アストラルシリーズと比べて安定性はエリュシオンの方が高い。だが、見方を変えればいい。
アストラルシリーズが空戦における安定性を持ったなら。又はパイロットの技量によって空戦における安定性を確保することが出来たなら。その時、優位性は大きく逆転する。
「うおおおぉぉぉっ!!」
左手に『天剣』、右手にエネルギーソードを作り上げながら僕はアレキサンダーに斬りかかった。アレキサンダーは持ち前の安定性をふんだんに生かして姿勢を戻しつつエネルギーソードを振り抜いてくる。エネルギーソードとエネルギーソードがぶつかり合い大きくお互いを弾き合った。
すかさずエネルギーソードをエネルギーライフルに変換しつつアレキサンダーに向けて放つ。アレキサンダーもエネルギーソードからエネルギーライフルに持ちかえて大きく下がった瞬間、悠遠を前に出した。
アレキサンダーの背中の砲が跳ね上がりこちらに照準をつける。それを僕は一気に下降することで回避した。やり方は簡単。ブースターを切ればいい。風や空気抵抗によって機体が大きく翻弄されるがそれはアレキサンダーが照準出来ないように少しだけブースターを付けてアレキサンダーの下に潜り込む。
すかさずブースターの駆動によって下を向いたアレキサンダーに向かって僕はエネルギー弾を放った。エネルギー弾はアレキサンダーのエネルギーライフルを弾き飛ばして続く射撃で貫く。そのまま『天剣』とエネルギーソードがぶつかり合う。
「やっぱり、機動性ならこっちが上みたいだね」
『ぐっく。だが、まだだ。まだ終わらないぞ!』
アレキサンダーが力任せに悠遠を吹き飛ばす。僕はそれをあえて受けて吹き飛ばされながら『天剣』の刃にEX『聖剣』を宿した。宙返りをして姿勢を戻しながらも『天剣』を振り抜く。
だが、案の定そこにアレキサンダーの姿はない。案の定すぎて思わず笑ってしまいそうになるが。
「そこ!」
『天剣』を振り抜きながら体勢を変えつつ回し蹴りを放つと横に回り込んでいたアレキサンダーのわき腹を蹴り飛ばした。そして、すかさず『天剣』を振り下ろす。
『クロラッハ様!』
だが、『天剣』の刃はクロノスによって受け止められていた。拮抗は一瞬。すぐさまクロノスを斬り裂くがその間にアレキサンダーは逃げている。
『お前達、何故』
クロラッハの言葉に周囲を見渡すといつの間にか百を超えるクロノスの姿があった。どうやら、アレキサンダーの援護に来たようだけど。
『クロラッハ様をお守りすることこそ我らが使命。共に戦いましょう』
『ふっ、いいだろう。我と共に戦うがいい』
一対百くらいの戦いか。そういう戦いってマテリアルライザーみたいな機体の方が向いているんだけどな。仕方ない。
『卑怯だとは思うな』
「思わないよ。だって」
クロノスが数機斬り刻まれ、数機エネルギー弾によって貫かれた。もちろん僕は何もしていない。
「僕だって一人じゃないから」
『そういうことだ』
『生身でフュリアスと戦うのはやっぱなれないから遠慮したいんだけどな』
ルーイが乗るエリュシオンと悠聖が同じ高度まで上がってくる。
相手が百機だとしても僕達ならそんな数は簡単に勝てる。そう信じているから。
『たった二機と一人で何が出来る? 我が力の前に』
「あなたの相手はこの僕だ!」
僕はそのままアレキサンダーに斬りかかった。だが、悠遠とアレキサンダーとの間を三機のクロノスが塞ぐ。
『ったく。邪魔すんなよ!』
悠聖の言葉が響くと同時に間を塞いできたクロノスが『破壊の花弁』によって両手両足が細切れに斬り裂かれた。そのままクロノスは道を開ける。
開いた道を強引に突き進みながら僕は『天剣』をアレキサンダーに向けて振り抜いた。しかし、いや、案の定『天剣』はエネルギーソードによって受け止められる。
『結局はお前との戦いか』
「今のあなたと戦えるのが僕だけだということ。そして、倒せるのも僕だけだということだ」
『この状況でまだそんなことが言えるのか!?』
周囲のクロノスは悠遠に向かってエネルギーライフルの引き金を引く。だが、放たれたエネルギー弾は『破壊の花弁』によって受け止められ、クロノスが『破壊の花弁』によって破壊される。
この中でも『破壊の花弁』の力は頼りになる。
「言えるよ。僕は仲間を信じている。だから、この中で戦えるんだ!」
お互いに弾き合って距離を取った瞬間、アレキサンダーが急上昇を行う。だけど、アレキサンダーより先にこっちが急上昇を行っていた。
驚くのは一緒だけ。とっさにペダルを踏み換えアレキサンダーに向かって斬りかかる。アレキサンダーはさらに急上昇して避けるが僕は背中を地上に向けながら翼から光弾を放った。
光弾がアレキサンダーをまもろうとしたクロノスを貫きアレキサンダーに迫る。だが、アレキサンダーが展開したエネルギーシールドが光弾を弾く。だが、エネルギーシールドを展開したアレキサンダーは完全に動きが止まる。
「この瞬間を待っていたんだ!!」
右手で握った『天剣』の先をアレキサンダーに向け一気に突撃する。完全に動きが止まったアレキサンダーだけど反応するだろう。だから、僕は左手からアンカーをアレキサンダーに向かって放った。
動きだそうとしたアレキサンダーをアンカーが掴む。それにより、動きが止まった。
「これで、終わりだ!」
そのまま加速して『天剣』の刃の先をアレキサンダーへと突き刺した。
破片が飛び散り確実にアレキサンダーを貫いている。これで、終わった。
『悠人!』
そう思い力を抜いた瞬間、ルーイの声が響き渡ったと同時にルーイのエリュシオンが体当たりをしかけてきた。アレキサンダーから『天剣』が抜け、代わりに視界をエリュシオンが覆う。その時、凄まじい衝撃と共にエリュシオンが激突してきた。
思わぬことに一瞬だけ姿勢を崩しエリュシオンと共に落下するがすぐさま姿勢を戻す。だが、エリュシオンは落下する。
「ルーイ?」
アレキサンダーに注意を払いながらエリュシオンを見ると、そこにはコクピットを深々と抉られたエリュシオンの姿があった。
「そん、な」
『ふん。後少しだったが』
僕はレバーを握り締めてアレキサンダーを睨みつける。そこには胴体に大穴が空き火花を散らすアレキサンダーの姿があった。だが、ブースターは絶え間なくエネルギーを吐き続け、その手にはエネルギーソードが握られている。
あの状態で生き残った? ありえない。そんなこと、おかしい。
アレキサンダーの周囲に残ったクロノスが集まってくる。その数30ほど。アレキサンダーの相手をしながらこの数は多すぎる。
『だが、もう終わりだ。一機失ったお前達はもう我には』
『クロラッハッ!!』
だが、その状況を覆すかのように空からエネルギー弾がクロラッハ達に向かって降り注いだ。クロノスの何機かが撃ち落とされる。
空を見上げたそこには翼を広げるアストラルソティスの姿。
『あなただけは、あなただけは許さない!!』
『アストラルソティスだと? 援軍か!?』
『おっと、一機だけじゃないぜ』
アストラルソティスの背後に現れる一機のガルシオンと二機のエリュシオン。新たな四機の加勢にアレキサンダーが大きく後ろに下がる。
『ちっ。撤退だ。各自撤退せよ』
その言葉と共にアレキサンダーが背中を向けて動き出す。そんなアレキサンダーを追いかけるようにアストラルソティスがクロノスの群れに襲いかかった。
『逃げるな!! クロラッハ!! あなただけは、私が!』
「落ちついて、リマ!?」
リマが乗るアストラルソティスの背後から斬りかかろうとしたクロノスを『天剣』で両断しながら僕はアストラルソティスの体を止めた。ガルシオンとエリュシオンの計三機が殿軍として残ったクロノスをあっという間に撃破する。
『離せ、真柴悠人!! 私はクロラッハを!!』
「アストラルソティスじゃアレキサンダーには勝てない。無駄死にするだけだ!」
『そうだとしても私は、ルーイの仇を取らないといけないの!!』
「僕だってそうだ。でも、今は」
『あの、白熱しているところすみませんが、お二人さん』
苦笑した悠聖さんが僕達の間に入ってくる。それに僕達は言葉を止めた。
『下を見てみなはれ』
その言葉に僕達は同時に下を見るとそこには、地面に落下したエリュシオンの上で大きく伸びをする無傷のルーイの姿があった。