第二百三十一話 希望の翼
若干急展開かも。
本音を言ってちょっと焦ってます。
エリュシオンを着地させる。満身創痍のエリュシオンは歩行するどころか着地を上手く出来ず背中から地面に着地する。
コクピットを開き、コクピットから出たそこには精神感応装置の首輪を持ったメリルがそこにいた。
「メリル。どうして」
「悠人。あなたはまだ戦いますか?」
その言葉に僕は頷いた。
「戦うよ。戦いが終わるまで」
「力を持って力を制す。それが完全な矛盾だと気づいていながらでもですか?」
「そうだよ。どう足掻いたところで力が無ければ世界は変えられない。だから、世界を変えるために僕達は力を手に入れる。だから、僕は」
「行き着く先が破滅だと知っていても?」
「平和になれば僕は邪魔だとわかっている。でも、そんなことを恐れていて世界を変えられるわけがない」
どんな力があっても平和な世の中では邪魔になる。強ければ強いほど身分がそれ相応で無ければ邪魔者だ。
そんなことをわかりきっているし覚悟出来ている。だからこそ、僕は言う。
「今はその力が必要とされる。みんなを救うために僕は」
「悠遠が必要ですか?」
「僕の剣が必要なんだ」
ガルムスが言っていた剣。それは悠遠のことだ。しかも、完全体となった悠遠のこと。
「例えメリルに反対されても僕は乗るよ。今の鈴を救えるのは悠遠しかないから。だから僕は」
「死ぬことが怖くないのですか? 悠人は一度死んだのですよ?」
「怖いよ。怖いから戦う。戦って守れないことや戦わずに死ぬことの方がもっと怖いから。それに、守らないといけないから。普通の女の子であるメリルを」
「何故、それを」
メリルが驚いたように目を見開く。
メリルは言っていないし誰にも言われていない。だけど、僕の傷口は塞がっていない。これが意味するのは一つだけ。
「エリュシオンじゃダメなんだ。みんなを、メリルを守るためには悠遠じゃなければ」
「ですが、エリュシオンでも悠人は十分に」
「ディザスターを、アレキサンダーと対抗するにはエリュシオンだと役不足だよ。悠遠の力じゃなければ」
「悠人はもう十分に戦っていました。ですから、もう」
「ううん。まだだよ」
僕は鈴の手から馴染み深い精神感応装置でもある首輪を掴んだ。一番古いタイプだ。確か、メリルに古いものを研究用に渡したっけ。確か、狭間戦役から一年後ぐらいに。
メリルはそれを離さない。まるで僕に渡さないとでも言うかのように。
「メリル。メリルの気持ちはわかるよ」
「絶対にわかりません! 悠人は私を一人の女の子として見てくれない。私は悠人にとっては『歌姫』としか見られていない。そんな悠人に私の気持ちなんて」
「わかるよ。僕は痛いくらいにわかる。ルナを失ったから」
メリルの手からそっと首輪が離れる。僕はそれを身につけて悠遠に向かって歩き出した。
コクピット部分が破壊された悠遠。後部座席が辛うじて生き残っているため操作に支障はない。画面は補助画面を使えば十分にカバー出来るし。
「メリル。僕は君の願いを叶える。それは僕達が目指す未来と同じだから。だからもう、戦わなくていいんだよ」
悠遠のコクピットに乗り込みながら僕は小さく息を吐いた。完全に破壊された前部座席を乗り越え後部座席に乗る。
「悠遠。起動」
悠遠のコクピットに光が戻る。それと共に画面に言葉が走った。
第一翼『悠遠』OK
第二翼『栄光』OK
第三翼『天聖』OK
第四翼『天剣』OK
第五翼『創聖』OK
第六翼『豊翼』OK
第七翼『守護』OK
EX『連結』OK
EX『砕破』OK
EX『聖剣』OK
EX『拡張』OK
悠遠の翼を手に入れた悠遠の完全体。EXがどのような効果を発揮するかは分からないけれど、今回はその力に頼るしかない。
「行こう。悠遠。僕達の未来を作るために」
アーマードエリュシオンの加速にイグジストアストラルが食らいつく。そのままクラスターエッジハルバートをアーマードエリュシオンに叩きつける。だが、それをアーマードエリュシオンは腕を交差することで受け止めた。
「舐めるな、小娘!!」
ガルムスが叫びながらもクラスターエッジハルバートを弾き飛ばす。そして、加速を最大まで使った体当たりがイグジストアストラルを吹き飛ばしていた。そのままガルムスが大きく距離を取ると同時に聖砲ラグランジェが周囲を焼き尽くす。
すでに敵方のクロノスは大きく数を減らしている。これはもちろん悠人やルーイが撃墜しているからなのだがクロノスの多くはイグジストアストラルを見て撤退しているのだ。残っているのは殿軍ということなのだろう。
もちろん、イグジストアストラルの射撃に巻き込まれた数も多くいるが。
「やはり、破壊できないか」
アーマードエリュシオンの最大を持ってしてもイグジストアストラルをどうにかすることが難しい。もちろん、効果はあるだろう。だけど、ほとんど意味が無いに等しいのだ。
今の鈴は一種の興奮状態であり痛みを感じていないだろうから。
「しかし、こちらも新型を使っている以上、無様な戦いは出来ないな!」
アーマードエリュシオンがエネルギーソードを抜き放ちイグジストアストラルに斬りかかる。対するイグジストアストラルはアーマードエリュシオンに向けて飛翔した瞬間、その背中の砲からエネルギーの刃が現れた。
ガルムスは咄嗟にアーマードエリュシオンのブースターを逆噴射させイグジストアストラルから逃げようとする。だが、悠人の強化エリュシオンはリアクティブアーマーを外した高速移動形態であったのに対しこちらは防御力も上げているため速度はイグジストアストラルの方が上。
イグジストアストラルが回転すると同時にアーマードエリュシオンにエネルギーの刃が襲いかかる。だがそれを塞いだのは水晶の花弁だった。それは『破壊の花弁』。『破壊の花弁』がイグジストアストラルの刃を全て砕いたのだ。
もちろん、普通ならそんなことは出来ないが、相手もエネルギーの刃。より強いエネルギーをぶつければ砕けるのは理論上明白だった。
『無事か!?』
悠聖の声と共にイグジストアストラルを『破壊の花弁』が吹き飛ばす。だが、イグジストアストラルはすぐに姿勢を戻して聖砲ラグランジェをアーマードエリュシオンに向ける。それから離れたエネルギーの塊を回避してガルムスはエネルギーライフルを構えた。
「無事だ。だが、いつまで保つかどうか」
『悠人が戻って来るまでの辛抱なんだろ? だったら、もう少しだろうが!』
どうやら鈴は近接による攻撃を諦めたのか射撃に移ったようだった。しかも、無差別に。
「このままでは」
『『破壊の花弁』を全部叩きつけるしかないか。ちっ、本当に厄介だなイグジストアストラルは!』
すかさず『破壊の花弁』をイグジストアストラルに叩きつける悠聖。だが、今度はびくともしなかった。代わりに悠聖がいる方向を見るイグジストアストラル。聖砲ラグランジェは悠聖を向いている。
「避けろ!」
『『終始の星片』!!』
悠聖の叫びと共に聖砲ラグランジェから放たれたエネルギーの塊が悠聖を呑み込んだ。そして、エネルギーが通り過ぎたそこには、無傷の悠聖の姿があった。ただし、その体は水晶によって包みこまれている。
『あっぶね。反応が少しでも遅れていたらけし飛んでいたな』
「よく生き残っているな」
『咄嗟に使ったオレもびっくりだ。しかも、無傷だし』
悠聖の体から水晶が剥がれる。その様子にはさすがの鈴も注目せざるをえないのかイグジストアストラルは悠聖を見たまま動かない。
今の内にとガルムスが一歩動こうとした瞬間、イグジストアストラルが動いた。背中の砲からエネルギーの刃を伸ばす。それこそ、周囲を薙ぎ払うように桁違いに長く。そして、そのまま回転したのだ。
ガルムスはとっさにエネルギーソードを盾にするがそれで守りきれるわけがなくアーマードエリュシオンの大部分を斬り裂かれる。機体が残っていることを幸運と思うべきか。
『ガルムス!』
「大丈夫だ、と言いたいが戦闘どころか動くことすら出来ないようだな」
小さくため息をつきながらガルムスはイグジストアストラルを見る。そこにはゆっくりとこっちに歩を進めるイグジストアストラルの姿。『破壊の花弁』がイグジストアストラルの体勢を大きく動かしているが悠然と踏み出している。
その背についた聖砲ラグランジェがガルムスに向けてエネルギーを溜める。このままではガルムスは死ぬだろう。だが、ガルムスは苦笑していた。何故なら、
「こういう時に現れるものこそ真のヒーローだろう。そうではないか? 真柴悠人」
そして、聖砲ラグランジェからエネルギー弾が放たれた瞬間、両者の間に一機の機体が現れた。
眩いまでの七枚の翼を持ち、その体を優しい空の色の光で包み、悠然と割り込む一機のフュリアス。
そして、聖砲ラグランジェから放たれたエネルギーがその機体の手のひらによって受け止められた。
『EX『砕破』。分子の連結を解除しあらゆる全てを粒子に還元する能力』
悠人の声と共にエネルギーが全て粒子に還元される。
その姿にガルムスは笑みを深めた。
「来たか。希望の翼を持つ少年よ」
『鈴、救いに来たよ。この完全体の悠遠と共に』
目の前にいるイグジストアストラル。聖砲ラグランジェを装備したその姿はまさに凶悪という言葉に他はないだろう。
この悠遠ですらこの状態のイグジストアストラルとは真正面から戦うことは止めた方がいいかもしれない。それほどの相手。でも、僕は戦う。
「それでも、僕は鈴を救うんだ」
鈴は迷っている。助けないといけない。僕は鈴を助けないといけないんだ。それが僕のやるべきことで、僕が守れなかったルナの二の舞にしないため。そして、大好きな人の一人だから。
『いいタイミングで来るんだな、悠人』
「お待たせしました。悠聖さん。また、鈴と通信をお願いします」
『わかった』
その言葉と共にイグジストアストラルとチャンネルが開いたのがわかった。だから、僕は叫ぶ。
「目を覚まして、鈴! 僕はここにいるから、この悠遠と共にここにいるから!!」
『ゆう、と?』
おそらくコクピットの隙間から僕の姿を確認したのだろう。それほどまでにこの悠遠のコクピットは酷い。常に『守護』力で守らなければならないほど脆い。
『悠人が、生きてる?』
「そうだよ。僕はここにいる。ここで生きているんだ。だから、戻ろう。一緒に」
『生きてた。悠人が生きてた。でも、ダメだよ』
イグジストアストラルが動いたと思った瞬間、聖砲ラグランジェが煌めいた。すかさずEXスキル『砕破』の力でエネルギー弾をエネルギー粒子へと戻す。
「鈴!」
『止められないの。私が、私を。殺さないと、全部を殺さないと止まらない。だから、悠人』
私を殺して。
その言葉を頭で理解すると同時に僕はレバーを握り締めた。イグジストアストラルは再度僕に向かって聖砲ラグランジェを向けている。今までより遥かに長いチャージ。それはまさに聖砲ラグランジェが最大出力で放たれることを意味していた。
「EX『拡張』とEX『砕破』同時展開」
だから、僕は最大の手札を使ってそれに挑む。
『逃げて。逃げてよ、悠人。もう、私は』
「嫌だ。絶対に嫌だ。僕は決めたんだ。守るって。だから、来い。全力のイグジストアストラルを僕は圧倒させてもらう!!」
『駄目。止められない。悠人、逃げて!!』
そして、聖砲ラグランジェが光を放った瞬間、僕は前に進んでいた。
理論上は可能なはずだ。EXスキルである『拡張』は効果を拡大する能力がある。それによってこの攻撃は受け止められる。
『逃げるんだ真柴悠人!! それは、ディザスターを四機同時に消し去った攻撃だ!!』
ガルムスの声が響く。それと同時にイグジストアストラル全ての砲が開いた。
圧倒的なまでの凶悪なエネルギーを解き放とうとするイグジストアストラルに僕は悠遠を前に出す。
ディザスターを四機消し去った? そんな攻撃なんて関係ない。僕は悠遠を信じる。だから、
「全ての力を僕に貸せ!! 悠遠!!」
そして、聖砲ラグランジェが光を放った瞬間、視界の全てを光が埋め尽くした。眩いまでの死の光。だけど、それを僕は真正面から受け止める。
「くっ、あっ」
前に進んでいるはずなのに機体がゆっくりと後ろに下がる。この中でまだ生き残っていることが恐ろしいが、悠遠の力なら僕は納得できる。
「進むんだ」
莫大というには生易しい量のエネルギーを粒子に還元しながら僕は言う。還元した魔力粒子によって体を吹き飛ばされそうになりながら、その魔力粒子を吸収しながら僕は言う。
「前に、前に進むんだ。僕は救うんだ。鈴を」
思いの限り叫ぶ。全ての魔力を集め、悠遠の翼を最大まで展開して莫大な光翼をその身に纏いながら。
「僕の大切な鈴を、救うんだ!!」
光が弾けた。そう思った瞬間、目の前にイグジストアストラルの姿があった。だから、僕はイグジストアストラルを抱きしめる。
「捕まえたよ、鈴」
『ゆ、うと。どうして』
「言ったよね。大切だって。だから、守るんだよ」
コクピットを開ける。それと同時にイグジストアストラルのコクピットが開いた。
そこにいるのは頬が痩せこけ涙と鼻水で顔がべちゃべちゃになっている鈴の姿。だから、僕は前に踏み出す。
「鈴」
「悠人」
僕達はコクピットから立ち上がる。そして、同時にコクピットから飛び出した。そのまま空中で抱き合い漂う。
背中の翼を無限に吸収したであろう魔力の力を使って強引に空を飛びながら僕は鈴を抱きしめる。鈴は僕の胸に顔をうずめ泣いている。
「捕まえたよ、鈴」
「私は、悠人に、酷いことを」
「ううん。僕は大丈夫だよ。もう離れない。もう、負けないから」
「うん。うん! 大好きだよ、悠人」
そして、僕達はどちらからともなくキスをした。唇と唇はすぐに離れる。僕達は恥ずかしそうに笑い合った。
「僕も好きだけど、浮気は許してね」
「クスッ。言うと思った。私はみんなで幸せになりたかった。その夢、叶えてくれる?」
「うん。叶えるよ。だから」
その時、嫌な予感が体を貫いた。すかさず鈴をイグジストアストラルのコクピットに押し込めて悠遠の中に入る。
間に合うか。いや、間に合わせる。
「『守護』!!」
すかさず悠遠とイグジストアストラルを守るように『守護』の力を展開した瞬間、莫大な量のエネルギーが降り注いだ。本来のエネルギー量では守りきれるか微妙な莫大なエネルギーの塊。
だけど、守りきることが出来る。何故なら、今の悠遠は何故か総エネルギー量が25000%なのだから。
さすがに最初は見間違えたかと思ったけど、悠遠の中に戻る際に見えた天へと昇る光の翼を見たらさすがに信じるしかないだろう。
『悠人』
心配そうな鈴の声を尻目に僕は大空に飛翔する。
「大丈夫だよ、鈴。この悠遠は負けない。だから、姿を現したらどうかな!? クロラッハ!!」
『わかっていたのか』
その言葉と共に空中にアレキサンダーが現れる。今のは光学迷彩だね。この濃密な魔力粒子空間の中でよく維持出来たものだ。
「あの攻撃が出来る機体は限られている。いや、この二機を除けば二機しかいない。一機はベイオウルフ。もう一機はアレキサンダーだけ」
僕は背中から『天剣』を抜き放つ。
「決着をつけよう、クロラッハ」
『小僧が。この進化の極限であるアレキサンダーに勝とうとでもいうのか? 身の程を知るがいい』
「どうかな? だったら、この悠遠に見せてみろ。最強のフュリアスである悠遠に!」