第二百二十九話 理想
左右のエネルギーライフルの引き金を引きながら僕は大きく後ろに下がる。安定性の高さを利用して迫ってくるクロノスに対して逃げながら一撃で撃ち落としていく。
悠聖がいてくれたおかげで助かった。早々に離脱したガルムスの実力は信用に値するが今の悠聖のサポート力はそれ以上だ。
『敵の残りは約二百。エリュシオンの残存エネルギーは?』
頭の中に響く声、悠聖の説明だと『絆と希望の欠片』と呼ばれる力を使った通信らしい。
「残り50%だ。最新型だからかエネルギー消費は緩やかだがかなり危険だ」
『逆噴射を使いまくっているみたいだしな。こちらの『破壊の花弁』のやり方に気づいたのかオレへの攻撃が慎重になってる』
「いっそのこと全力で攻撃してくれればありがたいのだがな」
『ありがた迷惑だ。だけど、このままじゃジリ貧だ。一度撤退するか?』
悠聖が投げつけたチャクラムがクロノスの腕を斬り飛ばす。続いて『破壊の花弁』が動きの止まったクロノスの動力部分を破壊した。
『破壊の花弁』はある意味フュリアスの天敵の一つだろう。魔鉄の弱い魔力を宿す武器でありながらその数は膨大。
よほどのパイロットでなければ『破壊の花弁』は受け止めることが出来ない。いや、むしろ、シールドごと叩き斬っているところを見ると受け止めることは不可能だと思えてしまう。
第76移動隊というのは不思議だ。白川七葉のような全身フュリアスの天敵であるフュリアス『イージスカスタム』を保有しながら白川悠聖のような人物がいるだなんて。
「本当に、敵にだけは回したくない部隊だな」
そう苦笑しながら僕はエリュシオンのブースターを最大限まで稼働させる。
機動性の高さではアストラルシリーズに分がある。だが、エリュシオンには安定性がある。安定性があるということはアストラルシリーズでは出来なかった無茶苦茶な機動を行ってもこの機体は答えてくれる。
「乱戦の中でアストラルルーラに次ぐ信頼性の高い機体だな!」
左右に激しくエリュシオンを動かしながらエネルギーライフルの引き金を引く。
戦闘していればわかるがエリュシオンは乱戦の中で真価を発揮する機体だ。低空の安定性も際立つが何よりエリュシオンからのサポートのほとんどが乱戦での補正を高くするように設定されている。
特に自動照準は激しく動き回っている今でも的確に合わせてくれている。
「こうもサポートしてくれているなら戦いが簡単になってしまうな。アストラルルーラが使えない今、このエリュシオンをメインに使っていくしかないか」
『一応、『絆と希望の欠片』で通信しているか考えも言葉も丸聞こえなんだよな。ところで、ジャミング装置は発見出来たか?』
「いや、まだだ」
戦闘に集中しすぎて忘れていたとは言えないな。
『『絆と希望の欠片』は心の声も丸聞こえだからな。『絆と希望の欠片』使っているオレも探知出来てないから強くは言えないけど』
「ジャミング装置さえ破壊すればリマとの通信が取れるが」
『そうだな。これだけ探して地上にはないのか? なら、電子戦特化のフュリアスがいるということか』
『見渡す限りには見つからないが』
一体、どこにそんな装置があるのだろうか。そう思った瞬間、一機のエリュシオンが基地から飛び出してきた。背中のブースターが増設されておりさらには肩に小型エネルギー砲がついている。両手にはエネルギーライフル。
ブースターを最大まで展開しているからかその速度はエクスカリバーを彷彿とさせる速度だった。
続いて三機のエリュシオンが飛び出してくるがすぐさまクロノスに撃ち落とされる。
ジャミング装置を見つけるより基地を狙うクロノスを撃破するのが先決だな。
「悠聖。このまま敵中央に突撃し撹乱する。悠聖は基地を狙うクロノスの撃破を頼む」
『なるほどね。了解。どこまで倒せるかわからないけど全力で』
『双方武器を収め引け! これ以上戦闘するなら僕が相手になる!!』
戦場に響き渡る声。特定周波以外の通信を阻害するジャミングの中、先ほど飛び出した強化エリュシオンが僕達の間まで飛翔してきていた。
あまりのことに誰もが動きを止めて強化エリュシオンを見ている。何より、この声は聞き覚えがある声だった。
『『歌姫の騎士』である真柴悠人だ!! これ以上の戦闘は許さない! 双方、引け!』
声を張り上げて戦場の全てに宣言する。
敵の数は約三百。まともに戦えば勝負にすらならない可能性は高い。それに、今の機体はダークエルフでもエクスカリバーでも悠遠でもない。
さらにはリアクティブアーマーを全て外しているため防御力は無いと言っていいだろう。
「エネルギー消費を考えると無駄弾は一発も放てない。それに、敵の動きを考えても単純に一門一体撃破なんて出来ない。それでも、僕はやるんだ」
そう決めたから。
僕の行動はただ戦場を混乱させるだけかもしれない。たった一機で出来ることなんて限られているだろう。それでも、僕は戦う。
「力を力でねじ伏せる。正しいとか正しくないとかじゃない。僕は僕が信じる正義のために戦う」
この混乱する戦場の中で僕は小さく息を吸った。そして、急降下する。コクピットを狙って放たれたエネルギー弾を回避しながら僕はすかさずエネルギーライフルの引き金を引いた。
それが戦闘再開の合図。クロノスが一斉にこのエリュシオンに向かってエネルギー弾を放ってくる。その数は膨大。だけど、少ない。
背中のブースターの一部を前に向けて逆噴射による後退を行う。
エリュシオンが持つ前後への急加速。エネルギー消費はかなり大きいがブースターを強化されたこのエリュシオンの機動力はエクスカリバーに劣るとも勝らない。
しかも、急加速による後退をしながらも安定しており射撃の照準をつけるのは容易い。
レバーについたボタンを押しながらすかさず方向転換しつつ前に加速する。
「装備は両手のエネルギーライフルと形の小型エネルギー砲。機動力はエクスカリバー並みだけど安定性は悠遠クラスか。エネルギー消費が激しいところ以外は最強クラスの性能だね」
前に嫌な予感を感じた瞬間に前へ逆噴射を行い後退しながら上へと駆け上がる。
「一番の問題点は操作が複雑なところかな。強化装備をしているからかボタン操作が複雑。強化装備無くてもルーイみたいなエース級じゃないと性能を最大限まで引き出せないだろうな」
そう呟きながらも僕はレバーを操作する。
エリュシオンの操作は今までの出力レバー兼操作レバーと操作レバーの二つのレバーがあるというわけじゃない。出力に関してはエリュシオン自体が自動で制御し、両手はどちらも操作レバーとなっている。
レバーを親指の位置にあるボタンを押しながら前に押すことで逆噴射を行い、後ろに引くこと強制噴射を行い急加速する。
そのレバーにもそれぞれに対応したボタンがあり、機体の動きはエリュシオン本体がカバーするが強化装備についてはそのボタンで制御しなければならない。
今までは精神感応でサポート出来たけどこれは無理だ。それでも、僕はやらなければならない。
肩の小型エネルギー砲を次々とクロノスに当てながら僕は周囲を見渡す。ジャミングがかかっている以上それをどうにかしないといけない。この装備のエリュシオンは電子戦装備も搭載しているようで相手の照準を少しでも阻害させるように動かないと。
『悠人、聞こえるか!?』
その瞬間、悠聖さんの声が響いたと思ったと同時に周囲にいたクロノスが一斉に体を切断されて落下する。僕は両手のエネルギーライフルの引き金を引いて無傷のクロノスを撃墜しながら周囲にいるであろう悠聖さんの姿を確認しようとする。だけど、見つからない。
見つからないのに時折直撃コースのエネルギー弾が回避もしていないのに水晶の欠片に阻まれて周囲に散る。
「悠聖さん、どこに」
『上だ上』
その言葉に上を見上げると確かにそこには悠聖さんの姿があった。悠聖さんは背中から水晶の翼と魔力の翼を生やし、その周囲に水晶の輝きが舞っている。それは今までの悠聖さんではなく、神々しいまでの力を纏っていた。
『面白いことをしようとしているんだな』
「僕は冗談であんなことを言っているんじゃ」
『誰かを犠牲にして世界を救えたとしても、それは世界を救えたことにはならない。世界を救うということは、自分も仲間も知り合いも誰もかも救うことだ』
その言葉には聞き覚えがあった。周さんの言葉だ。敵味方関係なく殺さず捕まえ救おうとする周さんが持つ理想。
『オレはな周の理想に心底惚れ込んでいるんだ。あんなことを言えるのは馬鹿か子供かぐらいだけど、ああいつは真っすぐなんだ。真っすぐ、夢を追い求めている。その未知の途中にお前の目指す未来があるんだろ?』
「うん」
悠聖さんに守られながら僕は頷いた。
全てと戦い全てを救い全てを平和にする。それは子供が持つ夢であり、馬鹿が考える妄想であり、現実では最も不可能なことでありながら周さんは言い続けた。
現実を知らない子供だと言われてもその夢こそが大事だと信じ続けた。
『だったら、オレは協力する。周とお前の理想にな!』
「ありがとう、悠聖さん。だから、共に戦おう。この戦いを終わらせるために」
『その話、僕も参加させてもらおうか』
クロノスを撃破しながらエリュシオンが近づいてくる。
『無事でよかった。悠人が無事ということはメリルも無事なのだな』
「そうだよ、ルーイ。心配かけたようだね」
『あれから何日経っていると思っている。それにしても、お前は愚直なまでに真っすぐなのだな。その真っすぐなところ、尊敬できる』
「ルーイも一緒に戦ってくれるの?」
『それがメリルの理想だからな。僕はメリルの幼馴染として、悠人の親友として共に戦うと誓おう』
その言葉に僕は頷いた。目に少しだけ涙が溜まるけど我慢する。
ルーイと悠聖さんの二人がいれば僕は戦える。戦えるんだ。
「行こう。戦いを止めるために僕達は力を行使する。それは正義じゃないかもしれない。だけど、僕はただ」
出力を最大限まで上げながら僕はレバーを握り締めた。
「平和な世界を実現したいだけなんだ!!」
「あなたの入れ知恵か?」
隣にやってきた人物を見ながらガルムスは笑みを浮かべた。その笑みに隣にやってきたメリルが少しだけ微笑む。
「いえ。私はただ見守っているだけしか出来ませんでした。今はもうただの女の子ですから」
「ただの女の子、か」
作戦指揮室のスクリーンに映る二機と一人の戦い。勇猛果敢という表現では表すことの出来ないくらいの戦果にガルムスは苦笑する。その苦笑にメリルは不思議そうに笑った。
「若いとはいいものだな」
「現実を見ずに理想を語るのは若者の特権です。私も若者ですが」
「だが、このままではじり貧だ。エリュシオンがたった二機ではあの数は相手にしきれないだろう」
「そうですね。悠人もルーイも実力者ではありますが、数の差が」
「そうではない。数の差などあいつらの前では無意味だ」
たった三機でありながら百を超えるクロノス、しかも、倒しているはずなのに未だに百を超える群れを相手にしながら未だに撃墜されていない様子を見るとガルムスのいうことは正しいのかもしれない。
空中での変則移動を利用した機動力で戦う二機のエリュシオンとそれをカバーしながら的確に敵を撃破する一人の少年。三人の動きはまさに一心同体であり完全に囲まれていたとしてもどうにか出来るであろう力があるように見える。
「エネルギー残量だ。特に、悠人の乗る強化エリュシオンはエネルギー消費が大きい。このままでが全滅させるより早くエネルギー切れになるだろう」
「では、下がらせて」
「第三格納庫へ向かえ。そこに剣がある」
「剣ですか?」
その言葉にメリルが疑問を浮かべた瞬間、何かに気づいたように振り向いた。
振り向いた先には格納庫の様子をモニターした映像。そこには『天聖』アストラルソティス、いや、悠遠の翼である『天聖』を抜かれたアストラルソティスの姿があった。
「アーマードエリュシオンでカバーをしていれば時間は稼げるだろう。お前は歌姫の力を失っても本当にただの女の子なのか?」
「それは」
「戦え。それが真柴悠人の隣にい続ける条件だ」
そう父親のような笑みを浮かべたガルムスにメリルが頷きを返した瞬間、アラームが鳴り響いた。
「ガルムスさん! 高エネルギー反応を探知。ここに一機向かってきています!!」
オペレーターの一人が悲鳴のように叫んだ。そのエネルギー反応にメリルとガルムスが画面を凝視する。
「映像、出します!」
そして、スクリーンに現れたのは、
「イグジストアストラル?」
メリルの言葉に誰もが安心したように安堵の息を吐いた。イグジストアストラルはメリルの仲間だと言う認識があるのだろう。だが、ガルムスは一人険しい表情でそれを見ている。そして、口を開いた。
「いや、違うな」
その瞬間、イグジストアストラルの背中の砲が煌めいたと思った瞬間、基地が大きく揺れた。
別のスクリーンに映し出されている悠人達が大きく回避するのと同時に悠人達がいた空間をエネルギー弾が駆け抜ける。
「鈴、どうして」
「アーマードエリュシオンの準備を急がせろ! 新たな敵が来たぞ!!」
ガルムスの言葉をメリルは放心したように聞き流しながら呆然とするのだった。