第二百二十七話 エリュシオン
スランプです。不調です。何とか書き上げました。
この話をネット上で書くより次の話が先に完成するくらい苦労していました。
モチベがあまり上がってないですね。
早く悠遠を出したいのに。
『破壊の花弁』が煌めいた瞬間、こちらに気づいていなかった八機のクロノスが一瞬にして機体を切断されて落下する。
それによってようやく敵はこちらの存在に気づいた。
「このままど真ん中を突っ切るぞ!」
『言われなくてもわかってる!!』
エリュシオンの肩に乗るオレはすかさず『絆と希望の欠片』を周囲にバラまいた。前みたいな半径500mじゃない。密度を下げた半径2km四方に『絆と希望の欠片』をバラまく。
そもそも、フュリアスは人間よりも遥かに大きい。『絆と希望の欠片』での探知ならば『絆と希望の欠片』のバラまく範囲を広げたところで簡単に気づくことが出来る。
まあ、本当にそうなのかは完全にぶっつけ本番ではあるが、オレは『絆と希望の欠片』の能力を信じている。
こちらを振り向くクロノスに対して『破壊の花弁』を放つ。振り向いたクロノスがエネルギーライフルを向けるより早く『破壊の花弁』がクロノスの胴体を斬り裂いた。
敵の数は膨大。だが、『破壊の花弁』の数だけなら同じようにたくさんある。このまま『破壊の花弁』を叩き込んでいけばいい。
だが、その考えは甘くない。飛来したエネルギー弾をルーイのエリュシオンは簡単に回避する。
『相手のジャミングが聞いている最中に飛び込んだが、やはり甘くはないか』
「見つからずにクロノスの群れに突撃出来たんだ。相手のジャミングに関してはありがたいだろ?」
そう言いながらもオレは『絆と希望の欠片』で周囲を感知しながら的確に『破壊の花弁』を放っていく。
『破壊の花弁』は思うように動く。だが、『絆と希望の欠片』と比べて『破壊の花弁』は数が少ない。もしもの時のエネルギーライフル対策としてエリュシオンの周囲に張り巡らせる以上、最大数を使用出来ない。
『相手はまだこちらの位置を確認しきれてないからね。だからこそ『破壊の花弁』が有効ってのもあるけど』
『えっと、飛び込んでいるのが一機なのにたくさんの機体がやられているから?』
『うん。相手がクロノスだから飛び込んだルーイの判断がすごいのか『破壊の花弁』を放つ悠聖がすごいのか』
リマ経由でアル・アジフからは天界と手を結んだということは聞いている。手を結んだというより天界が崩壊して孝治が連れて来たらしいが。
まあ、この話は置いておいて天界が敵じゃない、又は天界が音界に対して軍事行動を行っていない今の状況なら相手のクロノスはクロラッハの勢力だと断定出来る。
敵の敵は味方、というのはあまり信じられないが、今の状況では仕方のないことかもしれない。
『悠聖はこのままどうするつもり? ルーイのエリュシオンに張り付いて『破壊の花弁』もいいけど』
攻勢に出た方がいいって言いたいんだろ? わかってる。ただな、相手がクロラッハの勢力ならアレキサンダーが来たりでもしたら、
『それこそ私達の出番じゃない気がするよ?』
そうだとしても、『破壊の花弁』はフュリアスの天敵に成り得る能力だ。まあ、『破壊の花弁』の動く速度よりフュリアスが出す速度の方が速いけど。アレキサンダー相手に使えるんじゃないか?
クロラッハは精霊王が敵対することを諦めた相手。相手がどんな進化をしてくるかわからないがルーイのエリュシオンでは対抗すること事態が難しいはずだ。
『考え事している最中悪いがそろそろ把握されてきたようだ。二人離れた方がいいだろう』
「いや、まあ、そうなんだけど、相手は」
『クロラッハなら首都にいたらしい。今、リマから緊急暗号通信でやってきた』
「ジャミングの中にいるんじゃないのかよ」
『緊急暗号通信だけはジャミングされないように改造してあるからな。この話を信じるなら』
「いや、信じるだろ」
そう言いながらオレは背中の翼、『破壊の花弁』と魔力の翼に力を込めて飛び上がった。
「味方の通信だ。オレ達はそれを信じるただそれだけの話。だから、攻勢に出るぞ」
『そうだな。了解した。さて、暴れさせてもらうとするか』
ルーイのエリュシオンが両手にエネルギーライフルを握る。そして、オレはエリュシオンに纏わせていた全ての『破壊の花弁』を回収した。
『絆と希望の欠片』の配置は完了。距離が長い分バラまくのも時間がかかるが配置が完了したなら後はオレの独壇場だ。
「さて、行くか」
その言葉と共に『破壊の花弁』を周囲に放った。
魔力の結晶でもある『破壊の花弁』。魔術に弱い装甲であるフュリアスに対して『破壊の花弁』の能力は極めて有効だ。だから、ルーイと共に戦うより単独で戦った方が強いように見える。
問題はオレの空戦能力なんだよ。
小さく心の中で呟きながらも『破壊の花弁』を全て動かした。周囲のクロノスを一気に斬り裂いて空白地帯を作り上げる。
アルネウラと優月のダブルシンクロ中で無ければ空戦能力は手に入らない上にこの状態での空戦は初めてだ。どうなるかわからない。
『あー、大丈夫だよ、多分』
『大丈夫だと思うよ、多分』
お前らな。
オレは小さく溜め息をつきながら身構えた。
「まあ、いい。この場で空戦能力を極めればいいだけだ。行くぞ、二人共!」
近づいてくるクロノスに『破壊の花弁』を纏ったチャクラムを放ちながらオレは前に駆け出した。
左右に動きながらエネルギーライフルの引き金を引く。放たれるエネルギー弾は的確にクロノスを貫くが相手の数は膨大。人によっては無謀とも言える数に僕は立ち向かっている。
今までならこういうことはなかったのだがどう考えてもおかしいからだ。敵の数じゃない。この場で軍事行動をしていることに。
悠聖は気づいていないがどうやらクロノス達は地上に攻撃を叩き込んでいるようだった。これが意味することはつまり、
「クロラッハと敵対する組織、つまりはガルムス達がここにいるのか?」
飛来するエネルギー弾を避けながらエネルギーライフルの引き金を引く。
安定性の高いエリュシオンは回避しながらでも的確にエネルギー弾をたたき込める。
エリュシオンの特徴的な部分は背中のブースター。これは前への逆噴射も可能なところだ。つまり、機体の反転をせずに後退が可能となる。ただし、体への負担はかなり大きいが。
アストラルシリーズを超える新たな可能性への挑戦をしたかのような機体。それがエリュシオンだ。
「だが、妙だな」
不規則に左右に動きながら僕は呟く。
クロノスにやられた機体は大半がエリュシオンだ。つまり、エリュシオンをガルムス達が利用していることとなる。それが意味することは少ないが。
「今は考えているより敵の数を減らす方が先か。アストラルルーラと違ってエリュシオンのエネルギーは有限だからな」
エネルギーライフルの引き金を引きながら僕は一気に駆け抜けようとした瞬間、基地の中から一機のフュリアスが出撃した。
エリュシオンで構成されていたはずなのにその機体はアストラルソティス。しかも、
「『天聖』アストラルソティス。ガルムスか!?」
エリュシオンのブースターを利用しながら『天聖』アストラルソティスのところに駆け寄る。そして、周囲のクロノスを撃墜しながら『天聖』アストラルソティスへ通信用の発信機を打ち込んだ。
ジャミングが強力であっても近距離でなら通信が可能な装置だ。
「ガルムス!」
『この声はルーイか。何故ルーイが』
「どうなっている? この基地はお前達の組織なのか?」
『攻められている最中だ。それにしても、お前はエリュシオンに乗っているのか』
僕はクロノスの攻撃を回避しながら、ガルムスは『天聖』の力でエネルギー弾を打ち消しながら会話をしつつクロノスを撃墜していく。
やはり、敵に回したら厄介だが味方なら頼りになる奴だ。
『ジャミングを展開しながら降伏勧告だ。どう考えても潰しにかかっている』
「この基地に何かあるということか? そうであるならそれを破棄するのは」
『破棄するには惜しいものだ。だが、これは』
数機のクロノスがこちらに向かって駆けてくる。射撃では埒があかないから近接に変えたというところだろう。
だが、それは間違いだ。このエリュシオンはアストラルシリーズ以上に近接戦闘が強力な機体だから。
すかさずブースターを最大まで点火して前に駆け抜ける。エネルギーソードを引き抜き構えたクロノスの動きを見ながら急下降するために真上に向かってブースターを噴いた。
強烈な重圧と共にエリュシオンが急下降する。すかさず逆噴射をしながら回転しつつエネルギーライフルをクロノスに向かって引き金を引きながら一気に舞い上がった。
途中で抜き放ったエネルギーソードがクロノスを両断する。
アストラルシリーズでは出来なかった反応出来ないレベルの加速と下降。理論上では可能だとわかっていたがいとも簡単に出来て拍子抜けしてしまう。
これを使いなれた先にはアストラルシリーズで到達出来なかった高みを目指せれるのかもしれない。使えば使うほど強くなれる。このエリュシオンはそんな気がする。
「ガルムスは」
周囲から飛来するエネルギー弾を回避しながら振り返ると、『天聖』アストラルソティスが右足をクロノスによって切断されていた。すかさず背後から狙うクロノスを撃ち落としながら『天聖』アストラルソティスに近づく。
『天聖』アストラルソティスと言えど今では型落ちの機体だ。エリュシオンが開発された今、悠遠の翼ぐらいしか『天聖』アストラルソティスの誇れる場所はない。
「無事か!?」
背中合わせになりながらエネルギーライフルを構える。そして、連続で引き金を引いた。
『やはり、アストラルソティスでは型遅れか』
そうは言いながらもこのエリュシオンの前後上下左右の移動についてこられるところを見ると未だに現役として通用出来る実力はあるだろう。
だが、相手は最新鋭機。アストラルルーラの変則的な装備が無ければ僕でも苦労するであろう機体。
「一度基地の中に入れ。ここは僕達が死守する」
『すまない』
『天聖』アストラルソティスは身を翻すとそのまま基地の中に向かって飛び込んだ。
確かにアストラルソティスはクロノスと比べれば型遅れだろう。エリュシオンは何とか食らいついているが個人の技量に大きく左右される。このままでは撃墜も時間の問題かもしれない。
「アストラルルーラと違って僕専用にチューンしていないからか操作が完全についてきていないな。やはり、アストラルルーラが合っている!」
そうは言ってもアストラルルーラはない。僕はエネルギーライフルをクロノスに向けながら引き金を引いた。