幕間 禁書目録図書館
ちなみに禁書目録図書館の検索は複数の調べたい単語が存在するものを調べる普通のやり方と最初の単語に一部のキーワードを入れてさらに詳しく調べる二つの方法があります。
禁書目録図書館。
図書館という名を持ちながら禁書目録図書館は記憶置き場という表現が正しい。
過去、現在に存在した全ての神が脳のキャパを超える記憶を置いておくための場所。その場所ではあらゆる記憶が閲覧可能であり動画形式でも可能だし書籍形式も可能。
「なんで禁書目録図書館はアリスライブラリなんだろうな。せめて、インデックスライブラリでいいのに」
「悠兄、今はそんなことを考えている暇じゃないから。『破壊の花弁』の記述はこれだけだね」
そう言いながら七葉が目の前に大量の書物を浮かばせる。
その高さはゆうにビルに換算して、
『現実逃避はいいよ』
呆れたようなアルネウラの声に我に返りながらオレはその中の一冊を手に取る。
「『破壊の花弁』。天罰神エルブスが持つ武器。エルブスって天罰神だったんだな」
「正確には天罰神というより終わりを司る破壊の神と始まりを司る創世の神が両立している存在だったみたいだね。破壊の神だったから天罰神と言われだしたんだと思う。神界神剣闘争時代で圧倒的優位に立って罪を犯した神を倒していたみたいだから」
「お前は何を言っているんだ?」
神界神剣闘争時代って何?
「禁書目録図書館には過去の情報がいくらでもあるんだよ。世界の始まりはさすがに無いから神が生まれたのはその後みたいだね。神の始まりは約五千万年前かな。でも、多重の歴史が記録されていることを考えて」
「ストップストップ。暴走してるから。今は『破壊の花弁』の記述を」
「『破壊の花弁』だけで調べても無駄だよ。多分、悠兄が知る情報だけしか乗っていない。こういう時は違うことを調べるんだよ」
「いや、違うことって」
そう言いながら七葉が検索を再開する。
「神界神剣闘争時代、言うなら神剣が生まれた時の話を漁ったらわかるんだけど、エルブスはその前から『破壊の花弁』を持っているんだよ」
「『破壊の花弁』は神剣だろ? 神剣が生まれる前の『破壊の花弁』って何なんだ?」
「今までなら神剣は神が持つ武器だから、で話は終わっていたけど実際は神剣が生まれた時代があった。これだけは一から説明した方がいいかな。神剣は神の力の断片が砕けた姿なんだよ。そこに人の望みが混じった姿だよ」
七葉の手にあるのは一冊の書物。それを見ながらもスラスラと話す。おそらくすでに調べ終わっていたのだろう。
「本来なら『破壊の花弁』もそうでなければならない。神剣ならね。だけど、実際の『破壊の花弁』は神の力の断片が砕ける前から存在していた。この意味から出来る推測は一つだけ。神剣を超える、星の力を利用した星剣と呼ばれる数少ない武器の一つということ」
「ごめん、意味がわからない」
「だよね。まあ、これだけ言えばわかるかな。『破壊の花弁』は星剣、神剣を超える存在なんだよ。だから、『破壊の花弁』と星剣で検索すれば」
現れるのは一冊の書物。
「はい。まだ中身は把握していないから悠兄が呼んで」
「わかった」
オレは中を開いた。そこに書かれているのは凄まじい文字の羅列。いや、これは、
「欠片の羅列?」
『暗号方式?』
『理解出来ないや。悠聖は?』
「『終始の星片』」
欠片の羅列のはずなのに意味がわかる。
星剣『終始の星片』。
始まりと終わりに生まれる破壊の結晶『破壊の花弁』と伝播の結晶『絆と希望の欠片』の二つが合わさった星の欠片。
「どういうことだ? どうして意味が」
「もしかしたら、悠兄がその『終始の星片』に選ばれているかもしれないよ」
そう言いながら七葉が覗き込んで顔をしかめた。
「読めないよ、こんな文字」
「だろうな。オレも何で理解出来るかわからないけど、『終始の星片』か」
「ちょっと待って」
七葉がすかさず一冊の書物を取り出した。
「『終始の星片』。『破壊の花弁』と『絆と希望の欠片』を内包する星核の結晶だね」
「星核?」
「『破壊の花弁』の水晶の花弁が集まった姿だと思う。星核についても連鎖的に調べてみたけど内容がすごいね」
「どんな内容なんだ?」
「世界が滅びた時に生まれた欠片、となってるよ。星剣についてはまた今度調べるとして、今は『終始の星片』、『破壊の花弁』、『絆と希望の欠片』だね。とりあえず、『絆と希望の欠片』は」
「水晶の破片を広域にバラまくことで相手の位置と動きを察知する能力の他に力の伝播の能力があるみたいだな」
前者の力は周が使う贅沢な戦い方と同じものだろう。
魔力粒子を周囲に散らせることで姿を隠されていても敵を発見することが出来る。つまり、『絆と希望の欠片』にはそういう能力があるということだ。
後者の力の伝播についてわからないな。記述内容的には力を渡すことのように見えるけど。
「『絆と希望の欠片』ってすごい便利な能力だね。範囲探索と通信伝達に力の受け渡しが出来るだなんて」
「ちょっと待て。そんな内容はまだ見つけてないんだが」
「『絆と希望の欠片』なら調べれば簡単に出て来るよ」
その言葉を聞いたオレは禁書目録図書館内にある『絆と希望の欠片』について書かれた書物を検索する。すると、それは簡単に現れた。
「絆と希望の欠片、か」
「『絆と希望の欠片』自体がみんなを繋ぐ役割を持つのと、力を与えたりもらったりするからだと思う。絆を繋ぎ、希望を作る欠片。それが『絆と希望の欠片』なんだよ」
「なるほどね」
『破壊の花弁』と『絆と希望の欠片』。
エルブスが持つ『終始の星片』の中にある二つは精霊王との戦いで使えるはずだ。だが、まだ足りない。
確かに『終始の星片』である『破壊の花弁』と『絆と希望の欠片』は強力だろう。だが、それだけで精霊王を倒せるわけじゃない。
『うーん。パパもママも技術はかなり高いから。魔術はさすがにディアボルガに負けるけど』
『あれに勝てたら本当に化け物クラスだからね。とは言っても、それに匹敵する実力ってことだから』
不吉なことを言うな。
つまり、精霊王は近接だけでなく魔術のレベルが高いということだ。攻防一体である『破壊の花弁』に限りがある以上、精霊王の有利は変わらない。
近接でも技術で負ける。魔術でも練度で負ける。勝つにはやはり複数で戦うしかないけど、
「悠兄。精霊王との戦いには私も参戦するよ。だから、それまで『絆と希望の欠片』の力をものに」
「いや、それじゃ駄目なんだ」
精霊王はあの場にいる全員で力を合わせれば勝てるだろう。だが、それではダメなんだ。
「オレ一人で勝たないと意味がない。精霊王はオレ達を守るためにオレ達を倒そうとしている。だから、オレは精霊王より強いことを証明しないとダメなんだ」
「じゃ、どうやって一人で勝つかだね。近接の技能は精霊王が上。いや、肉弾戦込みなら同じくらいかな? 魔術の技能は精霊王が上。悠兄には『終始の星片』がある。うーん、勝てないね」
「『終始の星片』の力を使えば逆転出来るはずだ」
「『終始の星片』と『絆と希望の欠片』の力を使ったことがないのに?」
自信を持って言った言葉を一瞬にして砕かれたオレはその場でがっくりと肩を落とした。
確かに『終始の星片』と『絆と希望の欠片』の能力を詳しくわかっていない以上、精霊王に勝てると自信を持って言うことは難しい。
「いや、まあ、そうなんだけどさ」
「『絆と希望の欠片』はぶっつけ本番しかないかな。でも、『終始の星片』の能力がわからない」
「わからないって、『終始の星片』は『破壊の花弁』と『絆と希望の欠片』の鞘」
そこまで言ってからオレは気づいた。
「『破壊の花弁』と『絆と希望の欠片』の鞘だとしたなら、『終始の星片』という名前はいらないよ。『終始の星片』にも特別な能力があると考えた方がいいかな」
「『終始の星片』の能力か。『終始の星片』というのは『破壊の花弁』と『絆と希望の欠片』の鞘なんだろ? 何かを入れる能力だったりして」
「ちょっと待って」
七葉がそう言いながら何かを検索する。
現れるのは一冊の書物。それを七葉は捲り、そして、小さく息を吐いた。
「甘く見てた」
そう言いながら七葉が書物を差し出してくる。
「星剣を甘く見ていた。この能力は本当に桁が違うよ」
「どういう能力だったんだ?」
その言葉を聞きながらオレは書物を開いた。
「『終始の星片』の能力はね」
その言葉を聞きながらオレは目を見開いていた。
『終始の星片』の能力は『破壊の花弁』や『絆と希望の欠片』と桁が違っていた。
「これは、片方の能力は使わない方がいいな」
「バランスブレイカーにもほどがあるよ。精霊王に勝てるのに封印するの?」
「これは精霊召喚師として使うべきではないだろ。使うタイミングはあの時しかない」
「確かにそうだけど、でも」
「大丈夫だ」
オレはそう言いながら『破壊の花弁』を出現させた。そして、小さく息を吐いて拳を握り締める。
「来い、『絆と希望の欠片』。そして、『終始の星片』!」
オレの言葉と共に人一人が入る大きさの水晶の塊が現れていた。
「これが、『終始の星片』」
「綺麗」
『悠聖。『終始の星片』を呼び出したのはいいけどどうするつもり?』
「簡単だ」
そう言いながらオレは七葉を見る。
「手伝ってくれ。短時間で『終始の星片』を習得するために」
「了解。じゃあ、本気で行くよ」
七葉が身構えた。それに対してオレも身構える。
「残りの短時間でどこまでいけるかわからないけど、頼むぞ」
オレはそう言いながら『破壊の花弁』を展開した。
『終始の星片』にはまだ能力が一つだけあります。それが公開されるのはいつになることやら。