第二百二十二話 絆
一息つけたと思っていました。結局忙しさは変わりませんでした。
更新があまり進まなくて申し訳ございません。
『破壊の花弁』を周囲に散らばらせる。
『破壊の花弁』の全量の約三分の一。それを隈無く半径500m圏内にバラまいた。
「これは、ありえない。それが、『破壊の花弁』がここまであるなんて」
精霊王は目を見開きながら驚いている。チームを組む面々も固まって周囲にバラまかれた『破壊の花弁』を警戒していた。
「そりゃな。オレもエルブスも攻撃に使用出来る『破壊の花弁』なんて人一人の腕くらいしかない。まあ、破壊の花弁と言うように、水晶の花弁として周囲に散らすからそれ以上あるように見えるけどな」
「ならば何故だ。『破壊の花弁』は破壊の力。それなのに何故」
「オレだって禁書目録図書館で調べるのは苦労したさ。なら、何も知らないあんたならわからないのも無理はない。説明してやるよ。『破壊の花弁』の力を」
『破壊の花弁』の能力を説明することはデメリットしかないかもしれない。
だけど、『破壊の花弁』の能力を知ったところで防げるとは限らない。
「『破壊の花弁』は本来、人一人を封印出来る水晶から削り出されたものが起源だ。ただ、その水晶の中でも極めて純度が高い、まさに『破壊の花弁』の量は少量。なら、他の水晶の部分はどうなったか。その回答がこの周囲に散らばる『絆と希望の欠片』だ」
「『絆と希望の欠片』だと?」
おそらく、エルブスは『絆と希望の欠片』について知っていたかもしれない。だけど、『絆と希望の欠片』を教えなかったのはそれは『絆と希望の欠片』が特殊だったからだ。
『破壊の花弁』は攻撃用で『絆と希望の欠片』は防御用、という簡単な話ではなく、『破壊の花弁』はまさに攻防一体のものだが『絆と希望の欠片』は防御用ではなく絆と希望が詰まった欠片なのだ。
『破壊の花弁』と比べて小さく弱く、何も倒すことは出来ず、何も守ることは出来ない。だけど、そんな『絆と希望の欠片』にも出来ることはたくさんある。
「オレ一人じゃあんたには勝てない。なら、みんなと一緒に勝つしかないだろ?」
「まさか、『絆と希望の欠片』は」
「行くぜ、みんな。『終始の星片』最大解放!」
『終始の星片』。
それが『破壊の花弁』と『絆と希望の欠片』の真の姿。おそらく、七葉がいなかったら『絆と希望の欠片』までしか辿り着けなかっただろう。
みんな、オレの声が聞こえているか?
『悠聖? あれ? なんで?』
頭の中に直接語りかけたリリィが不思議そうにオレを見つめてくる。それには冬華は納得したように頷いた。
『シンクロした精霊との会話みたいなものね。頭の中で全てが解決出来るから口には出さなくていいわ』
『すっごく不思議な感覚。これって悠聖とシンクロしているってこと?』
『絆と希望の欠片』の能力の一つだ。半径500m圏内ならこれで会話が出来る。
『『絆と希望の欠片』? 『破壊の花弁』じゃなくて?』
『『絆と希望の欠片』なんて聞いたことがないわよ』
『私もだよ。禁書目録図書館で調べるまで『絆と希望の欠片』も『終始の星片』も精霊なのに知らなかったし』
『あそこまで掘り下げないと見つからないとは予想外でした』
『呑気に会話をしている暇じゃないよね!?』
律儀に『絆と希望の欠片』を使った会話で話しかけてくる七葉が静かに頸線を構える。
オレは小さく笑みを浮かべながら薙刀を構えた。
大丈夫だ。まだ、誰も動かない。いや、動くための力を入れていない。
『なんでわかるの?』
七葉が不思議そうに尋ねてくるが、これはオレにしかわからない感覚だろう。
『絆と希望の欠片』を散らすことによって周が行う魔力粒子のバラまきと同等の効果を発揮させる。
つまり、『絆と希望の欠片』の範囲内では敵の動きが丸分かりなのだ。
『絆と希望の欠片』の副作用、とでも思っていてくれ。全員、今から会話は全てこれだ。口には出すな。
乱戦時の最大の問題点は会話だ。意志疎通を会話でせねばならず、敵味方共に動きがわかりやすい。
『絆と希望の欠片』はそんな問題点を簡単に解消してくれた。
『絆と希望の欠片』にはもう一つだけ効果がある。これは説明するより実感してもらった方がいいだろうな。精霊王はオレが食い止める。だから、みんなは他の敵を倒してくれ。
そう言いながらオレは精霊王に向かって駆け出した。そして、力任せに薙刀を叩きつける。
「白川悠聖。お前は何なんだ!」
「何なんだと言われても、終始神。始まりと終わりを司る神だ」
「ならば、沈め!」
魔力崩壊がオレの体を包み込む。だが、オレの体を包み込んでいた魔力崩壊は一瞬にして消え去った。
「なっ」
精霊王がその場に立ち止まった瞬間、オレは精霊王に剣の形をした『破壊の花弁』を叩きつけようとする。だが、『破壊の花弁』は簡単に精霊王に受け止められていた。
『絆と希望の欠片』の力があるとはいえ、さすがに『絆と希望の欠片』の効果を『破壊の花弁』に付与することは出来ないか。
まあ、『破壊の花弁』も『絆と希望の欠片』も『終始の星片』だから仕方ないと言えば仕方ない。
「その力はなんだ! 何故、魔力崩壊を打ち消すことが出来る!?」
「簡単だよ。オレが終始神だからだ」
「なんだと?」
「始まりと終わりを司る神。それは能力の発動という意味でも作用出来る。スイッチのオンオフのごとく、オレが全ての発動の所有権を得られる」
それがエルブスが持っていた神の能力。はっきり言うならあらゆる戦いにおいて優位に立てる凄まじい能力だった。
七葉の力は七葉自身がもっていた未来視のスキルがあるからこそ最大の効果を発揮する。神の能力は基本的に単体では効果を最大限まで発揮出来ないものが多い。
だが、エルブスは違った。エルブスは世界が始まってからしばらくして生まれたと言われている神。その能力は桁違いという表現が正しい。
「全ての能力を操作出来るのか?」
「まあ、限界や制限はあるけど、精霊の能力は全て優先的に発動の操作は出来るな」
「だが、魔力崩壊を封じたところで今の状況を覆せるわけがない。だから、大人しく」
「集中しているところ悪いけど、終わったわよ」
冬華の言葉に精霊王は周囲を見渡した。
精霊王を取り囲むように冬華、リリィ、七葉、ルカが配置ついている。全員の体の中に纏わりついているのは『絆と希望の欠片』。
精霊王はさらに周囲を見渡す。だが、そこに見えるのは倒れ伏した精霊王の仲間達。
「お前達対策で訓練していた奴らがこんな短時間に」
「『絆と希望の欠片』は『破壊の花弁』と違って支援に特化した欠片なんだ。通信、感知、強化。簡単な操作でそれらを簡単に使用することが出来る。全く、エルブスは凄まじいものを残してくれたよな」
『破壊の花弁』は攻防一体。そして、『絆と希望の欠片』は支援特化。
まさに、『終始の星片』である二つは二つあることで最強の武器の一つと成り得る。
「『終始の星片』か。計算外はそれだったのか。『破壊の花弁』ならまだ対処の仕方はあったが」
「『絆と希望の欠片』の身体強化は破格みたいだからな。さて、精霊王。大人しく降参してくれないか?」
薙刀の先を精霊王に向けながらオレは精霊王に尋ねる。
『絆と希望の欠片』が満ちたこの空間で『絆と希望の欠片』で強化されたオレ達と精霊王が戦うことは難しいはずだ。だから、降参するはず。
『あー、それはちょっとないかな』
『うん。パパもママも負けず嫌いだから』
『案外有名だよ。精霊王の噂は』
『相変わらず二人は仲がいいみたいですけど』
ルカの何気ない一言にオレ達が固まる。ちょっと待て。ルカはもしかして最初から、
『正体には気づいていましたけど?』
『私は捕まってたから別だよね?』
『優月は別だよ。私もはっきりと出会ってなかったからはっきりとわからなかったけど』
『ちょっと待ちなさい、あなた達。もしかして、精霊王について最初からわやっていたとか』
『うん』
アルネウラのその言葉に誰もが、いや、オレ以外の人の誰もが絶句した。
いや、まあ、精霊王について語らなかったからオレが悪いと言えば悪くなるんだけど、『絆と希望の欠片』ってここまで副作用があるんだな。心の中が解放した冗談だから冬華の怒りがひしひしと伝わってくる。
「白川悠聖」
精霊王の言葉に誰もが我に返って精霊王を見る。
「お前はクロラッハの怖さをまだ知らない。クロラッハという存在を勘違いしている」
「例え、そうだとしても、オレ達にはやろうとしていることがあるんだ。それを途中で止めろって言う方が無理があるだろ?」
「だから、それが何もわかってはいない。クロラッハにお前は勝てない。『破壊の花弁』に『絆と希望の欠片』。『終始の星片』と言ったか、例えこの精霊王を圧倒出来たところで、そんなものは無意味だ」
「進化の極限に位置しているから? 私達だって進化するのよ。クロラッハだって」
「そういう次元じゃないね」
リリィの言葉を七葉が止める。七葉の表情は少しだけ絶望の影が差していた。
「今、禁書目録図書館って調べたけど、クロラッハは次元が違う。確かに生物は進化するよ。でも、クロラッハは戦う度に強くなる。もう、過去も現在も未来もクロラッハが最強と言えるんじゃないかな」
「そんな人間いるわけが」
「いるのだ。いるから、私はお前達を捕まえようとしている。それは、お前達を」
「余計なお世話ね」
こういう場面だったらいいけど、本気なら『絆と希望の欠片』を使って会話をしてからにして欲しいんだよな。まあ、いいけど。
「例えそうだとしても、私達は取り返さないといけないの。家族を。だから、私は戦うわ」
「戦うことには賛成なんだが、どうして最上級精霊を」
そう考えた瞬間、とあることを思いついてしまった。
精霊を使ったエネルギー物質。その名も精霊結晶。もしかして、
「精霊王。クロラッハはもしかして」
「気づいたか。最初は私も止めようとした。だが、止められなかった。今では被害を抑えるために一苦労をしている」
『悠聖。どうかしたの?』
優月の純粋な疑問にオレとアルネウラの二人は小さく息を吐いた。
これからやるべきことはどうやらすぐに決まったようだな。
「なら、オレ達が止めてやる。必ずな」
「不可能だ。私を倒せないなら」
「なら、倒せばいいんだろ。みんな、力を借りるぞ」
その言葉と共にオレの体に『絆と希望の欠片』が纏わりついた。そして、『絆と希望の欠片』を身につけていた冬華、リリィ、七葉がその場に座り込む。
「あれ? 力が」
「『絆と希望の欠片』から奪われている?」
不思議そうに二人は自分の体を動かそうとしながらオレを見てくる。『絆と希望の欠片』のこれについては何ら説明はしていない。
「『絆と希望の欠片』には力を分け与える他に力を分割して移譲する能力があるんだよ。みんなに力を分け与える力とみんなから力を分け与えてもらう力。それが『絆と希望の欠片』の最大の能力だ」
「悠兄が精霊王に確実に勝てる手段だからね。だから、お願い。勝って」
七葉の言葉にオレは走り出す。
「負けたら許さないからね!」
リリィの応援を受けて薙刀を握り締める。
「悠聖、やりなさい!」
冬華の言葉にオレは薙刀を振り抜いた。それは精霊王の薙刀に受け止められる。
「決着をつけるぞ、精霊王!」
『破壊の花弁』、『絆と希望の欠片』、『終始の星片』は精霊王との戦いが終わってからの幕間で詳しく説明します。