第二百二十一話 第三段階
リアルのあまりの忙しさに完全に更新がストップしていました。
ただでさえ執筆が遅れ気味だと言うのに。ようやく落ち着いてきたところなので少しはペースアップしていきます。
自分でも信じられないくらい第三章が長くなってる。最初は二百話前後構成だったのに。
『破壊の花弁』を剣型にして放つ。だが、剣型の『破壊の花弁』は隆起した地面によって弾かれた。
土属性を利用した前線での防御役。一撃が重い敵には通用しないが手数で攻める相手に対してかなりの力を発揮する役目だ。
すかさず『破壊の花弁』を戻しながら精霊王にチャクラムを放ちつつ光属性単発射撃のエーデルアローを放ち牽制する。
禁書目録図書館を利用した魔術の発動と召喚によって魔力崩壊の発動はオレに対して効果がないようになっているからか使って来ないがそれでも精霊王の動きは厄介だ。
エーデルアローを簡単に弾きながら踏み出してくる。オレは自分の周りに『破壊の花弁』の盾を作り上げながら精霊王の薙刀を薙刀で受け止めた。
そんなオレに向かって精霊召喚符を握る1人が火球を放ってくる。
「悠兄!」
七葉の言葉と共に頸線が地面を駆け抜ける。だが、それは蠢いた地面が呑み込んだ。七葉はとっさに頸線を戻しながら周囲を睨みつける。
火球は『破壊の花弁』によって弾かれるも衝撃と熱波がオレの体を撫でる。
後ろに下がりつつオレは前にいる精霊王を警戒しながら四人を守るように『破壊の花弁』をゆっくりと動かした。
冬華は一撃が重いとは言えないしリリィも同様だ。対するルカは一撃が強いが警戒されている。
「精霊召喚符を握ってからかなり訓練を積んでいるみたいだな」
敵の数は精霊王含め21人。精霊王以外は5人一組となっており、牽制を仕掛けた以上、並以上の連携があるのがわかる。
基本的には2人の防御役と2人の攻撃役に1人の支援回復役。
防御役は土属性の精霊と契約しているからか異様固く道を塞ぐ。それを超えるには強引な手が必要なのだが、それを精霊王は逃さない。
防御役さえ崩せばいいのだが、今の手札で崩すことは難しい。
『えっと、あの人達はパパとママが訓練した人だから簡単には崩れないと思う。ユニゾンというよりシンクロに近い同調だから』
『シンクロに近いユニゾンか。それは厄介だね。私と優月の二人の力でこじ開ける?』
そうしたいところだけど精霊王の牽制に二人の力も欲しいからな。終始神としての力は切り札だからまだ使わないし。
『終始神? えっ? 悠聖が神様?』
『そっか。優月はあの場にいなかったもんね』
『悠聖が生きていることにホッとしていたけど、もしかして』
優月はオレが冬華にばっさりと斬られてから下がっている。精霊王と一緒に。
あの時の撤退は実に見事だったらしく、リリィも七葉もポカンと固まってしまったらしい。
『一度死んだ?』
正確には二度死んだ。
『聞いてないよ!? というか二度?』
冬華にばっさりと斬られた時と冬華にグサッと突かれた時に一度ずつ。
『ゾンビ?』
『優月が言いたいことはわかるけど、ゾンビは一度倒したら動かなくなるから』
つまり、オレはゾンビ以上の何かかよと思おうとしたが、それより早く火球がオレに向かって放たれた。
それを回避しながら『破壊の花弁』を砲型に変えて魔力を放つがやはり大地に阻まれる。土属性は大地を動かすことが基本だが、こちらの攻撃を受け止めるとなるとかなりの技術が必要となる。
大地を動かすということは大地をそのまま動かせるというわけではなく破片をいくつも動かすということだ。範囲攻撃ならいざ知らず、防御となれば耐久性を低くしないように構成しながら作り上げないといけない。
厄介な相手だ。
『パパとママが教えていたのは相手を封じ込めながら戦う方法だったよ。強大な相手にも通用する戦い方だって』
『悠聖も使ってみたら?』
対抗するには相性が悪すぎるだろ。
オレはそう思いながらも精霊王に向かって一歩を踏み出した。そして、『破壊の花弁』を纏った薙刀を精霊王に叩きつける。精霊王はそれを軽々と受け止めた瞬間、左右からチャクラムが飛来した。
とっさに精霊王は後ろに下がるがオレは前に踏み出す。
地面を削るように薙刀を下から上に振り上げる。だが、それは受け止められ、その勢いを利用されてさらに後ろに下がられた。
オレは連続でバックステップをとりみんなの所に戻る。
「悠聖。ごめん。雪月花さえあれば」
「今はそんなことを言っている暇じゃないだろ。このままだと捕まるだけだ」
「悠兄なら大丈夫なような気がするけど」
「今の悠聖の魔力は今までより桁が違うから大丈夫じゃないかな?」
「嬉しいのか嬉しくないのかよくわからない答えだな。いや、まあ、いいけど。ともかく、この状況をどうにかしないと」
『破壊の花弁』を三人で器用に動かしながら飛んでくる火球を受け止める。
相手は攻撃の訓練を綿密にしているわけじゃない。むしろ、まともに戦わないようにする訓練をしている。それをぶち抜くには防御役を崩すようにしないといけないけど。
「やっぱり、難しいところがあるよな」
オレは薙刀を構えながら小さく息を吐いた。
この状況を挽回する方法は存在する。だけど、その方法にはいくつか難題がある。
一つは防御を完全に捨てて攻撃に移ること。そうなると七葉とリリィの負担が大きくなる。オレと違って二人は全力で戦えるわけじゃないし。
『せめて、流動停止が広範囲に展開出来れば』
『私のスキルは広範囲に展開出来るけど、万が一にも投げナイフとか用意されてたら』
回避することは出来ないな。せめて、一角、いや、二ヶ所敵を蹴散らすことが出来れば戦いやすいけど。
オレは小さく息を吐きながら薙刀を構えた瞬間、精霊王がこちらに向けて走り込んできた。それと同時に様々な魔術がオレ達に向けて放たれる。
オレは『破壊の花弁』で魔術を迎撃しようとしながら精霊王に向かって踏み出そうとして、リリィが一気に駆け出した。
「輝きよ煌めけ。刹那たる光よ降臨せよ!」
「ちっ。魔力崩壊」
足を踏み出しながら詠唱を行ったリリィに精霊王が魔力崩壊をかける。だが、オレはリリィが笑ったように見えた。
まるで、最初から魔力崩壊を使ってくることを想定して作戦を立てていたかのように。
「この瞬間を待っていたのよ!」
その言葉と共にリリィはさらに加速した。魔力崩壊の空間に包まれているはずなのに。アークレイリアの力は魔力崩壊の影響を受けない?
リリィが精霊王に向かってアークレイリアを振り抜く。だが、それは薙刀によって受け止められた。
「悠聖! 40秒!」
リリィが振り返ることなく叫んだ瞬間、氷の結晶が周囲に浮かび上がった。
氷属性の中でもかなり特殊な効果を持つ防御魔術のアイリスシールドだ。アイリスシールドが飛来する火球を受け止める。
「40秒だけ稼ぐから。その間に悠聖は状況を打破する作戦を考えて!?」
続いて冬華が叫ぶ。アイリスシールドは維持が難しいためすでに額には大粒の汗が浮かんでいる。
対するリリィがすかさず連撃を叩き込みながら精霊王をゆっくり後ろに下がらせてはいるが、精霊王は余裕であるかのように見える。
「作戦って言っても」
「悠兄、禁書目録図書館!」
七葉の言葉と共にオレが禁書目録図書館に入った瞬間、待っていたのは七葉の拳だった。
突然のことに反応することが出来ずオレは殴り飛ばされる。
「七葉、何を」
「悠兄。私、怒っているんだよ。悠兄の戦い方」
「戦い方?」
「『破壊の花弁』で私達を守りながら精霊王と戦う。悠兄は私達を信じていないのかな?」
「それは」
確かにそうだ。リリィや冬華が戦えないと決めつけてオレは一人で全てと戦おうとしていた。もちろん、七葉も戦力としてそれほど数えていない。
「終始神の能力がどれだけ強力かはわからないけど、悠兄はバカだよね!? たった一人じゃ勝てる相手でも勝てないよ!」
「だけど、オレは」
「神になったからでも言うつもり? 確かに今の悠兄はダブルシンクロをしながら『破壊の花弁』を扱い禁書目録図書館の豊富な知識と空間を扱うすごい状態だよ。でも、それだと勝てない。精霊王は悠兄がこの状態になると見越して作戦を立てているから」
そうだ。精霊王はオレ達の、オレの動きを完全に想定しているようだった。『破壊の花弁』は止められ、こちらの技術は通用しない。
オレが一人頑張ったところでどうにかなる状況じゃなかったんだ。
「私達を頼ってよ。悠兄は一人なんかじゃない。私だけじゃなくて、優月やアルネウラ、冬華さんにルーリィエさんもいるんだから」
「神になったから一人で何とかしよう。そういう気持ちがあったからかな」
「だろうね。私も同じかな。悠兄はもっと自分について知らないとね」
そう言いながら七葉が書物を出してくる。オレは何となくそれを手に取った。
「『破壊の花弁』。これって」
『悠聖の力だよね?』
『悠聖の力でありエルブスから受け継いだもの。そっか。禁書目録図書館には『破壊の花弁』の記述もあるのか』
「悠兄は『破壊の花弁』についてまだ完全に知っていないみたいだよ。少し目を通したけど、『破壊の花弁』は規格外中の規格外。下手をすれば星剣クラスの規格外兵器だから」
「せいけん?」
聞いたことの無い言葉にオレは訪ね返す。聖剣ではないだろう。そんなありきたりなものじゃない。
「星の剣と書いて星剣。禁書目録図書館に潜れば簡単に集まるけど、今は『破壊の花弁』についてだよ」
「そうだな。でも、特筆すべきところなんて」
『絆の力を利用する?』
どこだ?
『えっと、真ん中』
『本当だ。絆の力?』
確かにそこには書かれている。『破壊の花弁』の能力は絆の力を利用して威力を高めるものだと。
「『破壊の花弁』については情報は少なかったけど、その一文だけは確かに書かれているんだよ。悠兄はそんな使い方を見たことはある?」
「いや、エルブスが『破壊の花弁』を使うのは何度か見たけど、変な使い方はしていないような」
「禁書目録図書館でも『破壊の花弁』の情報は少ないんだよね。エルブスが意図的に隠していたというか」
「いや、違う」
エルブスが意図的に隠していたのじゃない。
もし、意図的に隠していたのなら『破壊の花弁』を受け取った時に使い方も受け取っているはずだ。
おそらく、エルブスは知っていても使い方がわからなかった能力。又は、秘匿された最大の切り札。
「この能力を調べ抜くしかないか。七葉、手伝ってくれるよな?」
「もちろん。こういう情報整理は得意だから」
その言葉と共におそらく関連書籍が周囲に浮かびあがる。その数20。もう、数字が違う。
「じゃあ、全力と行こうよ」
アークレイリアが大きく火花を散らす。敵の攻撃を受け止めながら拒絶の力を精霊王に真正面から叩きつけた。
精霊王が大きく後ろの弾かれた瞬間、私は後ろに下がりながら魔術陣を展開する。
「全ての輝きは希望の光。ここに集いて全てを焼き尽くせ! コロナレーザー!!」
だが、私が放った光の塊は土塊の中に消え去っていった。
土属性と闇属性の合成魔術。土属性の防御障壁に対して絶大な効果を発揮するコロナレーザーの最大の天敵。
私はアークレイリアを握り締めながら魔力を注いで光の刃を巨大化させる。
「これで、どうだ!」
全力の叩きつけ。だが、それは簡単に土の壁に阻まれていた。
「精霊の作る障壁は並みの威力では砕けないわよ! 同等、又はそれ以上の力が無ければ」
「だったらどうすれば!?」
言葉を返しながらも身を翻して駆ける。そのまま拒絶の力から立ち直った精霊王に向かってアークレイリアを振り抜いた。しかし、アークレイリアが弾かれる。
空中で姿勢を制御しながら加速しつつ後ろに下がる。アークレイリアの力を利用した空中における四次元移動。天界の住人が得意とする三次元移動にアークレイリアの力を加えた動きは初見で対応出来る動きではなく、慣れても対応しにくい攻撃。
アークレイリアの力を最大限引き出せる私だからこそ出来る最大の技。
「諦めて大人しく捕まれ。お前達ではクロラッハには勝てない。あの、進化の権化には」
「進化の権化?」
「そう。全ての進化の頂点。今の奴の力は全てのフュリアスを超越した。過去、現在、未来。その全てにおいてあのアレキサンダーを越える機体が出ることはないだろう」
「なによ、それ」
私はアークレイリアを精霊王に向けながら呟いた。
天王や魔王も桁違いの実力があるが、今の精霊王の発言だとあの真柴悠聖をクロラッハが越えることとなる。真柴悠聖の実力は天王、魔王クラス。それを越える存在だと言うことはまさに、人界の第一特務、通称ケルベロス、ぐらいしか相手にならないのではないだろうか。
いや、もしかしたら、それですら対抗する手段がないかもしれない。
「お前達が怪我をする様を黙って見ていられるわけがない。だから、大人しくしろ。お前達に危害は」
「どうだとしても、そんな相手を放っておいていいわけがない!! 精霊を犠牲し、敵味方もろとも滅ぼうそうとして、そして、全てを敵に回そうとする相手を次期天王の私が放っておくわげないでしょ!!」
「次期天王だと? 可能だと思っているのか? 天界の次期天王候補はあの」
「アーク・レーベ、とでも言いたいのかな?」
その言葉が響いた瞬間、空から大量の光が降り注いだ。精霊王は大きく後ろに下がるけど、私との距離は大きく開いてしまう。
空を見上げたそこには、
悠然と純白の翼を広げ飛翔するアーク・レーベ様と、微笑を浮かべた『雷帝』の刹那がいた。
「どうして」
「急ぎ、慌ててやってきた。お前達を回収するためにな。ルーリィエ。お前は天王になる覚悟があるか?」
その言葉に私は迷わなかった。迷うことなくアーク・レーベ様に頷きを返す。例え、あのアーク・レーベ様だとしても、これだけは譲れない。
私は、今までの天界を変えて、新たな天界を作り、その天王としてみんなを導く。それだけは絶対に譲れない。
「そうか。なら、餞別だ」
その言葉と共にアーク・レーベ様が私に向かって指輪を投げつけてきた。私はとっさにその指輪をアークレイリアで砕く。
「我が名を持つ武器、アーク・レーベ。混沌と平和の調停を示すその力は世界の中において発揮される。その真名はアークぜファー!」
私は地面をかける。それと同時に光刃の輝きを増したアークレイリアで精霊王ではなく防御役の精霊術師に向かって駆けた。精霊術師はすかさず土の壁を作り上げる。
アークぜファーの能力。それはアーク・レーベ様から直接聞いている。
世界に干渉し、一時的に空想を具現化する能力。極めて強力だが使いどころが難しく『雷帝』との戦いでも使用するかわからないと聞いていた。でも、今ならその力を使いこなすことが出来る。
いや、違う。使いこなすんじゃない。アークの力がそれぞれ補い合っているというのを理解出来た。アークレイリアの力はアークぜファーの副作用をアークセラーによって拒絶するように誘導できる仕組みなのだと。
「だから、ぶった切る!」
そのまま私は光刃を振り抜いた。
まるでバターを裂くように土の壁を両断し、すかさずアークレイリアを突きいれる。そんな私にすかさず火球が放たれるがそれを私は光の壁で受け止めた。
「アークの力が三つあればあんた達なんて敵じゃないのよ!!」
光刃を巨大化させたアークレイリアを振り抜く。それだけで一組全員が防御魔術ごとアークレイリアの光刃に吹き飛ばされていた。
私は大きく肩で息をしながら振り返る。そこには、かすかに驚いている精霊王の姿があった。
「アーク・レーベ。お前は何故」
「ふっ。わからないだろうな。我が子の可愛さ故に守ろうとするお前では。希望の炎は灯さなければ意味はない。そして、今の天界、いや、元天界に必要となるのは力ではない。希望だ。俺はルーリィエ、いや、新しい天王候補に希望を託しただけのこと」
「貴様、貴様もわかっているはずだ。どれだけクロラッハが強大であるかを」
「関係ないな」
すでに約束の時間はとうに過ぎている。でも、これだけ時間を稼げた意味は必ずあったのだろう。だって、笑みを浮かべた悠聖の表情は自信で満ち溢れているのだから。
「悪いが、精霊王。ここであんたを倒してオレ達は先に進むぜ」
「不可能だ。クロラッハは進化の極限にいる。そんな存在に」
「信じているからだよ」
悠聖が笑みを浮かべる。その言葉と共に『破壊の花弁』が周囲の空間に舞い散った。
「友を、仲間を、親友をな!」