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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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第二百十八話 天界脱出作戦

「全く。お前はこっちの身にもなれよ」


オレは苦笑しながらもレヴァンティンに向かって語りかけた。立体ディスプレイに移るテレビの映像の向こうには広大な草原のゲートから出てくる様々な天界の住人達。その住人達を『GF』が近くに待機させている航空艦に誘導している。


オレが時雨や各国の知り合いと連絡を取り用意させたものだ。こういう時のために仲良くなっておくのが目的だったからこれが出来て良かった。


孝治から連絡が来たのはほんの二日前。たった二日で何が出来るかと思ったが、『GF』とアメリカがほぼ同時に支援することをメディアに公表。『ES』と続き国連の代表も支援を各国に要請したのだ。そして、今は世界規模で天界を救うための動きが活発化している。


もちろん、それに反対する人は少なからずいるだろう。だけど、みんな協力してくれている。協力して滅びゆく天界を救おうとしている。


『すまない』


「謝るな。お前がやったことは正しいんだ。胸を張れ。それに、お前みたいな親友を持てて改めて誇りに思えるよ。天界の事情を知り、天界を救おうとするなんて。だけど、時間が絶対的に足りないだろ? お前の話だと崩壊までは後半日。一日かけて進行状況は約20%。避難誘導に時間がかかったとしてもた50%が限度じゃないか?」


『周も同じことを言うんだな。アーク・レーベも50%が限度だと言っていた』


「一番の問題は天界の住人の数だ。天界の動物全てを逃がそうとすれば必然的にゲートの数が足りない。天界はどこでもゲートを作れるという極めて高い技術力を保有しているけど、それにも限界がある。ゲートの最大の大きさが決まっているのと同じにな」


『ああ。それが一番の問題だった』


天界の技術力の高さには目を見張るものがある。天界の科学者が優秀なのではなく天界にいる五神の一人である物霊神ゼルハートの存在が大きいのだろう。


いつも刹那と戦うことを楽しみにしていると言う話を刹那から聞いているからどういう奴なのかはなんとなく把握している。


「だった、か。どうやらそれを解決したようだな」


『お前の助けがなかったら正直無理だった』


「オレの力なんて微々たるものだよ。天王がちゃんと公式の場でお礼を言って各国を回ればそれで解決。オレはただきっかけを作っただけだ。何もしていないよ」


『相変わらずだな。こういうことになると真っ先に裏方に回り手を回す。感謝されるようなことは少なくてもたくさん火を助けて行く。本当にお前は変わらない』


「そういうお前だって。天界の事情を聞いた時、絶対に孝治は諦めないだろうなって思った。孝治。天界を頼んだぞ」


『任せろ』


オレは小さく息を吐いて通信を切った。


今、音界では大きな戦いが起きているらしい。通行規制及び通信規制がかかっているためどういう状況なのかはよくわかっていない。最後の通信は七葉からで、


『神になりました。イエーイ』


という意味不明なものだった。もっとわかりやすい内容で事態を伝えろよ。レヴァンティンと三日三晩協議したじゃないか。


「なあ、レヴァンティン」


『いつになく憂鬱ですね、マスターは』


「そりゃな。大丈夫かなって。完全な戦争中のようだから。みんな戦争は未経験だろ?」


『そもそも戦争自体が少ないですからね。でも、戦争より酷い戦いを経験している人もたくさんいますから大丈夫じゃないですか?』


「考えてみればそうだけど」


狭間戦役。何対何の常識を覆す戦いだった。確かにあれは戦争よりも酷い戦いだった。


学園都市騒乱。ホームが戦場とはいえ敵の室が極めて高く避難誘導しつつ戦闘と戦争さながらの戦いをしていた。


よくよく考えるとオレ達の部隊って未経験でも経験豊富だよな?


「オレ達はオレ達のことをやるしかないよな」


そう小さく呟いた瞬間、部屋のドアが開いた。振り返るとエプロンを着た由姫が姿を見せている。


「お兄ちゃん、ご飯だよ」


「そっか。今日の昼は何だ?」


「明太子カレーそうめん」


「明太子を入れる意味がわからないんだが」






「どうやら周との連絡を終えたようだね」


通信機を下ろした孝治の背中に正が語りかけた。それに孝治は振り返る。


正はいつの間にか灰色のゴスロリ服を着ていた。隣にはニーナとツァイスの姿があり、ツァイスは灰色のタキシード、ニーナは正と同じ灰色のゴスロリ服を着ている。


「ニーナ。大丈夫か?」


その言葉に少しだけ苦笑をしたニーナは頷いた。


「孝治さんは心配症ですね」


「ニーナ。さすがに地上に戻ってから一日倒れていたんだよ。お兄ちゃんは絶対に心配するって」


「それもそうですね。孝治さん。今の状況は」


「それは私が答えよう」


アーク・レーベが空から舞い降りる。そして、笑みを浮かべながら後方を指差した。


「人界への避難は95%が完了。天界の避難誘導はほぼ100%。そして、脱出準備は70%完了している。技術者達が不眠不休で頑張った結果だ。後で礼を言いに行け」


その言葉に孝治は笑みを浮かべて頷いた。そして、アーク・レーベの後方にある物体を見る。


全長300m級の航空艦。航空戦艦ではなく輸送用の航空艦だ。ただし、浮遊能力を最大限まで上げた上で大部屋を作れるだけ作っている。


天界の技術者が徹夜して作り上げた避難用航空艦。それが七機も存在していた。


そもそも、天界はディザスターすら作り上げることが出来るのだ。ディザスターよりも小さな航空艦を二日で複数作り上げることは技術的に何ら難しくはなかった。だから、孝治はアーク・レーベに頼み作ってもらったのだ。


天界の脱出よりも崩壊の方が早いことに対する対抗策として。すでに航空艦には避難してきた人達が乗りこんでいる。


「花畑孝治。お前に感謝する。お前がいなければ今頃たくさんの命を失っていただろう。天界を代表して」


「アーク・レーベ。まだ終わっていない」


「そうッスよ」


孝治の言葉に賛同するように神速の速さで近づいてきた刹那が二人の間で立ち止まる。


「魔界との連絡が取れたッス。これで、崩壊した時の余波は心配しなくていいッスよ」


天界が崩落する際にどんな余波があるかわからない。だから、刹那は一度魔界に戻っていたのだ。


魔界で天界が侵攻してくる拠点周辺から兵を引かせ何が起きても大丈夫なようにしてきた。これに関しれは何が起きるかは誰もわからずそれの対策のために引かせたのだ。


予想できないなら最悪の想定を考えて行動する。今の孝治達の頭の中にはそれしかなかった。


「これで、魔界からの文句は少なくすみそうだ」


「魔王様は援助を申し出たんッスけどね。全力で止めておいたッス。魔界は天界とライバルだった。天界がどう思っていようとこっちはそう思っているッスから。ライバルだけど、天界は自らの手で動いているッス。だから」


「魔界の協力は嬉しいが、それを受ければ発作が出る人達がたくさんいる。ありがたいが受け取れないな」


「そういうと思ったッス」


二人は笑う。魔界と天界のNO.2同士が笑い合う。今までなら絶対に考えられなかったことだ。


いくら刹那がお人好しだからと言えど、いくらアーク・レーベが天界の民を助けるために頭を下げたとしても、本来ならこの二人は警戒し合わなければならない存在だ。それなのに笑い合っている。


全ては孝治のおかげだった。孝治がいたからこそ、天界はここまで避難も順調に行えている。


「後は、天界から脱出するだけですね。孝治さん。方法は何か考えていますか?」


「まだ話していなかったか。これだ」


その言葉と共に孝治は手のひらを虚空にかざした。それと同時に手のひらの前に小さなゲートが現れる。


「これは」


それを見たアーク・レーベは目を見開いて驚いていた。


ゲートは世界と世界を繋ぐ道を作り出すもの。もちろん、そんなものを作ろうとしたなら必要な装置は極めて高性能になってしまう。今の技術では不可能に近い技術を何個も使いながら。


だから、ゲートの発生のさせ方は未だによくわかっていなかった部分があった。個人が発動するには無理があった。


だが、孝治はそれを行っている。いとも簡単に。


「『影渡り』の原理を応用しただけだ。これさえあればあの大船団を音界に連れて行くことが出来る」


「なるほど。ゲート発生装置に頼らないゲートか。確かにそれならば妨害が発生しても脱出することが可能だろう」


「必要なのは俺と正の二人だがな。しかし、妨害?」


「シュナイトのことだ。どうやら、ここに残らせるつもりらしい。現在、ゲート発生装置への攻撃を確認している。こんな状況なのに全く理解出来ない」


「天界の住人半分と無理心中。どの世界においてもこんな犯罪を起こしたものはいないだろうね」


皮肉混じりに正が肩をすくめる。


アーク・レーベはおそらくその事を警戒していたのだろう。ゲート発生装置を破壊されればゲートは作れない。つまり、脱出出来ない。


脱出出来ないということは死と同じことだから。


「そうだ。孝治お兄ちゃんに」


ピリピリと走った緊張感の中、そんな緊張感を読まずにツァイスがポケットから手紙を取り出し孝治に渡した。


ニーナまでもがツァイスを呆れたように見ているが孝治はそんなことを気にせず手紙を受け取り軽く目を通す。


「ほう」


そして、顔をひきつらせながらニーナを見た。ニーナは頬を赤く染めてもじもじとしている。


その表情にアーク・レーベは目を見開いて驚く。


「まさか。孝治貴様! こんな幼子から告白だと! 羨ま、違った、羨ましい!」


「結局口から出ているッスよ」


「それに、孝治は彼氏持ちだよ。もしかして、アーク・レーベは独身?」


正がこの場をさらに荒らすことを言うとアーク・レーベは孝治は睨みつけた。


「ああ、そうさ。独身だ、独身だとも! こんな奴に私が負けたのか。いつからだ! いつから付き合っていた!?」


「11歳くらいか?」


「人界って早いんですね」


「さすがに二人が特別なだけッスよ」


アーク・レーベがその場で膝をつき、その姿を見ながら刹那が苦笑する。


「ところで、手紙の内容はなんだったんだい?」


どう見ても興味津々な正が意地悪い笑みを浮かべて孝治に尋ねる。孝治は小さくため息をついて手紙を正に渡した。


正は笑みを浮かべながらそれを受け取り、そして、眉間にしわを寄せる。


「さすがにこれは孝治がああいう顔になるわけだ」


「どんな内容なのだ!?」


アーク・レーベが詰め寄る。正は孝治ではなくニーナの顔を見た。ニーナは笑みを浮かべて頷く。そして、手紙をアーク・レーベに渡した。


アーク・レーベは親の敵であるかのように手紙をにらみつけ、そして、固まる。その後ろから刹那が内容を覗き込んだ。


「ふむふむ。『最後の灰の巫女であるニーナは本来、灰の巫女として生涯を終えるもの。灰の巫女としての役割を失った彼女は新たな人生を歩まなければならない。責任をとり、彼女を引き取ってほしい。灰の民一同』」


「責任だと。貴様! こんな子供に何をした!?」


「こいつは一度殴って止めたほうがいいのかもしれないな」


「殴ればいろいろと大変なことになると思うけどね。孝治、どうするんだい? 確かにニーナは巫女の役目を最後までまっとうした。彼女がいなければ今頃この天界は滅びていたかもしれない。そんな役目を果たしたんだ。手紙の内容は彼女が望むこと。君はどうする?」


その言葉に孝治は小さく息を吐いた。そして、ニーナに手を伸ばす。


「来るか?」


「はい!」


嬉しそうに笑みを浮かべたニーナは孝治に抱きついた。さすがのそれには困った表情をする孝治。それを見ながら正は苦笑した。


「後は音界の事情だけだね。これだけは連絡待ちだから仕方ないけど」


「お待たせ。音界の現状報告をしに来たよ」


「早かったな」


孝治が振り返る。すると、そこにいるルネは少しだけ息を切らし深呼吸をしている。


「現在、音界はレジスタンス同士で激しく戦っていたんだけど、天界勢力の介入もあって第三勢力が登場。レジスタンスは戦いをやめて撤退に移行したよ」


「ちょっと待て。意味がわからない」


理解できないという風に孝治が眉をひそめている。


「天界勢力?」


「そう。私が見てきた限りディザスターが五機と上空にクロノスの姿。アーク・レーベ。あなたの仕業?」


「いや、そんな指示は出していないが」


「シュナイトだな」


アーク・レーベが関わっていないなら犯人はシュナイトしかいない。


今の天界は全員が協力して脱出計画を進めているのだ。それを無視して音界で兵を動かすものはよほどのことをしでかしてきたものだろう。


「ルネ。撤退場所は?」


「おそらくフルーベル平原。ただ、先回りしている部隊がいくつかあるみたいだから結構やばいかも」


「そうか。アーク・レーベ、脱出準備を急がせろ。刹那は物資の搬入を手伝いに行ってくれ。ルネもだ。ツァイスとニーナは艦の中に。俺達はゲートの準備を行う」


全員が頷く。頷いて、そして、動き出した。


言わなくても孝治が何をしたいかは伝わっているからだ。このまま天界を脱出してフルーベル平原に向かうということを。


「位置はおそらくあそこだろうから時間は約4時間。それまでにフルーベル平原に到着しないといけない。間に合うのか?」


「間に合うんじゃない。間に合わせるんだよ。孝治。僕達は失敗するわけにはいかない。この意味がわかるよね?」


「絶対に成功させるさ。全ての世界のために」






崩落を始めた大陸。それを空に浮かぶ航空艦からニーナは見下ろしていた。


今の天界のちゃんとした歴史は長くはない。灰の巫女として継承した知識の歴史は長いがその中でたくさんの悲劇があったことをニーナは知っている。


灰の巫女はそんなたくさんの悲劇の中でも大陸を落とさせないために行動してきた。だが、それはここで終わる。


「やはり、心残りがあるようだね」


ニーナは振り返る。そこには苦笑を浮かべた正の姿があった。


「本当にこれで良かったのか未だに疑問に思っています。私が犠牲になれば大陸は浮いていたのではないかと」


「アカシックレコードは限界だった。だから、この判断は正しい。そう思うしかないよ」


「そうですけど」


正は優しくニーナの頭を撫でる。


「君は今まで巫女に申し訳ないと思っているのかな?」


「それもあります。歴代の巫女は命を賭して大陸を浮かせていました。ですから、私も」


「それは間違いだよ。誰もが犠牲を望んでいるわけじゃない。灰の巫女という役目が無くなる時、それは犠牲が無くなることだからね。むしろ、喜んでいるんじゃないかな?」


「わかりません」


そう言いながらニーナは目を伏せた。


これで正しかったかはわからない。だけど、この道を選んでしまったのだから。


「ニーナ。大陸の最後を見届けよう」


その正の言葉にニーナは振り返った。それと同時に大陸の崩壊が加速する。


自然に崩落しているのではない。正がアカシックレコードと繋げていた真理の追求レヴァンティンを切断したのだ。全ての航空艦が飛び立った今、大陸は必要ない。


「今まで、たくさんありがとうございました」


それを見てニーナはそんな言葉が口から漏れていた。


たくさんの悲しみがあった。だけど、たくさんの喜びや楽しさがあった。様々な存在が様々な一生を過ごした大陸が今、終わりを迎える。


館内にいる誰もが見ているだろう。ニーナと同じように涙を流しながら。


「孝治」


そんなニーナを見ながら正は背後にいる孝治に語りかけた。


孝治はスッと運命を掲げる。すると、大陸から光が溢れた。それはまるで、新たな世界に旅立つ住人達を祝福するかのような光。その溢れ出した光は全て孝治を、運命を目指して収束する。


「アカシックレコード。これから君達が必要となる大事な大事な力だよ」


「開くぞ。音界への扉を」


「そうだね。やろう」


孝治が運命の先を向ける。


「目指す世界は音界。道を作り上げるぞ!」

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