第二百十七話 殲滅戦
アークフレイが空を切り裂き飛来したエネルギー弾を叩き落とす。だが、アークフレイ一本で叩き落とせるエネルギー弾はたかが知れてる。
後方で起きる爆発の音を聞きながらハイロスはアークフレイを握る手にさらに力を込めた。
「残った数は?」
すかさず通信をしながらハイロスは後ろに下がる。目の前にいるレヴァイサンの部隊を睨みつけながらアークフレイを構えた。そのさらに後方には巨大な、それこそ天に届かんばかりの大きさのディザスターが四機見える。
『残り13です。ですが、内8機は射程圏外に待避しています。白騎士殿も撤退を』
「誰がこの場を支える?」
そう言いながらハイロスはアークフレイをしっかりと構えた。
悠聖達が戦場に向かった後、ハイロスは敵側の武装放棄をして拘束していた。だが、開いていた通信からゲイルが裏切ったことを知ると同時に基地から向かってきたレヴァイサンの部隊が襲いかかってきたのだ。
これをハイロス以下数名の有志で引き止め逃げられるだけ逃がしている最中である。
「アークフレイがあればあのような機体は恐れる必要はない。だから」
『わかりました。麒麟工房で』
13機だけであるがあれだけ武装していれば麒麟工房まで到達出来るであろうという考えだからだ。
実際に、あそこなら修理を行ってもらえる。
「どういうことだ? 恩を仇で返されたのか?」
レヴァイサンの一機が照準をハイロスに合わせた瞬間、ハイロスは地面を蹴っていた。そのまま加速してレヴァイサンに向かってアークフレイを振り抜く。だが、アークフレイはレヴァイサンの影から飛び出した何者かが剣によって受け止めていた。
まるで、オペラ座の仮面をつけた黒マントとタキシードの男によって。
すかさずハイロスは距離を取るために後ろに下がった瞬間、男は前に踏み出した。だが、その瞬間にはハイロスは前に踏み出している。
アークフレイの一閃。それは剣ごと男を斬り裂くには十分だった。だが、ハイロスは目を見開く。
アークフレイが通り過ぎたはずなのに男は平然として後ろに下がるのだ。まるで、亡霊のように。
そんなハイロスをレヴァイサンが捉えるのは簡単だった。レヴァイサンの方がエネルギーを溜めた瞬間、レヴァイサンの上空からエネルギー弾が雨霰と降り注いだ。
上空からの攻撃にレヴァイサンは耐えきれず破壊されていく。だが、その中でも亡霊のような男は平然と立っていた。それを見たハイロスがアークフレイを握り締めた瞬間、二人の誰かがそこに走り込んできた。
「ラウ!」
「わかってる!」
そして、男を中心に交錯する。二つの軌跡は確実に男を斬り裂くが男は無傷。そこまで行くとどう考えてもありえない。
「光を払い」
「闇を穿つ!」
交錯した二人が再度交錯する。
「「破魔光滅!!」」
その攻撃は男の姿を揺らがせ、そして、消え去った。
ハイロスはそれを見ながら鞘にアークフレイを戻す。二人、ミルラとラウの二人は息を吐いて手に持つ剣を鞘に収めた。
「あなた達は?」
「うーん、味方?」
「疑問にしないで。味方だよ味方。あの有名な白騎士じゃない。少し前までは立場上的だったけど、第76位胴体に協力している今は味方」
「そうだったね。ごめんごめん、ミスティお姉さん」
意味深く笑みを浮かべたミルラの言葉。その言葉にハイロスはすかさずアークフレイを抜き放とうとした瞬間、
「ストップストップ。お前らは戦いに来たわけじゃないだろ?」
二人の間に浩平が振ってきた。そして、呆れたように溜め息をつく。その周囲には20ほどのライフルが浮かんでいた。
「だが」
「白騎士も落ち着いて。今、この二人は敵じゃないから。今は何を言われたかはわからないけど、協力して味方の、レジスタンスの撤退を援護しないと」
「そうだ。通信を聞いていたのだが本当なのか? リーダーのゲイルがレジスタンスを裏切ったって」
「信じたくない気持はわかるよ。でも、事実。信じたくないなら基地に戻ればどうかな?」
「いや、レヴァイサン部隊が襲ってきた以上、信じるしかないだろう」
ハイロスは小さく息を吐いて手にかけていたアークフレイの柄から手を離した。それにラウがほっと息を吐く。
「それにしても、レヴァイサン部隊がここにもいるとはね。レヴァンサンはレジスタンスではメジャーな機体なのか?」
「いや、レヴァイサンは現存数が少ないはずだ。過去の戦争においてたくさんの惨劇を作り上げたのだから優先的に破棄されたと聞いている」
ハイロスはその話を聞きながら不思議そうに首をかしげた。何故なら、浩平がかなり険しい顔になっているからだ。その顔を見たミルラがクスッと笑みを浮かべる。
「だから言ったじゃん。レヴァイサンはこちらのレジスタンスの機体だって」
「いや、そうだとしてもおかしいような気がする」
「やっぱり浩平はわかっていないな。首都を襲ったのはレジスタンス。主力は確かにクロラッハ配下の部隊だけど、首都を壊滅させる役割だったのはゲイル配下のレヴァイサンだって言ったじゃん」
「いや、そうじゃないんだ。何かひっかかるんだが」
「首都を壊滅? どういうことだ?」
ハイロスが疑問に思って尋ねる。その言葉に浩平が顔を上げた。
「それだ! 奴らが首都を壊滅させるのがわからないんだ。ミルラの話を鵜呑みにすると、ゲイルは統治することも考えているんだろ。クロラッハはそういうの苦手とも言っていたし。だったら、そこがおかしいんだよ。首都を壊滅させる理由がわからないんだ」
「なるへそ。それは盲点だね。そうなると、ゲイルとクロラッハの関係性が大きく」
「私の話を聞け!」
ハイロスがアークフレイを抜き放ち地面に叩きつけた。とっさに三人が距離をとりながら武器を構える。
あの状況でもあの行動が行えるということはさすがというべきか戦闘病というべきか。
「詳しい話は後で聞かせてもらう。だが、今は撤退を援護するのが先だ。もう一つの出入り口はどうなっている?」
もちろん、戦闘中域に存在する出入り口のことではない。あそこではなく別のもう一つの出入り口のことだ。すると、浩平は笑みを浮かべた。
その笑みはまるでハイロスに大丈夫と語りかけるように。
「安心しろ。あっちには信頼できる奴が向かったから」
「信頼できるのかな?」
「むしろ、火力過多だと思うよ」
「ディザスター五機が襲いかかってきても殲滅可能な三人が向かったんだ」
それはそれで安心できないとは口が裂けても言えないハイロスだった。
紫電が迸る。それと共に爆発がレヴァイサンの群れを覆い尽くした。爆発に呑み込まれたレヴァイサンがあっという間に崩れ落ちていく。
その先には指先から紫電を散らす俊也の姿とその後ろに委員長がいる。
「花子さん、大丈夫?」
「うん、ありがとう」
そう言いながら委員長は俊也にもたれかかった。イチャイチャしているわけじゃない。基地から逃げていた委員長がようやく安心出来る人を見つけ出したからだ。
俊也は周囲を見渡す。まだ、基地からそれほど離れていないのにかなりの数のフュリアスがやられていた。
全部、レヴァイサンによって。
「俊也君がいなかったら今頃もう」
「大丈夫だよ。僕がいる。だから、少しだけ離れて欲しいな」
委員長がゆっくりと俊也から離れる。それと時を同じくして基地の中から数機のレヴァイサンが姿を現した。
「ミューズ。入り口を焼き払うよ」
『承認出来ない。それは体が保たない』
「大丈夫」
俊也が紫電の槍を作り上げる。
ノートゥングではない。ノートゥングは大量の雷の槍。一本一本は普通の槍だ。だが、対するこれは巨大な槍だった。
ノートゥングを全て一本に収束させた姿と言えばわかりやすいかもしれない。
「トールランサー。セット」
巨大な紫電の槍が俊也の右腕に付き添う。そして、俊也は腕を振った。
「バースト!」
そして、トールランサーが放たれる。放たれたトールランサーはレヴァイサンを砕き出入り口へと入るとそこで大きな爆発を起こした。
出入り口が崩れ落ちる。それと同時に俊也もその場に膝をついた。ズタボロになった右腕から血を噴き出しつつ。
「俊也君!」
すぐに委員長が俊也の右腕を治癒する。その治癒を受けながら俊也は出入り口を睨みつけた。
崩れた出入り口。だが、動いている。瓦礫の向こうからレヴァイサンが瓦礫を吹き飛ばそうと動いているのだ。
「花子さん。先に避難を」
「でも!」
泣きそうになりながら治癒魔術をかけつつ委員長が声を荒げる。そんな委員長を見ながら俊也は優しく笑みを浮かべた。
「大丈夫。僕は大丈夫。だから、お願い」
「嫌。絶対に嫌。俊也君、死ぬ気だよね?」
「レヴァイサンの数が多いみたいだからね。こうなったら基地内部のレヴァイサンを全機破壊しておかないと。レヴァイサンは戦火を拡大させた機体。そんなものを今の世に出させるわけにはいかないから」
「そうだけど、俊也君が戦わなくても真柴君や結城さん達が」
「それじゃ遅いんだ! レヴァイサンは長射程の攻撃兵器がある。それを使わせるわけには」
俊也の言葉が止まる。何故なら、二人の前に三人の少女が降り立ったから。
「全く。戦場で夫婦喧嘩は死ぬだけやで」
「リースを見ていたら全くそう思わないけどね」
「私と浩平は赤い鎖で繋がれている」
「それって糸より太い意味で使ったと思うけど浩平君が家畜みたいに聞こえるよね」
「うちらは赤い拳で繋がっているやな」
「それは単なる家庭内暴力だから」
「楓さん、光さん、リースさん?」
俊也の言葉に三人が振り返る。そして、同時に優しそうな笑みを浮かべた。
「話は聞いていたよ。基地を破壊すればいいよね?」
「破壊というより出入り口を封鎖するのが一番やない?」
「消し去る?」
「可能だけど大変だから嫌だな。今はともかく、瓦礫を砕く敵を倒すか」
そう言いながら三人は武器を構えた。
楓はカグラを、光はレーヴァテインを、リースは竜言語魔法書を、それぞれが最大限の魔力を込めて攻撃する準備を行っている。
そう。それぞれが、最大限の魔力を使って。
「軽く一射!」
「吹き飛べ!」
「消えて」
三人の声が重なった瞬間、出入り口が吹き飛んだ。正確には基地の一角が吹き飛んだ。
全力ではないが、火力を全力で制御した三人の一撃は的確に基地の一角を消し去っていたのだ。最大限の魔力は火力の制御に大半が使われている。
「どうして、三人が。首都は」
「俊也君落ち着いて。無事で良かった」
「うちらが負けるわけないやろ。ここでこんな話をしている暇はないな。すぐ向かうで」
その言葉に俊也と委員長が顔を見合わせた。
フルーベル平原。
数週間前の戦闘の後が生々しく残るそこは未だに戦闘の痕跡が数多く存在していた。もちろん、これを直そうと躍起になった人達もいる。だが、今の世界の情勢はそれすらも阻むものだった。
フルーベル平原の中でもここはフュリアスの残骸が多いのかたくさんのスクラップらしきものが転がっている。その数は数え切れない。戦闘があったことを如実に表しているものだった。
そのフルーベル平原にやってくる大量のレジスタンスのフュリアス達。その中でも三機のフュリアス、二機のエリュシオンと蝶の羽のようなスラスターとサブスラスターを持つ赤いフュリアス。
エリュシオンの一機は万能型の兵装なのだが、もう一機は無理矢理くっつけたようなロケットブースターを装着している。
『目立った混乱はなさそうだな。ガルシオンの状態も良好だ』
「こちらも新型だけど、こっちはブースターに以上があるみたい。どうやら試作段階で持ってきたのか」
セリーナはそう言いながらブースターを切る。異常と言ってもオーバーヒートであるためしばらくすれば直ると考えたのだ。
『ぐふふ。僕ちんのエリュシオンはそんなことありませんよ』
『『お前は無理矢理飛行するように改造したからだろ』』
そもそも、狙撃用の装備に長距離移動が可能な飛行パックは存在していない。
赤いフュリアス、ナイトが乗るガルシオンがyっくりと振り返った。色違いのガルシオンを先導にたくさんの機体や航空艦が続いてくる。航空艦には地上戦力が乗っているため空を飛ぶフュリアスの数も多い。
ここまでくれば一段落だろう。まだ、最高峰は戦闘中域を出ていないだろうけれど。
『ともかく、ここで簡易の防衛陣地を形成する。盾もなにもないが、周囲に散開して敵を警戒するしかない』
「散開するにしても敵なんている?」
セリーナの乗るエリュシオンがエネルギーライフルを構えつつ周囲を警戒しながら前に進む。
『あのな、ここは首都の近くだ。首都でクーデターを起こしたのはクロラッハ一味。もしかしたら、レヴァイサンの部隊がいるかもしれない』
「レヴァイサン。あの機体が」
『セリーナは知っているのか?』
「知っているも何も、私はあの戦争にも参加していたから。そして、家族を焼いたフュリアス」
『戦火を拡大したくそったれフュリアスだ。あれを集め始めた時は気が狂ったかと思ったが』
「この時のことを考えていた」
つまり、かなり昔からゲイルはナイト達を裏切るつもりだったのだろう。
『前方A3Q2。数6.おそらく、イグジストアストラル』
ゲッペルの声が響き渡った瞬間、ガルシオンが前に踏み出した。
『ナイト隊三機ついてこい。前方アストラルブレイズに近づく。もしかしたら、首都からやってきた機体かもしれない』
「私も」
『いや、俺で十分だ。セリーナはここを頼む。レジスタンスの新型機ガルシオンで十分だ』
その言葉と共にナイトのガルシオンを追いかけるように三機のガルシオンが飛翔する。全員が限界のはずだ。それでも、ナイトは自らをエースを自負しているからこそだろう。
セリーナは小さく息を吐いて正面とレーダーを凝視する。もし、攻撃されても敵が現れてもすぐに動きだせるように。
『セリーナ。おかしくないか?』
ゲッペルの言葉にセリーナが周囲を見渡す。
周囲にはフュリアスの残骸がある。数週間前にここで戦闘が起きたばかり。この戦闘で政府の軍は機能を麻痺させた。そう、九割以上が消滅という結果で。
そう、消滅という結果で。
「まさか」
セリーナはすかさず近くの残骸にエネルギー弾を放った瞬間、フュリアスの残骸が動き始めた。そして、エネルギー弾を回避してエリュシオンに飛びかかる。
「ヘクトバールか!」
残骸に偽装していたフュリアスはしなやかだがボロボロの体にブースターを背負い一本の剣しか持っていない。戦争初期に開発された特攻用フュリアス『ヘクトバール』。射撃はなく全て近接攻撃のみしか出来ないがその運動性能は高い。
セリーナはすかさずエリュシオンを半歩だけ下がらせたそれだけでヘクトバールが持つ対艦剣を回避する。そして、その隙に対艦剣を振り抜いた。
ヘクトバールが真っ二となり、今度こそ残骸となる。
「くそっ。ナイト! 罠だ!」
セリーナはすかさず通信を開く。だが、遅い。すでにガルシオンに何機ものヘクトバールが飛びかかっていた。回避は出来ない、そう思った瞬間、
空から降り注いだ漆黒の矢が飛びかかったガルシオン計23機を一瞬にして砕いていた。空を見上げたそこには、
大量の航空空母と巨大なゲート。そして、その先頭に立つ何人かの翼を持つ者達。色は黒もあったが半分は白。だが、例え黒でも、セリーナの目には天使に見えた。
『こちら第76移動隊副隊長花畑孝治。これよりレジスタンスの撤退を援護する』
次回は少しだけ時間を戻して天界に移ります。