第二百五話 魔科学VS科学
クラスターエッジハルバートをアレキサンダーに叩きつける。だが、アレキサンダーはその手に持つエネルギーソードでクラスターエッジハルバートを受け止めた。
「エネルギーサーベルを使えるほどの出力? アレキサンダーの出力源はどうなっているのかな?」
そう呟きながらもリリーナはクラスターエッジハルバートの刃でエネルギーソードを押さえつける。
『なんという力。このアレキサンダーがここまで押さえつけられるとは』
「それはこっちのセリフだよ。現状の科学で作り出せるフュリアスはこのベイオウルフに匹敵するエネルギーを作り出すことは出来ない。それなのに、アレキサンダーはエネルギーソードでこっちのクラスターエッジハルバートと拮抗している。普通ならありえないことなんだよ!?」
ベイオウルフの設計は魔科学時代ですら不可能とされた特殊な素材をふんだんに使っている。それによる耐熱性を使ったエネルギーサイクルによる永久機関の最大エネルギーはけた違いを通り過ぎて魔科学最強の出力を作り出すことも不可能ではない。
手軽さで言えば悠遠のFBD状態が最高ではあるが。
『このアレキサンダーに不可能はない。この機体は科学の結晶。あらゆる進化の形の現時点での終着点だ』
「進化の形?」
『そう。神が乗るに相応しい最高の機体。あらゆる全ての技術を仕様して作られたこのアレキサンダーは例えその機体であったとしても勝てるわけがない!』
「科学の進化の結晶。じゃあ、こっちは魔科学の結晶だよ」
アレキサンダーを大きく撃ち払いながらベイオウルフはしっかりとクラスターエッジハルバートを構える。
通常出力のクラスターエッジハルバートではアレキサンダーのエネルギーソードには対応しきれないのかすでに刃こぼれを起こしていた。
「クラスターエッジハルバートがあれだけの打ち合いでこんなボロボロに。推測されるエネルギーはベイオウルフに匹敵するよ」
呆れたように言いながらも驚いている。それほどまでにアレキサンダーは特殊な機体だと言うことだ。しかも、そのことはつまり、
「背中の方を撃たれたらダメージは大きいね」
ベイオウルフの一撃が極めて強力であること=同程度の出力を持つアレキサンダーは同等の攻撃力を持っている。
こういうことが成り立ってしまうのだ。しかも、背中の砲がその可能性を高めている。
「厄介だね。奥の手はあまり使いたくないけど、どうこう言っている状況でもないよね」
『神の異形を阻む敵はやはりこのような化け物でなければならない。英雄の機体であるアレキサンダーと対抗できるフュリアス。我が物語に相応しいではないか』
「このまま抜かれて攻撃されることを考えたら出し惜しみする状況じゃないよね。仕方ない」
『ならば、次は我が全てを破壊するために化け物退治といこうではないか』
アレキサンダーがエネルギーソードを構える。それに対してベイオウルフは両手を下ろした。
『何をするつもりだ?』
「ねえ、クロラッハ。悠人に、悠遠に簡単に破壊されてたよね? その機体」
『全ての元凶か。だが、このアレキサンダーは今までを遥かに超える能力を持っている。何故なら、この機体は極限の進化を行う究極の機体なのだから』
「じゃあ、見せてあげるよ」
ベイオウルフの体中から蒸気が噴き出す。ベイオウルフのあらゆる機関が最大限まで稼働し莫大なエネルギーを作り出す。そのエネルギーは内部を駆け回ることによりさらなるエネルギーとして生まれ変わる。
「ベイオウルフ、FBDモード」
エネルギーの輪廻によりその魔力はベイオウルフの体を赤く染めていく。
最大出力のベイオウルフさらなるオーバードライブを起こした最大を越える最大出力形態。もちろん、この状態が可能なのはベイオウルフだけである。
「行くよ、ベイオウルフ」
ベイオウルフが握るクラスターエッジハルバートが赤く染まり始める。ベイオウルフの熱量にクラスターエッジハルバート自体が耐えきれていないのだ。それほどまでの出力。
『なんだ、それは』
「魔科学の進化の極限。その眼にしっかり焼きつけるんだよ!」
ベイオウルフが前に飛び出す。そして、クラスターエッジハルバートを振り抜いた。アレキサンダーはクラスターエッジハルバートを受け止めようとエネルギーソードを構える。だが、クラスターエッジハルバートはそれごとアレキサンダーを吹き飛ばしていた。
『なっ』
クロラッハが驚いたように声を出す。それはそうだろ。
絶対だと信じていたアレキサンダーの出力ですら受け止められないような攻撃を放つフュリアスが目の前に存在しているのだから。
だが、振り抜いたクラスターエッジハルバートの被害は大きかった。一回振り抜いただけなのに根元から大きくひしゃげている。そもそも、ベイオウルフにFBDシステムを搭載する予定はなかったためこのベイオウルフに合う規格の武器がないのは仕方ないかもしれない。
もっというならそもそもFBDシステム自体が封印されるはずだったのに悠人がそれを使ったからでもあるが。
「クラスターエッジハルバートじゃ、ダメ。だったら」
すかさずベイオウルフは対艦剣を掴みアレキサンダーに斬りかかる。アレキサンダーもエネルギーソードでベイオウルフに向かって斬りかかってきた。だが、パワーはオーバードライブを起こしているベイオウルフの方が上。
対艦剣はエネルギーの刃を砕きアレキサンダーの右腕を破壊する。そのままベイオウルフはアレキサンダーを蹴り飛ばした。
『貴様!』
後ろに蹴り飛ばされたアレキサンダーは蹴り飛ばされながらも背中の砲を跳ね上げて肩に固定する。それを見たベイオウルフもすかさず背中の旋回式ブースターを戻してブースターにもなるベイオウルフ専用のグラビティカノンダブルバレットを腰にマウントした。
『死ね!!』
「いけっ!」
アレキサンダーの肩に固定された砲とベイオウルフの腰にマウントされたグラビティカノンダブルバレットの砲口から同時にエネルギーの塊が吐き出された。そして、二つがぶつかり合った瞬間、巨大な爆発を起こした。
「マズイ! FBD終了!」
リリーナは咄嗟にFBDモードを終了させてベイオウルフの全身をエネルギーシールドで包み込んだ瞬間、巨大な爆発の余波がベイオウルフをエネルギーシールドごと吹き飛ばしていた。
「あくっ」
大きな衝撃を受ける。山肌か地面に激突したベイオウルフの中でリリーナは一瞬だけ息が詰まった。だが、すぐに目を開けて前を見る。
爆風が過ぎ去ったそこには、こちらに向かって砲を構えるアレキサンダーの姿があった。
あの爆風の中で体勢を崩さず第二射の体勢に入ってる?
そう頭が理解するのと同時にリリーナはペダルを踏み込んでいた。そして、巨大な盾を取り出す。
『消え去れ!!』
そして、アレキサンダーの砲からエネルギーの塊が吐き出された。
衝撃。基地内の天井裏を音もなく走っていた音姫はその衝撃に思わず立ち止まっていた。
「攻撃を受けた? でも、この衝撃は」
周囲を警戒しながら音姫が走り出そうとした瞬間、衝撃がさらに大きくなった。そして、それはだんだん近づいてくる。
「【私を守って】」
咄嗟の判断で音姫が自分に音姫の加護を授けた瞬間、エネルギーの塊が音姫がいた場所を薙ぎ払っていた。
「なっ」
その様子をオレは要塞の向こう側から見ていた。
突如として生まれたエネルギーの塊が何かにぶつかって逸れた後、要塞でもある山に突き刺さり、まるで山を掘り起こすかの如く薙ぎ払われたのだ。もちろん、要塞内部もかなり薙ぎ払われているはずだ。実際に、エネルギーの塊が通り過ぎた場所では大きな爆発が起きている。
「ちょっ、悠聖。こっち来るよ!」
リリィがアークレイリアを握りつつ近づいてくる。それに呼応するように白騎士も傍まで来ていた。
リリィが言うようにエネルギーの塊は要塞を薙ぎ払いながらこちらに向かっている。それに敵も味方も完全に攻撃の手を止めていた。
「ちっ。全員、オレ達の後ろにつくんだ!!」
そう叫びながら、何人に聞こえているかわからないが、オレは『破壊の花弁』を前方に展開した。それに続いてリリィがアークレイリアを『破壊の花弁』に向ける。
反射と拒絶の力を『破壊の花弁』に与えているのだろう。後ろのフュリアスを敵味方守れるように『破壊の花弁』を最大限まで集めながらオレは最大まで魔力を『破壊の花弁』に注ぎ込んだ。
そして、エネルギーの塊が『破壊の花弁』に直撃する。
「っく。なんつう威力だ!」
「悠聖!」
『破壊の花弁』越しでありながらその余波でオレ達がゆっくりと後ろに下がる。もちろん、『破壊の花弁』は直接受け止めているためゆっくりとこっちに向かってきている。
「背中は支える」
その白騎士の声と共にオレ達の背中が支えられる。オレはそれに安心しながらアルネウラに語りかけた。
アルネウラ。あのエネルギーを消すのは可能か?
『無理。優月がいれば話は変わったけど、私の力だけじゃ止めるのは無理だよ。でも、私も全力でサポートするから』
お前がいれば百人力だ。だが、これはかなりまずい。
威力が高すぎる。ベイオウルフでもそれが可能かわからない出力。一体、どんな出力源を使っているのかが気になるが、これを耐えきらなければならない。
『精霊の叫び声』
そんな中、エルブスが小さく呟いた。
『精霊の叫び声が聞こえる。断末魔と言う表現が違う』
『それって、もしかして』
精霊結晶か。あれにそんな力があるというのか?
『精霊帝。行きましょう。あの場所に。あれは破壊しなければならないものです』
その言葉と共にエネルギーの塊が通り過ぎる。オレ達は脱力しながらその場に座り込んだ。振り返ってみればこの場で戦っていたはずの敵味方の数が半分くらい消え去っていた。残ったフュリアスも戦闘で斬るような状況じゃない。
「リリィ、白騎士。この場を頼めるか?」
「悠聖?」
「オレは向かわないといけないみたいなんだ。あの場所に。あのエネルギー源に」
エルブスが言ったからともあるが、もし精霊結晶が使われているならそれをどうにかしないといけない。精霊召喚師として精霊を犠牲にさせるわけにはいかない。
「ここはどうすうるの?」
「今の攻撃で敵も味方も戦意を失ったはずだ。私だけでどうにかなる。だから、早く行け」
「助かる」
その言葉と共にオレが走り出した瞬間、オレに並走するようにリリィも走り出した。
「悠聖一人でいかせるわけにはいかないから。止めても絶対に行くからね」
「仕方ない。リリィ、行くぞ」
「うん」
「うっ、あぁ」
ベイオウルフのコクピット内部で火花が散る。赤いアラームが鳴り響きベイオウルフの体に異常が出ていることを知らせる。だが、コクピットに座るリリーナは反応出来ないでいた。
咄嗟にエネルギーシールドを発生させる盾を取り出したものの、アレキサンダーが放った攻撃に受け止めきれることが出来ず吹き飛ばされて薙ぎ払われたのだ。ある意味、生きているのが奇跡と言う表現が正しいだろう。
満足に動かない腕を動かしてリリーナはレバーを掴む。そして、砂嵐が発生しているモニターを復活させるためにパネルを操作した。
最初に現れたのはベイオウルフの状態。四肢に、特に左腕に異常が出ているが動けないほどではないいメンテナンスすれば直るくらいの状態。だが、それ以上にリリーナの体の被害は大きかった。
頭からは血が流れ口からは血を吐いた後がある。さらには飛び散った破片が突き刺さったのか左腕から血を流している。
「うっく。まだ、まだ、終われ、ない!」
ゆっくりと起き上がる。だが、その動作は緩慢でありまともに動けないのは一目瞭然だった。
「まだ、私は」
『まだ生き延びているのか。あれほどの攻撃を受けながらまだ生きているとは。さすがは化け物だ』
「化け物なんかじゃ」
『終わらせよう。要塞と共に消し去ってやろう』
アレキサンダーがベイオウルフに向けて肩の砲を構える。
「悠人。っく」
『さようならだ』
アレキサンダーの肩の砲からエネルギー弾が放たれようとした瞬間、アレキサンダーが急に横倒しになった。そして、肩の砲からエネルギー弾が空に向かって放たれる。
『なっ』
そして、まるで引き寄せられるかのようにアレキサンダーが地面に叩きつけられた。だが、何事もなかったかのようにアレキサンダーは立ち上がる。
『一体何が』
『それはさせないよ!』
その子供と共にアレキサンダーが蹴り飛ばされる。アレキサンダーを蹴り飛ばしたのは一機のフュリアスだった。
「イージスカスタム?」
リリーナが小さく声を上げる。そこには確かに身構えるイージスカスタムの姿があった。
イージスカスタムに乗れるのは一人だけ。つまり、
『第76移動隊所属希望神白川七葉! リリーナはやらせないんだからね!』