第七十一話 現在と未来
いろいろとわかってきた。壁に背中を預けながらオレはそう思っていた。空には月が上がり世界をほのかに照らしている。
最初は狭間市の地域『GF』メンバーが全員失踪。微かな血痕を残して全員が消えた。
次には『ES』メンバー数名が金色の鬼に喰われる事件が発生。アル・アジフが鬼を捕まえようとしたが捕まえることは出来なかった。
そして、オレ達が狭間市にやって来た。狭間市にやって来た初日に琴美や都、そして、千春と出会い、鬼と戦った。
狭間市に伝わる伝承の中で存在する狭間の鬼。それは祟り神であり破壊神であること。最初は時雨達が約50年前に封印した破壊神だと思ったが、それとはなんら関係がなかった。そもそも場所が違う。
狭間市に来てから鬼との二度目の戦いで貴族派が介入してきた。結果は敗北。あまりの不意打ちと状況の差により負けた。
そして、学校が始まり貴族派が接触してきた。貴族派の目的は鬼の力で世界を救うこと。世界は滅びる運命にあるらしい。
だけど、疑問点がいくつかある。
どうして都や琴美に貴族派は手を出さないのか?
琴美は二週間後の春祭りで封印を強化する舞を狭間の巫女として踊ることになっている。だったら、貴族派としては琴美を狙えばいい。都だってそうだ。都は現時点では琴美よりもはるかに上手く舞を踊る。鬼も封印を強化されたくないはずなのに。
他の疑問点は狭間の鬼という存在。
確かに世界には神と呼ばれるものがいる。100年ほど前に慧海が戦った『穿つ神』や、50年ほど前に時雨が戦った破壊神など、歴史の紐を解いても数は少なくはないが存在する。
一番の疑問点は、何故未来を知っているかというところだ。
確かに正のように結果がわかっているように言うが、未来を知る力があるならエレノアはオレの仲間の仕方を探すはずだ。なのに、エレノアは別のやり方を取った。
未来の結果を知っていることと未来の過程を知ることは別物なのだろうか。
正も真相は知っていても詳細は知らないと言っていた。
オレは小さく溜息をつく。
「来たか」
オレはチラッと横を見た。そこにはオレと同じ体勢で止まっている正の姿がある。正が来ると思っていた。
「おや、僕が来ることをわかっていたのかい? まるで未来視を持っているんだね」
「勘だよ勘。まあ、お前みたいに未来を知っているわけじゃない」
「僕だって未来はわからないよ。こういう話を知らないかい? パラレルワールドという言葉を」
正が言いたいのは例えばオレがこのまま正と会話を切ったとする。その後の世界と今このまま正と話世界は微かに違ってくる。
同じ世界、同じ人物が違う行動をする可能性がある。それがパラレルワールドという話だ。
「あらゆる介入によって未来は変わる。確かに、僕はとある未来を知っている。でも、それが確定するかわからない」
「それが真相は知っているのに詳細がわからないということか」
「そうだよ。どうしてこの場所に『GF』、『ES』、貴族派が集まっている理由を知っている。多分、結果もね」
未来を知っているということはエレノア達と同じということか。なら、正の目的もよく似たものだろう。
オレは小さく息を吐いた。
「お前が求める未来は?」
「新しい未来を求めて」
それはまるで一度未来を過ごしたとでも言うかのような言葉。オレは微かに眉をひそめた。
だけど、言葉にはしない。多分、何も話してくれないし、話してくれたとしても嫌な予感がする。
「まあ、疑問点はいくつかあるけど、聞きたいことは一つあるな。未来を知るのは何人ぐらいいる?」
「そういう答えなら僕は答えられるよ。大体、1000人から5000人。でも、それを隠している人が大半かな。気付かない人も多い。君が知りたいことはそれだけかな? 本当は」
「いらん」
オレは小さくため息をついて、レヴァンティンを正に向ける。正は小さく笑みを浮かべてオレを見ている。対するオレは真剣な表情で正を睨みつける。
「お前が何をしたいかわからない。だけどな、お前が自ら自分の意思で助けようとしないなら、オレはお前の力は借りたくない。お前がどんな未来を求めているかわからない。わからなくても、お前の本当の目的はオレを助けることじゃないはずだ。自分の望む未来に進ませるための駒。違うか?」
「君はやはり聡明だね。まだ、13歳の子供には見えない。まるで、大人だ」
「オレはそうあろうとした」
レヴァンティンを鞘に収める。だが、今度は正が取り出した剣をオレに向けていた。その剣はレヴァンティンに似ている。
「そうあろうとして、潰される運命に会うと思わないのかい?」
「あるだろうな。でも、オレには支えてくれる人たちがいる。一人で戦っているわけじゃない。みんながいる。例え、オレが道に迷っても、行き先を失っても、道を間違っても支えてくれる人がいる。それだけだ」
「そうか。そうだね。君はそういう人だ。面白いよ。僕は決めたよ」
正はそう言ってオレに向かって剣を、いyた、剣からデバイスに戻したものを投げつけてきた。俺はそれを受け取る。
「ボク自ら作り出したデバイスだよ。君が持つレヴァンティンに似ているようにした」
「どうしてレヴァンティンを知っている?」
「オーバーテクノロジーには興味があってね。それは君が持っていて欲しい」
オレはデバイスを見つめ、そして、首を横に振った。
「いらん」
「君は、完成させたいのではないのかな? 二重強化を」
オレは正に向かってデバイスを投げつけた。正は薄く笑みを浮かべてデバイスを受け取る。
オレは正に背中を向けた。
「自分でやるさ。正、お前はどこまで介入するつもりだ?」
「今回は介入しないよ。とても面白いものが見れそうだからね。でも、もし、全面戦争になったのなら、僕は住民の避難所に向かおうとするよ」
「そうしてくれると助かる」
そのままオレは歩きだした。そんなオレに正は声をかける。
「君が進む道に幸あることを願うよ」
そして、正の気配が消える。移動したわけじゃない。移動したなら魔力粒子が動くため、むしろ動くがわかる。まるで、この世界から消えたように。
「レヴァンティン、どう思う?」
『今なんとも。ただ、なんとなく彼女の全容はわかってきました』
「ああ」
正は未来を知る一人。多分、里宮の誰かと同じなのだろう。
正が行動する理由は自分が望む新たな未来を求めて。それがどんな未来かわからないが、考えるだけで胸騒ぎがする。させてはいけないというように。
結果は答えることが出来るのだろうな。真相を知っていればオレ達が行動しやすくなる。戦い方を組み立てることが出来る。それを切り札に言ってきた。
『私から言えるのは、マスターが関わってはいけない人です』
「どういうことだ?」
『マスターと同じ匂いしかしません』
オレはその言葉に首をかしげながら次の目的地に向かって歩き出した。




