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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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第二百三話 アストラルルーラ

『おいおい、ちょっと洒落にならない事態になってないか?』


アンカーを放ちアージュを落としたルーイにクーガーが通信を開いてくる。


「話しかけるな。鬱陶しい」


『おいおいおい。さすがの俺でもその言葉は』


『クーガー。ルーイは戦っているんだ。待機している俺達とは違う』


『わかっえるよ。だがよ、作戦の前提が』


『変わっていません』


クーガーの言葉を遮りながらアストラルルーラと背中合わせになるようにリマのアストラルソティスが引っ付く。そのまま二機は高度を変えながら踊るように回転しつつエネルギーライフルの引き金を引く。


『まだ、その時点ではありません。状況はアルファ、チャーリー、デルタ、ヤンキーしか確認していません。こちらの、いえ、私達の作戦が大きく崩れる状況ではありません』


『あれ? ブラボーは?』


『クーガー。ブラボーはストライクバーストのことだ』


呆れるように言うラルフにルーイは同意するように頷いた。


ルーイ、リマ、クーガー、ラルフの四人はレジスタンスの作戦や悠人達とは別の作戦をとっていた。本らなら許されないことだがクーガーとラルフの二機、『栄光』アストラルレファスと『天剣』アストラルソティスは射撃機能を極限まで削った近接用の機体。


その二機を作戦に組み込むなら基地内の防衛になる。実際に基地内の防衛なのだが、それを無視して四人はある作戦を組み立てていた。


「エコーはもうすぐだ。クーガー、ラルフ、目に物をみせてやれ」


『奴らかすれば俺達がこんなところにいるなんて思わないだろうな、親友』


『ああ。だからこそ、敵の裏をかける』


「リマ、準備はいいか?」


『いきます』


その瞬間、ルーイはアストラルルーラの出力を最大限まで上げた。それにより背中の翼から溢れたエネルギーの粒子が噴き出す。


悠遠が持つFBD。それを簡易化してアストラルルータに搭載したのだ。発動条件は出力最大時。その機動力は極めて高くなる。


背中合わせになる二機は同時にフレキシブルカノンを取り出した。そして、引き金を引く。


アストラルルーラは前面に向かって。アストラルソティスは上空に向かって激しく動きながら射撃を行う。その射撃に回避しきれないたくさんのフュリアスが墜落を開始する。


フレキシブルカノンの攻撃を避けられるのは少ない。狙われたなら完全な運任せか悠人や周のような攻撃が当たると予測出来る機体のみ。


「状況アルファクリア。これより状況デルタへのクリアに入る」


『行きましょう、ルーイ。私達が最強のパートナー機であることを知らしめましょう』


「久しぶりだな」


ルーイは苦笑しながらフレキシブルカノンを投げ捨てる。そして、グラビティカノンダブルバレットを手に取った。


「リマとの共演は」


『隊長と副隊長になってから離れての行動が多かったから。ルーイ。背中は任せて。だから、私の背中を』


「ああ。守って見せるさ」






「状況デルタクリア。状況ヤンキーの打破はもう少し時間がかかりそうだな」


外の状況をデバイスで中継して立体ディスプレイに映し出しながらオレ達は長い廊下をかけていた。


リリィも白騎士もオレの背後をディスプレイを覗き込むように走っている。このままオレが止まったら大変なことになるよな。


『悠人。変なことを考えている暇があるなら出撃すれば?』


頭の中でアルネウラが呆れたように語りかけてくる。オレはそれに苦笑しながら立体ディスプレイを閉じる。ルーイ達が独断専行で作戦を立てることを考えてはいたけど、まさか、この状況からやるとは。


状況ヤンキー、敵の降下作戦があるのは完全に予想外だが、ルーイの中では状況アルファ、戦闘数段の殲滅はすぐにクリア出来ると判断して継続したのだろう。実際に、状況アルファはクリアし、状況デルタ、敵の中ほどまで侵攻を行っている。


このままだと状況エコー、敵の地上部隊の航空艦からの降下に強制的に移らすつもりだろう。


前線を支えているのはイグジストアストラル。その集中砲火で降下作戦に混乱したこちら側を立て直す時間を手に入れている。


今までのイグジストアストラルと違うのがよくわかる。覚悟を決めたと言うことだろうか。


「悠聖。何を考えているの?」


「今の状況。オレの推測が正しけらばかなり順調に進んでいる」


「順調なのか? 私達が駆けているのは降下作戦が予想外だったから」


「降下作戦自体は想定の範囲内だ。そもそも、そんな作戦自体を取るのは誰だって予想の範囲内だ。だが、相手からしてはリスクが高すぎる。だからこそ、優先順位は低かった。実際、要塞の迎撃機能は最大限生かされている」


混乱はかなりおさまり、上空への対空砲火は今では下から降る雨のごとく放っている。あの中で生き残れるのは悠人やルーイ、鈴やリリーナなどの特別な機体くらいだろう。


だから、敵は攻撃を強めるために地上への降下部隊を送るはずだ。だから、これから航空艦が前に出てくる。本当ならこのタイミングでの降下作戦が一番有効なのだけどな。


視線が航空艦に向いた瞬間に空への襲撃。航空艦からの降下部隊が本隊ならそれが定石。だが、それをしないということは別の作戦があうということ。


「相手が降下作戦をあのタイミングで行ったなら状況はズール。全26の状況の中で最もこちらの作戦で相性が悪いもの。だから、こちらは最大戦力を対抗策として叩きこむ」


その言葉と共にオレは地上への階段に足を踏み入れた。そして、手すりを蹴りながら一気に上に駆けあがる。そして、地上への扉を開けた瞬間、近くにエネルギー弾が着弾した。


拭きつける爆風を受けながらオレは『破壊の花弁デスペルタル』を前面に展開する。


そこにあるのは基地への入り口に向かって進撃してくるフュリアス部隊の姿。やはり、迂回部隊を送って来ていた。


「うわっ。本当にいた」


「愛する男なの信じていなかったのか?」


「いや、白騎士だって普通は信じないはずだけど?」


「当り前だ。なんかむかつくからな」


「むかつくって」


リリィが絶句するのを見ながらオレは苦笑しつつ向かってくるフュリアス部隊を指差した。


「さあ、オレ達の戦いを始めるぞ」






「ゲイルさん、大変です」


状況を見守っていたゲイルに慌てて声をかけるオペレーターの一人。その血相の変え方にゲイルは不安そうに眉をひそめた。


「敵の本隊とは別に二方向、この基地へ通じる大入口がある場所に向かって中規模のフュリアス部隊が迫っています!!」


「どっちのだ?」


「どっち共です!!」


悲鳴に近い声。その声は完全にその入口を守る分散させた部隊では対処が出来ない数ということを教えていた。


ゲイルはすかさず背後にいるケンゾウを振り返った。


「ケンゾウ、奥の手を出すぞ」


「仕方ないか。本当なら奴らの前では出したくはなかったが」


「このままでは不利になる。だから」


『あー、テステス。えっ? 大丈夫なの? コホン』


急に響いた声にゲイルの言葉が止まる。その声は音姫の声だったから。


『こちら第76移動隊副隊長白百合音姫。聞こえている?』


「こちらゲイル。聞こえている」


通信機に向かって怪訝な顔をしながらゲイルが言葉を返す。それに音姫は安心したように息を吐いたような音を出す。


『今から第三入口のフュリアス部隊を殲滅するから援軍は送らなくていいよ』


「はっ?」


その言葉にゲイルの目が点になる。


『そういうことだから。今は前面の敵に集中して。じゃあ、時間がないから切るね。あっ、そうそう。もう一つの方にも悠聖君がいるから。それじゃ』


通信が切れてもその部屋の空気は完全に固まっている。


ゲイル達ですらさっき入ってきたばかりだろ言うのに音姫はすでに迎撃態勢を整えているという報告だった。しかも、どちらにも対応しているという。


ゲイルは驚いた表情のままケンゾウに振り向いた。


「ケンゾウ、やはり」


「ああ。だが、今回は奴らに助かったな」


「ああ。あの二人が向かったなら大丈夫か。全軍に通達。そろそろ敵本隊が動き出すはずだ。今のうちに休めるものは休むようにと」






「さてと」


音姫は小さく呟きながら光輝を鞘に収めた。そして、土煙を上げて動く地走艦を見つめる。こちらから全速で逃げる地走艦を。


「俊也君。準備は出来た?」


振り返りながら尋ねる音姫は頬に飛び散った血を払う。そんな音姫の周囲に散らばるのは大量のフュリアス。だが、その全てが切り刻まれ復元不可能な状況になっている。


パイロットも絶命しており、この広大な破片が散らばる大地の上には音姫と俊也しかいない。


「大丈夫です。ですけど、いいんでしょうか」


不安そうに尋ねる俊也に真剣な表情をした音姫は頷いた。


「うん。今回はさすがにね疑問に思ったから」


「疑問ですか?」


「そう。だから、今の内に探してくるね」


「でも、そんな証拠なんて」


何を探そうとしているから伺いようはないが俊也の表情を見る限りそれはかなり作戦を逸脱した行為だと言うのはわかる。


「弟くんからはこういう時にこういうと思うよ。違和感を感じたなら動けって。さすがにね、疑問に思ったんだよ。だから、お願いね」


「わかりました。レーダーには戦闘しているように見せますから。カメラにも細工済みです」


「ありがとう。じゃあ、行ってくるね」


そして、音姫は走り出した。基地の中に向かって。


「さすがにね、クルシスのエネルギー源があれだとしたなら、クルシスを保有していたこのレジスタンスは怪しいよね」






「リマ」


『はい!』


アストラルルーラとアストラルソティスがお互いに弾かれ合う。正確にはお互いに蹴り合うことによって大きく距離を取ったのだ。そして、両者の間を駆け抜けるエネルギー弾をしり目にアストラルルーラはすかさず砲撃を放ってきた航空艦に向かってグラビティカノンダブルバレットの引き金を引く。


航空艦の上部が吹き飛び大きく火を上げた。


「状況デルタクリア。リマ」


『状況エコーの開始を確認』


航空艦から降下を開始するフュリアス部隊を確認しながらアストラルソティスは両手に持つエネルギーライフルの引き金を引く。乱射しているように見えて正確でこちらに攻撃してくるフュリアスを正確に撃破する。


『さすがに二機で的に飛びこむと囲まれますね』


「承知の上だ。それに、久しぶりで血が沸き立たないか?」


『ルーイもですか?』


嬉しそうにリマの表情を見ながら斬りかかってきたオルフェウスを踏みつけて飛び上がりながらアンカーで串刺しにする。そして、全力で振り回した。


伸びたアンカーの先についたオルフェウスは大量のフュリアスを巻き込みながら吹き飛び爆発する。


「リマ。少しだけ距離を取れ」


『はい』


アストラルルーラからアストラルソティスが離れた瞬間、アストラルソティスに向かってフュリアスが殺到する。だが、近づくより早くアストラルルーラの体中からアンカーが放たれた。全部で十に及ぶアンカーは周囲のフュリアスに確実に突き刺さる。


「アストラルルーラは室内戦最強のフュリアスだ。だが、お前達は知らなかったようだな」


その言葉と共にアストラルルーラが回転する。大量のフュリアスをアンカーとアンカーに突き刺さったフュリアスと巻き込まれたフュリアスに一駆けながらまるでアンカーで球体を描くように振り回す。そして、近くの航空艦に向けてそのアンカーを叩きつけた。そのままグラビティカノンダブルバレットの引き金を引く。


大量のフュリアスが突き刺さり体勢を崩した航空艦をグラビティカノンダブルバレットから放たれたエネルギー弾が貫き爆発を起こす。


『さすがですね』


その時にはアストラルソティスはアストラルルーラの背後に戻っていた。


「奴らは知らなかっただけだ。空中でも天地左右囲まれている時も最強であることを」


アンカー射出による巻き込みは極めて強力だ。だから、ルーイはそれを使った。並々ならぬ努力をして手に入れたものを。


アンカーを使って敵を振り回す以上敵は攻撃できない。攻撃できる相手だとしても不規則に動きながらの振り回しだ。当てられるわけがない。


これにより空中の部隊はかなりの数を失った。欲張ってアストラルソティスを破壊しようとしたのだが、それが二人の作戦だった。『悠遠』の力を持つアストラルルーラは回避にそれほど重要さを持っていない。だが、アストラルソティスは違う。回避が重要であるためそれに乗るリマの回避力は悠人に及ばないにしてもかなり高い。


悠人やルーイに及ばないにしてもリマも天才の一人なのだと実感できる状況だった。


「状況エコー確認」


ルーイがそう言うのと同時に二機は大きく飛び上がる。二機がいた空間を地上からの砲撃が切り裂いた。


砲撃の先にいるのは地上に一足先に降下した部隊だった。


「作戦を開始する」


『『天剣』アストラルソティス。敵を薙ぎ払う!』


ラルフの声が日々たと思った瞬間、どこからか極太のエネルギーの刃が振り抜かれ地上に降下したフュリアス部隊を一瞬にして真っ二つに両断していた。それと同時に隠れていたアストラルレファスが地上を駆け抜ける。金色の光を、『栄光』の力を纏いながら。


『『栄光』アストラルレファス。敵を殴り飛ばす!』


「『悠遠』アストラルルーラ。状況エコーのクリアを開始する!」

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