第二百話 音界大戦の始まり
大戦という割には規模が小さいかも知れませんが、何話続くかわからない大戦です。頭の中で構想はあるのですが何話続くかどうかが。
本当なら9月までにはここに到達したかったんですけどね。
遥か遠く、ここから一時間はかかるであろう遥か遠くにある膨大な黒い点。それをフュリアス専用スナイパーライフルで確認した僕は小さく息を吐いた。
ここから見えるのは航空艦だけなので敵の規模はわからない。だけど、来たのは確かだ。
「来ましたね」
後部座席に座るメリルが望遠の映像を見ながら呟いた。
僕は小さく息を吐いてレバーを握り締める。相手が作戦通りなら真っ先に来るのはあの機体のはずだ。
「メリル。本当に良かったの? メリルは後方で待機していた方が安全なのに」
「私は悠人を信頼しています。悠人ならば必ず、私を守り生き残ってくれると。それに、不安なんです。悠人もルーイもリマも鈴もリリーナも誰もかもがみんな今回は出撃しますから。後方で待機なんて出来ません。それに、私は見ないといけないから。この戦いの行く末を」
「そっか。わかった」
僕は小さく息を吐いてリリーナと鈴の二人と通信を開いた。二人は緊張した面持ちでコクピットの中に座っている。
『『悠人』』
「ははっ。二人も同じなんだ」
『そりゃね。狭間戦役や学園都市騒乱は経験しても本格的な戦争は始めてだし』
『うん。本来ならこういうことはしたくないけど』
『だが、戦わなければならない』
僕達の通信にルーイとリマが割り込んでくる。まあ、そこまで秘密の通信ってわけじゃないけど。
『いや、まあ、そうなんだけど、そうなんだけどね』
『そういう僕も緊張しているがな』
『ここまで大規模な戦いはありませんでしたからね』
「そうなの?」
ルーイもリマもこういう大規模な戦いを経験しているものだと思ったけど。
『こちらが大多数が大半だった。ここまで、数万対数万の戦いは初めてだ』
「数万」
ゲイルさんから聞いた話だと、こちらが動員する人数は一万強。対するクロラッハ側は二万弱ほどだそうだ。
こちらが防衛する立場だと考えても数の差はかなり辛い。
『悠人、どうした?』
「ううん。実感が無いなって。そんな戦争を体感したことがないし」
『戦争か。確かにそうだな。もう繰り返させないと思っていたのに』
ルーイの悔しそうな声に僕は小さく頷いた。
「だから、終わらせよう。真っ先に指揮官さえ撃破すれば大丈夫だから」
「ですが、悠聖の考えが正しければ撃破は難しいのではありませんか?」
「どうだろ。ゲイルさんの防衛策と比べて悠聖さんの防衛策は少しおかしかったから」
「おかしい?」
僕は頷いて素早くパネルを操作する。そして、通信を開いている全員にその理由であるポイントを丸で書いて送った。
作戦会議には僕とルーイしかいなかったから他のみんなは大まかな内容しか知らない。そう、大まかな内容しか。
あれは昨日の作戦会議のことだった。
「諸君、大規模な部隊がこの基地に向かって迫ってきている」
会議室に集まった部隊長クラスの人達と僕とルーイはゲイルさんの言葉を聞いていた。
「クロラッハ達もう一つのレジスタンスのグループは俺達のレジスタンスを消し去ろうと大規模な部隊を動かしている。その数は約二万」
その言葉に会議室の中がどよめく。
こちらの兵力も考えたら数万対数万。その規模から考えてほとんど第四次世界大戦ですら実現しなかった超大規模戦闘。全ての戦力をかけて戦うつもりなのだろう。
「対するこちらは約一万。兵の数は約二倍の開きがある。現在、非戦闘員及び戦闘の意志の無い者を逃がしてはいるが、怖気ついた者は今すぐ逃げるように通達を頼む。ここで逃げるのは間違ったはいない。それでも、歌姫様を守るために戦ってくらるものだけはここにいてくれ」
ゲイルさんの言葉に誰も動かない。誰もがメリルを守るために戦うつもりなのだろう。又は、このレジスタンスを守るために。
僕も、みんなを、メリルを守るために全ての力を使わないと。
「ありがとう。まずはこの地域の特性を知って欲しい。この基地は広大な森林と山の中に出来た要塞からなる天然の巨大要塞だ。侵入経路はいくつかあるが、大規模な部隊が入れる入り口は三ヶ所。この内、敵の進行方向上にあるのは一ヶ所だけ。残る二か所は進行方向とはほぼ逆側だ。ここからは非戦闘員を逃がしている。そのため、部隊の一割はここを守ってもらう。残る九割を敵の正面に展開する予定だ。ここで何か質問は」
誰も手を上げない。まあ、それが妥当だからね。
いくら非戦闘員を逃がすと言ってもそれには時間がかかる。この基地にどれだけの非戦闘員がいるかはわからないが、物資の関係もあるため運び出すには何往復も必要だろう。
そして、その機嫌は明日まで。間に合わない可能性も高い。
「では、作戦概要に移る。今回の敵の進路から考えて敵は正面から森を突っ切って攻めてくるはずだ。おそらく、まずは空中部隊から攻めてくるだろう。そのため、こちらもナイト達の部隊を当てる」
「いきなりエース級を当てるのですか?」
会議室のゲイルさんに近い位置にいる男が手を上げて発言する。
普通はそこでエース級を当てない。敵の攻撃がわからないからだ。もし、これが囮で味方ごと敵を打つつもりなら確実に生き残ることは出来ない。もちろん、僕や鈴、リリーナは生き残ることが可能だろうけど。
「敵もここが天然の要塞だとは承知しているはずだ。つまり、その要塞機能を失わせるために大規模な戦力で来る可能性が高い。だから」
「発現いいか」
ゲイルさんの言葉を遮ってルーイが手を挙げた。
「その役目、僕達歌姫親衛隊にさせてもらいたい」
「危険だ」
「なら、尋ねよう。僕達に匹敵する戦力と生存力を兼ね揃えた部隊はあるか?」
「それは」
ゲイルさんは言葉に詰まる。
防衛戦に強いイグジストアストラルを筆頭に歌姫親衛隊の戦闘能力は極めて高い。それが防衛戦だと仮定してもだ。
ルーイの力は防御に向いているし、僕には『守護』の力がある。リリーナはその出力を生かしたエネルギーシールド。敵が囮だとしても僕達なら確実に生存出来る実力もある。
「僕はレジスタンスの戦力を過小評価するつもりはない。だが、最前線、そして、その最初の戦闘において最も危険性が高い位置で僕達のような逆に殲滅する戦力を投入し主導権を得るのが理にかなっていると思うが?」
「だが、お前達の戦力はストライクバースト、敵の最大戦力と対抗するために必要だ。頼みのイグジストアストラルは防衛戦に強い機体だ」
そう。イグジストアストラルは防衛戦に強い。敵の戦力でイグジストアストラルで対処しなければならないのはストライクバースト。
「わかっている。だが、こちらの手が知れている部隊で戦えばお前達が隠していることは明るみには出ない。全体の作戦で主導権を得ることも捨てがたいはずだ」
「だが、相手がお前達ごと攻撃してきた場合はどうする?」
「安全に離脱出来る算段はある。『悠遠』の力と『守護』の力。防衛という観点では最強の悠遠の翼の二翼がここにある」
「いや、待って」
僕は思わず声を上げていた。
ストライクバーストはイグジストアストラルの発展型の機体という話を聞いたことがある。その開発コンセプトはイグジストアストラルとは違う。防衛ではなく攻撃。
「いきなりストライクバーストが来る可能性は?」
「悠人。いきなり突拍子もない話をするな。相手の最強の機体がいきなりのこのこと」
「だから、来る可能性がある」
扉が開き、そこから姿を現した悠聖さんが笑みを浮かべながら会議室に入ってくる。
「悪い。遅れた。作戦の全体概要的にはゆっくりと後退しながら防衛。一定の場所に来てから約140°からの一斉砲撃による殲滅。そうなんだろ?」
「何故、それを」
ゲイルさんの驚いた表情を見るとどうやらそれが正しいらしい。確かに、後退して敵に勢いをつかせたところで叩き潰す。敵の戦意は確実に無くなるし崩壊する可能性も高い。
だから、ゲイルさんは僕達が一番前に立つことを渋ったのだ。
「防衛戦には二つある。撤退防衛戦と籠城防衛戦。敵からすればここは天然の要塞だ。籠城されれば長期間の戦闘を強いられる。それをさせないから進軍が早まる可能性は大いに高い。だが、相手だってそれくらい考えている。籠城防衛戦にさせない戦い方。それは大規模火力による焼き払いだ。それが可能な機体は一機しかない」
「ストライクバースト」
「そう。撤退防衛戦を想定したとしても、ストライクバーストによって陣地を焼き払われたならこちらが一気に不利になるからな。どちらにしても、ストライクバーストを前に出す利点しかない」
「ストライクバーストをどうにか出来なければ作戦に支障をきたす」
「そういうこと。何か反論はあるか? 根拠とかは聞くなよ。あくまでオレが考えた推測だからな」
でも、その推測はここの弱点を明確についてくる。
ストライクバーストの武装だけはアル・アジフさんから全てを教えてもらっているけど、あの設定がある以上、一撃で陣地が壊滅するだろう。
「ゲイルさん。ストライクバーストを抑え込むために、僕達を、いえ、僕を最前線の戦闘に置いてください」
「悠人、正気か!?」
ゲイルさんが声を荒げる。会議場にいる人達も絶句している。
今回の切り札とも言える僕が最前線にずっと立ち続けるのは不可能に近いからだ。死ぬ可能性の方が高い。だけど、ストライクバーストを抑えられるのは僕か鈴、リリーナしかいない。
「ゲイルさん。ストライクバーストは僕が倒すよ。必ず、僕が」
『悠人。今の話に悠聖さんの防衛策が一個も出てないよね?』
「あれ?」
「悠人の決意表明でしたね」
『全くだ。その後の重要な話を抜かすなんて』
『悠人らしいけどね』
『失望しました』
いや、まあ、忘れていたってわけじゃないんだよ。言うことを飛ばしていただけで。
『えっと、ルーイ。結局、何がおかしかったの?』
『おかしな個所は二つ。クロラッハは来ていない。そして、この地域の防衛戦力は六割にして残る二か所の出口に二割ずつ戦力を置く』
「戦力を分散することでしょうか?」
「別動隊に警戒するらしいけど、別動隊の姿の報告が無い以上、その作戦は無意味だとゲイルさんがばっさりと」
『なんだろう。何か引っかかるんだけどね』
「引っかかる?」
リリーナが少し困惑気味に頷いた。
『悠聖の考えがおかしいのはわかるんだけど、悠聖の考え方ってもしかしたら時間稼ぎのためじゃないかなって』
「時間稼ぎ?」
『うん。どの出入り口も距離はある。今の戦力で別動隊が、それこそストライクバーストが来たら簡単に壊滅する。でも、二割あれば簡単にはいかないよね。その時間の間に私か悠人か鈴の誰かが向かう。この中で超高速移動が可能なのは私達三機と長距離転移が可能なルーイだけ。そう考えたら悠聖の考えてに一理あると言うか』
「難しいですね。彼の考えが読めない以上、何を考えているからわかりませんし」
「でも、今はここで敵を迎え撃つことを考えよう。ゲイルさんが先鋒を任せてくれたんだ。僕達はそれに応えるだけだよ」
『そうだな。全く。お前は物怖じしないのだな』
「ルーイこそ」
内心震えていると思う。だけど、後ろにはメリルがいる。隣にはみんながいる。
絶対にどうにかできるって根拠があるから。だから、僕は戦える。戦争の中でも戦うことが出来るから。
「悠人。何か急速に近づいてきます」
「戦闘は僕が向かう。みんなはこのまま隠れていて」
そう言いながら僕は傍らに置いていたクラスターエッジハルバートを掴み上げた。そして、上手く隠れていた森の中から一機に飛び上がる。
視界に捉える一機の機体。ストライクバースト。
『ほう。悠遠がお出迎えか』
最速でこちらに向かって飛翔するストライクバーストからマクシミリアンの声が響いた。
「敵が加速を開始。ストライクバーストが有効射程距離まで後30秒の距離まで来ています」
「ようこそ、と歓迎すべきかな?」
『手厚い歓迎をしてくれるみたいだな。そのような骨董品を持って』
「骨董品かどうかは試したらいいと思うよ」
あの距離からこちらの武装が完全に見えているのか。でも、大丈夫。こちらの手の内はまだ明かしきれていない。
「メリル。準備はいい?」
「はい。悠人。共に参りましょう」
「うん。悠遠。真柴悠人。一番槍行きます!」
クラスターエッジハルバートを握る悠遠とストライクバーストがぶつかり合う。ストライクバーストは腰の砲からエネルギーソードを作り出してクラスターエッジハルバートを弾いていくが悠遠は上手くエネルギーソードをかいくぐりつつクラスターエッジハルバートを叩きつけていく。
「小癪な!」
ストライクバーストが肩の砲を悠遠に向ける。だが、悠遠はすかさずクラスターエッジハルバートで肩の砲を下から叩き跳ね上げた。だが、それはマクシミリアンにとっては予想通りの結末。
ストライクバーストはすかさずエネルギーソードを振り上げる。クラスターエッジハルバートを振り上げた悠遠では回避も防御も出来ないタイミングで振り上げられたエネルギーソードは、クラスターエッジハルバートによって受け止められた。
「なっ」
マクシミリアンが目を見開く。そこにはクラスターエッジハルバートを右手で振り上げて左手のクラスターエッジハルバートでエネルギーソードを受け止める悠遠の姿があったからだ。
クラスターエッジハルバートは本来両手で持つ武器。デメリットしか存在しない中で悠遠は片手ずつに握っている。
「マクシミリアン。あなたがストライクバーストに絶対の自信を持っているのは理解している。なら、僕は悠遠とみんなが作り上げた武器を信じるだけだ」
そのまま悠遠はストライクバーストに斬りかかった。右手のクラスターエッジハルバートを左のエネルギーソードで受け止めるが悠遠がすかさずそこを支点に体を回転させストライクバーストに向かって蹴りを放つ。
とっさに反応出来なかったストライクバーストは大きく後退した。
「やはり、厄介だな。このストライクバーストですら捉えられない機動力。だが」
ストライクバーストがエネルギーソードを消滅させる。そして、全ての砲を悠遠、いや、悠遠の背後に向けた。
「私は私の目的を達成する!」
「させるか!」
悠人はすかさず悠遠をストライクバーストに向かって加速させる。そのままクラスターエッジハルバートで肩の砲を叩き大きく姿勢を崩すが、肩の砲と違い本来は砲口が下を向く腰の砲がストライクバーストの姿勢に合わせて砲口を動かしている。
すでにストライクバーストは射撃体勢。これを止める手段はない。本来なら。
「我らが手に入れる栄光のために!!」
「かかった。『創聖』!」
その瞬間、ストライクバーストの体が大きく弾かれた。下から上に向かって。
完全に姿勢を崩したストライクバーストの砲撃は雲を斬り裂き果てなき虚空へ消え去る。
「なっ」
すかさず体勢を立て直したストライクバーストを待っていたのは四本のクラスターエッジハルバートを四本の腕で操る悠遠の姿だった。
悠遠の人体で言う肩甲骨に当たる部分から生えたエネルギーの腕と腰辺りから生えたもう一本のエネルギーの腕。それらがクラスターエッジハルバートを握り締めているのだ。
「ストライクバーストは僕が抑える。だから、一生僕と踊ってろ!」
四本のクラスターエッジハルバートと共に悠遠はストライクバーストに向かって斬りかかった。