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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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第百九十六話 天界の秘密

エレベーターの扉が開く。開くと同時に武器を構えた、ではなく真っ青な顔をしたルネとニーナの二人がエレベーターのそばにある女子トイレに駆け込んだ。続いて真っ青な顔をした刹那とアーク・レーベの二人が女子トイレとは反対側にある男子トイレに入る。


残った孝治は運命を握り締めながら前に踏み出した。


「ここか」


孝治の視界に広がっているのはドーム状の空間。天界にあるまじき黒によって塗り固められた空間だった。だが、その黒はどこか暖かいように感じる。


孝治はさらに前に進みながら周囲を見渡す。視界の中に入ってくるのは壁一面に書かれた文字。


「これは、壁に描かれたアカシックレコードか?」


「ようこそ。世界の秘密へ」


孝治は運命を構える。すると、そこには漆黒のローブを身に付けた青年の姿があった。


「歓迎するよ、花畑孝治」


「お前は人間か?」


運命を構えながら尋ねる孝治に少年はクスッと笑った。


「お前は鋭いな。お前の想像だとオレは何になるんだ?」


「アカシックレコードに関係する神」


「惜しい。近いけど惜しい。さて、花畑孝治。お前はここに来て何をするつもりだ? このアカシックレコードを見て」


その瞬間、壁に赤が走った。いや、文字が赤くなっているのだ。それも一部。今や壁の半分ほどが赤くなっている。


「これは」


「花畑孝治。お前がここに来ることはすでにアカシックレコードに予言されていた未来。今、赤い文字が走っている部分があるよな?」


その言葉に孝治は頷く。そこに書かれていたのは音界にいる光が怪我をするという内容だった。おそらく、未来が書き換わったのだろう。


良い方向か悪い方向かはわからないが。


「アカシックレコードは記述通りの未来にならなければ力を失う。それは星があるべき姿を取っていないから。だが、それは善知鳥慧海にとっては好都合な未来」


「慧海さんにとって? 天界が滅ぶことがか?」


「それは秘密だ。それを教えるのはオレの役目ではないしルール違反だ。アカシックレコードに書いてある記述を外に持ち出し他人に話すのと同じルール違反。だが、オレはアカシックレコードが力を失う未来を夢見ている」


「何故?」


「最後を読めばいい」


青年が指差したところにあるアカシックレコードに孝治の目が移る。そこにはただ一文だけが書かれていた。


世界は滅びる『       』によって。


真ん中の文字はわからない。削られているわけではなくただ見えないだけ。


「天王は必死に天界を救おうアカシックレコードの記述通りに事を進めようとした。だが、最初の狂いはここだ」


そう言いながら青年が指差す。そこには今までもちらほらあった赤い文字列とは違う、はっきりと長くに渡って赤くなった文字列。


白川七葉は死に、海道周と白川悠聖は悪魔の道を歩む。


最初はこう書かれていた。つまり、未来が書き換わったため後の未来も真っ赤に染まったのだ。


「花畑孝治。お前は何を考える?」


「何か起きたというのか?」


「それを語るのはオレじゃないさ。オレが直々に語るのは反則というべきだからな。お前が正しい未来を掴み取ることを祈っている」


その言葉と共に青年の姿が消えた。孝治はそれを見ながら小さく息を吐く。


青年とは何だったか謎が残る。だが、それを考えるのは今じゃないからだ。今考えなければならないのは、このアカシックレコードの記述。


「アーク・レーベ。ここのアカシックレコードは模写されたものではないのか?」


だから、孝治は背後から迫るアーク・レーベに尋ねた。アーク・レーベは孝治の隣まで来てからはっきりと頷く。


「この模写版はアカシックレコードと密接にリンクしている。アカシックレコードの記述と異なる未来があればこの模写版にも反映される仕組みだ」


「そういうものなのか?」


「ああ。数種類の神剣が関わっているらしいが私の知らないところだ。模写版の赤い文字は未来が変わったということ。特に」


そう言いながらアーク・レーベが指差したのは七葉が死んだから始まる赤い文字列だった。


「あの位置に担当していたアカシックレコードによって浮遊していた大陸は、未来が変わったことによって一瞬にして崩落した」


「有名な話ッスよ。魔界でもこの機に攻め入ろうという話があったッスけど、魔王様が一喝して止めたッス」


「崩落した大陸の大半は灰の民の集落。民がどういう反応をしたかわかるか?」


「天罰」


たった二文字の言葉にアーク・レーベは頷いた。


巻き込まれた大半は灰の民と灰の民に親しかった人達なのだろう。それにより天界は混乱した。混乱したからこそ、天界の民はその罪を灰の民になすりつけた。


「黒というのは優れたことではない。白想の塔はその概念を浸透させるもの。だが、その強制力はそれほど高いものでは無かった。だから、その時までたくさんの人が灰の民とは親しかった」


「だが、大陸が崩壊したことによって灰の民は存在自体が忌み嫌われるものとなった」


「ああ。マクシミリアン様と当時の巫女が話し合った結果、今のように隔離されることになった。それが今の天界の現状だ」


その言葉に沈黙が舞い降りる。


天界で灰の民が本格的に差別されるようになったのは人界で死ぬ運命にあった少女が死ななかったから。理由としては残酷だと言えるだろう。


たった一人の命が救われたためにたくさんの人の命が失われたのだから。


「一時は白川七葉を殺そうという勢力もあった。殺せば歴史は修正されるはずだという考え方のもとにな」


「それはまたアカシックレコードに違反する可能性があるんじゃないッスか?」


「マクシミリアン様はそのために暗殺計画を止めさせた。だが、アカシックレコードの記述と今の歴史はかなり変わり始めている。そして、白想の塔が破壊された以上、運命の歯車は回り始めた。天界の崩壊の日時がわかるくらいに」


その言葉に孝治と刹那の二人は目を見開いて驚いた。


避難誘導が始まっている以上、アーク・レーベが言う日時には猶予がないということがわかるからだ。


「だから、ほんの少しでも天界を延命させるために、昔の盟約を使うつもりだった」


「盟約?」


「ああ。天界、いや、浮遊大陸が浮かぶ理由。アカシックレコードの力だけでは不可能なことが多い。それをカバーするのが」


「私達灰の民の巫女の祈りです」


その言葉に孝治は振り返るとそこには灰色の巫女服を着たニーナの姿があった。その後ろには困惑したルネの姿。


「灰の民はその特殊性から特別な力があります。それは、一ヶ所に集められた力を伝播する力。それが私達巫女の力です」


「我らと灰の民が結んだ盟約は単純明快だ。灰の民はその色から疎まれる。最悪虐殺される可能性がある。それを天神や我ら五神が守る。もちろん、裏からだ。その代わり、灰の民の巫女は人柱となり、浮遊大陸を浮かす生贄となる。古き世の盟約だ」


「つまり、ニーナを生贄として浮遊大陸を少しでも浮かそうとするつもりッスね」


「肯定だ。少しでも時間を稼げば救える人は多くなる。それを良しとするかはお前次第だが」


アーク・レーベが、いや、誰もが孝治を見る。


この場のリーダーは孝治なのだから。


「俺は」


孝治が運命を握り締めたその瞬間、エレベーターが突如として開いた。だが、中には誰もいない。そう、誰もいない。


それにアーク・レーベが身構える。


「馬鹿な。あのエレベーターは中に人がいなければ動かないはずだ。下で閉まれば上にいく仕様になっているのに」


「ニーナ!」


「はい」


孝治の言葉にニーナが走り出した瞬間、ルネが動いた。腰のホルダーにあるナイフをすかさず投擲する。誰もいない空間に。


だが、ナイフは突如として弾かれた。それに孝治が反応する。


「断ち切れ! 運命!」


概念すら破壊した運命の一撃が完全なハインドスキルを使用している何者かに振るわれる。


すると、そこから巨大な純白の斧が現れた。続いて純白の鎧を着た大男が。


「ようやく見つけたぜ、裏切り者と虫けら共。このヘラクレス様がぶっ壊してやるよ!」

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