第百八十三話 合流
浩平の手に握られたフレヴァングが弾丸を吐き出す。それは正確に浩平に向かってエネルギーライフルを構えていたギガッシュの動力部を貫き沈黙させていた。そのまま双拳銃に持ち替えつつフレヴァングは背中に背負う。
「ふっ。アクション映画に出たらスタンディングオペレーション貰える技術だな」
まるで自己陶酔するような笑みを浮かべながら浩平は大きく飛び上がった。建物の壁から。
宙返りを行いつつ双拳銃の引き金を連続で引く。交差された腕に握られた双拳銃は必死に浩平を追う兵士達が持つ武器を正確に叩き落としていた。
カッコ良く着地を決めた浩平は振り返りながら双拳銃を戻し、フレヴァングを握り締めてしっかり構える。その周囲には大量の銃が浮かんでいた。
追いかけていた兵士達が慌てて物陰に隠れる。
「吹き飛べ」
その言葉と共に全ての銃口からエネルギー弾が放たれ大通りに大きな傷跡を残した。それこそ、フュリアスが歩くことが難しいくらい凸凹の傷跡を作り出す。
その爪痕に笑みを浮かべながら浩平は背中を向けて走り出した。
「スタコラサッサっと。大通りでのフュリアスが行動するのは難しくしたから、後はアル・アジフさんと合流を」
「動くな!」
浩平の前をエネルギーライフルを構えた兵士が塞ぐ。だが、浩平はすぐさま距離を詰めて兵士を背後に投げ飛ばした。兵士は地面を転がってすぐさま起き上がる。
だが、そんな兵士の前にひしゃげたエネルギーライフルが落ちてきた。
浩平が呆れたように溜め息をついている。
「あんまり敵の前に立つなよ。問答無用で殺されることがあるからな」
「お前は、何なんだ?」
兵士が浩平に尋ねる。その言葉に浩平は笑みを浮かべた。
「正義の味方さ。ところで、基地ってこっちであってる?」
そう言いながら今から向かう方向を指差した浩平は笑みを浮かべた。
「こんなことをしておると我らは悪の組織じゃな」
「実際、現在の俺達は悪の組織だ」
楽しそうに言うアル・アジフに呆れたようにグレイルが言葉を返した。そんな二人を緒美は周囲を警戒しながら見ている。
三人がいるのは軍基地の真っ只中。七葉がイージスカスタムを狙う以上、合流するには近い方がいいと考えて緒美とグレイルと合流したアル・アジフは隙を見て基地に侵入したのだ。
ちなみに、浩平とは全く逆の方向に向かっている。浩平だけは基地ではなく首都外に向かっているのだ。
浩平のおかげというべきか、基地内に兵士の姿はかなり少ないが。
「さて、これからの動きを確認するぞ。我らがいるのはここじゃ」
そう言いながらアル・アジフは地図を指差す。続いて、指を動かしてもう一点を指差した。
「次に目指すべき場所がここじゃ。イージスカスタムが置かれた格納庫。もし、七葉がイージスカスタムを取り戻せたならここで防衛戦が張られているはずじゃ。我らはそこに敵の背後から突入しこじ開ける」
「そのまま総戦力で離脱するのか。本来なら馬鹿げた作戦だが」
「我らの力があればそれすらも可能とする。イージスカスタムはそれを頑固なものとする貴重なパーツじゃ。攻撃力、防御力共にフュリアスキラーの名に相応しい」
イージスカスタムの何が強いかと言うと地上における極めて高い機動力とフュリアスの天敵である頸線を使う上に防御力も高いからだ。
イージスカスタムは対音界として造られたと言っても過言ではない。ただし、七葉しか扱えないが。
「我らはこのままインビジブルを使用しつつここに向かう。そして、合流するのじゃ」
「そう上手く行くと思っているのか?」
その言葉にアル・アジフが魔術書アル・アジフを開きながら振り返った。そして、驚いたように目を見開く。
そこには一人の黒いサングラスをかけた髭面の男がいた。ただし、優月をそばに付き従えた男だ。その手にあるのは薙刀。
「まさか、まんまと罠に嵌るとはな」
「そなたが罠というならまさにそうじゃな」
緒美が静かに簡易杖を取り出す。だが、男は軽く一瞥しただけだった。
「降伏しろ、アル・アジフ。お前では、いや、精霊の力に頼らないお前達では私達には勝てない」
「ど、どういうことですか? そ、それに、優月ちゃんはどうして」
「どうして私達に従っているか、か? 簡単だ」
「緒美。そなたはグレイルを連れて先に向かうのじゃ」
「でも」
アル・アジフは素早く二人にインビジブルの魔術をかけた。二人の姿が見えなくなる。だが、足音はする。
「逃がしたか」
「そうじゃな。そなたを相手にするなら我や緒美では勝てぬ。それに、優月もいるしの」
「ごめんなさい。私がいるからアル・アジフさんは」
「誤解するではない。こやつらはそなたを絶対に傷つけぬ。それは確信しておるからの」
「そうだな」
男は楽しそうに笑みを浮かべる。そして、薙刀を構えた瞬間、基地の一角で爆発が起きた。
あまりの爆発に誰もがそちらを振り向き、そして、アル・アジフが動く。
男が反応するより早くアル・アジフの足が跳ね上がり男の顎を蹴り飛ばそうと唸りを上げる。だが、男はそれを回避して薙刀を構えた。
「その加速。何故だ?」
「ありえないと思っているの。我はアル・アジフ。世界最古の魔術書にして世界最強の魔術書。じゃが、我がいつ魔術以外のことを出来ぬと言った?」
そう言いながらアル・アジフは腰を落とし右手を前に出しながら左の脇を閉める。
「我流武術か!?」
「混合武術と言って欲しいの。由姫や愛佳には余裕で負けるレベルじゃが、魔術を使わなくとも戦える貴重な武器での」
「厄介だな」
男が薙刀を構える。そんな様子を優月はハラハラと見つめていた。
優月が知るアル・アジフは遠距離型だ。普通に接近戦でも大火力の魔術を行使するけど一応は遠距離型だ。だから、近距離で格闘をするアル・アジフはイメージにない。
「あの二人を逃がしたのはそういう理屈か!?」
「そなたはかなり鈍ったようじゃからな。精霊界でイチャイチャし過ぎて力を失ったか?」
「だが、私達が優位には変わりはない。覚悟しろ、アル・アジフ」
「やってみるかの? 若造」
アル・アジフが笑みを浮かべる。対する男の顔に浮かんでいるのは険しい顔。
「年寄りを舐めるでないぞ。我の体は最近グレードアップしたばかりじゃからな」
「なん、だと。機械の体をグレードアップだと。かなりマズくなってきた」
「えっと、どういうこと?」
何故か押されてきた男に優月は不思議そうに首を傾げる。対するアル・アジフは涼しげな表情で笑みを浮かべた。
「まだまだ修行が足りてないの。さて、終わりに」
「アル・アジフさん! 伏せろ!」
その言葉と共に空が輝くと大量の光弾が男を狙って降り注いだ。大量の爆発が起きてアル・アジフは男から大きく距離を取る。そんなアル・アジフの隣に空からフレヴァングを構えた浩平が降り立った。
「無事、みたいだな」
「相変わらず無茶苦茶するの」
「ありがとう」
「褒めてないからの」
アル・アジフが呆れたように溜め息をついて浩平の手を取りながら走り出す。浩平は手を引かれるまま走り出し、そして、優月の姿を視界に収めた。
「アル・アジフさん、優月ちゃんが」
「大丈夫じゃ。あやつは敵じゃが優月を傷つけることはない」
「敵に捕まったら基本は裸にされてりょ、へぶっ」
アル・アジフの拳が浩平の鳩尾に埋まる。急な一撃にさすがの浩平も対応しきれず大きく体を浮かせ、着地した瞬間には何事もなかったかのように走り出した。
さすがは浩平。普通なら歩けるような威力じゃない。
「そなたはエロゲのやりすぎじゃ。現実はもっと酷いぞ」
「うわっ、なんか生々しい。つまり、アル・アジフさんは敵に捕まって」
「捕まえた敵を三日間かけて拷問にかけ、情報を引き出した後に廃人にした経験を話した方がいいかの?」
アル・アジフは浩平の手を離しながらにっこりと笑みを浮かべた。対する浩平は真っ青な顔をして首を横に振っている。
アル・アジフは小さく溜め息をつき、そして、背後を振り向いた。そこにいる優月と、土煙に巻かれた優月を心配する男と女性の姿を見て笑みを浮かべた。
「そなたらを助けるのは我ではない。悠聖じゃ」