第百七十九話 帰還
目の前に隠された発着用出入り口が開く。僕はそこに悠遠の体をゆっくりと入れた。続けざまにベイオウルフ、アストラルルーラと入り、最後にイグジストアストラル、アストラルソティスが入ってくる。
出口の外にはレジスタンスのフュリアスが何機も周囲を警戒している。さすがに、あんな連絡が行けば警戒してくれるよね。
小さく息を吐きながら悠遠を着地させてコクピットを開いた。
「悠聖さん、乗り心地は大丈夫でしたか?」
「静かに」
コクピットから顔を出すとそこには悠聖さんの腕の中で眠っているルーリィエさんの姿があった。確かに、静かにするよね。
「リリィは頑張ったからな。ちょっとくらい休んでてもいいだろ。それに、色々あったし。悠人。オレ達は先に部屋に戻ってる。後のことを押し付けることになるけど」
「大丈夫です。僕は『歌姫の騎士』だから」
「そっか。後は頼んだ」
悠聖さんはそう言うと悠聖の手のひらの上から飛び降りてそのまま歩き出した。ちょうど進行方向にいたゲイルさんと一言二言話してからそのまま奥の通路に向かう。
通路に入る際にはルーリィエさんを心配した音姫さんも一緒だった。
僕はコクピットの前部座席を倒してメリルに手を差し出す。メリルはその手を取って後部座席から降りた。
「悠人。悠人は少しだけ休んでいてください。ずっと戦っていて疲れているはずですから」
「ううん。僕は大丈夫。メリルの隣にいるから」
「わかりました」
僕はメリルの体を抱えるとそのまま床に向けて飛び降りた。上手く着地をしてメリルを床に下ろす。
「歌姫様、悠坊」
その声に顔を上げるとそこにはすまなさそうな顔をしたゲイルさんの姿があった。実際にゲイルさんはそう思っているに違いない。
僕達がクロラッハ側のレジスタンス拠点に行くために用意してくれたクルシスは完全に敵側の人員だったから。
「すまない。謝ってすむような問題じゃないことはわかっている。だけど、こうなったのは」
「顔を上げてください。私達はまだ誰も失っていません」
「だが」
「ゲイル。顔を上げなさい」
メリルの命令によってゲイルさんは顔を上げた。そんなゲイルさんにメリルは優しく微笑む。
「私達は大丈夫。これで、敵をかなり絞れましたから」
「俺達と政府。クロラッハ達のレジスタンスと天界。そして、セコッティ」
「いえ、セコッティはクロラッハ側です。つまり、最終的には二つの勢力の争いとなってます」
二つのレジスタンスを中心とした勢力争いと考えたらわかりやすいかな。でも、そうなると政府の中にいる裏切り者達がどうなるのかも不安になってくる。
この音界に来てから降り積もるたくさんの懸念。それが一気に表面化しているような。
「ゲイル。今すぐこの基地から非戦闘員の退避と保存食の準備を」
「それはすでに行っている。非戦闘員の内女子供は有無を言わさず、男は希望者だけを逃がした。保存食に関しては三ヶ月分は持つ量を搬入している」
「ちょっと待って。メリルもゲイルさんも何の話を」
二人の会話についていけなかった僕は二人に尋ねた。すると、二人は顔を合わし、頷き合ってメリルが僕に顔を近づける。そして、耳元で囁いた。
「これから、この基地は相手側の総戦力で攻撃を受けるはずです。レジスタンスと天界が手を結んだとバレたなら邪魔者を消し去るのが普通です。つまりは、このレジスタンスを消しに来ます」
「じゃ、今の会話は」
「レジスタンスならレジスタンスらしく、しぶとくゲリラ戦でも仕掛けましょう」
ゆっくりとリリィをベッドに寝かせる。リリィは完全に熟睡していて起きる気配はない。
リリィが新たに手に入れた力であるアークセラーの拒絶する力。リリィの話によると魔力消費が激しいらしい。まあ、名前通りなら強制的に弾くらしいしな。
「悠聖君。大体の概要は聞いているけど詳しく話してくれないかな?」
「わかっています。ただ、今回は音姫さんとも因縁深い話があるので」
「因縁深い話?」
「血塗れた宝剣」
その言葉に音姫さんが微かに目を見開いた。そして、すぐさま表情を戻して口を開く。
「もしかして、模写術師?」
やはり、音姫さんは鋭い。
連絡では模写術師ではなくセルゲイが襲いかかってきたになっているはずだ。連絡をしたのは悠人とメリルだからそうなる。
なのに、血塗れた宝剣の名を出しただけで音姫さんは模写術師の名前まで出てきた。
「はい。セルゲイをコピーしていた模写術師が血塗れた宝剣を使ってきました」
「じゃ、模写術師は二重装填なんだ」
「いや、錬金術師でダヴィンスレイフも使ったので三重装填です」
さすがにそれは予想だにしなかったのか音姫さんが完全に固まる。
昔ならいざしらず、今の時代に錬金術師を使う場面はまずなく、ほとんど趣味の領域で錬金術師を名乗れるレベルに到達するのはほんの一握り。模写術師は一回だけだが錬金術師らしいことはしていた。
そもそも、模写術師自体が珍しいのにその中でも歴史上たった一人しか存在しなかったとされる三重装填なのだ。さすがの音姫さんも目を見開いて驚いてしまうだろう。
「悠聖くん。嘘じゃないよね?」
「その気持ちはわかりますけどね。錬金術師のレアスキル模写術師持ちで三重装填。この目で見なければ信じられなかったと思いますし」
「模写術師が使う模写能力が、闇属性精霊第二位のセルファーが扱うダヴィンスレイフと血塗れた宝剣と」
「今はエッケザックス」
本音を言うならかなり戦いたくない相手だ。そもそも、血塗れた宝剣ってだけでかなり戦いたくないのに。
「ダヴィンスレイフとエッケザックスはどうにかなるとして」
「ちょっと待ってください、音姫さん。どうにかなるんですか?」
「なるよ。私を誰だと思っているのかな?」
そう言われると確かにどうにかなってしまうと思ってしまう。
「問題は血塗れた宝剣だよね」
血塗れた宝剣。これはオレとルカ、音姫さんと因縁の深い武器だ。簡単に言うなら音姫さんが唯一何も出来ずに負けたスキル。
「音姫も、血塗れた宝剣を知っているんだ」
その言葉にベッドを振り向いた。そこには今起きたばかりのリリィが座っている。
「もう少し寝ていてもいいぞ」
「ううん。聞きたい。血塗れた宝剣のことを。ダヴィンスレイフ、エッケザックス、血塗れた宝剣を一度に対処出来るのは私だけだから」
「悠聖君、どうする?」
「正直、リリィは模写術師とは戦って欲しくないけど、オレにはオレの敵がいるし」
サポートしながら戦うならまだ安心は出来るけど、オレは優月を取り戻すためにあいつと戦わないといけない。あいつとあの精霊と。
「悠聖。私は大丈夫。アークレイリアが一緒にいるから」
「そういう問題じゃないんだがな」
「悠聖、音姫。教えて。血塗れた宝剣の能力と二人の因縁を」
「どうする?」
音姫さんがわかったような目で見てくる。多分、オレが何をするかすでにわかっているのだろう。
それに、血塗れた宝剣との因縁は音姫さんよりもオレ達の方が深い。
「わかったわかった。まあ、あまりいい話じゃないし詳しく話している暇もないから簡潔に話すぞ」
オレは小さく溜め息をついて口を開いた。