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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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第百七十三話 簒奪者VS拘束者

「ダヴィンスレイフ!」


前に駆けながら黒猫とセルファー、何より冬華さんに向かってセルファーから奪った魔力の糸を放った。


対するセルファーはその糸に向かって魔力の鎖を放ってくるけど僕はそれを払うようにダヴィンスレイフを振り払う。


『これが私のダヴィンスレイフですか』


「セルファー! 何をしている!」


黒猫の表情にあるのは戸惑い。おそらく、黒猫との契約精霊であるセルファーが使っているダヴィンスレイフを僕も使っているからだろう。


というか、僕がダヴィンスレイフを使えるとは思えなかった。精霊武器なら可能性があるとは考えていたけど。


『ダヴィンスレイフとダヴィンスレイフは同等。このままでは膠着です』


「ええい、使えん精霊め! 冬華!」


黒猫の言葉に冬華さんが切りかかってくる。だが、切りかかってきた冬華さんにミスティがアークフレイを振り上げて切りかかった。


「悠人はあの黒い精霊を頼む!」


「わかってる。白騎士こそ、冬華さんをお願い」


「わかってる」


セルファーはとっさにミスティに向かってダヴィンスレイフを放つけど僕はダヴィンスレイフを放って妨害する。


このダヴィンスレイフ、相手を拘束する能力がある。相手から魔力を奪う能力だ。もちろん、本来の持ち主であるセルファーの方が質は高いけど、僕の奪ったダヴィンスレイフは質よりも量のためセルファーと同等に戦えている。


『我が枷を簒奪し奪うとは。これが翼の民の力』


「どうかな。僕だってこの能力はまだ扱いきれてないよ。このダヴィンスレイフだってとっさに奪っただけだから。でも、ここで俊也の邪魔はお前にはさせない!」


『その覚悟と意志。さすが人間というべきですか。あなたの名前をあなたから未だに聞いていませんでしたね』


「真柴悠人。『歌姫の騎士』だ」


僕はダヴィンスレイフを構える。もちろん、ストックしている魔術はいくつかあるけどそれはセルファーに通用しないだろう。


セルファーも笑みを浮かべながらダヴィンスレイフを構えた。


『闇属性精霊のセルファーです。名実共に闇属性で二番目の強さです』


闇属性で二番目ということはディアボルガさんの次の強さ。それを聞くだけでも敵の強さがわかる。でも、だからと言って引くわけにはいかない。


それに、今は俊也とメリルの二人が精霊結晶から精霊を救い出そうとしている。


『いい顔です。惜しむらくは敵として出会ったということでしょう』


「セルファー。あなたは」


『真柴悠人。何も言わなくても大丈夫です。私は精霊。マスターの道具』


「違うよ。精霊は道具なんかじゃない。僕は知っているよ。楽しそうに走り回り、ここにいることを誇らしげに存在しているアルネウラの姿を。恥ずかしそうにしながらも悠聖さんの隣にいることに幸せを感じている優月さんを。精霊は道具なんかじゃない」


道具なんかじゃない。それだけは自信を持って言える。道具なんかじゃないから。


すると、セルファーが嬉しそうな笑みを浮かべた。目尻に涙が浮かんでいる気もする。


『そうですか。姫二人が。これで思い残すことはありませんね』


「セルファー?」


『真柴悠人。精霊を救いたいなら私を殺しなさい。あなたなら精霊を完全消滅させることが出来るはずです。もちろん、黙ってされるわけにはいきませんが』


セルファーがダヴィンスレイフを放ってくる。僕はそれをダヴィンスレイフで相殺しながら二丁拳銃を引き抜いた。


ダヴィンスレイフを操作しながら二丁拳銃を扱うのは難しい。だけど、覚悟をしたセルファーは最大の力で挑まなければ倒せないのは感じている。


出来るか出来ないかじゃない。するんだ。二丁拳銃を扱いダヴィンスレイフを操作して。


『あなたが私のマスターだったら良かったのに』


セルファーが小さく呟いたような気がした。だがそれより早くダヴィンスレイフが僕に向かって放たれる。すかさずダヴィンスレイフで迎撃しながら二丁拳銃の引き金を引いた。


放たれたエネルギー弾がダヴィンスレイフに絡み取られるけどそれは想定の範囲内。二丁拳銃の引き金を引きながらダヴィンスレイフをセルファーに向かって放っていく。


「僕が勝ったらあなたは黒猫に力を貸すのを止めろ!」


『私が勝てば?』


「僕をあなたの自由にすればいい。ダヴィンスレイフはそういう能力があるんでしょ?」


『対等ですね。いいでしょう!』


その瞬間、ダヴィンスレイフの質が跳ね上がった。いや、ダヴィンスレイフが糸から鎖に変わったというべきか。僕もすかさずダヴィンスレイフを糸から鎖に変える。が、セルファーのダヴィンスレイフに押されていく。


「くっ。強い」


『私の力は私が知っています。例え、あなたが簒奪者だとしても、ダヴィンスレイフの力は十全には使えません。つまり、私には勝てません』


「どうかな」


確かにダヴィンスレイフだけじゃ僕は負けるだろう。年季は違うし質も違う。だから、僕はダヴィンスレイフだけでは戦わない。


「ダヴィンスレイフで勝てないなら僕は他の武器を使うまでだよ!」


すかさず二丁拳銃の引き金をセルファーに向けて引いた。放たれたエネルギー弾に対処するためにセルファーがダヴィンスレイフの一部を操作した瞬間、僕はエネルギー弾を炸裂させた。


点ではなく面で細かなエネルギー弾を叩きつける炸裂弾弾。威力は低くなるが十分なら火力はある。だから、セルファーはそれを無視することが出来ない。


セルファーはダヴィンスレイフを操作してエネルギー弾を絡め取る。その瞬間に僕は鎖状のダヴィンスレイフをセルファーに叩きつけた。セルファーはすかさずダヴィンスレイフを格子状に展開してダヴィンスレイフを受け止める。


セルファーの方が質が上なら莫大な量で押し込めばいい。それが僕の考えた作戦だ。


『質で負けるから量で来ますか』


「極一部を除いて質の高さよりも圧倒的な物量の方が強いからね」


ちなみに、極一部というのは善知鳥慧海さんとかイグジストアストラル、ストライクバーストのような対等な存在が相手じゃなければいかなる物量も意味を成さない存在達のこと。


そう考えると慧海さんって化け物だよね。


『作戦としては優秀ですね。ですが、物量作戦にはいくつか問題点がありますよ』


そう。いくつか問題がある。でも、今この場を切り抜けるには莫大な物量を使った攻撃を叩き込むしかない。


今、ストックしてる魔術の数は大体20くらい。これじゃ足りないか。


「セルファーがこの状況を覆す方法は何となくわかるよ。だから、僕はこうする」


そう言いながらダヴィンスレイフを全て消し去った。そして、二丁拳銃を構え前に出る。


セルファーは一瞬だけ動きを止め、そして、ダヴィンスレイフを格子状から剣に形を変えて叩きつけてくる。それを二丁拳銃で弾きながら僕は引き金を引いた。だが、放ったエネルギー弾はダヴィンスレイフによって吸収される。


『近接銃撃戦ですか!?』


「浩平さんみたいに巧くはないけど、これでも格闘出来るくらいには鍛えているんだ!」


『くっ』


突撃してくる僕にセルファーは剣を叩きつけてくる。その剣の腹にエネルギー弾を当てることで弾いて僕はセルファーの懐に飛び込んだ。そして、右肩からタックルしながら左手の拳銃の引き金を引く。


チャージバレット。


近接銃撃戦において基本的な技であり、狙って当てるというよりも確実に敵に当てることを主眼に置いた技。だから、今のようにセルファーの体をかするように飛んでいくけどセルファーは大きく後ろに下がった。


僕はセルファーに向かって引き金を引く。


『近接銃撃戦に慣れている人が少ないと見越し、かつ、こちらの攻撃択をとことん消し去りながら必中の攻撃を入れてきますか』


セルファーはダヴィンスレイフでエネルギー弾を消しながら大体六歩くらいの距離を開ける。


「近接銃撃戦は敵に離れすぎても危険だけど近過ぎても危険ということを教えることが基本だからね」


『そして、銃撃戦で最も危険な中距離における戦いを強要するというわけですか』


「違うよ」


僕は笑みを浮かべながらダヴィンスレイフをセルファーに向かった放った。そして、ストックしている全ての魔術の魔術陣を空中に固定する。


術式固定。


術の発動を遅らせることで同時にいくつもの魔術を放つ特殊技法。それをダヴィンスレイフを放ちながら同時に操作する。もちろん、セルファーはダヴィンスレイフに気を取られているからこちらの対処にダヴィンスレイフを使うわけにはいかない。


「最大の力を」


術式を固定しながら新たにいくつもの魔術を展開する。もちろん、ストックしていた魔術よりも遥かに弱いものばかりだけど、何個も、何個も何個も何個も発動する。


「最大のタイミングで」


セルファーは僕がやろうとしたことに気づいている。だけど、ダヴィンスレイフを相手にしているからそれに気づいてもどうにもすることは出来ない。


「最大の数で」


そして、最大まで発動した魔術陣の術式固定を一斉に解いた。


「最大の威力でぶっ放す!!」


『真柴悠人!!』


セルファーが僕の名前を叫びながらダヴィンスレイフを撃ち払い、ダヴィンスレイフで自信を守るように展開した。だから、僕は全ての魔術の矛先をセルファーに向けて放つ。


百に届く魔術を同時に放つ僕が使える最大の魔術。


偽典・導きの魔術(アル・アジフレプリカ)


百にも及ぶ魔術はセルファーを呑み込み、そして、セルファーの背後にあった壁を吹き飛ばしていた。その向こうに見えるのは青空。僕はすかさず二丁拳銃を握り締めて前にでる。


「これで、終わりだ!」


そのまま膝をついているセルファーに向かって引き金を引いた。セルファーは回避するために後ろに下がり、そして、吹き飛んだ壁から宙へ躍り出る。


『次は負けませんよ』


その言葉と共にセルファーは落下した。僕はとっさに破壊した部分から下を覗くがそこから見えるのはただの草原だった。逃げられた、というより撤退したのか。


「メリル達は」


僕は二丁拳銃を握り締め直し振り返った。

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