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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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第百六十七話 祖父と孫

「お爺ちゃん、嘘だよね? 私を殺すって嘘」


「お前を送ったのはアークフレイとアークベルラを破壊させるためだった。だが、見れば虫けら共の仲間になっていて、あまつさえ恋までするとはの。軽蔑したぞ」


強烈な言葉にルーリィエさんはその場にペタンと座り込んでしまった。そんなルーリィエさんを守るようにハイロスが前に出る。


「リリィの祖父なのだろ? 何故、孫にそこまで言う?」


「敵だった者に守られるか。翼は隠し地に落ちたか。天界の民としての誇りは」


「答えろ! あなたはリリィの祖父だろ!!」


ハイロスが激昂して老人に言う。対する老人は静かに弓を構えた。矢が形成された瞬間、嫌な予感が体を貫く。だから、僕はとっさに引き金を引いていた。


矢が放たれるのとエネルギー弾が放たれるのは同時。お互いがぶつかり合い僅かに軌道を逸らす。矢はアークフレイの鎧を掠めるように後方に散り、エネルギー弾は軌道を逸らし、ちょうどそこにあったエネルギー弾とぶつかって老人の左肩をえぐった。


出来た、ビリヤード。出来るか半信半疑だったけど出来て良かった。


「メリル! 走って! ルーリィエさん」


僕はすかさず座り込んでいるルーリィエさんを立たせる。アークレイリアはいつの間にかルーリィエさんの鞘に収まっているから大丈夫だ。


メリルが部屋から飛び出して僕達に向かって走ってくる。その背後には左肩をえぐられたはずなのに弓を構える老人の姿。


マズい。


そう思った瞬間、紫電が老人を貫いていた。


「悠人、大丈夫? なっ」


瞬間で背後から詰め寄った俊也が放ったゼロ距離ノートゥングを受けた老人はその場に倒れ、ない。


さすがの俊也も驚いたがすかさず僕達の下に移動する。その時にはメリルとも合流している。


「ハイロス、先頭をお願い」


「わかった」


ハイロスが先頭を走り出す。ルーリィエさんも首を何回も振りながらその後を追って走り出した。メリルもその後に続く。


僕と俊也はお互いにゆっくり下がりながら引きつる笑顔で顔を見合わせた。


「俊也、どう思う?」


「ノートゥングを受けて動けるなんて人間じゃない。悠人は?」


「肩をえぐられて矢を放とうと出来るなんて人間じゃない」


つまり、この老人は化け物相当ということだ。嫌だな、戦いたくないな。


「ここは戦略的撤退だね」


「悠人は先に。僕が後から」


「いや」


僕は俊也の手を掴んで駆け出した。なぜなら、前から嫌な予感が今までより桁違いに迫っていたからだ。


「二人で戦略的撤退だよ!」


そう言いながら道を曲がった瞬間、僕達がいた場所で爆発が起きた。僕達は吹き飛ばされるように加速するが、素早く体勢を戻して立て直す。


「今の何?」


俊也が振り返りながら尋ねてくる。僕は前方を走るメリルを追いかけるのに必死だから振り返る隙すらない。


「知らないよ! あんな技聞いたことないし!」


メリル達が道を曲がる。僕達も道を曲がろうとして背後を振り返った瞬間、そこには何百という矢を作り出した老人の姿があった。


僕達が慌てて道を曲がるのと矢が放たれるのは同時。矢は壁に激突して壁を吹き飛ばした。寒々とした風が破壊された部分から吹き込んでくる。


僕はすかさず魔術を強化してメリルの隣まで駆け寄り、そして、メリルを抱きかかえた瞬間、クルシスが大きく揺れた。


「なっ」


「きゃっ」


ハイロスが驚いたように声を出してルーリィエさんがその場に転ぶ。僕と俊也は覚悟していたから大丈夫だし、メリルは固まったまま動かない。


航空艦は外壁に穴が開いたら体勢を崩しやすいのは有名だ。もちろん、落ちるというわけではないが、大きく揺れる。だから、メリルを抱えていたのだ。


「ルーリィエさん、大丈夫?」


僕はすかさず転がったルーリィエさんを助け起こした。ルーリィエさんはすかさず立ち上がる。


「ありがとう」


「みんな、大丈夫か?」


ハイロスが振り返りながら尋ねてくる。それに僕達が頷いた瞬間、ゴツッと破片が壁にぶつかったような音が響き渡った。


振り返った先にいるのは何百という矢を展開している老人。


今の振動でも平然っとくるってすごいよね。


「くっ。ノートゥング!」


すかさず俊也が通路に溢れんばかりのノートゥングを展開する。瞬間的な最大出力のノートゥング作成の間に僕達は距離を取るように走り出した。


あのままじゃ簡単に撃ち殺される。どっちかに。


「悠人。このまま機関部に行きましょう」


「機関部に?」


「はい。グスタフ達の狙いはわかりませんが、私達を確実に拘束するのが目的のようです。ならば、このまま機関部に入っちゃいましょう」


「わかった。メリル、下ろすよ」


抱えていたメリルを下ろして僕はしっかりと二丁拳銃を構え直した。背後には俊也がいるから大丈夫、


「うわっと」


爆発音と共に俊也が僕の横まで転がってきた。振り返った先にいるのはノートゥングに貫かれて体がボロボロなはずの老人。


絶対に人間の領域を超えている。


「俊也、大丈夫?」


「大丈夫。だけど、勝てない。いくらノートゥングで貫いても平然と立ち上がるから」


「それ、ただの化け物だよね?」


前方ではやってきた兵士とハイロスが戦っている。アークフレイの長さではこの通路で戦いにくいため苦労しているようだ。ここはルーリィエさんか僕が前に出て援護しないと駄目なのに。


そう思った瞬間、老人が矢を放ってきた。僕はとっさに右の拳銃の引き金を引くが、その矢は放ったエネルギー弾を砕いて一直線に迫ってくる。


間に合わない。もう片方の二丁拳銃を向けながらそう思った瞬間、光の刃が矢を打ち砕いていた。


「みんな、先に行って」


僕達の前に立ったのはアークレイリアを握るルーリィエさん。


「あれはお爺ちゃんだけどお爺ちゃんじゃない」


「どういうこと?」


俊也がノートゥングを展開しながら尋ねた。それにルーリィエさんは悔しそうな表情と共にアークレイリアをしっかりと構える。


「操られてる。あんな傷で動けるはすがないから。だから、私が終わらせる」


「だけど!」


ルーリィエさんを止めようとした僕の腕をメリルが掴んだ。


「わかりました。ルーリィエさん、約束してください」


「約束?」


メリルの言葉にルーリィエさんがキョトンとする。


「帰ってきたらリリィと呼びますから」


その言葉にルーリィエさんは吹き出した。そして、笑みを浮かべたまま頷く。


「わかったわかった。お爺ちゃんは私がこの手で」


「っと、間に合ったか」


声と共にいくつか倒れる音が鳴り響く。それに振り返るとそこにはチャクラムを持つ悠聖さんの姿があった。悠聖さんはそのままルーリィエさんの横に立つ。


「機関部までの道は作ってる。後は突き進むだけだ」


「悠聖さん、どうして」


「悠人。あそこには精霊が入れない結界がある。だから、お前達で行け。オレはリリィと一緒に食い止めるから」


「悠聖。私一人で」


「心配だからに決まってるだろ。悠人」


「任せて」


僕は笑みを浮かべて駆け出した。そして、メリルと一緒にハイロスと合流する。


「行こう」


僕の言葉にハイロスは頷き、倒れる兵士達の間を縫って走り出した。






「悠聖。私一人で大丈夫なのに」


いつもよりも弱々しく言うリリィにオレは笑みを返した。


「心配で放っておけるわけないだろ。ちなみに、アルネウラも同意見だから。だけど、オレはお前をサポートするだけだ」


リリィが悲しそうにアークレイリアを向けるのは風霊神アークセラーのセルゲイ。アークセラーを持つリリィの祖父。


アークの持ち主としての戦いだし二人の祖父と孫の戦いにオレが前に立って戦うわけにはいかない。オレはあくまでサポートするだけだから。


「風霊神はお前が倒せ」


「うん」


リリィがアークレイリアを構える。対するセルゲイはアークセラーを構えた。


「そこまで愚かだとは思わなかったの。虫けらの言葉を素直に聞くとは。可愛い可愛いリリィよ。今すぐ隣の虫けらを」


「嫌。私が私の道を決める。そもそも気に入らなかったの。同じ人なのに虫けら扱いしたり災厄扱いしたり、そんなことに何が意味があるのか分からない。私達は分かり合うことが出来るのに」


「若いな。不可能を知らぬ若さ。羨ましいの。天界と人界は分かり合うことなど出来ない。そう、分かり合うことなど到底不可能だ」


「そうだな。お前達みたいに他人を見下す奴らと、お前達を敵として認識していたオレ達じゃ分かり合うことなんて不可能だ」


オレはアルネウラのチャクラムを構えながらセルゲイの言葉に賛同する。それにリリィは驚いたように目を見開いた。


「だけどな、妥協する努力すらせずに否定をするのはどうかと思うぜ。だって、リリィみたいな奴がいるんだから」


「悠聖」


「ぶつけろ。お前の気持ちを」


その言葉にリリィは頷き、そして、アークレイリアの先をしっかりとセルゲイに向ける。


「行くよ、お爺ちゃん」


「お前のアークレイリアを破壊してやろう」


「悠聖。援護はしなくていいから。私とお爺ちゃんの」


「あのな」


オレは小さく溜め息をついてリリィの頭の上にポンと手を置いた。そして、優しく撫でてやる。


「一人じゃない。相手は風霊神だ。オレ達二人でぶつからないと勝てる相手だと思うな」


「ならばまずは貴様から吹き飛ばしてやろう!」


その言葉と共にセルゲイがアークセラーの弦を鳴らした瞬間、そよ風が起きた。ただ、それだけ。


オレはチャクラムを構える。


「アークセラーは振動を相手に叩きつける能力がある、だったか。そういう情報は第76移動隊で共有しているんでね。正から聞いたけど」


「第76移動隊関係ないよね」


隣で呆れたようにリリィが溜め息をつくが、それでアークセラーが脅威でなくなったわけじゃない。むしろ、危険性は変わらないというべきだろうか。


オレはセルゲイの動きに注視した瞬間、リリィは真っ直ぐ飛び出した。そして、アークレイリアを一直線にセルゲイに向かって突く。

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