第六十七話 放課後
貴族派最強の人物が登場です。
今思えば戦闘入っているのに血が全く飛び散っていないんですよね。R-15には時期が来たらする予定です。今はまだその時期ではないので。
放課後の屋上。
そこは物々しい雰囲気が漂っていた。まだ戦闘していないにもかかわらず戦闘中の空気がある。
屋上の中央にはオレと音姉が背中合わせで立っている。音姉はトレードマークであるリボンを外して収納している。腰についているのはもちろん光輝。オレはレヴァンティンを抜き身のまま持っている。お互いに目をつぶりながら気配を探る。いつ来るのかわからないのでオレ達はいつでも動けるように準備している。
そして、オレ達は目を開けた。それと同時に屋上に見たことのある面々が数人着地する。
その中の一人であるクラインがオレ達の前に歩み寄る。オレ達は警戒を解かない。
「我らの招待を受けてくれてありがとう」
「見過ごせなかっただけだ」
オレはしっかりとレヴァンティンの柄を握りしめた。いつでも戦えるように。
「君達に言うことはただ一つ。我らのすることを傍観して欲しい」
「断る」
考える時間すらなかった。そんな要望は頷けない。相手には鬼がいるのだ。オレはレヴァンティンをクラインに向ける。
「お前らが何の目的で鬼を助けたかわからないけど、オレ達の目的は鬼の封印だ。見過ごせると思うか?」
『GF』としてではなく、自分自身の考えとしても見過ごせない。だから、レヴァンティンを向ける。
「そうか。我らと貴様らのやることは同じか」
「なんだと?」
その言葉にオレは驚いた。音姉も微かに動揺している。そんなオレらを見ていたクラインがにやりと笑みを浮かべた。
「我らの目的は鬼の力を奪い、そして、鬼を封印すること。それには儀式が必要なのだよ。我らの目的はただ一つ。一週間ほど後に狭間の巫女を生贄に捧げ、狭間の鬼を復活させる。そして、狭間の鬼の力で魔界がこの世界を支配するのだ。そうすればギルガメシュなぞ目にもくれずに我ら当主が世界を統べる偉大なる魔王になるであろう」
その言葉にオレ達は思わず固まってしまった。確かに鬼を封印するのは同じかもしれない。鬼の強さは奴らも危険視しているからだ。
でも、鬼が封印された後、その力を使って攻めてくる。世界大戦の比ではない犠牲者が出る可能性だってある。そんなこと、見過ごせない。
「い、生贄だと? ふざけるな! そんなことをして慧海や時雨が黙っていると思っているのか? そんなことできると思っているのか? 目的は同じじゃない。お前らに鬼の力は使わせない。鬼を封印するのはオレ達だ」
音姉がオレの横に並び腰を落とす。
「出来るのかな? 我ら貴族派には貴様ら以上にたくさんの兵がいる。それらを相手に」
「舐めるな魔人」
クラインのような人型の魔物をオレ達は魔人と呼ぶ。実際に、動き方が似ているという理由もあるのだが、一番の理由は魔界に住む人と同じような存在だからだろう。
オレはにやりと笑みを浮かべた。
「たかが雑魚を集めただけでオレ達を倒せるとでも? 舐めるなよ。オレ達人間を舐めるな」
「そうか。ならば、痛めつけて聞かせないといけないようだな」
その言葉と共にオレは振り返りながらレヴァンティンを横薙ぎに振った。オレ達の影から現れたクラインを切り裂く。
そして、振り返りながらレヴァンティンを構える。
「音姉」
「うん。結」
たった一言で屋上に結界が展開される。クライン達は身構えた。
「そっちがそのつもりなら、こっちは全力で相対する。それが『GF』の流儀だ」
「戦うなら倒すが戦わないなら見逃す。貴様らが甘いと言われる理由だ。そうだな、ベリエ、アリエ。海道周の相手をしてやれ。他は白百合音姫だ」
相手がそれほどまでに音姉を警戒しているということか。オレはレヴァンティンの柄を握りしめながら音姉を見た。
音姉は軽く頷いてくれる。
「クライン様、殺しちゃっていいよね?」
オレの前に現れたのはサイドテールとツインテールの少女二人。顔は同じだから双子だろう。
「ベリエちゃん。殺すのは駄目だよぅ」
サイドテールがベリエでツインテールがアリエか。
「甘いぞ、アリエ。殺しても構わん。だが、二人以上になれば殺すな」
つまり、クライン達は音姉を倒すつもりだ。第76移動隊最強の戦力を今ここで再起不能にするのだろう。
オレはにやりと笑みを浮かべた。
「かかって来いよ。オレは強いぜ」
そして、ベリエとアリエが同時に地面を蹴った。持っている武器はナイフ。
左右に分かれての同時攻撃を狙っている。だから、オレは回転しながらレヴァンティンを振る。形を変えつつ。
「モードⅡ!」
レヴァンティンが剣から槍に変わりそれを一気に振り切った。
双子が驚いた瞬間に二人の持っているナイフを弾き飛ばし、レヴァンティンを両手で握る。
「モードⅢ」
間髪いれず、レヴァンティンを新たな形態にして双子に突きつけた。
双剣だ。右手と左手の両方にレヴァンティンの剣を分割したような剣を握り、それを双子の喉元に突きつけていた。
「チェックメイトだな。動いたら双剣を動かす。お互い相方の命も惜しいなら動かないでくれ」
「お前の負けだな」
ベリエがそう言った瞬間、嫌な予感を感じてオレは後ろに飛んだ。
オレがいた場所を槍が通り過ぎる。
「ちっ、避けられた」
「まさか、動いてくるとはな」
「あんたが誰も殺せないのは知っている。だから、私もアリエも安心して戦える。体が動く限りだけど」
「納得したよ」
それがオレの弱点か。でも、オレは双剣を剣に戻して鞘に収めた。
「だったら、次からは殺す」
たった一言でアリエがその場に座り込んだ。ベリエですら槍を握る手が震えている。今、下手に動けば死ぬことはわかっているのだろう。
白百合流黄泉送り『陽炎』。
オレが覚えている白百合流の中で一番の威力を持つものだ。この技の真価は習得した者は見ただけで威力が想像出来るような気迫が出る。
「どうした? 来ないのか?」
「くっ、アリエはそこにいて。私が、行く!」
ベリエが地面を蹴る。オレはレヴァンティンを鞘から抜いた。
普通の居合い抜きは斜めに斬るものだが、これは下方面に抜きながら一気に振り上げる。それは相手が完全に防御をしても浮き上がらせ、吹き飛ばす。又は、防御したものごと叩き斬る。
オレのレヴァンティンは空を切った。ベリエには当たらない。でも、槍の穂先だけは斬り飛ばしている。
ベリエはそのまま懐に手を入れようとした。でも、オレはそのままベリエに肩から体当たりをする。ベリエはまともにくらって吹き飛んだ。
「ベリエちゃん!」
アリエは立ち上がり槍を取り出してベリエに駆けつける。オレはそれを止めようとせず音姉の方を振り向いた。
そこにあったのはクラインを除く全員が山積みにされている光景だった。
クラインは完全に青ざめている。
「弟くん、終わった?」
「そういうことね」
オレの言葉に音姉が首を傾げた。傾げた音姉の髪は長い。腰に届くか届かないくらいだ。ポニーテールにしているのはそれも理由だが、ポニーテールにしていない音姉は本気の音姉だ。
世界最強の剣士としての音姉。
「ば、バカな。強すぎる」
「クライン。お前の企みは終わりだ。ここで」
『クライン、下がれ』
その言葉が頭の中に直接響いてくる。
ありえない。ここは結界の中だ。結界の中である以上、外部から声を届かせるには術者以上の力量が必要になる。さらには音姉が作り出した結界はほとんど魔法に近いものだ。その頑固さは慧海ですら破壊できない。なのに、声が響く。
クラインを見るとクラインは片膝をついて頭を下げていた。
「余の好みに育ったではないか」
いつの間にか目の前に一人の女性が立っていた。
オレはこの女性を知っている。慧海や時雨から紹介された魔界の住人に面影を残す少女と似ている。
「エレノア、か?」
「余を覚えているのか? 嬉しいぞ。ほぼ七年ぶりか?」
七年ほど前、オレと妹はとあるパーティでエレノアと出会った。その頃のエレノアはこんな話し方をしていなかったはずだ。
オレは後ずさる。
嫌な予感がする。いや、嫌な予感しかしない。
「余はエレノア。魔界五将軍の一人『炎帝』にして貴族派代表エレノア」
エレノアは背中に『炎熱蝶々』を展開しながら言う。
この日、オレは最大の敵と出会った。
新キャラ増殖。三人も増やしました。これで第一章前半部でのキャラは後三人です。アル・アジフとエレノア、一緒にいたら混じりそう。