第百六十五話 辺境
とりあえず、第三章が終わるまで他の作品の更新を止めることにしました。最近は色々と忙しくてメインすら更新できていないのでまずはこっちを終わらせます。後何羽かかるかは不明ですが。
遠くで見える爆発の光景。それはまさにそこで戦闘が起きているという証だった。だが、それを見ながらオレ達は何することも出来ない。
『悠聖、あれ』
「わかってる」
オレは小さく溜め息をつきながらアルネウラに言葉を返した。アルネウラはオレの表情を見て不満ながらも納得する。
オレだってあそこまで飛んで行って戦いを止めたい。だけど、オレ達が止めたところでどうなる? 戦いの背景を知らないで戦いを止めたら待っているのは泥沼だ。小説やマンガのように上手くいくわけがない。
戦争というのは本来そのようなものだから。
「今のオレ達が出来るのは、出来るだけ早くレジスタンスと手を組み音界を安定させることだ。悔しいが、それしか出来ない」
『悔しいね。私達が何も介入出来ないだなんて』
今のオレ達が音界に手助け出来るのは政府というちゃんとした機関が存在しているからだ。複雑な機構を持ち、それらを全て決定出来る政府の存在は信用出来る。
だが、そういう機関が無ければ個人的な介入は可能でも一部隊としての介入は不可能だ。
オレ達はちゃんと見ないといけないから。この世界の構図を。
『どうにかして介入出来ないかな?』
「政府を動かすという策はあるけど、正直難しいからな」
『どうして?』
アルネウラが不思議そうに尋ねてくる。アルネウラはそういう部分の勉強はしないし、日本にいればそういうことはまずわからない。
いくらオレ達が移動隊だとしてもホームは日本だ。
「一つの理由としてはコストパフォーマンスだな。辺境へ部隊を動かすということは中継地点を必要とする。その中継地点を押さえているのはレジスタンスだ。だから、政府はそれよりも首都に近い位置でかなりの長距離移動をしなければならない。それこそ、レジスタンスとぶつかる可能性がある中でだ」
『辺境の争乱を止めるだけで何十ものフュリアスを動かさないと駄目ってことだよね。でも、フュリアスのエネルギーバッテリーはかなり保つんじゃ』
「第76移動隊にいたらその部分はわからないか。フュリアスは自然にエネルギーが溜まるとは言え平凡な機体だとどうしてもエネルギーチャージを必要とする。今の平均は最大駆動で四時間から六時間。行き帰りのエネルギーを独自で確保しながら戦闘もするとなるとどうしてもチャージが必要だが、エネルギーチャージに必要な機械は値段が高くて大きくて設置式。中継地点ならいざ知らず、目的地付近に置くのは危険だろ」
『そっか。フュリアスを動かすのもタダじゃないもんね。そう考えると第76移動隊って恵まれているかも』
確かに恵まれている。エクスカリバーやイグジストアストラル、ソードウルフ等の整備は学園都市内の工業系の学校に通う生徒がタダでやっていた。もちろん、未熟だから失敗することもあるけど、これ以上にない実体験だからだ。だから、タダに出来た。
さらにはエクスカリバーやソードウルフは最大駆動が二日や三日だったし、イグジストアストラルに至っては一日中戦闘で砲撃をしても保つというデタラメっぷり。
さらにはエスペランサすらあると、恵まれすぎてヤバいとしか思えない。
「そう考えると第76移動隊って特殊なんだよな。っと、話を戻すか。二つ目の理由は」
「無駄だから」
その言葉に振り向くとそこにはリリィと白騎士の姿があった。
「政府の考えは最大多数の幸福を求めること。そこからあぶれた人達が集まったのが政府レジスタンス。だから、政府は辺境に手を出さない」
「どっから聞いていたんだよ」
「悠聖、ごめん。私がミ、白騎士と一緒に盗み聞きしたから。辺境の問題は天界でも問題だったから」
「そうなのか?」
イメージ的には天界は争いが無いような気がするんだが。
そう考えているとリリィが少し困ったように頷いた。
「うん。天界にいる種族の一つに『灰の民』ってのがいて、灰色の翼を持つの。『灰の民』はある場所に作られた居住区の中にいてほとんど出てこないの。だけど、『灰の民』を悪く言う人がたくさんいるの。しかも、辺境に多くいる」
「なるほどな。大体わかった」
『わかったって、今のだけで悠聖はわかったの?』
「辺境の問題には貧しさと病というのがあるんだ。貧しさはどうしようもないけど、病は薬があれば助かるのに薬がないから助からないって時がある。政府の手はあらゆるどこまでも伸びているわけじゃないからな。どうしても人口が少ないところで手が伸びない」
『だから、政府は『灰の民』を使うようにしたってこと?』
「その結果が音界の政府レジスタンスならぬ『灰の民』レジスタンス。バカバカしいと思われているけど、辺境ではそれが普通だから。何度も『灰の民』が殺される事件があった。政府は手を出せないんじゃない。矛先がこっちに向くのを恐れて出さないだけ」
その言葉には怒りが込められていた。リリィは未だに天界側の人間だ。今は恩やろ何やらでオレ達と共にいるけど、天界か音界なら天界を取るだろう。
だが、今のリリィは天界を嫌っていた。深く聞くわけにはいかないし、
『リリィ、何かあったの?』
「こんなところに無神経な奴が嫌がった」
「悠聖、大丈夫。『灰の民』に友達がいるの。『灰の民』の巫女みたいな立場にいて苦労しているけど、優しい女の子だから」
『悠聖。音界の騒動が一段落したら』
「却下」
アルネウラが何を言おうとしているのかわかったからオレは即座に否定した。何故なら、こいつは絶対に一段落したら天界に行こうと言うはずだから。
『天界に行こうって私はまだ言ってないよね!?』
「お前の考えることは何でもお見通しだ」
『以心伝心。ポッ』
「最後の口で言うなよ。そんなもの、オレ達がいなくても孝治がどうにかするだろ。あいつに任せておけば完璧だ」
確かにリリィみたいな話を聞けば天界とコンタクトを取りたくなる。だが、今の天界には孝治がいる。あいつなら今頃『灰の民』の居住区にいてもおかしくはない。そこでこれからの天界をどうすればいいか考えている最中だろう。
だから、オレ達はまず目先のことを考えないと。
「っと、ごめん。本題を聞きに来たのに話を逸らして」
「本題?」
「うん。この艦、おかしくない?」
「おかしい?」
オレは周囲を見渡した。古いとは思うがおかしいとは思わない。一体、リリィは何か感じたのだろうか。
「さっきまで二人でクルシス内部の通路を確認していたんだけど、機関部に行くにつれて厳しくなるの。監視が」
「オレ達がメリルの仲間だからじゃないのか?」
「そういう類のではないな。あれは私達を殺すつもりで監視している」
「気のせい、だといいがな。わかった。だが、お前達は絶対に機関部に近づくなよ。艦内戦の訓練したけとがなさそうだし」
艦内における狭い空間では白騎士は確実に不利だ。リリィはアークレイリアが短剣が基本だからまだやりやすいかもしれないが、狭い通路における戦いではコツがいる。
まあ、音姫さんのように何でも叩き斬って突き進むとかじゃなければの話だけど。
「だけど」
不満そうなリリィにオレは小さく溜め息をついて体を引き寄せた。胸が体に当たるが気にすることなくリリィに囁く。
「監視カメラと集音マイクが近くにあるはずだ。だから、お前達が機関部を危険視したことには気づかれている」
その言葉にリリィは目を見開いて驚いた。
腹話術で話しかけるのがいいかもしれないが、集音マイクがある場合は腹話術の意味をなさない。だから、こういう風に囁く方が効果的だ。
「オレが行く。だから、リリィは白騎士と一緒に他のみんなを守ってくれ」
「うん。でも、悠聖は」
「オレは大丈夫だ。だから」
「わかった」
リリィがゆっくりと離れた。そして、白騎士を見る。
「行こ。部屋に戻って話さないといけないことがあるから」
「そうか。わかった。また後で」
二人が歩き出したのを見てオレも歩き出した。その後ろをアルネウラが追いかけてくる。
『悠聖。悪い子?』
「いや、そんなことしないからな。そもそも、この見取り図じゃ中身は把握できないだろ。クルシスに侵入者がいるとするなら確実に機関部狙う。だから、その付近までの通路を確認しておかないと」
『そういう名目で機関部付近を偵察するんだね』
にこやかに頭の中に語りかけてくるアルネウラ。俺はそれに苦笑しながら頷いた。
「まあ、無駄なことになるかもしれないけどな」
『無駄で終わればいいんだよ。何事もないってことだからね』