第百六十話 出発
双拳銃を収めていたホルダーから抜き放つ。リボルバーの無いこの双拳銃は僕自らの魔力を消費して放つ。
もちろん、その分疲れはするけど、双拳銃だけじゃなく銃系の武器を使うならこれが基本だ。
自らの魔力で最小限の力を使いながら最小限のダメージと最大限の戦果を作り出す。それが銃の極意。
浩平さんから双拳銃を習う前に教えられた言葉だ。それはフュリアスにのっているからよくわかる。フュリアスではエネルギー弾の制御は難しく、人を殺す可能性が高い。だからこそ、浩平さんは僕にそれを教えたのだろう。
通常のライフルと比べて威力も消費も段違いに悪いけど、手数の多さだけなら勝るものは少ない。
「何があっても、僕はメリルを守る」
メリルが歌姫だからじゃない。純粋に僕を慕ってくれる女の子だから。そして、僕が好きな女の子だから。
「さあ、行こう」
僕は小さく笑みを浮かべて立ち上がった。
「さてと、準備は出来たか?」
ゼロ式精霊銃のメンテナンスを終えたオレは魔術書に目を通すアルネウラとレクサスに声をかけた。二人は真剣に魔術書に目を通して書いてある内容を飲み込もうとしている。
イグニスやエルフィンはそもそもこの魔術には不向きだし、ライガはまだ傷が癒えていないから駄目。グラウ・ラゴスには拒否されたしセイバー・ルカは使う気がないらしい。
いや、まあ、別にいいんだけど、オレの指示を無視しているよな?
『大丈夫かな?』
『大丈夫よ。私達が力をあわせれば出来るから』
『うん』
不安そうにアルネウラが頷く。その気持ちはわからないでもないけど、オレは笑みを浮かべて優しくアルネウラの頭を撫でた。
「大丈夫だ」
『悠聖』
「向こうに優月や冬華がいるかはわからないけど、オレ達なら大丈夫だ。一人じゃないからな」
『うん。そうだね。悠聖、行こっ』
「ああ」
空を切るアークレイリア。その感触を確かめながら私は静かに体勢を変えつつアークレイリアを振り抜く。
昔からずっと、アークレイリアを握った時からずっと行っている素振り。ルーチンワークだから毎日これをしないと落ちつかない。
「魔王の娘」
「どうしたの? 天界の女?」
邪険な空気を撒き散らすリリーナに私は語りかける。
「今回の音界の騒動。やっぱり、天界が裏で手を引いているのかな?」
「可能性としてはかなり高いと思うよ。クロノスだっけ。首都での戦いで天界の最新のフュリアスが出撃したくらいだから。それに、廃棄処分をするかのようにあの巨大なフュリアスをぶつけてきたのも」
「天界って何がしたいのかな?」
アークレイリアの切っ先と肩を一直線にして構える。そして、微かに後ろにステップをした瞬間、前に跳び出した。
八陣八叉流にある綺羅朱雀という技を私なりにアレンジした技。アークレイリアの加速を使った技。技名はアサルトエッジ。魔力を刃に乗せられるからこれから使用の幅はかなり広がる。
「突進技か。かなり強そうだね」
「アークレイリアの加速を利用しているから。でも、直線的すぎる」
「だよね。でも、直線的でも悪くはないと思うよ。リリィは『紫電一閃』って知ってるかな?」
確か、紫電を纏った強力な一閃の名前。海道時雨が生み出した雷属性魔術の礎となった技であり、本来なら扱うのが難しい雷属性に一筋の光を照らし出した技。実物は見たことがないけど。
「『GF』の現トップ、海道時雨の技? 雷を纏うから実質避けるのは不可能という」
「そっちじゃなくて、白百合流の」
「そんな技あったような」
白百合流は天界ではあまり馴染みのない流派。人界ではそこそこ広まっている流派だけど、私はその実物を見たことがない。
「居合いの技なんだけど、白百合流の『紫電一閃』はただそれだけなんだ。鞘から抜き放って斬りつける。ただそれだけの剣技。それだけを極めるだけで間合いに入れば回避も防御も不可能な一撃となる」
「私のこれも極めたら同じになれるってこと?」
「変に難しくする必要はないんじゃないかな?」
そう言いながらリリーナはアークベルラを掴み振り上げ、振り下ろした。
「紫電一閃は単純な一撃だけど、白百合流は紫電一閃が全てじゃない。絶え間ない連続攻撃だけど、技の基本は必ず紫電一閃の動きなんだよ。八叉流みたいに一撃の威力を高めた流派じゃなくて、一つの技を起点とした連続攻撃。だから、白百合流には突きの攻撃はないんだよ」
「技の起点」
「そうだよ。リリィの場合は基本形態が短剣だから突きを中心とした動きがいいかもしれないね。段階的な加速で疑似バーストフォローが可能なんだから面白いことになるんじゃないかなって」
「でも、突きを中心とした流派って」
「無いよ。人界にも魔界にも。そもそも、短剣使いが少ないかな」
私はアークレイリアを見る。突きを起点とした動きがどうなるかはわからないけど、私の加速から鍛えてみるのがいいかもしれない。
「でも、無いなら作ればいいんだよ。新しい流派を」
「新しい流派?」
「リリィが扱う突きを中心とした流派。それを作ればいいんだよ」
「私の、流派?」
私はアークレイリアを構えた。半身になって腕を後ろに引いてアークレイリアの先を前に向ける。
一歩目。最大の加速で一歩を踏み出す。
二歩目。加速した動きのままさらに加速をしつつ腕を突き出す。
三歩目。突き出した動きに合わせて攻撃点に最速で到達する。
突き出したアークレイリアが空を切る。だけど、私は奇妙な感覚に包まれていた。まるで、アークレイリアと私が一緒になったかのような安心感。
「ほんの短い距離で三歩は無駄かもしれないけど、静の状態から三段階の加速で来たなら反応出来るのはどれくらいいるだろうね。やっぱり、一番のライバルはリリィだよ」
私はアークレイリアを見つめ、そして、笑みを浮かべた。
「私の流派」
そして、アークレイリアを握り締める。
「お二人は元気ですね」
その様子を少し離れたバルコニーから見ていたメリルが楽しそうに笑みを浮かべた。近くのテーブルの椅子に座る音姫はその言葉に笑みを浮かべる。
「そうだね。でも、本当なら二人は戦わない方がいいんだけどね」
「戦うのは大人の仕事だから、ですか?」
「うん。音界に第76移動隊がいるのは人界の法律やしがらみに縛られて他の部隊が来れないから。第76移動隊なんて高校生が中心なのに」
「音姉様こそ、まだ学生ではありませんか?」
「私はそういう風に鍛えられているから」
音姫は昔から白百合家の長女として剣の道を歩んでいた。だから、音姫にとって戦うのは当たり前のこととなる。だけど、第76移動隊の大半は音姫のように家から教えられたというわけじゃない。
だから、音姫は本当なら第76移動隊の大半は戦うべきじゃないと思っているのだろう。
「戦いの無い世界はないのでしょうか」
「ないよ」
メリルの言葉に音姫は即答した。
「どれだけ戦ってもそんな世界はありえない。誰かが妥協するしかないから。分かり合うことなんて無理なんだよ」
その目はどこか悲しみに満ちていた。
実は由姫を通じて創世計画について聞いているからなのだがそれをメリルは知らない。
「そろそろ時間だね」
音姫が立ち上がる。その言葉にメリルが振り返るとそこには悠人やルーイ達が全員集まっていた。
「白百合音姫」
メリルがいつもと違う名前で音姫を呼ぶ。その表情は真剣だった。
「ここをお願いします」
「大丈夫。私一人いれば大丈夫だから」
「頼もしいですね」
そう言ってメリルは笑みを浮かべた。
「メリル、大丈夫?」
後部座席で一緒に悠遠の立ち上げを行っていたメリルに声をかけた。メリルは衝撃を吸収することに特化させたメリル専用のパワードスーツを着ている。
僕も一応は着ているけど両手両足にはつけていないけど。
「大丈夫です。マニュアルには目を通したので」
「そういうことじゃなくて」
「不安ですよ」
メリルが立ち上げを続けながら答える。
「でも、皆さんがいますから」
「そっか」
僕は笑みを浮かべてモニターを見つめる。そこには悠聖さんとナイトが何故か殴り合っている。多分、ルーリィエさんに関してだろう。
ルーリィエさんとナイトは実は兄妹だったとか。まあ、ルーリィエさんは悠聖さんに好意をよせているしね。
前途多難のように思えるけどウォーミングアップになるだろう。
「悠人、出来ました」
「わかった。行こう。真実を見極めに」
僕はゆっくりと悠遠のペダルを踏み込んだ。