第百五十四話 メッセージカプセル
今月は驚きのアクセス数です。ちょうど去年の今頃はたくさん更新していましたが現在は多忙であまり更新していないのに。
本当に読んでくれて嬉しいです。ありがとうございます。
目的地ははっきり行ってかなり遠かった。本当ならイグジストアストラルで向かいたいところだけどあのギガッシュを放っておくことは出来ない。
一応、操作出来ないわけじゃないからリリーナでも大丈夫だと思うけど。
「悠人は大丈夫だな」
隣を併走するハイロスが僕を気遣いながら周囲を警戒する。まあ、僕も魔術は得意ってわけじゃないけど第76移動隊で鍛えていたから少しは自信はあったけどハイロスには負ける。
「これでも鍛えているからね。まあ、前線組には勝てないけど」
「前線組。白川悠聖みたいな?」
「悠聖さんは体力はあるけどまだ弱いかな。音姫さんとか本当に化け物クラスだし。それにしても、ここら辺ってかなり木々が濃いよね」
周囲を見渡しても木々しか見えない。まあ、森の中だから当たり前だけど、樹海という表現が一番近いかもしれない。
「近くに樹海があるからかもしれない。あの樹海は息苦しいから」
「息苦しい?」
「むせるほどの空気密度だ。あそこは人が住む環境じゃない上にその影響がここまで来ている」
どんなところが行ってみたい気がするけど、今はそんなことをしている暇じゃない。
僕は周囲を警戒しながら目的地に向かって走る。もし、あれがメッセージカプセルなら僕に、歌姫であるメリルに伝えたいことが入っているはずだから。
「確か、こっちで。あった」
見つけた。放たれたメッセージカプセルによって薙ぎ払われた木々を。それらを見るだけでこの奥にメッセージカプセルがあるのがわかる。
「待て」
走り出そうとした僕をハイロスが止めた。そして、地面を指差す。
そこには乾ききっていない靴の足跡がいくつかあった。周囲はメッセージカプセルが薙ぎ倒した影響で温度が上がっているから少し前に出来たものだろう。
「少し厄介なことになっているか。ミスティには悪いがこのまま私で行くしかない」
「そうだね。足跡自体あまり時間が経っていないから、もしかしたら誰か隠れていたのかも。ともかく、注意して進もう」
「ああ」
僕とハイロスはまた走り出した。出来る限り見つからないように森の中に入り、今まで以上に周囲を警戒する。
周さんみたいに魔力粒子をバラまけばいいのだけど、そう簡単に出来るものじゃないし、僕はストックするのと纏わせるのは得意だけど撒き散らすのは得意じゃない。
頭の中ですぐさま発動出来る吸収した魔術のリストを見ながら僕はさらに森を駆ける。そして、立ち止まった。
人がいる。全員の服装はバラバラで村人のようなみすぼらしい服装だけど、周囲の警戒の仕方がおかしい。
獣を警戒しているというより人が来るのを警戒しているような感じだ。
僕はその場で膝をついてエネルギーライフルを両手で構えた。
「どうする?」
ハイロスが小さな声で語りかけてくる。それに僕は頷きで返した。
「援護はする。多分、あの人達は」
「クロラッハのレジスタンス。前に顔を見たことがある。後ろは頼んだ」
ハイロスがアークフレイを引き抜いて茂みから飛び出した。村人みたいな人達が慌てて振り返り隠し持っていたらしい拳銃を引き抜く。
だけど、すぐに引き抜いて構えたのは一人だけ。僕はその一人に対してエネルギーライフルの引き金を引いた。
相手が放つより速くこちらのエネルギー弾が拳銃を弾き飛ばし、ハイロスがアークフレイを振り抜いた。アークフレイは確実に拳銃を破壊し戦闘能力を一気に奪う。
後は相手が降伏してくれるだけ。そう思った瞬間、男の一人が懐から何かを取り出した。
「ミスティ!! 下がって!!」
取り出した物を見た僕はハイロスに向かって叫んだ。ハイロスはすかさず後ろに下がる。それと同時に男が取り出した札が爆発した。
ハイロスはとっさにアークフレイを盾にして爆風を受け止めるけど、大きく吹き飛ばされてしまう。続けざまに起きる爆発に僕は腕で顔を覆った。
ハイロスほどじゃないけど近くにいた僕は爆風を受けてその場に尻餅をついてしまう。だけど、爆風が収まれば大丈夫だ。
僕はエネルギーライフルを構えた。だが、そこに敵の姿は無くあるのは飛び散った人の破片だけ。
「っつ」
胃の中のものを吐き出したい衝動に陥ったが必死に我慢する。そして、大きく深呼吸をした。
「ハイロス、無事?」
「何とか、と言うべきか。アークフレイが無かったら確実に死んでいた。それにしても、自爆だなんて」
「特殊部隊員だね。捕まるよりも自害することを強要される奴ら。人のすることじゃないよ」
僕はそう言いながらエネルギーライフルを構えつつ前を歩く。敵は全員飛び散ったから後はメッセージカプセルだけだ。
果たして、そこには小さな箱があった。極めて衝撃に強い箱であり、このサイズでも700~800万ドルはくだらない。普通は使わないけど。
あの爆発の中でもちゃんと形を保っているなんて。
「これか?」
ハイロスがアークフレイの先で箱を軽く突いた。僕はそれに頷いて箱を手に取る。
「開けるね」
箱を開けたそこには一つのデバイスが入ってあった。テープのような形をした大容量の、映像機器に使用されるデバイスだ。僕はそのデバイスを虚空に収める。
「さて、戻ろうか。また敵が来る可能性が」
「いや、手遅れだ」
ハイロスがアークフレイを構えるのと僕が気配に気づくのは同時だった。囲まれている。しかも、かなりの数に。
「気配に気づくのが遅れた」
「僕もかな」
エネルギーライフルはチャージの時間が約一秒。つまりは一秒に一回しか倒せない。
僕とハイロスの連携はそれなりに出来るけど、せめて、リリーナがルーリィエさんのどちらかがいてくれたら。
「私が道を開ける。だから」
「冗談」
エネルギーライフルをすかさず放り投げて連射に優れた双拳銃を取り出す。使い方は未熟だけど威力が低いから当たりどころが悪くても殺すことはない。
ただ、大怪我をさせる可能性があるからあまり使いたくはなかったけど。
「浩平さん直伝の双銃術。あそこまでおかしな弾幕は張れないけど足止めぐらいは出来るよ」
「全く。ミスティが惚れるじゃないか」
「ミスティは出さないでね」
僕は苦笑しながら双拳銃を構えた。
双銃術は基本的に腕を交差させた双拳銃で戦う。伸ばした状態ではとっさの射撃の命中率は片手では悪いし視界に双拳銃が映らない。
浩平さんみたいに手足のように双拳銃が操れるなら関係はないけど、今はこっちの方がいい。
「じゃ、行こうか」
僕が引き金を引こうとした瞬間、僕達の周囲に大量の雷の槍が出来上がっていた。僕達を取り囲むように外に向かって槍の穂先が向いている。
「ノートゥング!」
そして、雷の槍が一斉に周囲に向かって放たれた。
「この声、俊也?」
「悠人、無事だよね?」
大量の雷の槍を従えた俊也が僕の前に現れる。そして、雷の槍を一斉に放った。
「ノートゥング。吹き飛ばして!」
耐え抜いた人達の影に向かって俊也がノートゥングを放つ。僕は俊也の背後から迫っていた男に対して交差させた双拳銃の引き金を引いた。
三連射して放たれたエネルギー弾が男の四肢を撃ち抜き吹き飛ばす。
「悠人が双拳銃を使うなんて。浩平さんに教えてもらった?」
「俊也こそ。僕が知らない間にすごい魔術を覚えているね」
「ノートゥングはミューズの能力だからね。さて、まだ来るの?」
俊也がノートゥングを準備する。圧倒的な火力の前にいつの間にか大半の人達が逃げ出していた。僕はそれに息を吐いて双拳銃を下ろした瞬間、周囲で爆発が起きた。
「っつ」
とっさに腕で顔を庇うけど爆発によって吹き飛んだ何かの破片がざっくりとお腹を切り裂いたのがわかった。すぐさまわき腹を押さえると生暖かい何かがたくさん流れている。
このまま放っておいたら死ぬかな。
「悠人!」
俊也の声が響くのと同時に僕は膝をついていた。まだ倒れない。倒れなくていい。
治癒魔術を展開しながら痛みを堪えていつの間にか閉じていた目を開くとそこにはこっちに駆け寄る悠聖さんと委員長さんの姿があった。
「どうして」
「喋るな。委員長」
「これくらいなら大丈夫。だから、ちょっとだけ休んでてね」
委員長さんが僕に魔術をかける。たったそれだけで僕の意識はあっという間に闇に吸い込まれいった。
みんなに任せたら、大丈夫だよね。
悠人と悠聖が合流しましたがすぐに別れます。