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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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第百五十二話 偵察

「こちら悠人。半径5km圏内にエネルギー反応無し」


『こちらリリーナ。東の方角に敵影はないかな』


『こちら白騎士。西の方角に敵影は無し』


『こちら鈴。南の方角に敵影は無いけど、イグジストアストラルの姿を見て隠れているかも』


『わかった。今からそっちに移動する』


『じゃあ、私は北に向かうから。悠人はゆっくりしててね』


『えっと、私は中央に向かうね』


僕の言葉を皮切りにみんなが通信を入れてくる。それを聞きながら僕は周囲を見渡した。


敵フュリアスの姿は無し。最も、この電子戦に完全特化したギガッシュでは戦う術はないけど。


もう一つのレジスタンスの侵攻によってゲイルさんのレジスタンスはまず他に侵入者がいないか捜索することになった。だけど、電子戦特化の機体は一機しかなく、それを操る技量のパイロットがいなかったため僕が乗ることになった。


ゲイルさん。宝の持ち腐れだよ。


何かあった時は基地からアストラルルーラのルーイと悠遠に乗ったメリルの二人が出撃してくれる。まあ、イグジストアストラルがいるし、リリーナもミスティもどちらもアークベルラとアークフレイを持って手伝ってくれている。


何かあったとしても本当にどうにか出来るよね。このメンバーなら。


『改めて見ると、電子戦特化のギガッシュってすごいよね』


イグジストアストラルでゆっくり近づいてきた鈴が感心するように言う。


電子戦特化のギガッシュは凄まじいまでに重装備だ。背中のバックパックからは大量のアンテナが出ており、それを補助するようなアンテナから冷却装置までともかくギガッシュをもう一体くっつけたといっても過言ではないくらい装備が重い。そして、機動力が全くない。


僕はいつもは収納しているパネルを取り出して手動でレーダーを操作するためコマンドを打ち込んでいく。


『どうやったらその重装備で私達についてこられるのかな?』


「全ブースターとスラスターを最大駆動して最小限の動きで最大限の機動を取れば」


『それ、悠人以外無理だよ』


この電子戦特化のギガッシュはブースターやスラスターの数が明らかに少ない上にその出力も低い。


イグジストアストラルの通常移動速度>電子戦特化ギガッシュの通常最大移動速度という公式が成り立つくらいに。


速度はブースターやスラスターの動きでかなりカバー出来るけど、戦場でそれをし続けたら確実にブースターとスラスターが焼け付いて動けなくなるだろう。


とりあえず、10km圏内の反応を探っておけばいいかな。


『それにしても、レジスタンスはどうしていがみ合っているんだろ。『ES』は穏健派と過激派に別れていても内部抗争は少なかったのに』


「多分、思想が違うからだよ。『ES』は『GF』か国連かの二択しかない状況で中東を中心に勢力を拡大したからね。南北アメリカやヨーロッパ、アジア、オセアニアのそれぞれも国や地域によって考え方が違う。だから、『GF』か国連か『ES』って状況なんだ。だけど、音界のレジスタンスはあくまで歌姫のための組織だから」


『えっと、つまり、個人の考えだから組織としては統制が取りにくい?』


「そうだね。それに、損得勘定で動く人達もいる。これは人界も同じなんだけど、大きな勢力とは違う勢力にいれば相手側から兵器の横流しを受ける時がある。それを売り払えば大儲けってわけ」


『醜いね』


鈴がぼそりと呟いた。その言葉には僕も賛成する。


死の商人というのとは少し違う。死の商人はただ武器を売るだけだから。そういうのではなく、お金儲けが出来るから戦争に荷担する人達がいる。一時期のアメリカや中国はそうだったという話を聞く。


そんな人達を見ると誰もが醜いと思ってしまうだろう。


僕はレーダーから入ってくるデータを解析しながら口を開く。


「レジスタンスは歌姫とは敵対しないと言っているからね。市民の支持を得やすいし、自称市民団体が支持をする。これが一番胡散臭いんだよね」


『どういうこと?』


「ある意味金の亡者達。ただ、相手を批判したりするだけで寄付が集まりそこから生活費を含めた諸経費を捻出する。もちろん、必要経費だと言ってね」


『そんな人達がいるんだ』


「うん。一部ね。ただの市民団体だったらいいんだけど、人界を例で言うなら環境保護団体とか」


『ああ。なるほど』


これが一番納得しやすい例だよね。


自称環境保護団体は環境を保護しろと言う割には普通に暮らしている。そもそも、それこそが環境破壊に荷担しているのに。


ただ、自分の自己満足のためだけにたくさんのものを犠牲にしていると気づかずに。


矛盾やおかしさを抱えた人達が市民団体にいるのは確かだ。もちろん、そうじゃない人もいる。


「純粋に歌姫のために入ったならレジスタンス同士で争わないよ。レジスタンスは政府に対するレジスタンスであって歌姫に対するレジスタンスじゃない。つまり」


『別の目的があるってこと?』


「だと思う。僕達がここに残っているのはそれが関係しているかもしれないし関係していないかもしれない。ゲイルさんとメリルが二人で決めたことだから僕は黙って従うだけだよ」


『信頼しているんだ』


信頼とは少し違う。確かにメリルは信頼している。メリルなら間違いはないし、もし、間違いを起こしたら僕が全てを終わらせると決めているから。


ゲイルさんを信じたのはあくまで勘だ。確かにゲイルさんは兄みたいな存在だけど、やっぱりまだ信頼は出来ていない。向こうはどうかわからないけど、『ES』にいた以上、人を完全に信頼するのは危険だと教え込まれている。


まあ、ただでさえ味方が少ないから文句言っていられる状況じゃないからもだけど。


『それにしても、リリーナがベイオウルフに乗らないだなんて。何かあったのかな?』


「ベイオウルフは今回の作戦に不向きだからね。最大エネルギーが全フュリアス最強と言ってもいいのに索敵に向かったらエネルギー反応から先に見つかっちゃうよ。イグジストアストラルなエネルギーの全てを内部自己完結型やこのギガッシュみたいにジャミング撒き散らしながら他を探せるみたいな機体じゃないと」


『そっか。じゃ、イグジストアストラルがいるしが特別なんだね。でも、内部自己完結型?』


「発生したエネルギーを排出する、まあ、攻撃や駆動以外で、それをしない機体のことだよ。人界のフュリアスで試験運用がされ始めていてメリットも大きいけどデメリットも大きいハイリスクハイリターンなんだ」


メリットとデメリットは鈴が一番よくわかっている。何故なら、イグジストアストラルが最も完成された内部自己完結型の機体だからだ。


メリットはエネルギーを使用し続けるためエネルギー切れが少なく外部からの補給に頼らなくていいこと。デメリットはエネルギーを内部で作り出しながら使用して再利用するため稼動時始めは機動力と火力が多少落ちてしまうこと。


そして、撃墜された時に大きな爆発を引き起こすこと。


それは近くにいる味方すら呑み込むもので遠距離からバレないように偵察するための機体ならメリットしか残らない。


他にもデメリットはいくつかあるけど大丈夫だろう。イグジストアストラルはあらゆるデメリットを消し去る装甲があるから。


『フュリアスって難しいね。悠人はフュリアスに詳しいけど、私はフュリアスに詳しくなれないかな』


「まあ、詳しくなる必要はないと思うよ。僕はこれでも開発に関わっているから。ほんのちょっとだけど。だから、そういう知識だけは増えていくんだ」


『関わるってことはよくやってるテストパイロット?』


「そう。フュリアスを操らせたら右に出る者はいないと言われているからかね。だから、そういう依頼はたくさんやってくるんだ。新型にたくさん乗れるから楽しいんだけどね」


僕はゆっくりと小さく息を吐いた。そして、話しながら操作をしていたパネルを閉じた。


「みんな。偵察行為は完了。半径10km圏内に敵の姿は無し。帰ろうか」


『了解』


みんなの返答を聞いて僕は小さく溜め息をついた。

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