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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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第百五十一話 曇り無き真実の未来

少年の手のひらに魔術陣が生まれた瞬間、七葉はとっさに後ろに下がっていた。危険を感じたからじゃない。見たからだ。


七葉の視界には少年が魔術陣を展開する現実の光景と爆発に飲み込まれて倒れる七葉の二つが見えていたからだ。


「頸線!」


すかさず少年に向かって頸線を放つ。だが、その頸線は少年が作り出した爆発によって吹き飛ばされていた。


相性が悪い。


そう感じながらも七葉は攻撃は最大の防御として頸線を放つ。


頸線は手数は多い。特に七葉は手数が極めて多いため相手が同じタイプなら互角近くに持っていける。だが、相手が瞬間的に莫大なエネルギーを撒き散らす攻撃、例えば、爆発系の魔術。


千春が使っていたもの、今の琴美が使っている頸線なら頸線の中でも太さがあるためまだ対抗手段はあるが、七葉の場合はそれがない。


「っつ。そんなことで決まると思わないでね!」


すかさず七葉は建物に頸線を走らせる。爆風で吹き飛ばされても建物の壁があれば頸線は飛ばせる、はずだった。


「なっ」


だが、爆風が頸線を切り裂く。七葉はとっさに後ろに下がろうとして、前に出た。


「ちょこまかと!」


少年の魔術陣が煌めくと同時に七葉の後方で爆発が起きる。その風を受けながら七葉はさらに前に踏み出した。


頸線から作り出した槍を握り締め少年との距離を零にする。


「無駄だよ」


だが、少年の姿が消え、七葉は体勢を大きく崩した。普通ならそこを狙われて七葉は死ぬだろう。だから、七葉は体勢を崩しながらも頸線を離れた壁に突き刺して巻き戻す力で七葉はそのまま壁に向かって移動した。


爆発。七葉がいた場所で爆発が起きる。だが、七葉はそこにはいない。


「僕を捉えることは出来ない。白川七葉。君はここで死ぬんだ」


「厄介だね」


七葉は少年がいる隣の建物の屋上を見上げながら小さく息を吐いた。


少年の能力がわからなければ罠の張りようがない。だから、今はどうにかして少年の能力を暴かねば相性の悪い七葉では勝ち目がない。


「頸線!」


七葉はロープのようにたくさんの頸線を巻いた頸線を周囲の建物に打ち込んでいく。七葉がよく使う三次元的な機動だ。


七葉はすかさず打ち込んだ頸線を足場にどんどん少年を目指して走っていく。


「そんな直線的な動きじゃ死ねってことだよね!」


少年がすかさず七葉に手をかざす。だが、七葉は笑みを浮かべて右手首をくいっと微かに動かした瞬間、少年が飛んだ。いや、頸線によって引っ張られた。


七葉が少年の身体に頸線を巻き付けていたのだ。だが、とっさのことでは何もわからない。少年はパニックになったまま魔術を放とうとする。それよりも早く、七葉は頸線の上に一歩を踏み出し、全体重を使って拳を少年の頬に叩き込んでいた。

少年の身体が吹き飛びその身体に頸線が巻きつく。


七葉は大きく息をしながらゆっくりと肩から力を抜いた。


「捕獲、完了。さてと、後は引き渡すだけ、っつ」


七葉の体勢がぐらつく。疲れた身体な上に捕まえた安心からか力を抜いたため頸線の上にいた七葉が体勢を崩したのだ。七葉はとっさにその場から飛び退いて頸線を伝いながら着地する。


たったそれだけ、いつもしていることのはずなのに七葉の身体はそれだけで悲鳴を上げる。


「これは、キツいかな。もう少し戦いが長引いていたら負けたかも。まあ、これからはもう少しゆっくり出来るし、早く引き渡してゆっくり休まないと」


小さく呟きながらも七葉は頸線を引き寄せた。頸線によってグルグル巻きにされた少年が悔しそうに顔を歪めながら七葉を睨みつけている。


対する七葉はそれを気にすることなく連れて行こうとした瞬間、視界が変わった。


森の中。そう、この首都じゃない。森の中で悠聖が刃の無い剣を握っている。相対するのは雪月花を持つ冬華。そして、二人が動いた次の瞬間、雪月花が悠聖の心臓を確実に貫いていた。


「あくっ」


七葉はその場に膝をつく。喉まで出かけたものを飲み込み頑張って息を整える。


七葉が無意識に見せられた光景。それはおそらく、『曇り無き真実の未来』によって見せられた悠聖が死ぬ未来。


しかも、悠聖が冬華によって殺されるという未来。


「そんな。ありえない。どうして冬華お姉ちゃんが悠兄を。絶対にありえないのに」


「白川七葉! 僕を離せ! 僕はまだやらなければならないことがあるんだ! パパと一緒に、『赤のクリスマス』を再現するんだ!!」


「残念じゃが、それは不可能じゃぞ」


その言葉に二人が空を見上げる。すると、そこにはアル・アジフを背負ってカグラに座る楓とレーヴァテインを展開したまま周囲を警戒する光がいた。


七葉は背負われているアル・アジフに驚きながらも息をゆっくり整える。


「そなたの父親、ロレンス・イグニッツァは我が手によって消滅させてもらった。ロレンスがやったことは赦されざる行為じゃからな」


「パパが死んだ? 嘘だ!! パパは強い! 僕なんかよりもはるかに強いんだ! そんなパパがお前みたいな子供に負けるわけがない!」


その言葉にアル・アジフの頬がピクリと動いた。そして、静かにアル・アジフを開き、


「ストップストップ。アル・アジフさんがキレたらここら一帯消滅するから!」


「周がロリコンやからってそんな姿を保たんでも」


「好きで保っているわけではないわ! それに、周はロリコンではないぞ」


「ごめんごめん。みんな小さいやん」


「光。この場で第三詩篇まで解放してよいのだぞ」


「冗談や冗談」


楽しそうに話す三人を見ながら七葉は小さく溜め息をついて目を瞑った瞬間、頭の中に光景が広がった。


三人の中央に現れた冬華が反応するより早く三人を切り裂く瞬間を。


「三人共! 下がって!」


だから、最大限の声で叫んだ瞬間、ちょうど三人の中央に誰かが降ってきた。その手に握られているのは雪月花であり、雪月花を扱う人は一人しかいない。


長峰冬華。


三人がすかさず反応する。もし、七葉の言葉が無かったら冬華の出撃に驚いて反応出来なかっただろう。それほどまでに唐突だった。


七葉はすかさず冬華に向かって頸線を放つ。だが、頸線は少しぎこちない動きの冬華が雪月花を使って全てを弾いていた。時間は稼げた。


一番疲弊しているアル・アジフの前まで七葉は飛び出しながら槍を構える。


「冬華さん。これはどういうことかな?」


だが、冬華は苦悶の表情で顔を歪める。まるで、泣きそうな顔で雪月花を構える。それを見ただけでその場にいる全員が冬華に何が起きたか大体わかった。


「楓! 昏倒させんで!」


「うん! ブラックレクイエム!」


すかさず光と楓の二人が動く。ブラックレクイエムが冬華に向かって放たれ、冬華は簡単に雪月花でブラックレクイエムを弾いた瞬間、弾いたブラックレクイエムの先で魔力が収束していた。


冬華がとっさに飛び退くのとブラックレクイエムから収束砲が放たれるのは同時だった。だから、冬華はギリギリで収束砲から避ける。そこに飛来するのはコピーされたレーヴァテイン。


六本のレーヴァテインが地面に突き刺さり冬華が衝撃を堪えるように身構える。だが、レーヴァテインは爆発しない。


「冬華! ごめん!」


そこに莫大なエネルギーの塊が冬華を呑み込んだ。


ブラックレクイエムで注意を逸らし、レーヴァテインによって動きを止めカグラの収束砲でトドメを差す。まさに息のあったコンビネーションだ。


だが、この場にいる誰もが未だに警戒している。特に七葉が。


頸線から作られた槍を握り締め莫大なエネルギーによる爆煙を睨みつけながら一歩後ろに下がった瞬間、爆煙の中から雪月花を振りかぶった冬華が現れた。


七葉はとっさに頸線を張り巡らせて雪月花を受け止める。


「お姉ちゃん! 目を覚まして! お姉ちゃんは私達に剣を向けるような人じゃないよ!!」


「逃げて」


絞り出したような声。苦悶の表情の冬華が必死に声を出している。


「お願いだから、逃げて。私は、操られている」


「そんなことはわかってる! 操っている奴は誰やねん!」


「セルファー。最上級精霊の、ほとんどは、敵の手に。悠聖を、お願い!」


冬華が七葉を弾き飛ばす。その勢いを利用して冬華は後ろに下がり頸線に巻かれた少年を掴んで大きく飛び上がった。


光がすかさず後を追おうとするがそれを楓が止める。


「楓?」


「多分、罠。冬華の話が本当なら冬華を確実に逃がすための手段を講じているはずだから」


「そうじゃな。今は追いかけるのは得策ではない」


「冬華お姉ちゃん」


七葉が冬華の消えた方を向いたまま小さく呟いた。


「私が、助けるから」

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