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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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第百四十八話 爆弾魔

七葉はとっさに頸線を放っていた。頸線は途中で槍を形成して少年に逃げ場がないほどの槍を展開する。


「あなたは、誰?」


その内の一本を突き出しながら七葉は尋ねた。


イージスカスタムのコクピットは確かに誰でも開ける状態になっている。だが、こんなに簡単に侵入されるとは七葉は思っていなかった。


だから、七葉は最大限の警戒で少年に槍を突きつけている。


「怖いな。僕はあくまで君と勝負をしに来ただけなのに」


「勝負?」


七葉が静かに虚空から槍を取り出す。頸線を張り巡らせながら何かあった時のための槍を構えた状況は七葉が作れる最大限の警戒だった。


少年は笑みを浮かべたまま言葉を紡ぐ。


「そう。勝負は三時間。三時間以内に君は首都内に設置された四つの時限爆弾を見つけなければならない。もちろん、みんなを頼ってもいいよ。だけど、一人知らせる毎に時間は一時間現象する。どうだい?」


「やると思っているのかな?」


「やるしかないはずだよ。首都を火の海にしたくないならね」


「っつ」


少年の言うことが本当なら首都は間違いなく火の海になってしまうだろう。だから、七葉は動くしかない。今すぐ少年を殺すという手段もあるが、魔術の発動より早く殺さなければ爆弾は爆発する。


もし、殺せたとしても時限爆弾なら放っておいても爆発する。


「さあ、どうする白川七葉。君が乗るなら僕は君が勝った時の報奨を与えよう。どうする?」


「爆弾の形は設置式? それとも、人?」


「設置式だよ。さすがに自爆したいという仲間はいなくてね。ただ、爆発する威力はあの時より、『赤のクリスマス』よりも格段に上がっているから三つだけでも首都の大半を燃え盛る街に出来るかな?」


「まさか」


「そうだよ。僕のパパは『赤のクリスマス』でニューヨークを消し去った爆弾を作った人間さ。いや、見事な爆弾だったよね。後から映像を見せてもらったけど、摩天楼が消え去る様子なんて」


七葉は無表情で指を動かした。すると、少年の頬に赤い線が煌めく。少年は微かに目を細めて七葉を睨みつけた。


「それ以上挑発するならあなたを殺す」


「いいのかな? 僕は今回のゲームマスターだ。殺せば、爆弾は見つからないよ」


「ゲームマスター? 他人から貰ったもので偉そうにしているお子様の癖にゲームマスターなんて笑わせてくれるよね。それに、もう見つけたから」


その時になって少年はようやく七葉の手に槍が握られていないことに気がついた。そして、少年がニヤリと笑みを浮かべる。


「なんだ。フライングしてまでやる気満々じゃないか。じゃ、条件を言うよ。時間は三時間。その内に四つの爆弾を見つける。君から話して協力を得た場合は時間が一時間減少。どうだい?」


「やるよ」


「じゃあ、ゲームスタートだ。君が全ての爆弾を見つけると祈っているよ」


少年がそう笑みを浮かべた瞬間、少年の姿が七葉の前から消え去った。


おそらく、移動系のレアスキル。何かを判断することは出来ないが、逃走手段としてはかなり凶悪なものだろう。


七葉はそんな中で小さく溜め息をつきつつコクピットから飛び降りた。


「させない。あんなことの繰り返しなんてさせない。みんな、あんな惨劇を繰り返したくないから第76移動隊に入ったんだよ。だから、私がそんな惨劇を見させないんだから」






静かに蓋を開ける。爆弾解除に関しては慎重こそが一番だと楓はアリエル・ロワソから習っていた。


こういう爆弾は時たま振動を感知して爆発することがある。だから、魔術で補助しつつ爆弾の解除をするのが基本だ。


「楓、どうや?」


周囲を警戒しながら設置式の爆弾と向き合う楓に光は尋ねた。楓はポケットから様々な工具を取り出しながら爆弾を分解していく。


「初めて見るタイプかも。設置型魔術式爆弾。振動とかで爆発するタイプじゃなくて、時限爆弾の一種。解体には時間がかかるし、頸線みたいな細かな作業が出来るものじゃないと解体に時間がかかるかな」


「楓はアリエル・ロワソから解体技術を習ってるんやろ?」


「うん。でも、魔術式は精密すぎて解体が難しいから。それに、初めて見るタイプは解析しないと解体出来ない」


そう言いながらも魔術を当てる楓に光は小さく溜め息をついた。


細かな作業はあまり得意ではない光にとって楓みたいな解体作業は正直に言って退屈だった。だから、最大火力で消し去りたいと思っているが、そんなことをしたら爆弾が爆発するだろう。


「アル・アジフさんの言うことが当たるとはな。驚きやわ」


「うん。街中に四つの爆弾が設置された、なんて情報の出所はどこからなんだろ。よし、解析が終わったかな。分解の仕方はわかったから後はこの魔術陣を」


「それをされたら困るのだよ」


その言葉に楓は爆弾に対して防御結界を展開してカグラを握り締めながら振り返った。


そこには顔の半分に火傷の跡が残る細身の男がいた。その姿を見て二人は嫌な予感を感じる。


勝てないという予感じゃない。まるで、積年の恨みを抱くような予感。だから、楓はカグラを向けブラックレクイエムを展開する。光はレーヴァテインのコピーを三つ展開して『炎熱蝶々』を作り出す。


「今回は息子のゲームを遂行させたいからな。お前達はここで足止めさせてもらおうか」


「ゲーム? 冗談じゃない。この爆弾がどれだけの規模で爆発するかわかっての発言やんな?」


「当たり前だ。本当なら有無を言わさず爆発させたいがな。あの時の光景を再び見たいために」


その言葉に二人の心臓が高鳴った。二人の頭の中に駆け回るのはあの地獄のニューヨーク。たくさんの人が死んだ『赤のクリスマス』当日。


光がレーヴァテインを強く握り締める。だが、そんな光の前にカグラがスッと差し出された。


「光、落ち着いて」


「だけど!」


「相手が爆弾魔なら冷静にならないとやられる。それに、街中で私達は最大限の力を出せない」


「くっくっくっ。無様というべきだな。リュリエル・カグラと地獄の名を冠した地獄の攻撃者ヘルズアタッカーの二人がこんな一人をどうにかする技量すらないなんて。今ここで爆弾を爆発させてもいいんだけどな」


楓が静かに一歩前に出る。たったそれだけで周囲の雰囲気が変わった。


「ねぇ、これ以上無駄な話を止めない?」


あくまで冷静な声。だが、その声を出す楓からはまるで悪魔と対峙するかのような威圧感が出ていた。思わず爆弾魔の男が後ずさる。


相対すればわかるのだが、まともに戦って勝てるような雰囲気じゃない。圧倒的な力の差で負けてしまうと確信出来る威圧感だった。


「もう少しちゃんと話をしようよ。さもないと、焼き殺すよ」


「これが、リュリエル・カグラ。はっ、面白くなってきたな。今回のゲームはお前達に関わって欲しくはないだけだ。あくまで、息子がゲームマスターだからな」


「あんたはたくさんの人を殺すかもしれへんのに、それなのにゲームって言うん!?」


「人が死なないゲームはただの玩具だ。そう思わないか?」


「狂ってる」


光が静かにレーヴァテインの先を向けた。対する男は笑みを浮かべ、そして、楓と光の二人を魔術陣が包み込んだ。


すかさず二人が背中合わせになる。だが、それすらもあざ笑うかのように魔術陣はどんどん範囲を狭めている。


「動かなければ死なないさ。心臓すら動いてもアウトだけどな、ウヒャヒャヒャヒャ」


「本性表したな。楓、爆風で吹き飛ばすのは」


「大丈夫だよ」


楓が冷静に威圧感を霧散させた状態で笑みを浮かべながら言った。


「だって、私達は何もしなくても助かるから」


その瞬間、二人を包んでいた魔術陣が消え去った。男の目が見開かれた瞬間、そこに魔術書アル・アジフに乗るアル・アジフが優雅に空から降り注いできた。


アル・アジフが小さく溜め息をついて魔術書アル・アジフから降りる。


「久しぶりじゃの。ロレンス」


「貴様は、アル・アジフ! 何故、ここに」


「本当なら外の見回りに行っているはず、かの? そなたがここにいると聞いて代わってもらったのじゃ。さあ、大人しくするがよい。そなたはここで人生を散らすのじゃからな」

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