幕間 神の理
『簡単に結論から言わせてもらうなら、この世界は神が動かしている。神と言っても様々な神がいるさ。ギリシャ神話、北欧神話、インド神話、中国神話、アフリカ神話、八百万神がいるとされる日本神話等々。元は世界にたくさんの神がいた。いや、神が世界に介入していたと言うべきかな。歴史の紐を解けば神はたくさんいる。ただ、ここに共通するのはあらゆる神話は国は違えども最高神と呼ばれる神の中の神が存在するんだ。ギリシャ神話ならゼウス、北欧神話ならオーディンという風に最上級の神がいる。これらは同一人物であり、今なお現存する神の称号の一つさ。最強の生物に与えられる戦いの神の称号。君なら思い当たるところがあるんじゃないかな?』
「慧海のことか?」
『GF』の上層部において飄々とした性格でありながらその戦闘能力は音姉と同じ、いや、慧海は必ず隠しているから下手をすれば音姉以上の実力がある。
そもそも、単身で戦う方が強いというプロフィールもかなり胡散臭いものだ。そんなものが本来存在するわけがない。
だが、正の言うような最高神という称号があるなら、一番相応しいのは慧海なのかもしれない。
『百年前。この世界で慧海は英雄の一人として戦った。その強さは人間を超えていたよ。そして、世界を渡った』
「なるほどね。魔界、天界、音界以外の別の世界か。これで世界が九個あるなんて言わないよな。レヴァンティンみたいに世界が九つ滅ぼせるエネルギーを使っているし」
『今は九つではないね。ともかく、話を戻すよ。慧海が真っ先に渡ったのはギルバート・R・フェルデのいた世界、通称剣界。続いて、慧海はレイ・ラクナールのいた世界、元界に向かった。次に渡ったのが神の世界である神界。そして、全ての根源である世界。最高神となるために慧海はこれだけの世界を渡った』
「ちょっと待て。最高神になるにはこうしなければならなかったのか?」
『そうだよ。慧海にとって最高神になることは何よりも重要だった。それこそ、誰かを犠牲にしてでも必要だった』
言葉が出なかった。確かに、慧海は英雄と呼ばれるようになってからしばらくした後一年間くらい歴史から姿を消していた。ひょっこり現れた時にはギルバートさん達がどこからともなく現れていた。
それを考えれば慧海がいなくなった理由にちゃんと証明が出来る。問題は一年という期間だけど。
それに、それだけを聞いていても一つだけ疑問が出て来る。
『何か質問はあるかい?』
「それだけの神がいるならどうして滅びを回避するために動いた神が少ないんだ? それじゃ、まるで」
『神が世界を滅ぼそうとしている、かい?』
通信機越しでありながらオレは頷いていた。多分、正もそれがわかっている。
『だからこそ、世界の理に関わってくるんだ。さっき言ったように、世界中には様々な神話がある。その中で最も神を表せたのは日本神話に置ける八百万神。どんなものにも神が宿るとされるそれこそが最も近い姿だ。神なんて無数にいたよ。だけど、その無数にいた神は今では1000を切っている』
「神が死んだのか?」
『ほんの少しはね。神が死に、後継者がいなかった場合、その神の称号は保管される。だけど、それはほんの少しだ。大多数の神は権力闘争によって数を減らした』
「神と言ってもオレ達とあまり変わらないな」
『神は空の民だったからね。本質的には人と同じさ。さて、前提条件は終わったよ』
「神が無数に存在していた。権力闘争によって数を減らした。その中でも最高神という称号は慧海が喉から手が出るほど欲しがった」
『そう。これが最初の前提条件だ。さて、そんなに強大な最高神に欲が強い者がついたならどうなる?』
「神を皆殺しにしてでも独占しようとする。慧海が最高神の称号を得られるなら、神が神を殺しても得られるってことだろ?」
『そう正解だよ。昔、これは神話時代のお話だ。神の力を独占するために最高神はどうすればいいかを考えた。そして、最高神は地上に住む八百万神を滅ぼせばいいと思ったんだ。そして、生まれたのが鬼だよ。君も心当たりがあるよね?』
「狭間の鬼か?」
『そう。狭間の鬼は本来神を狩る僕だった。だが、神が糧としていたものを滅ぼせない限り八百万神を滅することは出来なかった』
それだけを聞いてオレは正がどの時代について言っているのか理解することが出来た。
魔科学時代が終わり、神威時代へ続く時代の物語。
『鬼は極一部を覗いて神の糧、つまりは信仰を消し去るために人類を滅ぼしていった。君も思いついたように魔科学時代の終わりさ。世界が最も一変した時代に現れた救世主が、白百合家だった』
「その頃から白百合家は有名だったんだな」
『有名というよりも、とある人物が強すぎたというべきかな。鬼を滅し、神も殺す強さ。だが、壊滅的に破壊された文明が元の水準に戻ることはなかった。ここからが神威時代の始まりさ。神によって人類が統治された時代。共生ではなく統治だよ。その最中に最高神がとある理由で死んだ。誰が殺したというわけでもなく死んだため、最高神の力は誰にも移譲されず存在したんだ。それを神はゲームとして利用した。神の力を分配して人間に与えることで、新たな神を生み出そうとしたんだ。その最中に起きた副産物こそがこの世界を滅ぼす存在であるヴァルフォミアさ』
「ヴァルフォミア?」
『君もこれから名を知ることになるだろうね。存在神ヴァルフォミア。存在を司る神として生まれた神すら有無を言わさず消し去る神さ』
「というか、ヴァルフォミアってロシアの軍港の名前じゃなかったか?」
『あの地はヴァルフォミアが唯一人界で暴れた場所だからね。そういう名前が残っていてもおかしくはないよ。ヴァルフォミアが僕達を倒すべき敵。ここに連絡してきたということは君は創世計画を知ったようだね』
「正は創世計画について知っているのか?」
『僕も誘われた身だからね。さすがに善知鳥慧海を相手では隠れているのは無理だからね。ただ、こう言わさせてもらったよ。ヴァルフォミアは君達が考えているほど簡単な存在じゃないって。だけど、彼らは僕の知る過去とは違う過去を選んでいる。それがどんな未来に繋がっているかはわからないけど、ヴァルフォミアという存在を抜きにすれば』
「ヴァルフォミアね」
ヴァルフォミアというのが創世計画の問題点というわけか。
「じゃあ、ヴァルフォミアをどうにかして倒せってことだな」
『不可能だよ』
だが、正からの言葉は意外なものだった。
『ヴァルフォミアは存在神。存在を消し去る能力すらある。ヴァルフォミアと戦えるのは世界を内包する存在だけだよ』
「世界を内包?」
『そう。君くらいだ』
オレはその言葉に頭を抱えたくなった。いきなりそんなことを言われても意味がわからない。そもそも、世界を内包するってなんだよ。
というか、正の言葉だとヴァルフォミアと戦えるのはオレだけという結論になっている。じゃ、創世計画は一体何なんだ?
『君は、もう一人の自分、という存在を知らないか?』
「ドッペルゲンガーのことか? 会ってしまえば数日後に死ぬっていう」
『そう。同じ世界に同じ存在は許容されない。どちらかが確実に消える。それと同じ原理だよ』
「どれだけ防御が強くても、存在ごと消え去る」
『正解だ。対抗出来るのはそれこそ、存在全てを使用した砲撃か世界を内包する存在だけ』
なるほど。つまりは創世計画もあながち間違ってはいないってことか。
『話を戻すよ。君には幻想空間がある。それが内包する存在だよ』
確かに幻想空間を世界と表現したことがある。だけど、あれはただの器だ。器の中に強化するものを入れてとことん増やす。そういう原理だ。
それに、幻想空間が世界だとするなら、あの世界はどれだけ寂しいのだろうか。生命の息吹が存在しておらず、まさに、滅びた世界。
いや、まさか。
「幻想空間は存在神ヴァルフォミアによって生命という存在を消された世界」
『正確には滅びが到来した世界かな。ようこそ、海道周。君はようやく僕達の領域に立ったよ。ヴァルフォミアが持つ神の理。それこそが世界を滅ぼす原因なんだよ』
幕間はまだ続きます。