幕間 ヒント
創世計画の内容。それは確かに可能性としては極めて高い部類に位置するものだった。最小限の犠牲で最大限の戦果を得る可能性があるもの。
隅から隅まで張り巡らされた計画はたった数年で考えたものなんかじゃない。そこにあるオレ達の役割は滅びを救った後のことだ。
新たな『GF』のトップとして『GF』を引っ張り国連と一つにしていく役割。
主役ではなく完全な脇役。まあ、それはいいとしよう。問題は、
「本当にこれで滅びを救えるかってことだよな」
『マスターにしては辛気臭いことを言いますよね。計画的には完璧ですから救えると断言しそうですし』
「いや、まあ、確かに計画的には完璧なんだ。一分の隙すらない完璧な計画。ただ、そんな計画で世界を救えるものなのか?」
『と、言いますと』
レヴァンティンは確実に気づいている。気づいてかつオレに気づかせようとしている。
「まず一つ。こんな方法があるならすでにされている可能性があること」
『創世計画における最後の術式魔術は全てが完全となっているものです。それこそ、一分の隙すらありません』
「理論的にはダメージなら最大出力のベイオウルフをはるかに超えるけど、それで本当に倒せるのか? 化け物相手にして」
『化け物ですか? 相手が化け物だとは』
「術式魔術の術式、収束、強化、放出、指向性。どう考えても攻撃用だ。滅びを行える敵なんて数百m級の化け物か」
『狭間の鬼のような化け物か、ですね』
世界を滅ぼす方法はまずない。世界を九回滅ぼせるとされるエネルギー源を使ったレヴァンティンであっても不可能だろう。
その不可能を可能にするにはどうすればいいか。そこに問題が出てくる。それを可能とするのは数百m級の化け物か狭間の鬼のような無限の力を持つ存在。
世界を滅ぼすなんてそうそう出来ないから大丈夫だとは思いたいけど。
『マスターの思いたいことはわかりますよ。ありえないと。ですが、記憶が全てを物語っています』
「なあ、前世の記憶持ちはオレの知り合いにいるか?」
正に尋ねたらわかりやすいけど、連絡先知らないからな。
『リースさんやアル・アジフさんですね。この二人は記述があるからであって、正確に記憶があるのは七葉さんとか』
「アルにリースか。確かに二人ならって、七葉も?」
初耳なんですが。
『私の情報が正しければ七葉さんもです』
オレはすぐさま七葉との通信を開いた。こういう時はすぐに通信が開けれるからレヴァンティンって便利だよな。
『ハイハーイ。愛しのラブリー七葉ちゃんだよ』
「減給三年」
『冗談。周兄、真に受けないで。周兄から連絡が来るのは珍しいからからかっちゃった、てへっ』
「いやいや。それはいいから。レヴァンティンから聞いたんだが、七葉って前世の記憶持ちらしいな」
『あれ? 周兄に言わなかった?』
「聞いていない」
オレは小さく溜め息を返した。聞いていたならそんなことは尋ねない。
「まあ、それは置いておいて、七葉はどこまで記憶があるんだ?」
『うーん。正確にはある、じゃなくて知っているんだよね。本来なら私はあの時、狭間市で死んでいたから』
「あの時ってことは、和樹の御守りによって助かった時か?」
オレは中東にいたためよくわからないが、死にかけたって報告はちゃんと受けた。ただ、その後に起きた地震やらオレ自身が病院送りやらでうやむやになったけど。
本当ならあの時に死んでいたってことはそれ以降の情報は無いに等しいな。
『うん。あの時はカズ君がいなかったら本当に死んでいたけどね。カズ君、ありがとう』
「いちゃいちゃするのはいらないから。じゃ、滅びについては本格的にはわからないってことだな」
『大きい感じかな?』
「はっ?」
オレは思わず聞き返した。
『大きい黒い何か。一瞬にして大地が灰燼と化してそこにいた人達はみんな消えた。残ったのはお姉ちゃんだけ。レヴァンティン、レーヴァテイン、カグラ、運命、フレヴァング、光輝、栄光、清浄。全てが折れて砕けて突き刺さった大地とお姉ちゃんがいるだけ』
大きい黒い何か? 一瞬にして大地が灰燼?
七葉が何を言っているかは何となくわかる。滅びた世界の話だ。どうして正が生き残っているのかは置いておいて、どうやら七葉は光景だけは知っているらしい。
『これ以上は正さんに尋ねた方がいいよ』
「そうみたいだな。正はそこにいるのか?」
『ううん。天界に向かったよ。孝治さんと一緒に』
「ちょっと待て。オレがいない間にそこで何が起きたんだ?」
とりあえず、オレが置いてけぼりにされて話が進んでいるのはわかった。
孝治はそういうために音界に残ったんじゃないよな? まあ、確かに今の事態を理解するには天界に言った方が手っ取り早いのは確かだ。
『あはは。まあ、大丈夫だよ。孝治さん、強いから』
「別に心配しているわけじゃないさ。孝治のことは信頼しているからな。じゃ、今、そっちにいるのは」
『今はカズ君だけ。アル・アジフさんは調べ物だし浩平さんやリースはデート中。悠兄達はすでに出て悠人達もレジスタンスと交渉に向かってる。光さんと楓さんはわからないかな』
「すごくそっちが心配になってきた。まあ、考えるだけ無駄かもな」
『大丈夫だよ、多分。周兄こそそっちはどう? 何か真新しいことでもあった?』
「あると思うか? 事務仕事が大変なだけだな」
まあ、事務仕事は新人組にかなり押し付けているけど。
「まあ、ありがとう。和樹と仲良くな」
『今から子供を作ります』
「避妊はしろよ」
オレは小さく溜め息をついて通信を切った。そして、すぐさま孝治との通信を繋ぐ。
だが、通信がなかなか繋がらない。一体何が起きているんだ?
そう考えていると通信が繋がった。聞こえてきたのは孝治の声じゃない。
『は、はい。ニーナ、違った。花畑です』
「いや、孝治って通信出る時は基本的に、オレだ、だからな」
『えっ? えっ?』
『はいはい。出た相手が意中の人じゃないからって苛めないの』
「ようやく出たな、意中の人」
『もしかして僕に対しての連絡かい? それは光栄だね』
全く恥ずかしくなっていない正の声にオレは小さく溜め息をついた。オレなんて顔が真っ赤なのに。
『さて、何か聞きたいことがあるのかな?』
「まあな。内密にしたいから近くに人がいない場所で頼めるか?」
『了解したよっと。屋根の上まで登ったから大丈夫だよ』
「オレが何を話すかわかっていたのかよ」
『君の考えは僕がよくわかっているよ。滅びについての話かい?』
正の手のひらの上ってのは面白くないからからかってみるか。
「正のスリーサイズについて」
『うっ。痛いところをついてくるね。でも、僕のスリーサイズ、特に胸のサイズは控えめだから貧乳好きの君にはちょうどいいかな?』
「オレが悪かったから話をさせてくれ」
どうやら、どっちにしたって正の手のひらの上で踊らされているみたいだった。
「滅びについての話だ。最後の敵は何なんだ?」
『かなり踏み込んでくるね。そこはあまり触れられたくないところなんだけど』
「七葉から教えてもらった。お前一人生き残ったって。お前は勝てたのか?」
『うん』
正の言葉は肯定だった。肯定だが、その言葉はどこか暗い雰囲気がある。
『僕は勝ったよ。そして、世界は滅んだ』
「どういうことだ?」
『これに関しては世界の理について語らないといけない。極一部、それこそ神と出会い、神を殺し、神となった者のようなほんの一部にしか伝わっていない本当の理を』
「それを知れば、オレは答えを見つけられると思うか?」
別の言い方をすれば、それを聞けば今度こそ逃げられなくなるのか、になる。
オレの言葉に正はクスッと笑った。
『そうだね。これは最も重要となるポイント。百年という時を不老に生きる理由にもなる。それを知る覚悟はあるかい?』
「あるな。聞かせてくれ。世界の理を」
『わかったよ。長い話になるからメモを準備して欲しいな。これから話すのは過去、現在、未来の話だ。さあ、語りを始めようか』
幕間は続きます。