第百四十一話 第四世代
「カタパルトデッキに移行確認。発射シークエンスは飛ばしてください。このまま翼で飛びます」
悠遠を攻撃用の射出カタパルトに起きながら僕は通信を開いていたレジスタンスの管制室に声を飛ばした。
本当なら足場と共に射出させるが、悠遠ならそこでエネルギーを節約しなくても十分なエネルギーがある。
前方の出口が左右に開く。僕は小さく息を吐いてペダルに力を込めた。
「悠遠、行きます!」
悠遠の体が微かに沈み込み一気に飛び上がる。半開きの出口が悠遠の体が大空へと飛び上がった。それと同時に視界の中に敵を捉える。
第四世代型フュリアスのアージュだ。赤色の装甲を持つ第四世代型で戦争末期に開発された攻撃力のかなり高い機体。
『悠坊! ナイト達がそっちに向かうにはもう少し時間がかかる! 無理はするなよ!』
「大丈夫! たった60機くらい一人でも耐えられる!」
そう答えながらも僕はすかさず通信を開いた。公共通信であるため相手が通信機の電源を切っていなければ強制的に聞かせることが出来る。
「こちらは『歌姫の騎士』真柴悠人。こちらに近づ」
ゾクリと嫌な予感が駆け抜けた瞬間、僕は上昇していた。それから少し遅れて悠遠がいた場所をエネルギー弾が駆け抜ける。
今の一撃は完全に殺すつもりの一撃だった。
「話し合い自体するつもりはないの!?」
エネルギーソードとエネルギーシールドを作り出して僕はフュリアスの群れに向かって飛翔する。
遠距離射撃型は10機。中距離万能型が30機。近距離接近型が20機。上手くバランスの取れた組み合わせだ。だけど、悠遠の前ではそういうのは無意味。
狙うのは遠距離型。背中のバックパックとバックパックから繋がった高出力のバスターカノン。並みの機体ならそれだけで撃ち落とされる。
「こういう時のセオリーは遠距離型から倒す!」
放たれたバスターカノンのエネルギー弾を軽々と回避してすぐさま斬りかかってきた近距離型の対艦剣を受け流す。受け流した瞬間に蹴り飛ばして斬りかかってきていたアージュとぶつけた。
すかさずエネルギーシールドからエネルギーライフルに持ち替えて遠距離型アージュに向かってエネルギー弾を一発放った。だが、それは縦を持つ中距離型アージュによって防がれる。
そんなことはわかっている。だから、僕は悠遠の出力を上げた。
斬りかかってくるアージュをくぐり抜けて両手にエネルギーソードを持ち替えつつ中距離型アージュに近づく。
中距離型アージュは縦を持ったまま対艦剣を取り出すが、対艦剣はそもそも両手で使うことを前提とした武器。ソードウルフならともかく、アージュ程度の出力では片手ですら上手く扱えないだろう。
片手で振り上げた対艦剣を軽々と避けてすかさずエネルギーソードを二閃する。
アージュの両腕を斬り飛ばしながら僕は駆け抜けた。すでに遠距離型アージュはバスターカノンをこちらに向けている。
だけど、遅い。
「行けっ!!」
僕は悠遠の翼から大量のエネルギー弾を遠距離型アージュに向かって放っていた。エネルギーライフルを構えるより早く、エネルギーシールドを作り出すより早く、エネルギー弾がアージュに迫る。
もちろん、避けずにバスターカノンの引き金を引く機体もあるけど、たった三機では悠遠を破壊することすら出来ない。
翼が放ったエネルギー弾は立ち止まったアージュを含む七機の遠距離型アージュの四肢を撃ち抜いていた。
残るは三機。
すぐさま飛翔して何とか逃げ延びた遠距離型アージュの一機に接近する。相手はとっさにバスターカノンを構えるけど、僕はその銃口を見ながら放たれたエネルギー弾を軽々と回避した。すぐさまアージュの頭にエネルギーソードを突き刺して右腕をエネルギーソードで斬り落とす。
ゾクリと来た感覚に僕はアージュを蹴りながらその場で宙返りをすると僕達がいた場所にエネルギー弾が駆け抜けた。視界に入ったバスターカノンを構える二機のアージュに向かって取り出したエネルギーライフルからエネルギー弾を放つ。
エネルギー弾は一機の腕を吹き飛ばし、もう一機の中枢を貫いていた。これで、遠距離型は全て封じた。後は中距離型と近距離型だけ。
そう思った瞬間、周囲で爆発が起きた。正確には戦闘能力を奪った全てのアージュが自爆した。
「なっ」
さすがの僕でも想定しきれずに爆風によって悠遠の体が大きく吹き飛ばされる。そんな悠遠に向かってアージュ達は冷静にエネルギーライフルを構えていた。
「悠遠!」
ペダルを踏み込みながら出力を最大限まで上げて無理な体勢から地面に向かって急降下する。それと同時にアージュから放たれたエネルギー弾が光の翼を貫いた。
「あいつら、味方が爆発したのに心配ないちって言うの!?」
『それが奴らの仕事なのだろう。まさに特攻だ。それよりも、待たせたな』
その言葉と共に山間に隠されていた発着ゲートが開き、そこからアストラルルーラ、アストラルレファス、アストラルソティスの三機が姿を現した。
ようやく援軍か。
「全く待ってないよ。こんな数、僕一人で戦えるから」
『相変わらずだな。クーガーとラルフは基地内部への侵入を防げ。僕と悠人は直接叩く』
『わかった』
『頼んだぜ、隊長さん』
悠遠の翼をはためかせ現れたルーイ達に注目しているアージュに斬りかかった。だが、それに気づいたアージュの一機が反応してくる。
右手のエネルギーソードを叩きつける。だが、それは対艦剣によって軽々と受け流され、流れるように対艦剣が悠遠に向かって振られる。それを左のエネルギーソードで受け止めながら出力を最大限に維持したまま前に押し込んだ。
「一体何の目的で、お前達はここを襲っているんだ!!」
素早く悠遠の体を懐に潜り込ませながらエネルギーソードを跳ね上げた。アージュの腕も跳ね上がり、その隙にエネルギーソードを一閃する。
このままだとまた爆発させる。せめて、このパイロットだけは生き残らせないと。
「勝手に自爆なんてさせないからね!」
すかさず中枢をエネルギーソードで貫きながらコクピットに向かって腕を伸ばし、装甲を貫いた。そして、コクピットの中にいるパイロットを素早く掴む。
こういう時に精神感応はかなり便利だ。悠遠にも無理やり搭載させたから細かな作業はいくらだって出来る。
『悠人、何を!?』
「パイロットを確保した! 自爆されるより早く確保すれば」
その瞬間、嫌な予感が背中を駆け抜けた。こちらにはまだエネルギーライフルは向いていないのに銃口に狙われている感覚。
今戦えば確実に確保したパイロットを落とす。
「間に合え!」
ペダルとレバーを操作しながらすかさず宙返りを行いつつ地面に向かって下降した。それと同時にパイロットを失ったアージュをエネルギー弾が貫く。
狙撃。しかも、角度から考えて距離は近い。
すかさずコクピットを開きパイロットをコクピットの中に放り込んだ。相手のパイロットを抱き止めながら森から放たれるエネルギー弾を回避する。
「早く後部座席に!」
「何故?」
パイロットの戸惑ったような声。その手は腰の銃に当てられている。
「死にたいのか!?」
エネルギーシールドを作り出して狙撃を受け止めるが空からもエネルギー弾が降り注ぐ。この体勢では長くは持たない。
「私は」
「死ぬか、生きるか、選択肢はどちらかだ! 選んで!」
逡巡の表情をしたパイロットだが素早く悠遠の後部座席に乗り込んだ。しっかりとベルトがつけられたことを確認して出力を最大限まで上げる。
「ちゃんと捕まっていてね。僕の動きは並みのパイロットだとついていかないから!」
ペダルを浅く、だが、確かに踏み込む。
推力の加減を上手く調整して速度に踊らされない最適な動きをペダル操作で作り上げる。
「狙撃は一機だけ、なんてことはないから。ルーイ、多分、後二機は隠れている! 注意をして!」
『大丈夫だ。ラルフとクーガーが向かっている。ようやくレジスタンス側も動き出した。おそらく相手は撤退』
「撤退はしない」
その声は後部座席から。その時になって後部座席にいるパイロットが女性だと気づいた。
「私達の目的は敵の戦力の把握。最初から全滅するつもりだった」
「だったら尚更、たくさん助けないとね。ルーイ。ゲイルさんに連絡をよろしく。ちょっと本気を出すから援軍はいらないって」
『ちょっと待て。ちょっと本気って』
「『創聖』起動」
組み上げるのは回路。悠遠の体を一つとした巨大な魔術回路。
「『豊翼』起動」
翼が膨れ上がる。それによって飛び散った羽が周囲に広がった。
「『守護』起動」
全ての戦場にいるフュリアスのパイロットを包み込む光が世界を満たす。
悠遠を巨大な魔術回路とし、全ての力を魔術回路を通して無造作に周囲に伝播することによって広範囲に効果を及ぼすことが出来る。広域強化魔術を応用したものだ。
「『創聖』発動」
その瞬間、飛び散った羽が一瞬にしてアージュを全て切り裂いていた。光が瞬く間にアージュは四肢と頭部に中枢まで様々な部分が撃ち抜かれ、千切れ、切り裂かれる。
そして、誰も殺していない。
「さて、後は狙撃してくる機体だけど」
そう呟いた瞬間、前方の木々が倒れそこからアージュが姿を現した。背中にはフュリアス用のスナイパーライフルがあり腕にはエネルギーソード。エネルギーソード!?
「アージュって第四世代じゃなかったっけ!?」
エネルギーソードをエネルギーソードで受け止めながら素早くアージュを蹴り飛ばそうとした。だが、それより早くアージュの足のローラーがアージュを後ろに下がらせる。
地上専用による機動性と高エネルギー貯蓄。確かに、これならエネルギーソードが使える。
悠遠自体もかなり降下していたから狙い目だと思ったのだろう。
すかさずエネルギーソードをアージュに向かって飛ばす。だが、エネルギーソードをアージュは軽々と避けて、代わりに一気に接近してきた。
背中の翼からエネルギー弾を放ちつつ悠遠を前に飛び出す。
アージュがエネルギーソードを振る。その軌道を見た僕はすかさずペダルを動かした。
悠遠がその場でバレルロールを行う。エネルギーソードの軌道をギリギリに回避する動きでエネルギーソードを回避した僕は素早くアージュの足を斬り落とした。そして、すかさず両腕も斬り落とす。
さすがのあれは僕も初披露だから相手は反応出来なかっただろう。
「ルーイ。こっちは終わったよ」
『いや、まだ終わっていない』
僕は空に浮かぶアストラルルーラを見た。その視線は一方向を見ており、僕はそちらを見る。そこには一機のフュリアスがいた。いや、あれはフュリアスと言うべきだろうか。
この距離から考えてあの大きさはこちらのフュリアスを凌駕している。
『まさか、噂の機体と出逢えるとはな』
「噂の機体?」
『クロラッハ専用機。アレキサンダー。噂で語られる話では最強のフュリアスと言われている』
「そんな機体が。こっちには向かって来ないみたいだけど」
『クロラッハ自身が見に来たのだろう。このレジスタンスの戦力を。悠人の考えは正しかったな』
本当に正しいのだろうか。アレキサンダーの目的は別にあるように思える。すると、アレキサンダーが背中を向けた。そして、加速する。
長距離スナイパーライフルでも間に合わないか。
『悠人はすぐさまメリルの場所へ。僕はレジスタンスと一緒に敵のフュリアスのパイロットを確保する』
「わかった。えっと、もう少しだけ我慢してね。降りても身の自由は保証しないけど」
「そもそも、保証されているとは思っていない。でも、あなたはいい人。ありえないくらい、いい人」
そう言われた僕は少しだけキョトンとして、そして、小さく笑った。
「うん、それが僕だから」
僕はそう言いながら発着ゲートに向かって悠遠を動かした。