第百四十話 レジスタンスの勢力
「ナイト・レフェランスだと」
ルーイが驚きの声を上げる。それにナイトと名乗った少年は笑みを浮かべた。
「お前とは何度も戦ったよな。話し方が変わるだけでわからないものなんだな。驚きだ」
「ルーイ。知り合い?」
「ああ。レジスタンスで数少ない専用機持ちだ。僕がアストラルブレイズの頃から何度か戦っている。戦場のトリックスター(笑)と呼ばれている凄腕だ」
「ちょっと待って。今、(笑)って言わなかった?」
今の、明らかに呼ばれ方としてはおかしいよね。というか、どうしてそんな名前になっているのだろうか。
「トリックスターの時点でおかしいとは思う」
「リリーナ。あの人を全否定しているから」
「可愛いお嬢さん達の言葉が胸に響く。まあ、それは置いておいて『歌姫の騎士』なのに俺を知らないのか? 音界じゃようやく有名になって来たと思ったんだけどな」
「僕は人界出身だから」
「人界出身? ちょっと待て。人界出身で真柴悠人だろ? もしかして、第76移動隊だったあの真柴悠人?」
ナイトの顔が引きつる。第76移動隊は有名だからそっちで僕の名前は有名かもしれない。
「神翼鬼神のパイロットか」
「しんよくきじん? どういう感じ?」
僕がリリーナと鈴を見ると、二人は心当たりがないのか首を横に振っている。
そんな名前されたことはないけれど。
「神の翼を持つ鬼の如き強さを誇る神の種族。翼の民ってのは天界では絶対の証だったんだ。俺は音界に降りているからそういうわけじゃないけど。まあ、天界の伝承で言う戦神の一人だな」
「いつの間にか悠人がグレードアップしているよね」
「うん。神だもんね」
「神翼鬼神か。名前がかっこよくない」
「子供かお前はって、まだ子供か。まあ、俺達は歌姫様につくって決めたからな。そんな奴が傍にいることに今更反対はしない。だけど、お前自身が戦いを呼び寄せる可能性があるってことを理解しておけよ」
どういうこと? 僕が戦いを呼び寄せる?
「歌姫様も気づいているんだろ」
「そうですね。強い力は必ず戦いと傍にあります。その危険性は考慮していましたが」
「まあ、それならいいさ。とりあえず、今日の目的はこれから親睦を」
「お嬢さん方。これから私とお茶でもいかがですか?」
いつの間にか周囲にいた女の子に声をかけるクーガーさんの姿があった。
完全に空気をぶち壊したクーガーさんにリリーナが握りこぶしを作りながらその手にアークベルラを作り出す。
「クーガー。あんたって人は?」
「リリーナ。俺はいつでも恋に生きる男だ」
そうかっこつけたクーガーさんに数歩で近づいたリリーナはそのままアークベルラをクーガーさんに叩きつけた。クーガーの体が面白いように吹き飛び壁にぶつかる。
そこにリリーナはアークベルラと同じ鎌をいくつも作り出して服を壁に縫い付けた。
「一生笑われてろ」
「これも愛情表現、ぐふっ」
眩しい笑みを浮かべたクーガーさんの腹をリリーナが全力で蹴りつける。さすがのクーガーさんでも今の攻撃は耐えられないだろうな。
「面白い奴がいるんだな」
「どう考えても恥さらしです」
「あいつがアストラルレファスのクーガーか。一度戦ったことがあるけど手ごわかったな」
「ナイトってたくさんの人と戦っているんだね」
話を聞いているとナイトはかなりの戦闘経験があるようだった。戦場のトリックスター(笑)という表現も戦闘経験が豊富だからというのがあるかもしれない。
でも、(笑)がつくような相手ってどうかと思うけど。
「まあな。歌姫様。これから親睦を深めるためにレジスタンスとの交流でもどうだ?俺達からすれば、歌姫様には心証をよく思っていて欲しいからな」
「ふふっ。いいですよ。悠人とルーイはナイトさんとあの話をお願いします」
その言葉に僕は一瞬だけきょとんとしかけた。だが、メリルの目とルーイの目が入りすぐさま頷きを返す。
ここに来た目的は見学していた僕達を追ってきたわけじゃない。多分、ここにいる誰かと何らかの会話をするためだろう。僕とルーイの二人で。
僕がリリーナと鈴を見ると二人は頷きを返してくれる。事情はわからなくてもやることはわかったのだろう。リリーナがいれば大半の敵は倒せるだろうし。
「では案内をお願いします」
「案内を頼んだ。俺はこいつらと話をしていく」
楽しそうに動きだしたレジスタンスの人達。リリーナと鈴がメリルのそばについて歩き出す。リマも警備しているから少しは安心できるだろう。そして、ここに残ったのは僕とルーイ、クーガーさん、ラルフさん、ナイト他数名だった。
ラルフさんはクーガーさんと一緒に来たんだと思う。
メリル達が道を曲がるのを見届けてからナイトが小さくため息をついた。
「先に謝っておく。すまなかった。どうやらすお会いの侵入を許していたらしい」
「スパイ? もしかして、あの人のこと?」
さっき、メリルを殺そうとしていた人。もし、僕がちゃんと行動出来ていなかったなら今頃メリルは大怪我をしていたに違いない。
「僕も気づけなかった。こればかりは悠人に感謝だ。いや、悠人とリリーナだな。というか、完全に以心伝心だったぞ」
「こういう時は僕の方が早く動けたから。それに、リリーナは守るのに適していないし」
「確かに。乗るフュリアスも大火力なものだからな」
うん。ソードウルフもベイオウルフも攻撃をする時に最大限生きる機体だし。
「というか、そういう話をしに来たんじゃないよね?」
「ああ、そうだ。本題に入らさせてもらうぞ。こちら側のメンバーは全員メリルの、歌姫様直属の部隊だ。だから、安心してくれ」
「わかってる。じゃあ、こっちの情報を先に公開する。それでいいか?」
「ああ。今回の代価としてはそれが妥当だ」
情報交換、ということかな? でも、情報交換にしては空気がぎすぎすしているような。
「俺達が掴んだ情報は二つ。一つはレジスタンスを支援する政府側の人間は副首相だ。そして、副首相は俺達も標的に入れている」
「やはりか」
「ちょっと待って。僕にもわかるように説明して。何もわからずここに出されたんだから」
僕の言葉にみんながため息をつく。そして、ルーイが口を開いた。
「今回、レジスタンスと協定を結ぶために来たのはただ単に協定だけを結ぶためじゃないん。僕達は政府の内部にいる反乱を企てる勢力をレジスタンスを通じて教えてもらうために来たんだ」
「レジスタンスである俺達はかなりそういう勢力と繋がりがあるからな。機体の援助もそっちからだ。だから、それ相応の情報はあるってわけ。まあ、情報は基本的に秘密事項だから俺達も見つけられるとは限らないけれど」
「今回、僕達が提示したのはメリルのスリーサイズ。対するレジスタンスは」
「解放」
僕を中心に風が渦巻く。それにルーイが完全にひきつった上場で僕を止めるために両手を前に出していた。
「冗談、冗談だ。歌姫の力に関する情報だ。レジスタンスの情報は反乱分子。僕達からしてもそう言う勢力はかなり気をつけないといけないからな」
「交換条件としては破格。信じるか信じないかは自由だけど、俺は信じたってわけ。本当なら真柴悠人は残さないけど、俺が聞きたいことがあったからな。個人的に」
「いや、まあ、いいんだけど。副首相って確か天界との連絡を怠っていた人だよね?」
「そうだな。ラルフ、頼む」
「いいだろう。その前に、悠人は若干気づいているな。今回交渉している相手がレジスタンスの勢力の一つだと」
「あー、うん。前にメリルから聞いたのは本拠地がルーヴィエ・アルマでリーダーがクロラッハだって聞いていたのに、ここはゲイルさんだし」
前に話された話とはここのレジスタンスはすごく違っている。もちろん、レジスタンスは一枚岩ではないから仕方ないとは思っていたけど。
「レジスタンスは一枚岩ではない。勢力的にはクロラッハのルーヴィエ・アルマを本拠地としているレジスタンスの方が大きいだろう。だが、戦力はここの勢力が上だ」
「そういうこと。悠人は混乱するだろうからって詳しくは話していないってことだ。というか、これ、誰か外してくれないか?」
「何より、ここの勢力と手を結んだのは副首相がクロラッハと繋がりがある可能性があるからだ。こちらにも兵器を流しているのはそれを上手く誤魔化すためだろうな」
なるほど。だから、あの時とは違う勢力と交渉することにしたんだ。でも、国の一大事なら普通にそのレジスタンスと国が手を結びそうなんだけどな。
勢力間同士の協力って僕が思っている以上に複雑怪奇なんだね。
「副首相とクロラッハの繋がりって直接的にわかっていないの?」
「わかっていれば副首相の位置にはいない。奴は狡猾だ。狙いはメリルを傀儡として自由に操ること。そして、重度のロリコンだ」
「最後の情報はいらなかったな。じゃあ、勢力的に最大のレジスタンスと組まないのはそれを警戒してのこと?」
「簡潔に言えばそういうことだ。だから、俺達は」
その瞬間、周囲に赤いランプが点灯した。それに僕は思わず身構えてしまう。
『基地内にいる全非戦闘員に通達します。レーダー範囲にフュリアスの機影を確認。その数60。レジスタンスの機体ですが完全武装な上にこちらの指示に従わずに一直線に向かってきています。全非戦闘員はシェルターに向かってください。繰り返します』
「ルーイ、メリルをお願い」
「悠人。どこに行くつもりだ!」
走り出そうとした僕の手をルーイが掴む。僕はルーイの目を真っすぐ見つめ返した。
「悠遠で出る。悠遠なら敵が何であってもどうにかできる。それに、生存率なら僕がこの中で一番高い」
「ここはレジスタンスの領域だ。僕達がしゃしゃり出る隙間はない!」
「そう言う問題じゃない! 僕は守るんだ。みんなを。敵も味方も関係あるもんか。もう、誰も失いたくないから。それに、ここにはゲイルさんもいる。知り合いを助けるのに理由がいるの!?」
「それは」
『悠人、ルーイ、クーガー、ラルフ。聞こえていますか?』
頭の中に突如として響いた声に僕達は周囲を見渡した。何故なら、その声はメリルの声だったからだ。
『出撃してください。ここのレジスタンスは私達の仲間です。ですから、仲間を守ってください』
「「「「了解!」」」」
僕達が揃って声を上げる。僕達の思いは一緒だった。
「悠人は先に向かえ。僕達は説明をしてから後に続く」
「わかった。解放」
ほんの瞬間だけ僕の体に風を乗せる。そして、地面を蹴って大きく前に進んだ。
「どうして、こんな時に」
拳を握りしめる。大丈夫だ。大丈夫。悠遠と一緒なら何だって出来る。
「行こう、悠遠」
僕は相棒の名前を言いながら全速力で床を蹴った。