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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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第百三十九話 問答

「第一の質問。歌姫様は僕達のことをどう思っているのかな? まずは簡単にその質問からだよ」


メリルにとってのレジスタンスの印象ってことかな?


でも、周囲の空気を感じる限り、そんな簡単な問題じゃない。さっき彼が言ったレジスタンスの事情と言うものが関わっているのかもしれない。だから、ここは僕達はメリルの守りに徹しよう。


「私は怒っています」


その言葉に周囲の怒気が膨れ上がったのを感じた。リリーナがいつの間にか取り出しているアークベルラを握り締めている。


「私達が行ったことによってあなた達を生み出したことを。その頃の私は小さく、話もよくわからずただ傀儡とされていました。ですが、それを言い訳にしません。私は、あなた達を生み出した原因である私達に対してうごく怒っています」


「ルーイ、どういうこと?」


僕は近くにいるルーイに尋ねた。ルーイは少しだけ逡巡の色を見せるが小さくため息をついて語り始めた。


「10年前に政府が行った政策のことだ。レジニア峡谷付近はその当時、小さな集落がいくつもあった遊牧民の土地だったんだ。もちろん、戦火から生き延びた人達が文明の機器を嫌った結果なんだが。その地を政府が強引に接収し農地や果樹園に変えた」


「そんなことをして、そこにいた人達は納得したの?」


「納得していない人達が集まったのが今のレジスタンスの始まりだと僕は聞いているが、どうやら違うようだな」


「さすがは『歌姫の騎士』に一番近かった男だよ。そう、僕達レジニアの民はそのことを一つも恨んではいない。その時の交渉相手である今の首相が事細かくレジニア峡谷付近の平原の有効活用方法を教えてくれたんだ。そう言えば、君達は戦争が起きた本当の理由を知っているのかな?」


僕はルーイの顔を見る。ルーイは首を横に振り、リマも同じように横に振る。対するはメリルだけど、歌姫だから何か知っているかもしれない。


「私はただ、前の歌姫が私利私欲のために動いたとしか」


「それはあくまで歌姫を悪役にしたかった政府の陰謀だよ。本当の理由は食糧難。ちょうど前年が不作でね、人口が増加していた音界では食料が足りなくなる可能性があった。だから、豪遊していた歌姫は人口を少なくすることを提案した。全てが歌姫が原因と言うわけじゃないよ」


「つまり、レジニア峡谷付近が有名な農産地となったのは同じような理由で戦争を起こさないように食料の供給を増やすこよとを今の首相が説明して、レジニアの民はそれに納得したってことだよね?」


「そうさ。だから、歌姫様がこのことを反省することはない。僕達はあくまで合意の上であの地を出て行ったのだから。もちろん、今でもレジニアの民だった人達は食料の供給に融通をきかせてもらっている。だから、そこに不満がある人は少ないんじゃないかな?」


どうやら事情と言うのは問題は深いけど因縁は浅いようだ。表情から見ると誰もが納得して頷いて、あれ? 一人だけ悔しそうに顔を歪めている。


「では、第二の質問だよ。政府は僕達が何かやろうと思っている?」


「はい。私はそう聞いています。国家を転覆させるとか、民衆の大虐殺などの噂を。ですが、私はそれをしないとわかっています」


「どうして?」


「本当にするつもりならすでに行動を起こしているはずです。今の状況では人界の勢力と手を結ぶことは難しくはないでしょう。人界とのゲートが開いた時でも、あなた方なら人界の人をここまで呼び寄せられたはずです。そうなれば、今頃この音界は地獄絵図だと思っています」


確かに、そういうことになれば『GF』や『ES』、国連が黙っていない。すぐさま勢力を投入されて戦争になるだろう。だけど、その間にどれだけの犠牲が出るかなんて想像がつかない。


メリルの言うように、そんなことが出来るなら今でもいくらでも行っている。


「なるほど。一理あるね。じゃあ、第三の質問だ。歌姫様は人界の勢力と仲良くして何を狙っているのかな?」


「では、逆に聞かせてください。あなたは大好きな人と一緒にいたいと思いますか?」


その質問が全てにして答えだった。というか、メリルってかなりストレートにそういうことを言うよね。はっきり言ってかなり恥ずかしいんだけど。


今の言葉はメリルが僕と共にいたいからそう言ったとしか見てとれない。だって、リリーナと鈴の殺気がおかしいくらいに膨れ上がっているんだもん。


問答をしている彼もぽかんと口を開けて固まっている。


「私は一緒にいたいと思っています。例え世界が違うことであったとしても、例え、相容れぬ順守だとしても、私はそばにいたいと思っています。本当ならば歌姫と言う責務を放り捨ててずっと共にいたいです。でも、私は決断していますから」


その言葉は嘘偽りがなく、そして、心の底からの言葉だった。だから、誰も笑わない。誰もが真剣な表情で聞いている。


一人を除いて。


「リリーナ」


僕は小さくリリーナの名前を呼んだ。リリーナは小さくため息をついて頷き、そして、腕を上げた。


「異議あり!」


誰もがリリーナを見る。それはメリルやメリルを守る人達も同じ。突然のことで自分の責務を忘れてしまう。だから、その瞬間を逃すほど相手は甘くない。


メリルに向かって駆けだす男。本来なら反応がかなり遅れるだろう。だけど、僕はそれに反応して飛び出していた。


「解放。雷神槍!」


僕の体が紫電を纏う。ほんの瞬間的な開放。本当ならこれだけでも体内を電流が駆け抜けて深刻なダメージを受けるけど、翼の民の力によって駆け抜けた無駄な雷は全て吸収し再度最大限の使用のために解放される。


今までは受け止めて撃ち返すことしかしていなかったけど、僕だってこの力を有効活用できるように訓練したんだ。ルーリィエさんが音姫さんを倒すために訓練していたのと同じように。


吸収した魔術を体に装填し強化魔術として使用する。もちろん、効果時間は短いけど発動するまでの時間はほぼ刹那。だから、不意をつかれてもどうにか出来る。もちろん、不意をつかれなければどうとだって出来る。


「収束」


雷神槍によって纏った全ての紫電を手のひらに集める。吸収と収束に解放。それが僕の使える翼の民の力だ。


だから、こういう時は時雨さんの十八番を使わせてもらおう。雷を一点に収束した最大放電技。


「解放! トールハンマー!!」


紫電の拳が懐から銃を取り出そうとした男の胸に突撃して吹き飛ばした。僕は腕を振り切った体勢のまま動きを止める。


実戦で使うのは初めてだから上手く行くかは心配だったけど、どうやら上手くいったようだ。


「いきなり武器を抜くなんて危ないんじゃないかな?」


「あいつを捕えろ!」


問答していた少年がすぐさま支持を飛ばす。僕は小さく息を吐いて自分の手のひらをみた。そこにはたくさんの水ぶくれがある。


雷神槍との相性がよくない僕はいくら吸収してもダメージをなくすことは出来ない。もっと極めれば可能かもしれないけれど、今の僕では不可能だ。


「悠人! 無事ですか!?」


「大丈夫大丈夫。ちょっと新技試してみたかっただけだから」


「全く。こちらからしてみればありがたいけれど、そういう自己犠牲に近いことは止めて欲しいな。僕は人の死に敏感だから」


「もしかして、トールハンマーの余波を受けた?」


「ギリギリ遮断出来たよ。歌姫様。最後に一つ聞いていいかな?」


「はい」


メリルが頷く。それに少年は尋ねた。


「君にとって歌姫は何?」


「力です」


本当にメリルは即答をする。僕の手をギュッと握りながらもメリルは真剣な表情で質問に答える。


「歌姫という力が無ければ私はただの女の子でした。そして、悠人やリリーナ、鈴といった素晴らしい方々と出会うことは無かった。一時はこの力を恨んだことがあります。ですが、この力があるから私はここにいる。守ることが出来る人達がいる。だから、私にとっての歌姫は力です。【悠人の傷がよくなりますように】」


メリルは優しい。本当ならこういう怪我に使うべきじゃないのだろう。それこそ、怪我人全てを治さなければ不公平だと言われる。でも、メリルはそれを躊躇わない。だから、こんなみんなが見ている前で僕の怪我を平然と治す。


本当に優しい女の子だ。


「これだと僕が悪者じゃないか。というか、もう、この話し方辞めていいよね?」


「やはり、偽っていましたね」


メリルが苦笑しながら尋ねる。それに少年も苦笑で返した。


「当り前。俺だって何かと考えているんだよ。さてと、みんなの総意を集めようか。俺は歌姫様を信じるんだが、みんなはどうする?」


沈黙。だけど、視線は全てを物語っていた。


「決まりだ。レジスタンスの勢力は完全に歌姫様の下につく。俺の名はナイト・レフェランス。レジスタンスのエースパイロットの一人だ」

悠人が解放していられる時間はほんの数秒です。吸収→解放→吸収→解放の繰り返しで雷神槍は維持できますが、維持すればするほど肉体にダメージを追います。

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