第百三十八話 レジスタンスの事情
ギガッシュ。ラフリア。アキシオン。ガルシオン。ベスレルタ。etc
レジスタンスの格納庫に並ぶフュリアスを名前を挙げていけばもっと多いだろう。それくらいに多種多様なフュリアスが並んでいた。
「これだけのフュリアスを集めようと思ったらどれくらいのお金と時間がかかっているんだろうね」
「あー、悠人ってもしかして『ES』の中枢には関わっていなかったって感じ?」
「リリーナも? 私もそう思った」
僕の言葉に二人が呆れたようにため息をつく。僕はそれを首をかしげて聞いていた。
確かに、僕が『ES』にいた頃は中枢にかかわることはなかった。リースなら関わっているけれど、僕はあくまでアル・アジフさんの子供だったからそんな重要なところに入れるわけがない。
「えっと、どういうこと?」
「レジスタンスのような勢力には基本的に敵側、今回の場合だったら政府側に内通者がいるのが普通だから。兵器とか傭兵とかお金とか援助する勢力が必ずあるんだよ」
「うん。真柴や結城はそういうことをしていたから。お金を得るため、富と名声を欲しいがままに集めるためにはライバルみたいな人達はいない方がいいから」
「だから、ここのフュリアスは軍のお古が多いんじゃいかな? 正直、第四世代のレヴァイサンが未だに整備されるなんて思ってなかったけどね」
「レヴァイサン?」
どこかで聞いたことはあるけど、一体どこだったかな。
「あの青色の一角だよ。メリルからちゃんと教えてもらったよ?」
鈴が指さした方向には確かに青色のフュリアスの群れがあった。同じフュリアスがあの一角だけずらりと並んでいる。それだけ見てもあれがレジスタンスの主力だとわかった。
ただ、そのフュリアスは骨格がむき出している部分があり、装甲を削って攻撃力と機動性を上げたような状態になっている。
腰には今時フュリアスには乗せない大出力の収束エネルギー砲。確か、カタログにあった音界のGNBシリーズ160番台のものだ。エネルギー消費は桁違いだけど、威力も桁が本当に違う兵器。背中に背負われているのは標準的なエネルギーライフルよりも出力の高いバスターライフル。もちろん、エネルギー消費も高い。その横にはメインブースターが四つとサブスラスター群が翼のように二つ。そこに棒状の強大なエネルギーバッテリーが備え付けられている。
「何、あれ?」
「その気持ちはすごくわかるよ」
「二人共。みんな見ているから」
そうだった。ここはレジスタンスの本部だった。迂闊な発言は挑発になってしまう。
「GNBシリーズの160番台じゃなくて180番台を使えばいいのに。燃費と火力の効率から考えてGNシリーズ最高峰なのにね」
「悠人と私が以心伝心出来たのは夢だったんだね。そう言うことじゃなくて、今の世代は基本的に第五世代か第六世代だってことだよ! レヴァイサンがいい機体だってのは認めるけど、総合的に能力の高いギガッシュを揃えた方が戦力的には充実するんじゃないかな?」
「ギガッシュは未だに軍部で現役ですから。そんな中で大量のギガッシュがレジスタンスにあるとわかれば軍部内で犯人捜しが始まりますよ」
その言葉に振り返ると追いかけてきたのかメリルの姿があった。そばにはルーイとリマにレジスタンスの兵士が控えている。
「それに、レヴァイサンは戦時中に最も活躍した機体です。レジスタンスが効果的に使用する機体としては最も有効なものでしょう」
「うん。あれだけ火力の高い装備をしているもんね。街がいくつか焼き払われたのかな?」
「全部で131。大小合わせて131の街がレヴァイサンの群れによって焼き尽くされた。そこにいた十人ごとだ。だから、第五世代は防御に特化したフュリアスとなったんだ。僕からすれば恐ろしい光景だがな」
ルーイが呆れたように言う。確かに、根からの軍関係者であるルーイやリマからしたらレヴァイサンの群れは本当に恐怖だろう。
戦争の話は未だに多く残っており、たくさんの死者が出たことでも有名だ。だから、そういうのを繰り返されたくはないだろう。
「ですが、ここまでフュリアスが揃っているのはむしろ心強いと思うべきでしょう。私達に足りなかったのは総戦力です。単純な戦力では負けることは無いと思っていますが、数だけは対処しきれません」
「僕達が戦っている間に他の都市が襲われるかもしれないってことだよね? すでにたくさんの人を失っているし」
「はい。民間人に犠牲が出ることは私もレジスタンスも望んではいません。私達は集団は違えども平和な未来を夢見て相互に妥協していくべき立場ですから」
その言葉にその場にいた何人かが身を固くするのがわかった。
今のメリルの言葉は遠まわしに犠牲を出すなら相互に妥協することなく平和な未来を夢見て戦うと言ったようなものなのだ。もちろん、そんな相手と戦うのだから民衆はこちら側につくだろう。
「私は信じています。この音界という大地にいつ誰もがわかりあうことが出来ることを。私はそう、信じています」
「詭弁だね」
その言葉を発した人物に視線が集まる。そこにいたのは数人の女性を侍らせている少年だった。
「わかりあうことが出来る? それが出来ないから僕達はここにいるんじゃないか。相互に理解することなんて出来ない。僕達が出来るのは妥協するか戦うか。それだけじゃないかな?」
僕は一歩だけメリルに近づいた。それを見たメリルは僕に微笑んでその少年と向かい合う。
「理解することを諦めるのは得策とは言えません。私は戦うことが嫌いです。それはあなたも同じはずですね?」
「ああ。僕だって好き好んで人殺しをしたいわけじゃないよ。ただね、戦わなければならない時は戦う。それが僕達レジスタンスだ」
「そうだね。僕だって同じ意見だ。だけど、君の意見は戦うことを前提でいる。どうして話すことを考えないの?」
僕は疑問に思ったことを口にすることにした。すると、少年は笑みを浮かべて僕に近づいてくる。
「そういうお兄さんはすごく強そうだね。うん。理由を話すなら、誰もがレジスタンスを信用していないからだよ。レジスタンスは現政権にとって癌のような存在だ。いつ牙を向くかわからない。だから、戦うことを置いておくわけにはいかないんだよ。それにね、人は腹黒い。お兄さんみたいな自分のストレートな人が珍しいくらいだよ」
「共生感覚者だね」
リリーナが静かに断言した。
「君、音界出身じゃないよね? さすがに、白騎士みたいな化け物が二人もいるとは思いたくないけど」
「ご明察だよ、お姉さん。僕は天界出身だよ。まあ、そこは置いておこうよ。レジスタンスでのフュリアス部隊第五分隊隊長を務めている僕が歌姫様に質問させてもらうよ。後、僕に下手な嘘は通じない。お姉さんが言ったように僕は共生感覚者だからね」
「あなたの能力がどのような能力があるかはわかりませんが、私はこの場で【嘘やごまかしをしないと誓いましょう】。歌姫の力によって」
「正気かい? つまりそれは君のプライベートを赤裸々に告白することと同じなんだよ。例えば、君の好きな人とか」
「彼です」
即答だった。即答でメリルは僕の腕を取って抱きしめてくる。
確かに、嘘やごまかしは効かないって言う風に歌姫の力をつかっているけど、これだけはやりすぎじゃないかな? 周囲の視線がすごく痛いんだけど。
「困ったな。そこまで即答されたなら僕だって信じるしかないじゃないか。レジスタンスの事情を知りながら、歌姫様はそこまで答えるんだね」
「当り前です。私は話し合いに来ましたから。戦いに来たなら私は悠遠の後部座席に座って悠人の戦いを見ているだけでしょう」
「そうかい。じゃあ、いくつか質問させてもらうよ。リーダーは君達を認めたみたいだけど、僕達下っ端はまだ認めていない。政府と連携することに。だから、僕達を納得させてね。歌姫様」