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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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幕間 決別

「なぁ、レヴァンティン」


オレは小さく息を吐きながら隣に置いているレヴァンティンに語りかけた。オレが見ているのは机の上に浮いている立体ディスプレイ。


レヴァンティンはただ無言でオレの言葉を聞いている。


「これが、創世計画なんだな」


『そのようですね。全く、相も変わらず人は無謀なことをしでかしますね』


「まあ、不可能を可能にしたい思いってのはあるだろうな。だけど、今回ばかりは」


『無謀です。人の命を生贄にした術式魔術。想像を絶する威力ですが相手はその想像を超えています』


ディスプレイに映るのはようやく手に入った創世計画の全て。


今までわかっていた全てのことを合わせても、この計画は完璧にして完全。不確定要素は最後の敵の耐久力。


こんな完全な計画、避難誘導から食糧配給まで様々なことに念密に計算され尽くされた完全無欠の計画。


「まさか、こんなのが相手になるなんてな」


『対するマスターの計画は穴だらけですしね』


「ほっとけ。でも、どうにかしないとな」


創世計画自体がわかった今、この計画に対して憤りを感じていた。この計画は大体50年ぐらい続いている計画だ。


つまり、創世計画が始まったのは時雨達が一躍有名となったハイゼンベルク魔術学園での事件くらい。


今の世界の構図も、そして、オレ達の存在も最初から予定されていたことだった。


「なぁ、レヴァンティン。お前はどう思う?」


『あまりに歪な計画です。例え、どんな未来計画をしたとしても、50年単位の未来計画は確実に頓挫します。何故なら、50年も経てば為政者達はいなくなるからです』


「ああ。今の平均寿命から考えて、誰かが生まれた時から作り出し、発動していたなら話は変わるけど、そんなのは不可能だ」


『本来なら破綻すべき計画。不老不死がいなければ成立しない計画ですが』


「当てはまる奴らがいるからな」


あいつらが主導で今の世界を導いているに違いない。


『GF』と国連の仲が悪いのは演出であり、実際は国連が『GF』を動かしている。もしかしたら、『ES』があるのはそういう状況を敏感に感じ取ったからかもしれない。


「すごく、ムカつく」


『マスターの気持ちはわかります。第76移動隊のほとんどは創世計画に沿って作られ、そして、出会わされた』


「オレや茜が海道家に引き取られずに白百合家に引き取られたのも、オレと中村、悠聖が親戚なのも、エレノアと出会ったのも、狭間市に行ったのも、そこで都と琴美と出会ったのも、何より、第76移動隊の結成どころか、オレが生まれたのも、全ては創世計画通りって言うわけかよ!」


慧海達にとってオレ達は何なんだ? ただの鳥籠の中の小鳥だとでも思っているのかよ。


『創られた命、という表現は間違ってはいますが、この創世計画自体を見ていればそれすら否定出来ません。人の命は不可侵の領域だと言うのに、何故、彼らは思い通りに動かそうとするのでしょうか?』


「あいつらにとっては今の所は全て計画通りっていうわけか。オレ達が反対すれば第76移動隊は世界の敵となり、味方をすれば創世計画が滞りなく進む。だけど」


『マスターの気持ちはわかりますよ。私だって同じですから。こんな計画、思い通りにさせるわけにはいきませんし』


創世計画はどれだけの人の命を弄んだのだろう。『赤のクリスマス』の元凶となったこれはどれだけ怨まれるべきだろうか。


たくさんの人が死んだと言うのに、慧海達はまだこの計画を進めている。


「レヴァンティン。計画の中身を洗い直すぞ。問題点を挙げまくってこれからの対策を考えないと」


「つまり、周様は『GF』と決別するのですね」


その言葉にオレは振り返った。


そこには少し気まずそうな顔をした茜と、真剣な表情をした都、由姫にメグの姿がある。


「茜」


「ごめんなさい。さすがに断章のフルバースト準備されて質問されたら答えないわけにはいかないかなって」


「いや、それ質問じゃなくて脅しだよな?」


「周様、お答えください。あなたは、『GF』と真っ正面から戦うつもりですか?」


「その必要があるなら」


都の目は今まで以上に真剣で下手な嘘は通じないとわかった。それに、断章のフルバーストで脅されたくない。


「創世計画自体はほぼ完璧な計画だ。だから、オレは気にくわない。50年という歳月を描いた計画によってたくさんの命が弄ばれたんだ。だから、創世計画が不完全だと証明出来た時にオレは『GF』とも戦う。一人でだ」


「兄さん」


「悪いな、由姫。創世計画だけは認めるわけにはいかない領域にあるんだ。例え世界を敵に回してでもオレは」


その瞬間、オレの目の前に拳が迫っていた。由姫の拳なんかじゃない。由姫の拳なら気づく間もなく殴られていただろう。


頬を強く殴られる。だけど、オレはそれを受け流すことなく真っ正面から受けていた。


拳を放ったのは都。断章ではなく拳だっただけありがたいか。


「周様は私達をバカにしていますよね?」


「バカにしているわけじゃないんだ。だけど、これだけは」


「そんなことに私が気づいていないと思っていないのですか?」


オレは茜を見た。茜は違う違うという風に必死に首を横に振っている。


「私と周様の出会いがありえない出会いだったことは気づいています。そんなことくらい簡単に想像がつきますから。だから、私だって同じです。周様がその道を行くならば、私は共に歩みます」


「いや、そういう問題じゃなくてだな。創世計画自体に大きな問題があって」


「ならば、私は尋ねましょう。周様は私と出会い、後悔しましたか?」


「いや」


都と出会わなければオレは今頃潰れていただろう。


「由姫さんと出会い、後悔しましたか?」


「いや」


由姫がいたからオレは守る意志を持つことが出来た。


「亜紗さんと出会い、後悔しましたか?」


「いや」


亜紗を救わなければオレは助けるという意味を未だに間違えていたかもしれない。


「アル・アジフさんと出会い、後悔しましたか?」


「いや」


アルが共に歩んでくれたから、たくさんの戦いを生き抜くことが出来た。


「なら、周様は自らの人生に後悔しましたか?」


「しない。オレはオレで決めてきたんだ。みんなと共に歩んできたんだ。だから、後悔はしたくない」


「それでこそ周様です。だから、共に戦いましょう」


「都?」


都は笑みを浮かべ、ゆっくりとオレの頬に手を当てて額を合わせてくる。


「創世計画に従うことで周様が後悔するなら私は戦います。『GF』とも決別します。周様が望む未来こそ、私も望む未来です」


「都はいいのか? 死ぬかもしれないのに」


「兄さん。そんな小さなことじゃないから」


由姫が呆れたように言うがその顔には笑みが浮かんでいる。まるで、オレに安心するかのように。


「みんな、選択したから。私も都さんもみんな、兄さんと共に歩むことを。兄さんの理想は子供の理想ですけど、兄さんの理想は最高の理想ですから。だから、私は兄さんを支えます」


「創世計画に間違いがあるなら指摘しないとね。『赤のクリスマス』まで計画内ならぶん殴りに行かないと。お兄ちゃん。お兄ちゃんは、一人じゃないゃ」


そんな言葉にオレは頬に涙が流れるのがわかった。


わかっていたはずなのに自分勝手な理由でみんなを遠ざけていた。だから、心配してくれた。そんな優しさが純粋に嬉しかった。


「周様」


「兄さん」


「お兄ちゃん」


三人の声が聞こえる。オレは袖で乱暴に涙を拭いて笑みを浮かべた。


「レヴァンティン。三人のデバイスに完成した創世計画の計画書を。世界をよりよい方向に持っていくためにみんなで計画する」


『マスターらしいですね。こんな超重要機密事項を。だから、私は全力でサポートします』


「ああ、頼むぞ」


これからどうなるかはわからない。だけど、創世計画通りに進ませるわけにはいかないんだ。


「犠牲の上に成り立つ世界なんて、絶対に嫌なんだ」

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