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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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第百三十三話 天界と翼の民

「座ってください。あなた達は客人ですから」


灰の民の村にある少し大きな空き家。その中に孝治達はいた。シュナイトが笑みを浮かべながらその場に座る。それに続くように刹那とツァイスが続いた。


だが、孝治だけは呆れたように溜め息をついている。


「客人か。こんな扱いで客人とは笑わせてくれる」


「確かにここは空き家です。客人を招待するのは」


「お前達にとって嘘をつくのが正しいことなのか? ここは空き家だと言った。ならばなぜ、壁の向こうに武装した兵が17人と天井に8人。さらには外に33人の兵がいる?」


その言葉にシュナイトの表情が固まった。


ニーナとツァイスの二人は驚いて周囲を見渡しているが、ルネと刹那の二人はわかっていたかのように動かない。


二人共、わかっていながら飛び込んでいるからだ。


「さすが、というべきですね。まさか、天井まで見破られるとは」


「俺達の実力を見たかったつもりか? 残念ながら、俺達はそこまで甘くない」


「そのようですね。本当なら世間話から本題につなげたかったところですが、すぐさま本題に入りましょう。それほど時間は無いようですし」


ニーナが孝治の裾をギュッと握り締めた。そんなニーナの頭を孝治は撫でて安心させる。ルネと刹那の位置もとっさに二人を守れるようになっているため二人は普通なら安全だろう。


シュナイトは小さく息を吐いて、そして、口を開いた。


「第76移動隊を音界から撤退させてもらえませんか?」


「見返りは」


「人界へ、今、行っていることに関して『GF』との協力の約束を。そして、魔界には攻め込まないと約束しましょう」


孝治の目は真っ直ぐにシュナイトを見ている。シュナイトも真っ直ぐに孝治を見ている。目は雄弁に語るがシュナイトが嘘をついている感じではない。


だから、孝治は小さく溜め息をついた。


「却下だ」


本気だからこそ天界は第76移動隊が引けば音界に攻め込むだろう。崩落する大地に変わる新たな安寧の地を求めて。


そもそも、天界は一度攻めてきているのだ。その時の障害になったのが第76移動隊。


だからこそ、天界は第76移動隊に介入して欲しくないのだろう。第76移動隊の介入によって部隊がやられるのを防ぐために。


しかし、そんなことをされたら音界は火の海になるだろう。フュリアスがいくら進化しているとは言え、ディザスターやクロノスが大量に生産されているなら音界ですら勝つのは難しい。


そして、それを許せばたくさんの人が死ぬ。


「悪くはない条件だと思いますよ。あなた達は傷つかない。それなのに、協力する。素晴らしいではありませんか。そうでしょう?」


「違うな」


孝治は呆れたように溜め息をついた。


「音界を見殺しにして世界を救えば俺や第76移動隊隊長海道周は常に考えるだろう。あんな犠牲を出して世界を救って良かったのかと。後悔するくらいなら俺達は戦う」


「ですが、現在の音界は内乱状態です。それを鎮めるには強大な兵力が必要です。そのための準備もあります。ですから」


「そういう話じゃないッスよ」


刹那が呆れたように溜め息をついた。


「天界は音界をバカにしていることはわかったッス。今、魔界や天界が総戦力で天界を攻めても八割はいなくなることを考えた方がいいッスよ。それに、人間は下位の存在ではないッス」


刹那の言葉は自分の体験談が混じっている。


若くして雷帝となった刹那は実力があるからか弱い者を見下すことがあった。ただ、それは刹那よりも弱かった周が刹那をいとも簡単に倒したため考えを改めている。


内乱状態だろうが何だろうが、今の音界には悠人がいる。最硬のイグジストアストラルがいる、最攻のベイオウルフがいる。他にもたくさんのエースパイロットがいる。


例え天界が勝つとしても戦力のほとんどを失うだろう。


「わかっています。だからこその決断です。例え戦力が無くなっても、私達は安寧の地を求めなければなりません。あなた方も知っているはずです。天界の現状を」


「崩落する大地か」


「はい。この浮遊大陸はすでに寿命を迎えています。このままでは遠からずたくさんの人と共に大地は海の藻屑となるでしょう。それをさせるわけにはいかないのです」


「それには賛成ッス。だけど、だからといって音界に攻め込む理由にはならないッスよ。さすがに魔界は無理でも人界や音界と話せば協力してくれるはずッスよ」


「あなたは知っていますか? 移民に対する現地の人達がどれだけ冷たいかを。特に、灰の民のあなた達が一番よくわかっていることではありませんか?」


孝治以外の視線が二人を向く。ツァイスはビクッとなってルネにくっつき、ニーナはさらに強く孝治の裾を握り締めた。


そんな中、口を開いたのは孝治だった。


「バカバカしい。移民が何だと言う。移民が迫害されるのは現地の人達が原因なのか?」


「現に灰の民は」


「それはお前達が白を善しとし黒を悪としたからだ。たかが色に身分を決めることがあってはいけない」


「今までの信仰を捨てろと言うのですか?」


「こいつらだって灰の翼が欲しいから生まれたわけではないだろ。移民が迫害される問題は過去に作り出されたルールだ」


「正論ですね。ですが、染み付いた風習は簡単には取れません」


「だから、このまま隔離を続けるのか? たかが黒が混じっているだけで? お前達が作り出したルールをそのままにこのまま行くというなら俺には考えがある」


そう言いながら孝治は静かに運命を鞘から抜き放った。


「今すぐお前達を叩き潰して新たな政権を立ててやる」


「むちゃくちゃッスよ。そんなの誰もついて来ないッス」


「人界や音界に一般人を逃がすために特化した政権ならやりようがあるけど、天界って政権があるの?」


「無い」


「うわっ。新たな政権とか言っていながら政権が無いって知っているッスよ」


「だが、希望はある」


そう言いながらは孝治は笑みを浮かべた。


「戦わずに誰をも救う方法。それを俺達は探るべきだ。刹那。お前も天界の現状を見て感じただろ?」


大地が崩落する以上、そこにいる住人は不安で仕方ないはずだ。だからこそ、天界内でも過激派が現れる。


話し合いではなく、力づくで音界を取ろうとしている奴らが。


「それに、お前達のやり方で音界に行ったとして、生き残った音界の住人はどうするつもりだ?」


「決まっています。皆さんには悪いですが住みにくい環境へ追いやりますよ。負けたのですから」


「だと思った。俺達はそれを許容するわけにはいかない。音界と話し合いで移住するならともかく、住処を奪うというなら手伝うわけにはいかない」


『GF』だから、第76移動隊だからじゃない。それは孝治が人として思ったこと。利益なんて考えずに人として思ったこと。


利益から見れば第76移動隊は手を引く方がいいだろう。天界は無条件で協力し、魔界との戦いはなくなる。そして、天界の住人がたくさん助かる。


音界という犠牲を無視すれば。


「俺達が守る者には天界の住人すら入っている。だからと言って音界の住人を蔑ろにするわけにはいかない」


「天界が本来、全ての神としてあまねく世界を導く存在です。そのような天界がここまで譲歩しているのに」


「果たしてそれは本当に譲歩かな?」


その声は天井から響いてきた。この場にいないはずの人物の声。


「天界が世界を導く役割を持っていたのは天王というアークシステムが確立するよりも前、翼の民が存在していた時の話だよ。今の天界は天王はいても翼の民はいない。当時とは違うよっと」


天井の一部から開き、そこから白いゴスロリ服を着た正が現れた。白以外なら天界では目立つが、白も思いの外目立つ。


「それに周や悠人はそんな王になるつもりはない。だから、君の理論は最初から破綻しているのだよ」


「あなたは」


「僕は海道周。孝治、目的地にいなかったから寂しかったじゃないか」


「忘れていた」


「だと思ったよ」


クスクス笑う正を信じられない表情でシュナイトは見ていた。何故なら、正の背中には属性翼とは違う魔力で作られた翼があるからだ。正確には、魔力粒子を吸い込んでいる翼。


翼の民の証でもある翼だった。


「光翼、ですか。まさか、海道周、真柴悠人以外にその翼を持つ者がいたのですね」


「光翼は翼の民の中で一番下っ端の存在だよ。それほど偉いものじゃない。君達が求めるような存在とはなりえない。つまり、君達が望む世界はトップが存在しないのだよ」


「例え存在しなくても、天神がいます」


「天神は神とはなりえない。アークシステムによって規定された王という姿だ。人が神を名乗るなんて神殺し以外はただの戯言だよ。だから、根本的なところから理論が破綻する。まあ、そもそも君達が言うようにすんなり行くわけじゃないけどね」


そうクスッと笑った正にシュナイトの顔が微かに強張った。そして、小さく息を吐いて頷く。


「そうですか。仕方ありません。全員、この者達を捕ら」


「刹那! ルネ!」


シュナイトが言い終わるより早く孝治は叫びながら運命を近くの壁に向けて振った。運命の一太刀は壁を砕き、外へ続く道を作り出す。


孝治がそこから外に飛び出すと、そこには武装した兵士の姿があった。しかも、囲まれている。


普通なら絶体絶命。そんな中でも孝治は笑みを浮かべていた。


「さて、全員、ぶん殴って目を覚まさせてやる。かかってこい」


「君はかなり無茶をするのだね。ついていく見にもなって欲しいよ」


呆れながらも楽しそうに正がレヴァンティンレプリカを鞘から引き抜いた。それに孝治は笑みで返す。


「お前なら大丈夫だろ? 背中は任せた」


「任されました。久しぶりに君とのタッグだ。僕達が無敵であるとみせてあげようよ」


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