第百三十二話 首都の日常
「イージスカスタムの問題点を上げるとしたなら装甲かな? 攻撃力と機動力は桁違いに上がっているし、防御力は据え置きなんだけど、最大駆動時はどうしても装甲がね」
「なるほどの。パワー型なら押し切られる可能性があるってことじゃな。ふむふむ、難しいの」
「機動力が高いから今は大丈夫だけどこれからのことを考えるとね。生存率を上げておかないと最後まで生き残れないし」
「そなたもいろいろと考えているんじゃな。第76移動隊の戦闘要員で一番弱いのに」
「うぐっ。そうなんだけどね、やっぱり悠兄みたいに愛する誰かを守れるようになりたいから」
「そなた、和樹が泣いて伏せておるぞ」
呆れたような表情でこちらを向くアル・アジフに和樹の対面に座ってお茶を飲んでいた光は手を軽く振った。
アル・アジフも軽く手を上げて返してくる。
「まあ、あんたはそんなに強くないからな」
「ちくしょう。そもそも出番自体が少ないんだよ。周はあんなに活躍しているのに」
「まあ、主力メンバー以外華やかな戦闘やないし。うちなんてレーヴァテインをコピーして一面を焼き尽くすだけやから」
「俺より強いじゃん」
対面で机に突っ伏した和樹が小さく溜め息をついてアル・アジフと七葉の二人とは逆方向を向く。
そこにはケーキを食べさせあいしている浩平とリースの姿があった。もう、空気がピンク色だ。
「あいつらむかつく」
「見事なまでにピンクやな。こんな街中やのに」
そう言いながら光は周囲を見渡した。
見える範囲の至る所は壊れており、無傷な場所はない。だが、その中でも市場はあり、光達がいるような喫茶店も通常に営業を行っていた。
普通とはほど遠い。だが、普通を愛する人達が普通に近いようにしようと頑張っている。
「うちらは、守りきられへんかってんな」
「さすがに、いくつもの勢力から狙われたからな。俺も借り物で戦ってたけどよ」
「そういうことやない。あの日からこういう光景は見たくなかったから」
「気にしすぎだろ、と言いたいとこだけど、お前らにとってはずっと、今、だもんな。ただ聞いているだけの俺らと違って」
光にとってあの日、『赤のクリスマス』の日はただの昔じゃない。あれを起こした犯人達が捕まったことで時計の針が再度動き出している。
それは光にとっても同じ。あの時の惨劇を繰り返さないように動く。それが光の一番の目的となっていた。
惨劇を起こさないように敵を倒すだけでは無理だから。
「まあ、気楽にやるしかねぇだろ。俺達は人間だ。神じゃない。全てを見通すような神様なら話は変わってくるが、俺達は俺達が出来る今をやることをやる。それが大事じゃないか?」
和樹のその言葉に光は驚いたように和樹を見ていた。そして、プッと噴き出す。
さすがにそれはカチンときたのか和樹は光を睨みつけた。
「ごめんごめん。まさか、和樹がそんなことを言うとは思わんかったからさ。海道や孝治ならきっと危険人物を一つ一つ上げそうやし」
「あいつならやりそうだよな。次元が違う高見におるし」
「そうそう。特に海道はまるで、そういう風に設定された、かのような能力やしな」
「世界トップクラスの器用貧乏っつなんだよ。字面からしたら世界一の凡人じゃねえか」
そう言いながら二人は笑う。すると、七葉が不満そうに二人の元へと近づいてきた。
「かず君が楽しそう」
「悪いな、七葉。うちが七葉のかず君を取って」
「でも、かず君は絶対に、ぜーったいに七葉のことが好きだから大丈夫だもん」
「七葉って和樹に甘える時は私じゃなくて七葉やねんな」
その言葉に七葉が、しまった、というような表情になって和樹の背中に隠れる。隠れられるような大きさではないので所々見えている部分が小動物みたいに光には見えた。
だから、光は楽しそうに笑い、和樹は恥ずかしそうに頬をかいている。
平和だった。他は動いているのにここだけは平和だった。
「面白い光景じゃの。こういうのを見ていると我も年を取ったと思ってしまうわい」
「アル・アジフって何歳なん?」
「そこまで正確には覚えておらぬぞ。長すぎる年月は数字を奪い去っていくからの」
そう言いながら少し遠い目をしたアル・アジフの頭にポスッと薄い深緑と薄い灰色のチェック柄をしたベレー帽が被せられた。アル・アジフはベレー帽を掴みながら振り返る。
すると、振り返ったアル・アジフの頬をその場にいた楓がぷにぷにと突いていた。
「楓、お帰りや」
「ただいま。アル・アジフさんのほっぺって柔らかいよね。茜の次くらいかな?」
「我よりもほっぺが柔らかいものがいるじゃと」
「つっこみ入れるとこはそこじゃないよね?」
「人工物のはずなのに柔らかいのか。周の技術はすげぇな」
「ほら、周兄が自分で触るために好みを設定したんじゃないか」
散々な言われようだが他の三人は何も言い返せないでいた。
アル・アジフの体を作ったのは周とアリエル・ロワソ。二人共天才でありあっちの行為すら可能にされていたりもする。
だからこそ、そうされた可能性は無いどころか大いにありえるからだ。ちなみに、七葉は本気で言っている。
「楓よ。調べ物は終わったのかの?」
「うん。世界が違うと蔵書も大きく違ってくるからはかどったかな。悠聖君達が調べた内容もわかっていたからかなり省けたのもポイントかな」
「楓さんって何か調べてたの?」
「個人的な興味があったようじゃな。まさか、魔鉄について詳しく調べたいとはの」
魔鉄。
希少鉱物である鉄(人界では希少鉱物ではあるが音界ではそれほど希少ではないため最近は希少鉱物という枠組みに入るか議論されている)に魔力を注入することで一定の大きさまで膨れ上がったもの。
魔術に対する防御は無きに等しいが、物理的な衝撃には極めて強くなるため建造物の骨組みやフュリアスの体に使用されているもの。
魔鉄に関しては人界よりも音界の方が研究が活発であるといえるため様々な情報が見つかったのだろう。
「興味本位だけどね。魔鉄自体がカグラの技に利用出来そうだから」
「ちょっと待った。魔鉄は魔術に弱いやろ。カグラのどこに使うん?」
「一概には魔術に弱いとは言えぬぞ。イグジストアストラルやストライクバーストは装甲が魔鉄じゃが並みの魔術では傷一つつけられぬ。まあ、ストライクバーストは傷つけることは可能じゃがイグジストアストラルは不可能じゃ。それに、魔鉄には面白い特性があるのじゃ」
「えっと、魔鉄と同じ比率の攻撃を加えると拡散する、だったよね?」
七葉は簡単に言うが魔鉄と同じ比率、つまりは魔鉄に含まれる魔力と同じ比率の魔術を叩き込むのはある意味不可能だ。
魔鉄は100%に近くなればなるほど頑固になるためそんなことはほとんど出来なくなる。一応、今開発出来る魔鉄なら可能ではあるが、魔術の方が大変だ。
魔鉄に入れられた魔力と同じ比率の魔術を叩きつける。
これは属性によって数値が変わる。
炎なんてほぼ100%の魔力比率だが風、大地は一桁になることが少なくない。それに魔術には魔力の振れ幅が存在する。それを器用に魔鉄と合わせようと思えばかなり難しいことになる。
「そなたが何を考えておるかわからぬが、そなたなら凄まじい火力を叩き出すじゃろうな」
「そうかな? 光の方が火力は高いと思うけど」
「うちは楓には負けるわ。うちは手数が多いだけで火力は低いから」
「あれで低いのかよ」
「かず君。第76移動隊にいるんだから諦めようよ」
光の言葉にうなだれた和樹を七葉が慰めているのかわからない言葉で慰めている。確かに、第76移動隊にいる以上、火力を意識していればきりがない。
あの音姫ですら第76移動隊の中では火力が無いのだから。
「じゃが、そなたは爆発系の魔術と魔鉄を組み合わせるではないぞ」
「どういうことなん?」
光の目が微かに強張る。それを真っ直ぐみながらアル・アジフは答えた。
「『赤のクリスマス』の惨劇を起こした組み合わせじゃからな」