第百二十四話 品定め
メリルから悠遠の操作権を受け取る。そして、そのまま悠遠をレジスタンス本拠地の整備ブースの中に入れた。
すでにアストラルソティス二機とアストラルレファスにアストラルルーラは整備ブースに入っておりパイロットも降りている。ベイオウルフはちょうど悠遠の右の整備ブースに入ったところでイグジストアストラルだけが未だに整備ブースに入っていない。
「メリル、準備はいい?」
僕は時計型デバイスを腕につけながらメリルに尋ねた。メリルはゆっくりと、だけど、確かに頷いてくれる。
「はい。お願いします」
「わかった」
僕は頷きを返しながらパワードスーツを装着した。デバイスの機能を全て虚空から物を取り出すことに特化した特殊仕様で装甲は薄いが高機動なパワードスーツを一瞬で装着出来るようになっている。武器は両腰のエネルギーピストルしかないけど。
今から向かい合うのはレジスタンスのリーダー。鈴がイグジストアストラルで警戒しているとは言え、こちらもそれ相応の警戒をしなければならない。
リリーナがいてくれるけど、向こうには白騎士がいるからね。
僕はコクピットを開けた。こちらを狙う銃口はないから大丈夫だ。よく見ればルーイやラルフはかなり警戒している。リマは整備ブース近くにいた人に何かを話している。おそらく、電子戦装備の内容を話しているのだろう。
僕はコクピット近くに組まれた足場に移った。そして、後部座席から前部座席に移動したメリルに向かって手を伸ばす。
「どうぞ、お姫様」
「くすっ。悠人には似合いませんよ。でも、ありがとうございます」
メリルが僕の手を掴んだ。僕はメリルを引っ張って同じ足場に移動させる。
現れたメリルを見るように視線が集まるけど、悪意ある視線はないようだ。
「地下にあるだけで整備ブースとしてはあまり変わらないようですね」
「多分、来賓用の整備ブースじゃないかな? 整備ブースの中にあるフュリアスは僕達だけだから」
「今回の『歌姫の騎士』はパイロットとしての適性だけでなく思考能力も高いみたいだな」
その声に振り向くと、そこには武装した兵士を引き連れた老人の姿があった。
メリルが僕より前に出る。
「お初にお目にかかります。私は歌姫をやっておりますメリルと申します」
「レジスタンスの副リーダーのケンゾウだ。リーダーは現在他の仕事が忙しいため少し遅れている。歌姫様には失礼だと思っているが許していただけたい」
「いえ。こちらが無理を言って話そうと言ったのです。そちらが悪いところは一つもありません」
メリルが僕の手を握ってくる。やっぱり、まだ男性は怖いみたいだね。
「ですが、私達は格下ではありませんよ」
前言撤回。絶対に怖くないよね? むしろ、挑発しているよね?
「歌姫様こそ、我らを烏合の衆とは思っていただきたくはない。我らは政府と共闘する準備は出来ている」
「レジスタンスが烏合の衆だとは誰も思っていないはずです。もし、烏合の衆であるならばレジスタンスは消え去っているでしょう。その時点でレジスタンスは烏合の衆ではないということです」
「ありがとうございます。ですが、政府側に戦力が現存するか未だに不明な点がある。先の連戦で政府側の戦力は九割を失って聞いている。よもや、我らレジスタンスを盾に戦うつもりではないだろうな? その場合、我らは共闘出来ないが」
確かに、音界政府の戦力は激減している。だから、レジスタンスが危惧するのは共闘ではなくファントムやセコッティとレジスタンスを直接ぶつけられること。
ここは一発、メリルに何か大きいことを言ってもらわないとね。
すると、メリルがクスッと笑った。
「もしかして、総戦力がたった九割を失っただけで戦力が九割に落ち込んだと思っていませんよね?」
まさか、挑発を挑発で返すなんて。向こう側青筋が浮かんでいないかな?
僕は小さく溜め息をつきながら腰に手を当てる。正確にはエネルギーピストルの場所に。
「不思議に思うなら今から実演してあげますよ。私の騎士である真柴悠人があなた方レジスタンスの機体と戦うことで」
「たった一機で何が出来るというんだ。こんな小さな子供の癖して」
その言葉に後ろに控えていた武装した兵士が吹き出した。もしかして、このケンゾウって奴、僕に実力が無いと思っているのか?
「その名前か察すると、どうやら異世界人。フュリアスが発展を始めて10年ほどしか経っていない世界の住人が『歌姫の騎士』になれるなら、我らレジスタンスは『歌姫の騎士』になれるということ」
あっ、メリルがだんだん怒りだしている。少し、マズいかな。
「そんな子供を『歌姫の騎士』にするとは、未だに理解が」
「悠人」
「わかった」
僕は小さく溜め息をついて前に踏み出した。武装した兵士が慌てて武器を構えようとするがそれより早く武器を蹴り飛ばしケンゾウの後頭部にエネルギーピストルを当てる。
「それ以上、歌姫様に言葉を吐き捨てるならお前の頭を撃ち抜く」
「貴様! ケンゾウ様に何むぐっ」
それでも喚き散らす兵士の口に僕はエネルギーピストルの銃口を入れた。
「僕のことはいくらでも言ってもいい。事実だから。だけど、メリルのことを、歌姫メリルのことを悪く言うな。それ以上言うなら」
「言うなら何と言うのだ? 我らレジスタンスがいなければお前達は何も出来ないくせに」
「なら、やってみる?」
僕はケンゾウを睨みつけた。
「レジスタンスの軍勢をぶつけてきてよ。悠遠で圧倒的な実力差で壊滅させて上げるから。そんな考えのレジスタンスとは共闘するだけ無駄だよ」
「貴様」
「僕は『歌姫の騎士』だ。そして、世界最強のパイロットだ。それくらいしないと認めないでしょ? 僕の力を」
強くエネルギーピストルを押し付ける。視界の隅には呆れたように肩をすくめるリリーナと同じように肩をすくめる白騎士。クーガーやラルフも呆れている。
だけど、僕は本気だ。僕達を下に思うならそれ相応の戦い方がある。
「あはははは、ケンゾウ、一本とられたな」
その声が聞こえてきた瞬間、僕の手からエネルギーピストルが奪い取られていた。そして、いつの間にか腰のホルダーに収められている。
身体強化はそれなりにしかしていないから奪われてもおかしくはないけど、ここが音界だと考えればおかしい。
「始めまして、麗しき我らが女神よ。私の名前はゲイル。レジスタンスのリーダーをやっております」
そして、いつの間にかメリルの手を取ってその甲にキスをする男の姿があった。
「突然ですが、私と結婚してください」
「クーガーみたいですね」
「あんなチェリー男と一緒にしないでください。私は女神の喜ばし方を知っています」
クーガーが何か喚くけどそれは無視だ。僕はエネルギーピストルをまた抜いて男に銃口を向けた瞬間、男が動いた。
凄まじい速度で肉薄してきて、そして、エネルギーピストルを僕の手から奪い去る。だけど、その瞬間には最大限まで身体強化を発動しているから僕はもう片方のエネルギーピストルを向けていた。
「不敬罪で罰するよ」
「怖い怖い。『歌姫の騎士』はさすがだ。彼女を守るためならスピードが」
『悠人の彼女は私だから!』
「私に決まっているよね!?」
「私ですよね?」
「いきなり修羅場を作らないで欲しいんだけど!」
何でこうなっているのかな?
「そっち方面でもお盛んなようで。だが、『歌姫の騎士』はさすがという言葉は事実だ。俺の速度についてくるなんてな。強くなったな。俺はゲイル・グレファス。久しぶりだな、悠坊」
「ゲイル・グレファス? 悠坊って、ゲイルさん!? なんでこんなところにいるの?」
「はっはっはっ。積もる話もあるだろうが、今は歌姫様だ。歌姫様。部屋を用意しています。そこで落ち着いて話しましょう」
「わかりました。皆、疲れていることですし、早く向かいましょう。悠人、レジスタンスリーダーと話すのはもう少し我慢してください」
「うん」
その言葉に頷きながら僕はエネルギーピストルをホルダーに戻した。
こんなところでゲイルさんに出会うなんて意外だったな。リースやアル・アジフが聞いたら絶対に喜ぶな。後で連絡しないと。
僕はそう思いながらメリルの隣まで戻った。
「嬉しそうですね」
「うん。死んだと思っていたから。まさかこんなところで会うとは思わなかったよ」
「ふふっ、意外ですからね。では、行きましょうか」
「そうだね」
僕は頷いて足場から降りるための階段に向かって歩き始めた。