第百二十二話 レジスタンスの本拠地
なだらかに続く山々。眼下に流れる川。そして、辺り一面に生い茂る森。
首都から遠く離れた地図上では未開の土地に僕達は来ていた。僕達と言っても歌姫親衛隊のメンバーだけど。
悠遠の僕。イグジストアストラルの鈴にベイオウルフのリリーナ。アストラルルーラのルーイ、アストラルレファスのクーガー、アストラルソティスのリマとラルフ。
悠遠の後部座席にはメリルが、イグジストアストラルの後部座席には白騎士が乗っている。
音界の部隊で一番凶悪な編成になっているが、これはレジスタンスという政府にとっては敵である存在の中に歌姫を連れて行くからだ。念には念を入れて編成されている。
その中でもリマのアストラルソティスは電子戦装備であるため戦闘に参加するような機体じゃない。
「メリル、疲れはない?」
「大丈夫です。モニターを弄っているので暇でもありませんし」
「あまり触って欲しくはないんだけどね。それにしても、どうして悠遠は副座式なのかな? 別に単座式でもいいのに」
『そもそも、フュリアスの設計思想は本来副座、つまりは複数人が同時に乗ると規定されて作られた。理由としては昔のフュリアスはそれほど制御系が強かったわけではなく、一人が操縦に力を入れ、もう一人が制御に全力を傾けなければならないほど不安定な代物だった。僕が乗るアストラルルーラは少し違うが、アストラルシリーズはエース又はそれに近い者が乗る。その場合は二人でするよりも一人の方が効率がいいからだ。その原型となったギガッシュでは』
「ルーイ、長くなりそう?」
『いいところだから静かにしてくれ』
どうやらとっても長くはなりそうだった。
『ギガッシュでは試験的に単座、つまりは一人乗りにしているが、その理由としては今なお現役として活躍出来るスペックにある。本来なら後継機であるアストラルブレイズに乗り換えてもいいものだがギガッシュのスペックはとても高い。そこから推測するに、悠人が乗った機体はダークエルフは単座。それは類い希なるスペックを有しているからだろう。システム的な余裕が無いからこそ単座にはなるが、本来のフュリアスは単座ではなく副座が基本だ。人界の技術が入る前は天界のシステム面はかなり弱いものではあったからな。そのシステム面をカバーするための副座だ。今では人界の技術をかなり取り入れることが出来たが、戦力が少ないならともかく、フュリアスが足りない状況ならば一人より二人の方がいい。僕だって、単独行動は苦手だ。単機行動でも副座なら少しは安心出来るだろ?』
「いや、だろって言われてもね」
『ルーイの話は面白半分に聞いていたら十分だぜ。というかさ、ルーイ。未だに疑問なんだが、今回どうして俺も参加なんだ? 親友、わかるか?』
『クーガー。お前も悠遠の翼を持つ機体のパイロットだろ。歌姫様を守るために参加するのは』
『そうじゃなくて、アストラルレファスは飛行能力が劣悪なんだぜ。こういう風に運ばれるってのもな』
確かに気にはしたくなかったけど、確かにアストラルレファスって飛行能力が劣悪だから、イグジストアストラルの背中に乗っているんだよね。
もともと、イグジストアストラルは頭を進行方向にして飛ぶことも可能(背中のブースター兼砲塔は270°動く)だからアストラルレファスを背中に乗せても大丈夫だ。まあ、見た目はシュールだけど。
アストラルレファスは近接型の機体。マテリアルライザーに近いと言えば近いけど、マテリアルライザーは一撃を受けたら戦闘不能。だから、一撃を受けないと仮定した最低限まで削った装甲と最大限まで作り出した機動力が特徴。
対するアストラルレファスは『栄光』という攻防一体の光を纏って近接戦闘を仕掛ける機体。時間は有限だけど、『栄光』展開中はイグジストアストラルですらダメージを与えられない。
ちなみに、ベイオウルフは怖くて出来なかった。
『アストラルレファスと言えば私達レジスタンスにとってはは厄介な機体だ』
それに答えたのはイグジストアストラルに乗る白騎士だった。
『こちらの攻撃は届かず近づいてくる機体。イグジストアストラルと比べれば防御力は低いが機動性が極めて高い。だが、敵陣ど真ん中で動きが停止するのは今でも笑い種』
『うるさいやい! あの時は初めてアストラルレファスに乗ったんだよ。なぁ、親友?』
『調子に乗って突っ込んだバカが一面いたな。戦いが終わった後みんなで大爆笑していたのは今でも笑い種だ』
「ふふっ。確かにあの時は私やルーイも大爆笑していましたね。確か、歌姫様、このクーガーが歌姫様に勝利を与えます、とすごいどや顔で言って突っ込んで行きましたからね」
そういう状況を本気で見てみたかった。まあ、確実に僕も笑っていたと思うけど。
『俺に味方はいないのか!?』
『いない、かな。というか、そういう状況でよく生き残っていたよね? 普通なら死ぬと思うんだけど』
『悪運が強いのかな?』
『さんざんな言われようだぜ! 歌姫様は味方ですよね?』
「悠人、レーダーに反応です」
メリルの言葉にその場にいた全員が緊張するのがわかった。ただ、電子戦装備のアストラルソティスの方がレーダー探索範囲が広いはずなのに。
僕はメインモニターの端にレーダーの図を出した。だが、そこには何の反応もない。
「メリル、どこにもないけど?」
「ほんの一瞬だけレーダーに反応が」
『それは私も確認しています。ほんの一瞬だけメリ、歌姫様が見つけたのと同じタイミングでレーダーに反応がありました』
『じゃ、誤作動じゃないってことだよね? だったら、どうして反応が』
確か、レーダーは魔力粒子の放出又はエネルギーの放出を探知するためのものだから、レーダーに反応があるってことはそこに何かがあるのは確かなことだろう。
僕はすかさず悠遠の出力を上げた。
「メリル。反応の位置は?」
「えっと、あっちです」
そう言いながら反応があった方向を指さすメリル。そんなのでは正確な位置はわからない。
『三時の方角距離800です』
「ありがとう」
リマが答えてくれた内容に僕はすかさず悠遠を加速させた。周囲に気を配りながらその地点を視界に捉える。
そこにあるのは何かの装置。多分、一定周期でエネルギーを放出するもの。攻撃の感じはしないから近づいても大丈夫だろう。
「メリルはモニターを警戒していて。僕は降りてみるから」
「降りる、ですか? 危険です。悠人でも承認できません」
メリルがすぐさま僕の提案を否定する。まあ、そうだよね。
『大丈夫だ。それはレジスタンスの本拠地への道標。本当ならエネルギーは放出しないが受け入れる態勢が整ったと言うことだろう』
そこに通信を入れたのは白騎士だった。イグジストアストラルのコクピットが開いて白騎士が現れて飛び降りる。そして、すぐさまその装置に駆け寄った。
イグジストアストラルなら攻撃が受けても大丈夫だから近づいているけど、アストラルレファスは大丈夫なのかな? 大丈夫と思っておこう。
『通信聞こえるか?』
「聞こえていますよ」
『ありがとうございます。万全を期すためここで待機していて欲しいと言うメッセージがありました。歌姫様とはいえレジスタンスの最高機密は見せられないということでしょう』
「最高機密? 本拠地への道ってこと?」
レジスタンスと政府はは争っている部分はたくさんある。僕達が歌姫親衛隊とはいえ、軍の一員であるのは明白だ。だから、どうにかして本拠地まで運ばれるのだろう。
「じゃあ、ちょっと休憩できるね。メリルはちょっとは降りたいよね?」
「本当は降りない方がいいのですけど、さすがに疲れてきました」
『悠人。護衛の数が少なすぎる』
『それなら、私とミス、違った。白騎士の二人で守るよ。相手がフュリアスならここにいる全員で簡単に倒せるし、生身だとしても私達には勝てないから』
「そうだね。じゃあ、悠遠を着地させるから周囲に警戒して」
その瞬間、森が一瞬動いたような気がした。すかさずエネルギーライフルを作り出して周囲の森に銃口を向ける。
気のせい? いや、違う。確かに動いた。もしかして、
「全機着地。レジスタンスの本拠地は多分わかった」
『悠人。急に何を言っているんだ? 僕には急に警戒しだしたお前しか見えないんだが』
「うん。警戒したよ。白騎士が言った道標は確かだと思う。だから、僕の答えを言うよ」
僕は悠遠を着地させながら口を開いた。
「レジスタンスの本拠地は地下。多分、ここら一帯の地下」
その言葉と共に目の前に森がせり上がる。そこから現れたのはフュリアス一機分が悠々と通れる大きさの入り口だった。着地する音がいくつも響き渡る。
どうやら、全員理解したらしい。僕達が思っているよりもレジスタンスは規模も年月もけた違いだと言うことを。
「メリル、準備はいい?」
「大丈夫です。では、行きましょう。レジスタンスの本拠地へ」