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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第一章 狭間の鬼
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第六十二話 世界

とても長くなりました。一万文字越えに。

慧海の物語である『ディバインナイツ』と時雨の物語(タイトル未定)は2012年又は2013年にどちらかを公開予定。要望が多ければこの第二章開始時に並行して書くかもしれません。

一応、世界の勢力についても書きました。多分、読みにくいとは思いますが一生懸命考えた世界設定(ほとんど上記の作品の紹介)です。


「現在、世界の情勢は三つの勢力に分かれています」


愛佳さんが黒板に文字を書きながら言う。書きながらと言っても書く速度が凄まじく早いため普通の人には腕が動く様子は全く見えない。見えたとしてもいつもの腕が繋がっている様子だろう。ちなみに、オレの魔術強化なしの目では残像がいくつも見える。ほとんど繋がっているけどね。


その黒板に書かれた文字はまるで、印刷された文字のようにかなり整った文字で、それらを見たクラスメートはぽかんと口を開けている。開けていないのはオレと由姫の二人だけか。


「一つはこの教室にも所属している人のいる『GF』。主に南アメリカ大陸とヨーロッパ大陸。そして、ユーラシア大陸の東側が主な範囲ですね」


もう黒板は書き終わっているので愛佳さんはこっちを向いて話している。黒板に書かれているのは『GF』、国連、『ES』の三つだ。その内容まで要約されて書かれている。それを見たクラスメートは黒板の文字を慌てて写している。オレはそんなことをしなくてもわかっている(わかっていなければ問題だ)ので書かない。


『GF』がここまで地域が飛んでいるのは『ES』との協定に国連が絡んできたからだ。


「一つは国際連盟。これは世界各国が加盟していますが、主な範囲は北アメリカ大陸とオセアニア地域です」


日本や中国なども国際連盟に加盟しており、国連軍の戦闘能力は『GF』と『ES』過激派が全面戦争にならないための抑止力になっているとよく語られる。正確には、『GF』の第一特務が『ES』穏健派と国連が全面戦争にならないための抑止力となっているだけだ。


北アメリカに関してはお情けでもらえたものとしていろいろ皮肉られているけど。


「最後は『ES』。主にアフリカ大陸とユーラシア大陸の東を除く全域ですね。『GF』や国連の目がと度かな場所にいます」


アル・アジフ達が属している『ES』。アリエル・ロワソが率いる過激派とアル・アジフが率いる穏健派の二つに分かれており、傍目から見れば仲が悪いように見えるが実際は違うというのがややこしいところだ。何故か知らないが、過激派は国連と、穏健派は『GF』と仲がいい摩訶不思議な現象も起きている。だからと言って『GF』と国連が喧嘩しているというわけではないけど。


「皆さんは前期の間に現代社会、主に『GF』が誕生してからの世界について勉強します。では、教科書の第八章を開いてください」


教科書にはオーバーテクノロジーの存在など今の時代より前から書かれているかなり詳しい(ややこしい)教科書だ。というか、このレベルはある意味高校生が使っていてもおかしくない。いや、大学生と言うべきか。教科書をパラパラ捲ってみた内容でもかなり専門的な内容が多かった。


例えば、オーバーテクノロジーの産出で知られる地域は一般的にアルタミラ、北京郊外、アメリカ西海岸だが、他にもキャンベラ郊外、北アイルランド、日本などマイナーな場所まで書かれている。


オレは第八章を開けた。最初の見出しは第四次世界大戦だ。


「およそ百年前、ヨーロッパ大陸を中心に起きた戦争が第四次世界大戦です。では、白百合君は第四次世界大戦の始まった年月と終わって年月。始まった理由と終わった理由を答えてください」


教科書を見ればいいのではないかと思われるが、教科書に書かれている内容が真実とは限らない。特に、これは一般的に知られている内容から書かれているので世間に認識されている年月はこれが正しい。だが、実際は、


「新暦918年8月27日に起きた中東事変から実質の第四次世界大戦は始まり、25年12月25日に終結。中東事変は新しい術式理論が悪用される可能性があり、その技術を中東連合がヨーロッパ連合の研究所を強襲し技術を破壊したことから起きました。終結はヨーロッパ連合の策謀によって復活した『穿つ神』を白百合姫路と善知鳥慧海率いるガーディアンズフォースが倒したことで終結しました」


ちなみに、教科書には920年に始まったと書かれているが、中東事変により世界の情勢が一気に崩れたことから、実際は中東事変があった918年8月27日となる。


愛佳さんはオレの答えに満足したのか頷いた。


「正解です。まずは中東事変からですね。白百合君が説明したように、中東連合が新しい術式理論を広げさせないために動いた事件です。その頃、世界の構図は今とは違っていました」


教室を見渡した愛佳さんが黒板を消す。どうやら誰も書いていないか確認したらしい。


愛佳さんが次に書いたのは凄まじくリアルな世界地図。ユーラシア大陸とヨーロッパ大陸の間にあるチェルノブイリ海峡の形までリアルに書かれていた。他にこだわっていそうな部分は、北アメリカにあるアラスカとグリーンランド。そして、オセアニア地域。さらにはというよりやはりというべきか日本だ。


離れてみれば誰が見ても世界地図だろう。地図帳に乗るようなレベルの。


「まずは私達がいる日本から。日本は隣国朝鮮国と日朝連合を。中国はロシアと中露連合。東南アジア及びオセアニア地域は豪州連合。他のアジアは中東連合という風に、地域によって同盟を組んでいました」


愛佳さんが地図の上に文字を黒板に書いていく。そして、連合の地域を丸で囲む。


連合の話はかなり有名だ。一番規模の小さかった日朝連合が最大の戦力を誇っていたという言葉と共に。最大の戦力と言ってもとある一族ととある少年で最大の戦力だけど。


「中東連合がヨーロッパ連合の研究所を襲撃した事件、中東事変は襲撃した日から二ヶ月ほどで解決したため、第四次世界大戦に組み込まれていない理由です。中東事変は中東連合対ヨーロッパ連合ではなく、民間自治組織対ヨーロッパ連合という構図でした。ここに出てくるのが『GF』機動科第一特務隊長善知鳥慧海です」


「先生、質問はいいですか?」


手を挙げたのは委員長だ。質問内容については愛佳さんが気づいているのは確実たから口に出さない。委員長は立ち上がった。


「何故、百年前の人物が今も生きているんですか?」


その疑問に関してはたくさんの人が思っているだろう。『GF』の第一特務には年齢と外見が完全にあっていない人物が何人かいる。童顔と言うレベルではない。もちろん、愛佳さんもその一人だ。


「いい質問ですね。ですが、それはもう少し後になります。まずは都築を話しましょう。善知鳥慧海は単身でヨーロッパ連合の一軍を撃退するなど一躍有名人になります。そして、中東連合とヨーロッパ連合が和解した日、その仲介をしたのが善知鳥慧海です」


その話は慧海自身から何度も聞いたことがある。ヨーロッパ連合の一軍を単身撃退などありえない戦果があるが、実際はヨーロッパ連合の三つの軍隊をお手玉したのが事実だ。慧海は誰も殺さず撃退するという奇跡を起こしているが本人は当たり前と言っていた。まあ、あいつの実力と武器なら当たり前か。


慧海は自分自身をチート存在だと思っているし。実際に、第一特務の全員が善知鳥慧海は反則的なまでの強さを持っていると言う。一番怖いところは魔術もなしのデフォルトの強さで異名を勝ち取ったところだろうか。どうかんがえても化け物の一人です。


「一般的に知られている第四次世界大戦の始まりはヨーロッパ連合と中露連合が手を組み、中東連合を攻撃した時から始まります。この第四次世界大戦の話は皆さん詳しいかもしれませんね」


おとぎ話のように語られる話の中でこんなものがある。


英雄だった少年が宿命を背負った少女を英雄にする物語。その過程では少女が生まれた酷い理由を突きつけられ一時は感情を失ったり、仲間がとある地域で離脱したりと、四苦八苦の旅でもある。そして、仲間達と共に世界の悪と神を殺す物語。


物語としての出来は事実だが王道を通っているようなもので、みんなに好かれやすい物語でもあった。ただ、戦力に関しては申し分ないほどのレベルだったけど。


子供の時によく聞いたものだ。実際にドラマ化や映画化、果てはアニメ化された作品。よくよく考えるとメディアミックスのされ方が凄い。最初は自費出版された物語なのにかなり売れたと言っていたっけ。


タイトルは『ディバインナイツ』。


異世界について語られている部分もあり、そこに出て来る神と戦う時に英雄達が名乗った部隊名からタイトルが出来ている。異世界に行くまでは実際にあったことなのでアニメ化以外は第四次世界大戦終結まで行われた。確か、それらが放送されたのが4年ほど前だったと思う。


「第四次世界大戦の始まりはヨーロッパ連合内部に溜まっていた中東連合に対する鬱憤と破壊神『穿つ神』をこの世に呼び出そうとしたのが原因です。ヨーロッパ連合と中露連合の電撃戦により中東連合は1ヶ月足らずでサウジアラビア王国を除いて制圧されます。残ったサウジアラビア王国にアフリカ連合が協力、中露連合に豪州連合が協力し文字通りの世界大戦に発展します。さて、大戦の最中923年11月22日に起きた事件とはなんでしょうか」


黒板に文字を書きながら愛佳さんがクラスメートに尋ねる。オレは答えるのは遅らせてからと思っていたが、男子の一人が手を挙げた。


「中露連合及び豪州連合による日本占領だと思います」


「正解です。奇襲により後手に回った日本は三日ほどで制圧されます。朝鮮国は無条件降伏を呑み、ユーラシア大陸の全てがサウジアラビア王国の敵に回りました。事の重大性に気づいた北アメリカ連合は南アメリカ連合と同盟を結びアメリカ連合として世界大戦に参戦します。では、その一週間後に何が起きたか、さっき答えた人に言ってもらいましょう」


「えっと、日本解放っすか?」


「はい、そうです」


それだけを見ればかなり間抜けな話だ。島国とは言え、占領した国家をたった一週間で解放されるのは。ただ、こればかりは中露連合や豪州連合に運が無かった。


「日本が占領されたその日、まだ抵抗していたのが私の祖先である里宮十三郎が当主の里宮家でした。ちょうどこの日、英雄だった少年の英雄になる少女が出会った日でもありました。では、白百合君、日本占領が起きた理由を答えてください」


来ると思っていた。


日本占領が起きた理由は諸説に様々なものがあり、教科書には理由は書かれていない。でも、本人の知り合いであるオレなら答えを知っているから答えられるとわかって聞いているのだろう。


「中露連合と豪州連合、いや、中露連合が日本を占領した理由は日本に存在する三つの神剣を保有したかったから」


豪州連合は中露連合の口車に乗せられただけであり、実際に、中露連合が倒れた瞬間に豪州連合は降伏している。


「神剣の名前を答えられますか?」


「英雄の証である杖『黎帝』。全てを焼き尽くす剣『蒼炎』。全てを浄化する結晶『清浄』の三つです」


この中で蒼炎と清浄の二つは見たことがある。清浄は保管されている姿を見ただけだけど。『蒼炎』は柄から刃の先まで青い炎と同じ色をしており、その剣が纏う炎は青い。見た目は幻想的だが術者殺し(マナシンク)で纏える炎と比べれば威力は段違いだ。話によれば、炎の白色化も可能らしい。


愛佳さんは満足したように頷いた。


「正解です。そのどれもが強力な神剣であり、特に黎帝は覇者のいない黎明期に帝王の証として中露連合は欲しました。それを持っていたのが、後に第四次世界大戦を終結に導いたガーディアンズフォースの一人、『光の英雄』こと白百合姫路です」


日本が占領されたその日、黎帝を手に入れるため動いていた部隊が白百合姫路を捕まえた。だが、そこに英雄だった慧海が現れ、彼女を助けた。そして、里宮家と協力して電撃戦を展開。各地の主要拠点を開放しながら開始からたった一日で日本を開放した。もちろん、増援が来るよりも早く。


「英雄だった少年、善知鳥慧海は里宮家と協力し日本を解放します。解放したその日にガーディアンズフォースが結成されました。それから戦いは二年間続き、925年12月1日にヨーロッパ連合の企みが内部から暴露されガーディアンズフォースの下に世界各国の連合軍が集まります。旗印として白百合姫路が立ち、ヨーロッパ連合が復活させた破壊神『穿つ神』が25日に倒され第四次世界大戦は終結します。犠牲者は民間人を含め9800万人にも及び、史上類を見ない被害を出しました」


負傷者を含めればさらに数字は膨れ上がる。その犠牲者の半分近くは破壊神によるものだと誰が思うだろうか。実際に、『穿つ神』に殺された民間人の数は約4000万人。ヨーロッパ連合のいくつもの国が滅びた。このことはあまりの事実として一般には伏せられている。


もし、世界を憎んだ集団がいるとしたなら、民間人を簡単に殺す手段としての神の復活が有効だと知らしめることになってしまうからだという。だけど、本当の意味は別の場所に隠れているんじゃないかなとオレは感じている。


「第四次世界大戦終結と共に世界は一つに纏まりました。ヨーロッパ連合は善知鳥慧海と共に戦ったマイザー・ハウゼンが盟主となり、敗戦処理を速やかに終わらせ経済を復活させます。そして、終結から一年後にガーディアンズフォースのメンバーの一部と新しいメンバーが集まって『GF』が結成されます。この時の『GF』はまだ傭兵組織のようなもので今の『GF』とは違うものでした。ただ、その空白の一年間の間に彼らがどこで何をしていたか知る人はほとんどいません」


最初の『GF』は初期メンバーが十人だったからではあるが、当時はサウジアラビア王国からの援助を受けつつやっていたと聞いている。サウジアラビア王国から援助が受けられたのはサウジアラビア王国の女王の夫が中東事変で慧海と一緒に戦った人物だからでもあるけど。


ただ、戦争終結から『GF』の誕生までの一年間に何が起きたかは誰も答えることが出来ない。慧海に尋ねても教えてくれなかった。ただ、あることを教えてくれた。


「しかし、その『GF』のメンバーは半分が神の力を持っていることだけは確かでした。神の力、つまり不老の力。それが、今なお英雄が生きている理由です」


突拍子もない話かもしれないが事実だ。理由は分からないが、また表舞台に戻ってきた慧海達の一部が神の力を持っていたということ。それにより、不老の力を手に入れたこと。あくまで不死ではない。不老なだけだ。つまり、殺されたら死ぬ。便利な機能がたくさんあるみたいだけどね。


「その時の宗教家の熱狂は凄まじく、宗教戦争が発生しそうになったほどでした。しかし、信仰されている神の名はほとんどなく、この世界に存在したとされる神の力の欠片だったためにそこまでひどくはなりませんでした」


しかし、争いが起きたのは事実。特に中東ではかなり激しい戦いがあったが、サウジアラビア王国の英雄である女王の夫が食い止めたことで有名だ。あまり関与しなかった時雨はマイザーが起こりながら電話してきたと語っていたっけ。つくづく思うけど、世界って案外狭いよな。


「さて、話を『GF』の戻しましょう。今の『GF』は国防組織であり、東京特区学園都市を守る要ですが、その組織形態が確立したのは45年前の出来事です。『ES』の母体組織も同じくらいの46年前に成立しました。白百合さん、48年前に何か覚えがありませんか?」


「えっ? あっ、はい。48年前に起きたのは確か、ハイゼンベルグ魔術学園事変ですよね?」


「そうです。では、第八章17ページを開いてください。ハイゼンベルグ魔術学園は今なお存在する魔術師のための学園。今は大学となっていますが、昔は中高一貫校でした。当時は『GF』の勢力が未だに東アジアを出ていない時期で、教師として数名派遣されていました。そのハイゼンベルグ魔術学園事変で起きたのは太古に封印されたとされる魔神を復活させて従えようとした一部の過激派の動きでした。その動きに対抗したのが『GF』現総長の海道時雨。白百合君のお爺さんです」


その言葉にクラスメート全員がこちらを向いてきた。確実にこの話は次の休憩時間にされるだろうな。


「当時、世界各地にあった魔術学園の祭典である『ルーチェ・ディエバイト』。これは竜言語の言葉で『共演』と言う意味です。実際に、ハイゼンベルグ魔術学園の中ではその伝統が受け継がれています。その代表メンバーだった彼は仲間達と共に過激派の対抗します。結果を言うなら、魔神の再封印には成功しましたが、人柱として三人の仲間を犠牲にしました」


どうして竜言語なのかという疑問は現在では誰も答えることが出来ないので置いておくとして、その時に復活した魔神は『穿つ神』が雑魚に見えるくらい桁違いに強かったとされている。


実際に、復活した場所が山と山に挟まれた盆地であったため被害はかなり少なかったが、そこに住んでいた民間人の約9割が死亡または行方不明という大惨事なった。戦闘を行った国連軍の損耗率が61%とほぼ壊滅的なダメージを受けている。


そんな最中に魔神と戦ったのがハイゼンベルグ魔術学園の『ルーチェ・ディエバイト』の代表八名と『GF』の主力メンバー23名が電撃戦を繰り広げ、なんとか魔神の再封印に成功したとなっている。ちなみに、電撃戦の部分以外は真実である。


実際は、簡潔に言って慧海の魔術で敵の群れを吹き飛ばして道を開けて伝説級の神剣を使って再封印しただけだけど。どう考えても電撃戦と言う緻密に計算されるべき作戦なんて欠片も見当たらない。


「あの、一ついいですか?」


すると、そんな中、和樹が恐る恐る手を上げる。なんかいやな予感がする。


「確か、その時の代表メンバーに里宮先生と同じ名前があったはずですが、その人とは知り合い」


パンっと愛佳さんが握りしめていたチョークが砕け散った。学校のチョークは市販のものと比べて使用時間を長くするため硬さは鉄と同じくらいとなっている。過去にはとある学校の先生がチョークを投げて生徒に全治二カ月の大怪我を負わせたというものがあった。もちろん、そのチョークは無傷。それを愛佳さんは簡単に握り潰した。


第76移動隊で一番握力が強いであろう由姫ですら絶対に不可能な技だ。


「何か言いました?」


「何も言っておりません」


やはり命は欲しいのか和樹が椅子に座る。


今の反応でもわかるように愛佳さんはハイゼンベルグ魔術学園事変にかかわった当事者の一人だ。ハイゼンベルグ魔術学園において『最強無敵の姫パーフェクトプリンセス』と呼ばれ猫かぶりのレベルすらかなりのものだったらしい。つまり、今の愛佳さんの年齢は、


「白百合君」


その言葉と共に何かが頬の横を駆け抜けて後ろの壁にぶつかった。振り返ってみると、摩擦熱でドロドロに溶けたチョークが壁にへばりついている。背中に嫌な汗が凄まじい量出ている。砕いたチョークを握って固めて投げつけたのだと思うが、砕け散ったチョークを握り固めるという行為は不可能と言ってもいい行為である。機械を使えばその限りではないけど。


というか、愛佳さんの握力は一体どれくらいに達するのだろうか。興味はあるけど命が惜しいから聞くことが出来ない。聞いたら多分、『女の子に何を聞いているのかな?』と言われてアイアンクローされるのがおちだ。


「何か、失礼なことを思いました?」


「考えていません」


考えただけでこうなるのね。次考えたら確実に死ぬかな。チョークが飛んできても顔面が握りつぶしたトマトのようになるだろうな。


「その時の教訓から今の国連では一部の過激派の動きが止めることが難しいとされ、二年後、中東を中心に活動する組織『Encounter Service』が結成されました。このことは次のページに書かれています。初期の頃は『GF』と同じ傭兵の組織でした。ですが、その一年後にハイゼンベルグ魔術学園を卒業した海道時雨が『GF』に入ることで、『GF』は格段に勢力を拡大します。理由としては、第四次世界大戦を止めた英雄の存在と、落ちこぼれの存在だった海道時雨のブレイブストーリーに皆が惹きつけられたのが正しいですね」


ハイゼンベルグ魔術学園に入学する前の時雨はかなり酷かったと聞いている。海道家からは勘当され二年間ほど紛争の続く地域をさまよったこともあるらしい。


だが、とある二人の傭兵少女との出会いから運命が激変し、いつの間にかハイゼンベルグ魔術学園に入ることになっていた。ハイゼンベルグ魔術学園でも落ちこぼれとして虐められていたが、とある魔術属性をひたすら極めることで代表の座を勝ち取ったという話だ。確かに感動を呼ぶ。


その属性は、昔は誘導性の無さと威力が霧散しやすいという理由から忌避されていた雷属性で何度も先生から専攻属性を変えるように言われたらしい。今では身体能力上昇には必ず欠かせない魔術属性として重宝されている。その理論を組み立てたのも時雨だ。


身体強化魔術術式『ミョルニル』。


雷属性初とされるオリジナル魔術を時雨が習得することで落ちこぼれからあっという間にハイゼンベルグ魔術学園の四強の地位に昇りつめた事実もある。ミョルニル自体が反則的な性能を持つ魔術だからな。


簡単に言うなら神経の伝達速度を上限ぎりぎりまで高速化し、体が無意識にかけているリミッターを外す作業を強化することで100の力を出せる。


時雨以外が真似したら廃人になりかねない魔術だ。別名チート魔術。弱点なんてものは存在しない。距離をとっても術式自体を砲撃として飛ばしてくるから実力で越えなければ勝ち目は全くない。ちなみに使用制限という敵にとってありがたいものすらない。


そんなこんなで魔神を封印できたとあいつは笑い話にしていたっけ。むしろ、そんな魔術が使えて勝てなかったったら勝ち目が全くないよな。


「『GF』の勢力拡大は一気に広まり、『Encounter Service』の領域である中東と国連の本部がある北アメリカを除いて一気に拡大しました。それが『GF』の本格的な動き始めです。ですが、『Encounter Service』とは仲が悪く度々衝突が起こり、40年前に『GF』と『Encounter Service』が大規模にぶつかりあいました。事の顛末は、皆さんは知っているようですね」


有名と言うか『Encounter Service』の笑い話としてほとんどの人が知っているだろう。『GF』が出した部隊数は20。動員人数は250人に対し、『Encounter Service』は約5万人を動員。


結果は、開始53秒で『Encounter Service』の人員が全員気絶して終了という『GF』の強さだけが際立った戦いでもあった。大規模と言っても『Encounter Service』の動員人数が大規模なだけで、『GF』にいたってはどこの地方組織かと尋ねたくなる数だ。まあ、そこに『GF』の三強が集まっていたから無理もないけど。


「この負けを契機に『Encounter Service』は一度解体されます。ですが、最強の魔術師と呼ばれる『ES』現穏健派代表アル・アジフのよって『Encounter Service』は新たな組織『ES』として生まれ変わりました。『ES』は『GF』と張り合いつつ勢力を伸ばし、今の形になったということです」


今の形になったのは約二十年ほど前。『GF』と『ES』が決めた協定に慌てて国連が参加したために今の形にまとまった。


まあ、本来なら中東及びアフリカ以外は『GF』担当だったのに国連が権威の喪失を恐れたため『GF』が譲歩するしかなかった。話によれば、国連代表が額を地面にこすりつけて伏し拝み奉ってきたかららしいけど。きっと憐れんだんだろうな。


『ES』も『Encounter Service』から変わったことで民間人の信頼を勝ち取ったということもあるし、『Encounter Service』が解体されたことは歴史的に見てよかったとされている。


「では、第八章の最初のページに戻ってください。今は『GF』と『ES』の成り立ちを語るために授業を先に進めましたが、最初に戻って第四次世界大戦の話をします。佐々木君、第四次世界大戦をしかけたヨーロッパ連合の表の理由として民間人に公表されたものを答えてください」


「そんなことは簡単だ。ヨーロッパ連合が新しい魔術術式の開発をやめていないことに気付いた中東連合が、魔術鉱石の輸出をストップしたから。実際にストップされていたのだから当時のヨーロッパ連合からすれば格好の標的だったのだろう。そのことに民衆も賛同し、中東連合はサウジアラビア王国を除いて制圧されたというわけだ。そもそも、当時言われていた中東の英雄がそのこ頃には不在だったからな。それが原因であろう」


確か、その日はイギリスにある大英博物館の資料室に籠もっていたっていう話を聞いた気がする。すぐに中東に向かったが、サウジアラビア王国を守るだけで精一杯だったとか。


「正解です。では、第四次世界大戦の詳しい話をしましょうか」

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