幕間 アカシックレコード
天界のアカシックレコード=創世計画とは少し違う展開で話は進んでいきます。
どちらが正しいかは後々に。
コンコン。
ドアがノックされる。茜なら問答無用で入ってくるし、由姫は真っ先に声をかけてくる。つまりは、忙しいオレに変わって由姫の世話に来ているベリエかアリエのどちらかだろう。
オレは立体ディスプレイに照らし出した画面をレヴァンティンを一回指先で叩くだけで消した。そして、小さく息を吐く。
「どうぞ」
「入るから」
ドアを開けたのはベリエの方だった。ドアを閉めてベリエがベッドに腰掛ける。
「また、創世計画について調べてたの?」
「今は別件だ。慧海から頼まれた仕事を軽くやっていた。まあ、レヴァンティン任せだけど」
『この分野に関してはマスターよりも私の方が遥かに強いと断言しますから。とりあえず、纏めるだけ纏めておくので心置きなく雑談してください』
まあ、こういう仕事はレヴァンティンに任せていてもかなりの結果が見込めるからレヴァンティンに任させてもらうけど。それに、ベリエがここにきている以上、何か重大な話でもあるのだろう。そうじゃなかったら今頃由姫が突撃してきている。
由姫はどうやら下にいるようだから才策の自体は免れるだろう。
「なんか凄く思案しているみたいだけど。私もあんたから創世計画を聞いていくらか調べていたの。周は必ず現存するデータから調べるはずだから、私は紙媒体。しかも、下手したら魔科学時代くらいから残っているんじゃないかなってくらいの古さの本で探してみたの」
「ここに来たってことは面白い情報でも見つかったのか?」
オレの言葉に、ベリエは頷いた。
「創世計画はこれからの未来を描いたものなんだよね?」
「解読した限りじゃな。レヴァンティンを使って至る所にハッキングを仕掛けているけど、未だにリスクの高いところは手が出せない。だから、本質はよくわかっていないけど、創生計画通りに進む可能性は全く低くないってのがオレの見解だ」
創世計画はあまりに精密すぎる。今の世界バランスから考えて創世計画通りに事が進み、世界の滅びを回避できた場合、誰も介入しなくても創世計画通りに未来は進む可能性は極めて高かったりもする。
正直に言えば、それ以上の結果を求めた答えを出すことが出来ないでいる。
「今のままじゃ、世界は創世計画通りに動いてしまう。そう考えると、オレ達がどういう風に動かないといけないか本格的に考えていかないといけない」
「その創世計画なんだけど、私が探した本の中に面白い記述があって。周はアカシックレコードって知っているわよね?」
「そりゃな。簡単に言うなら人の運命を描いたものだろ。未来の記述。星の記憶。未来日記。様々な呼ばれ方はあるけど、共通するのは未来を描いた記録。アカシックレコード自体が眉唾ものだけど、その存在の片鱗だけは様々なことを通じて匂わせているし、アカシックレコード自体が空の民に直結している可能性だって無きにしも非ずだろ?」
「いや、まあ、それも考えたんだけど、そのアカシックレコードって創世計画に似ていない? それと、アカシックレコードの記述の中に周がさっき言ったように星の記憶ってのはあるの。だけど、その星の記憶の記述にはアカシックレコードではない他の記述が存在していて」
星の記憶はあくまで呼ばれ方の一つだ。この星、地球は生まれた時から未来地図を内包していると言われ、その未来地図に沿うように地球はその姿を変えて行った。
その未来地図には人類の歴史も描かれており、星の記憶を覗くことが出来れば過去、現在、未来の全てを知ることが出来る。そういうものだという噂は存在している。そもそも、星の記憶自体があやふやなものだし、それを見る手段が存在していない以上、オレはあまり信じていない。
「星の記憶は『星を見る人』によって見ることが出来るって。スターゲイザーって名前に聞き覚えがない? 私はあるけど」
「スターゲイザーをと言えば神剣の一つだろ。見たことはないけど、かなり強力な神剣の一つで最強の魔術と言われるスターゲイザーを使用することが出来る唯一の存在。確かに名前は共通しているけど」
「だから、少し気になってスターゲイザーの最後の持ち主について調べてみたの。スターゲイザーの最後の持ち主、歴史上確認されている最後の持ち主はレイ・ラクナール。50年ほど前、ハイゼンベルク魔術学園事変を最後に姿を消している。これ、すごく気にならない?」
「創世計画を作ったのは慧海や時雨達。ハイゼンベルク魔術学園事変は時雨や婆さんが関わっていたから、知り合いの可能性は全く低くはないな」
「私の推測は、創生計画自体が50年以上前から続いている。もしかしたら、レイ・ラクナールが歴史上に登場した100年前から続いている。それはアカシックレコード、所謂星の記憶をスターゲイザーを通じて見たことによって描かれたシナリオ。まさに、百年計画」
「どうりで、お袋みたいなのが生まれるんだな」
ベリエが何を言いたいのかオレははっきりとわかっていた。もし、創生計画がアカシックレコードに描かれた未来を修正するためのものだとしたなら、慧海や時雨はかなりいじったのだろう。特に、人間関係を。
許されるか許されないかで言えば許されない。だけど、世界を救うためならいたしかたないのかも知れない。
「うん。こういうのは推測でもあまり言いたくないけど」
「というか、そういうことって家系図みたらなんとなくわかるんじゃないかな?」
その言葉と共にドアが開いた。そこから、現れたのは茜。
絶句するオレ達をよそに茜が部屋の中に入ってくる。
「考えたらわかると思うけど、私やお兄ちゃんと取り巻く親族関係にはいとこに悠聖や光、楓、七葉がいるし、親繋がりで音姉や由姫姉もいる。その時点である意味おかしいよね? しかも、ベリエやアリエにエレノアさんとすでに出会っていることも。お兄ちゃんは全て偶然だと考えていた?」
「考えているわけがないだろ。というか、どこから聞いていた?」
「最初から。由姫姉が無茶しないように監視目的で送られたんだけど、情事にふけっているんじゃなくて思った以上に深刻でね。お兄ちゃんもベリエも水臭いよ。私達って仲間だよね。私だって協力するよ」
「あんまり巻き込みたくないんだけどな。まあ、いっか」
「いっかじゃないでしょ。まあ、私が考えた推測にはもう少しだけ話があるんだけど」
「オレ達の立ち位置か?」
その言葉にベリエははっきりと頷いた。
創世計画の中身を知っているからこそのオレ達の不自然さ。最初は滅びを回避した後に活躍するためだと考えたのだが、それにいてはあまりにおかしい。
特にオレ達が孤立を始めているという事実が。そのことも加味して考えたのだろう。
「私達第76移動隊、悠人や鈴、リリーナを含む第76移動隊の役割。それは」
ベリエはそこで言葉を切って今までにないくらい真剣な表情で口を開いた。
「創世計画の根本的破壊又は、創生計画の必要性を訴えるための敵勢力」